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印刷版:ジャガイモがんしゅ病菌の解説(PDF : 452KB)

ジャガイモがんしゅ病菌の解説

 本菌は、ばれいしょ等のなす科植物にがんしゅ状のこぶを生じる重要な病原菌である。南米原産であり、1886年に英国で初めて発見されて以降、急速に欧州地域でまん延した。土壌中で長期間生存することから、侵入した場合の根絶には時間を要する。また、冷涼湿潤な気候(夏平均18℃で、年間降水量700mm程度)が本菌の感染に適しているため、寒冷又は山地での被害が顕著である。
 我が国は、本菌の発生国・地域からの宿主植物の輸入を禁止している(植物防疫法施行規則別表2の第8項目を参照)。
 ジャガイモがんしゅ病菌の被害写真

1. 学名

Synchytrium endobioticum

2. 英名

black wart of potato、potato black scab、potato wart disease

3. 発生国・地域

 インド、ネパール、ブータン、トルコ、欧州(アルバニア、キプロス、ギリシャ及びラトビアを除く。)、アルジェリア、チュニジア、南アフリカ、カナダ、ウルグアイ、エクアドル、フォークランド諸島、ペルー、ボリビア及びニュージーランド

4. 寄主植物

 ばれいしょ、トマト等のなす科

5. 形態

 休眠胞子のうは、無隔壁、黄褐色、三層の壁を有し、最外層は顕著な隆起があり、厚みは不規則。直径は25~75μm(平均50μm)、球形~卵形。本菌は、1~9個の胞子のうの塊(胞子のう群)を形成する。胞子のう群の大きさは25~38μm×62~87μmで多面体、卵形~ほぼ球型、透明で、無隔壁、滑らかな膜を持つ。各胞子のうの大きさは、41~64μm×47~75μm。遊走子は、洋ナシ型、直径1.5~2.2μm、後部に17μmまでの長さの尾形鞭毛を1本持つ。

6. 生態

 本菌は、ツボカビ門に属する絶対寄生菌。春先に土壌温度、水等の感染条件が整うと休眠胞子から遊走子を放出し、伝染環を開始する。遊走子は短命で、形成後1~2時間以内に感受性の宿主組織に感染する必要がある。遊走子が宿主表面に到着すると感染組織を肥大させ、こぶが生じ、こぶの表面付近に胞子のう群を形成し、それが休眠胞子のうに分裂する。土壌中の水不足等のストレス条件下におかれると、胞子のうから生じた遊走子の一部は接合し、接合子となり、この感染により、こぶの内部に休眠胞子のうを形成する。休眠胞子のうは土壌中で40~50年間生存する。

7. 移動・分散方法

 遊走子の自立的な運動により土壌中を最長で5cm移動するほか、ミミズにより10~25cmの範囲内の分散がある。感染したばれいしょを摂食した家畜のフン、家畜の蹄に付着した汚染土壌、汚染されたかんがい水の流出、土壌の飛散により分散する。また、汚染植物や汚染土壌が付着した農機具等の人為的な移動により分散する。

8. 病徴

 植物の様々な部位に形成されるこぶが特徴的な症状である。こぶの形状は様々だが、主に球状~不規則(カリフラワー状等)、大きさは豆粒大~こぶし大程度。
感染部位は、葉、茎、枝、幹と地下部の栄養繁殖体(塊茎、球茎、根茎)が知られる。通常、地上部に病徴を現すことはまれであるが、被害が激しい場合は生育に衰えがみられる。また、激発した場合、こぶが茎、葉及び花に激しい症状として現れることがあり、地上部に形成されるこぶは緑色~褐色で、成熟すると黒色に変化する。
 発達中の塊茎に感染すると、こぶはスポンジ状となり、ほとんど塊茎であると認識できない状態に変化する。成熟した塊茎に感染すると特徴的ないぼ状、カリフラワー様の突起が発達する。同様ないぼ状こぶは、ほふく枝上にも生じる。

図1 球状のこぶ 図2 カリフラワー状のこぶ 図3 豆粒大のこぶ 図4 激しく感染した塊茎
図1 球状のこぶ 図2 カリフラワー状のこぶ 図3 豆粒大のこぶ 図4 激しく感染した塊茎

その他の写真はこちらを参照。

9. 識別のポイント

 本菌が引き起こす病気に似た症状を現す病気として、国内既発生のSpongospora subterranea f. sp. subterraneaによる粉状そうか病がある。特徴的な違いは、本菌は、ばれいしょの根に感染しないこと、大きなこぶを生じること、胞子球を形成しないこと等がある。より詳しい識別手法は、侵入調査マニュアルを参照。

図5 粉状そうか病にり病したばれいしょ塊茎 図6 粉状そうか病にり病したばれいしょのこぶ中の胞子球 図7 粉状そうか病にり病したばれいしょ根のこぶ
図5 粉状そうか病にり病したばれいしょ塊茎

図6 粉状そうか病にり病した
     ばれいしょのこぶ中の胞子球
図7 粉状そうか病にり病した
 ばれいしょ根のこぶ

10. 診断、検出及び同定方法

 形態学的診断(病徴観察及び顕鏡観察)又は遺伝子診断法により検出可能である。

11. 発見した場合の対応

 本菌の感染が疑われる植物及び周辺状況の写真を撮影した上で、最寄りの植物防疫所又は都道府県の病害虫防除所にお知らせください。試料を採取した場合は、散逸しないよう厳重に梱包して上記連絡先までお知らせください。

12. 防除

 本菌は、いったん侵入すると防除や根絶が非常に困難である。休眠胞子のうは土壌中で40~50年間生存し、一般的な土壌薬剤に対して極めて高い耐性を持つ。海外では、耕種的防除法として、免疫性又は抵抗性遺伝子を組み入れた品種の導入が行われている。

13. 経済的影響

 本菌に感染したばれいしょは、こぶや奇形の影響により市場価値が無くなる。また、本菌の影響により、ばれいしょの収量が50~100%減少することがある。

14. 海外のニュース

 欧州では、本菌の根絶及びまん延防止に関するEU規則が定められている。同規則に従い、EU加盟国は、ばれいしょの栽培ほ場において発生調査を実施しており、発見された場合、発生地域とその周辺の緩衝地域が設定される。
 根絶措置として、発生地域では、栽培されていたばれいしょは廃棄又は加工処理され、ばれいしょの栽培は禁止される。また、その他の栽植用作物についても、発生地域外への移動を前提とする場合は、栽培は禁止される。緩衝地域では、ばれいしょについては、本菌の抵抗性品種のみ栽培が許可される。根絶措置が解除されるためには、最終発見日から50年間、栽培禁止等の条件が遵守されていること又は最終発見日から20年間、栽培禁止等の条件が遵守されつつ、バイオアッセイ法等の試験により未検出であることを確認する必要がある。



図1~4は「カナダ食品検査庁」出典


参考・引用文献



ジャガイモがんしゅ病菌による被害写真

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発行所   横浜植物防疫所
発行人   森田   富幸
編集責任者 横山 亨

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