令和5年3月24日4消安第6706号
第1 目的
本細則は、火傷病菌の緊急防除実施基準(令和5年農林水産省告示第451号。以下「実施基準」という。)に定める内容の詳細及びその他必要な事項について規定することにより、植物防疫法(昭和25年法律第151号。以下「法」という。)第17条第1項の規定に基づく緊急防除の迅速な実施に資することを目的とする。なお、実施基準及び本細則に基づき対応する場合には、重要病害虫発生時対応基本指針(平成24年5月17日付け消安第650号消費・安全局長通知)の内容も踏まえつつ対応するものとする。
第2 定義
この通知における用語の定義は、法に定めるもののほか、次のとおりとする。
(1)「宿主植物」とは、植物防疫法施行規則(昭和25年農林省令第73号)別表2の16の項に掲げる植物をいう。
(2)「感染植物」とは、第3の3により火傷病菌に感染していると判断された植物をいう。
(3)「防除区域」とは、法第17条第2項の規定に基づく農林水産大臣による告示において定める火傷病菌の緊急防除を行う区域をいう。
(4)「発生区域」とは、感染植物の発見地点を中心とした半径40mの円により囲まれた区域をいう。
(5)「警戒区域」とは、感染植物の発見地点を中心とした半径500mの円により囲まれた区域(発生区域を除く。)をいう。
第3 発生状況等の調査
- 法第16条の7に基づく侵入調査事業等により火傷病が確認された場合、植物防疫官は、関係都道府県と連携しつつ、関係者の協力を得て、火傷病の発生範囲を特定するため、3の方法により、実施基準に定める発生状況に関する調査を実施する。
- 法第17条第2項の規定に基づく農林水産大臣による告示において定める火傷病菌の緊急防除を行う期間(以下「防除期間」という。)には、植物防疫官及び法第19条第2項の規定により緊急防除協力指示書(以下「協力指示書」という。)が交付される場合にあっては協力指示書に基づき、防除区域を管轄する都道府県(以下単に「都道府県」という。)及び市町村(以下単に「市町村」という。)の担当者は、関係者の協力を得て、発生状況のモニタリングを行うため、3の方法により、実施基準に定める発生状況に関する調査を実施する。
- 実施基準に定める発生状況に関する調査の方法の詳細は原則として次のとおりとするが、必要に応じて、当該調査を実施する地域の実情を踏まえた方法で実施することができる。
(1)目視による調査
ア 発生区域、警戒区域又は火傷病の疑似症状(以下単に「疑似症状」という。)を示し、血清学的診断法による検定により陽性が確認された植物(遺伝子診断法、細菌学的性状の調査又は接種試験のいずれかで陰性が確認された植物を除く。)の発見地点を中心とした半径500mの円で囲まれた区域(発生区域及び警戒区域を除く。)内に存在する全ての宿主植物を対象に、目視により火傷病の疑似症状の有無を確認する。また、関係者からの聴取等により、これらの区域の周辺に感染が疑われる宿主植物がある場合は、当該宿主植物を対象に、疑似症状の有無を確認する。
イ 調査を実施する時期は以下のとおりとし、火傷病の最終発見日を起点として、原則として3年間実施する。
(ア)発生範囲を特定するまでの期間及び発生範囲の特定から感染植物等の廃棄が完了するまでの期間
春季から秋季までの間にかけて随時実施する。ただし、秋季の後半以降は他の病害等による症状が多く見られることから調査は実施しない。
(イ)発生範囲を特定し、かつ、感染植物等の廃棄を完了した後の期間
宿主植物の開花後1週目から2週目及び果実形成期にそれぞれ1回ずつ実施することとし、台風等暴風雨の後、又はあられ、ひょう等が降った後にも必要に応じて実施する。なお、苗木等業者が保有する苗木を調査する場合には新梢形成期及び9月から10月までの間に実施する。
(2)同定診断
ア (1)の調査で疑似症状が確認された場合は、血清学的診断法により火傷病菌を対象とした検定を実施する。
イ アの検定において陽性が確認された場合は、病原細菌を分離後に遺伝子診断法により火傷病菌を対象とした検定を実施する。
ウ イの検定において陽性が確認された場合は、細菌学的性状の調査及び接種試験により火傷病菌を対象とした検定を実施することとし、これらの結果を総合的に判断して、(1)の調査で確認された疑似症状が火傷病菌によるものであると判断する。
第4 緊急防除の実施
植物防疫官並びに都道府県及び市町村の担当者は、関係者の協力を得て、次の1から5により、実施基準に定める防除を実施する。
- 宿主植物の作付けの禁止
発生区域内での宿主植物の作付けを禁止する。 - 宿主植物等の移動の制限又は禁止
(1)発生区域又は警戒区域内に存在する宿主植物(りんご生果実を除く。)及びその容器包装の発生区域又は警戒区域からの移動を禁止する。
(2)防除区域内に存在する宿主植物(りんご生果実を除く。)のうち発生区域又は警戒区域以外の地域に存在するもの及びその容器包装は、植物防疫官が行う検査の結果、火傷病菌が付着していないと認める旨を示す表示を付したものでなければ、防除区域以外の地域への移動を禁止する。
(3)防除区域内に存在するりんご生果実及びその容器包装は、植物防疫官が行う検査の結果、当該生果実が成熟しており、火傷病にり病していないと認める旨の表示を付したものでなければ、防除区域以外の地域への移動を禁止する。
(4)防除区域内に存在する火傷病菌を媒介するおそれがあるミツバチ等の訪花昆虫及びその飼育の用に現に供されている巣箱並びにこれらの容器包装は、植物防疫官が行う検査の結果、火傷病菌が付着していないと認める旨を示す表示を付したものでなければ、防除区域以外の地域への移動を禁止する。
(5)防除区域内に存在する火傷病菌及びその容器包装の防除区域以外の地域への移動を禁止する。 - 廃棄の措置
(1)防除区域内に存在する宿主植物(病徴のない成熟したりんご生果実を除く。)又はその容器包装のうち、火傷病菌が付着し、又は付着しているおそれがあるものであって、火傷病菌のまん延を防止するため必要があると認めて植物防疫官が指定又は指示するものについて廃棄する。なお、廃棄は、原則として防除区域内で埋没又は焼却等により行う。ただし、防除区域内で廃棄できないやむを得ない理由があるとして植物防疫官が認めた場合は、植物防疫官が指定する防除区域以外の地域の場所で廃棄することができる。
(2)防除区域内に存在する火傷病菌及びその容器包装のうち、まん延を防止するため必要があると認めて植物防疫官が指定するものについて廃棄する。
(3)(1)の廃棄は、以下のアからウの順に実施する。
ア 感染植物(疑似症状を呈した植物を含む。)
イ 感染植物に隣接する宿主植物
ウ その他の宿主植物
(4)廃棄のための伐採は、原則として4の薬剤の散布後に行う。 - 薬剤の散布
(1)発生区域又は警戒区域内の全ての宿主植物に対し、火傷病菌を対象とした薬剤散布による防除を実施する。また、2回目以降の散布は、宿主植物の生育状況等に合わせて、開花前及び開花期、台風等の暴風雨の後、あられ、ひょう等が降った後等に実施する。
(2)発生区域又は警戒区域内において、火傷病菌を媒介するおそれのある訪花昆虫に対して開花期に必要な農薬散布を行う。
(3)農薬散布の際には、感染植物の発見地点から、おおむね半径2.5km以内の地域及びその周辺の養蜂業者や花粉媒介昆虫の飼育者等に散布場所、使用薬剤、散布時期、散布量等の情報提供を行うとともに、(2)の農薬散布の影響を受けるおそれがあることから、防除区域内における養蜂及び花粉媒介昆虫の放飼活動を自粛するよう指導する。 - 栽培管理資材等の消毒
(1)発生区域から、発生区域以外の地域に栽培管理資材等を移動する場合には、消毒等を行う。消毒には、70%エタノール又は有効塩素濃度1%次亜塩素酸ナトリウム水溶液等を用いる。
(2)2から4までの防除を行うため、発生区域で防除に用いた資材、機材等は適宜消毒等を行う。
第5 防除効果等の検証
- 農林水産省消費・安全局植物防疫課長(以下「植物防疫課長」という。)は、第4により実施した防除について、定期的に防除の効果、被害の発生状況等の検証を行う。
- 1の検証の結果、防除の効果が低い等、緊急防除の内容を見直す必要があると判断した場合、植物防疫課長は新たな防除の内容について案を作成し、学識経験者の意見を聴くものとする。
- 1の検証の結果、防除期間中に、第7による防除区域の解除が困難と植物防疫課長が判断する場合、植物防疫課長は防除期間の延長を検討するものとする。ただし、防除期間を延長した場合であっても、第7による防除区域の解除が困難であるおそれがあるときは、植物防疫課長は学識経験者の意見を聴いた上で緊急防除の終了及び以降の防除内容等必要な措置を検討するものとする。
- 1の検証の結果、宿主植物への被害がリスク分析の結果よりも小さいこと、通常の営農の中で被害の軽減が可能であること等が判明した場合には、緊急防除の期間中であっても、植物防疫課長は学識経験者の意見を聴いた上で緊急防除の終了及び以降の防除内容等必要な措置を検討するものとする。
第6 周知
- 植物防疫官並びに都道府県及び市町村の担当者は、宿主植物の生産者、養蜂及び花粉媒介昆虫の飼育者、加工業者、小売業者等の関係者、住民等に対し、第3の発生状況等の調査及び第4の緊急防除の実施について積極的に周知する。
- 植物防疫官は、防除区域内の海空港において、観光客、輸送業者等に対し、緊急防除の実施内容について積極的に周知する。
- 植物防疫官並びに都道府県及び市町村の担当者は、防除区域内及びその周辺の農業者及び住民に対し、疑似症状が確認された場合は、法第16条の8の規定に基づき速やかに、植物防疫所(那覇植物防疫事務所を含む。以下同じ。)又は都道府県に通報するよう求める。
第7 防除区域の解除
第3の発生状況等の調査により、火傷病の発生が3年間確認されないことその他の情報を踏まえて、その発生が終息したと判断できる場合は、植物防疫課長は防除区域の解除について、学識経験者の意見を聴くものとする。
第8 調査及び防除資材の備蓄
植物防疫所の長は、平時より、第3の発生状況等の調査及び第4の緊急防除の実施に必要な資材の確保に努めるものとする。
附則
この通知は、令和5年4月1日から施行する。