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アリモドキゾウムシの解説
本虫は、さつまいも等のヒルガオ科植物の一部を加害し、大きな被害をもたらす重要な害虫であり、原産はインド亜大陸と言われ、アジア、アフリカ、米国、中南米、豪州等に広く分布している。 我が国は、本虫の発生国・地域からの寄主植物の輸入を禁止している(植物防疫法施行規則別表2の項目6参照)。 また、沖縄県、奄美群島、トカラ列島及び小笠原諸島の一部地域において、本虫の発生が確認されていることから、当該地域から国内未発生地域への本虫及び宿主植物の移動制限又は禁止措置が講じられている(植物防疫法施行規則別表4、6及び7参照)。 |
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1. 学名
Cylas formicarius
2. 英名
Sweet potato weevil
3. 発生国・地域
インド、インドネシア、カンボジア、タイ、台湾、中国、日本、フィリピン、エチオピア、ケニア、タンザニア、南アフリカ、米国、グアテマラ、メキシコ、キューバ、ベネズエラ、豪州、パプアニューギニア等
詳しくは発生国・地域一覧を参照。
4. 寄主植物
さつまいも属、あさがお属、ひるがお属及びおおばはまあさがお
5. 形態
成虫については、雌の体長は4.8~6.7mm、雄の体長は5.00~6.75mm。形態は一見アリに似ており、頭部には長い吻がある。頭部は黒色で、前胸は赤褐色。上翅は光沢が強く、黒青色~黒緑色、黒赤色、ほぼ黒色まで色彩変異に富む。脚は赤色で、脛節は部分的に黒色を帯びる。蛹は体長6.0~6.5mm。体色は乳白色~淡黄色で、長い吻は腹側に曲がる。幼虫については、ふ化したばかりの幼虫は卵よりやや大きい。老熟幼虫は体長7.5~8.0mm。体色は乳白色~淡黄色で、脚を欠く。頭部と下顎は黄色~茶色、下顎はほぼ黒色。体は少し湾曲している。卵は直径1.0~1.5mm。楕円形で乳白色。
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図2 成虫
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図3 蛹
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図4 幼虫
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その他の写真はこちらを参照。
6. 生態
地域によって年間世代数は異なり、奄美大島では年5~6回発生し、周年各ステージがみられる。産卵は奄美群島では3月頃から増加し、8~9月に最も多くなるが、11~2月はほとんどみられない。成虫の寿命は地域によって異なるが、2~3か月と長く、フィリピンでは雄は63~120日、雌は81~107日、インドでは雄は94日、雌は109日生存したと報告されている。また、雌1頭当たりの産卵数は100~200個で、27℃条件下では卵から羽化まで27日程度を要する。
幼虫は食害した孔道内で蛹化する。成虫は寒さに比較的強く、0℃でも10日程度の生存は可能である。
7. 移動・分散方法
成虫は歩行移動するほか、雄成虫が活発に飛翔し、時には4km離れた離島にたどり着くことがある。雌成虫はあまり飛翔しない。なお、歩行移動は暗闇において最も活発である。また、本虫が寄生した植物の人為的な移動により分散する。
8. 被害の特徴
成虫が地際部の茎や塊根の表皮中に産卵する。ふ化した幼虫が茎や塊根に食入して内部を食い進む。孔道内の幼虫の後方には排泄物が詰まっている。被害がひどいと塊根内部全体が孔道だらけになり、黒変して防御物質のイポメアマロン等が生成されることにより悪臭を放ち、苦みを増す。本虫が寄生した塊根は、臭気と苦みにより、食用はもちろんのこと家畜の飼料にもならない。幼虫は地際近くの主茎にも食入する。加害部分は異常肥大し木質化して折れやすくなる。成虫も葉や塊根表面を食害するが、被害の主体は幼虫である。
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図5 さつまいも塊根への加害
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図6 さつまいも塊根への加害(切断面)
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図7 さつまいも塊根内部の幼虫 |
その他の写真はこちらを参照。
9. 識別のポイント
幼虫については、イモゾウムシ(No.133-2)と形態的に似ているが、触角の位置や下唇部基節骨板の後縁部の突起の有無で識別が可能である。より詳しい識別手法は、侵入調査マニュアルを参照。
アリモドキゾウムシ | イモゾウムシ | ||||
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10. 発見した場合の対応
国内の発生地域外で本虫を発見した場合、可能であれば本虫の写真を撮影(又は捕殺)の上で、最寄りの植物防疫所又は都道府県の病害虫防除所にお知らせください。幼虫や卵が寄生している又は寄生の疑いのある植物がある場合は、分散防止のために植物をビニール袋等に入れて密封した上で、上記の機関にお知らせください。
11. 防除
発生源を中心に周囲の寄主植物の除去を行う。その際、残渣を残すことなく全て除去して焼却等することが重要である。また、発生地域では予防防除として、植え付け前の薬剤散布が有効であり、我が国では、クロルピルホス粒剤、フェロモン誘引剤の混合剤であるMEP・スウィートビルア油/粒剤等が農薬登録されている。また、沖縄県久米島及び津堅島における根絶事業では、不妊虫放飼法が実施された。本誌第100号及び第125号を参照。
なお、現在、静岡県浜松市で実施している緊急防除に関する情報はこちらを参照。
12. 経済的影響
海外の発生地域において、さつまいもに対しては大きな被害が出ている。中国広東省では5~80%、台湾では40~75%、ベトナムでは30~40%、米国フロリダ州では最大80%の収量損失が確認されている。被害は収量損失だけではなく、品質の著しい低下も引き起こし、加害されたさつまいもは、苦みや悪臭により、市場に出回らなくなる。
13. 海外のニュース
米国本土では、フロリダ州、ジョージア州、アラバマ州、テキサス州、ノースカロライナ州等の南部地域に発生している。そのうち、さつまいもの生産量が最も多いノースカロライナ州においては、沿岸部の2郡(Brunswick及びNew Hanover)に発生が限定されており、フェロモントラップを用いた発生調査が実施されている。また、発生地域から同州内の無発生地域への寄主植物の移動制限の措置が講じられている(ノースカロライナ州Home page)。
参考・引用文献
- 侵入調査マニュアル(1.トラップ調査)
- アリモドキゾウムシに関する病害虫リスクアナリシス(PRA)報告書
- 重要病害虫発生時対応基本指針(平成24年5月17日付け24消安第650号消費・安全局長通知)
- アリモドキゾウムシの緊急防除実施基準(令和5年3月24日農林水産省告示第449号)
- アリモドキゾウムシの緊急防除実施基準細則(令和5年3月24日付け4消安第6704号農林水産省消費・安全局長通知)
- CABI (2024) Cylas formicarius. Crop Protection Compendium. (accessed on 15 March 2024)
- 杉本毅(1990)アリモドキゾウムシの生物学.植物防疫44:107-110
- ノースカロライナ州Home page: North Carolina Department of Agriculture & Consumer Service, Plant Industry- Sweetpotato Weevil Program. (accessed on 15 March 2024)
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