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PDF版:カンキツグリーニング病菌の解説(PDF : 422KB)

カンキツグリーニング病菌の解説

カンキツグリーニング病は、世界各国のかんきつ生産地域に深刻な被害を与えている重要病害である。本病は、1919年に中国で初めて報告され、発病したかんきつ類の枝が「黄色い龍」のように見られたことから、中国語で黄龍病を意味する「huanglongbing」と名付けられた。現在、本病の病原体として3種の細菌が報告されている。 我が国は本病の発生国・地域から寄主植物の輸入を禁止している(植物防疫法施行規則別表2の項目17参照)。また、沖縄県及び奄美群島(奄美大島・喜界島を除く。)において本病の発生が確認されていることから、本細菌の宿主植物(種子及び果実は除く。)は、当該地域から国内未発生地域への移動制限又は禁止措置が講じられている(植物防疫法施行規則別表3、6及び7参照)。現在、当該細菌の発生地域である鹿児島県徳之島においては、根絶に向けた取り組みが行われているところである。      

1. 学名

Candidatus Liberibacter africanus, Candidatus Liberibacter americanus, Candidatus Liberibacter asiaticus

2. 英名

Citrus huanglongbing, Citrus greening

3. 発生国・地域

インド、インドネシア、スリランカ、タイ、台湾、中国、ベトナム、イラン、サウジアラビア、米国、キューバ、メキシコ、ブラジル、コロンビア、エチオピア、ケニア、南アフリカ、パプアニューギニア等
詳しくは発生国・地域一覧を参照。

4. 寄主植物

みかん属、きんかん属、からたち属、さるかけみかん属等
詳しくは寄主植物一覧を参照。

5. 生態

本病の病原体は、師部局在性の細菌で、人工培養できないことから学名にCandidatusを付している。現在、Candidatus Liberibacter属の3種の細菌(アフリカ南部地域に分布するCa. L. africanum(アフリカ型)、主にアジア、北米及び中南米地域に分布するCa. L. asiaticus(アジア型)及びブラジルで2004年に初報告されたCa. L. americanus(アメリカ型))が確認されており、我が国にはCa. Liberibacter asiaticusが発生している。

6. 移動・分散方法

本細菌は、ベクター(媒介生物)により伝搬する。ベクターとしては、奄美大島以南に分布するミカンキジラミ及び我が国未発生のミカントガリキジラミが確認されている。また、感染植物から採取した穂木を健全植物に接木すること等の感染植物の人為的な移動によって分散する。
なお、ミカンキジラミ及びミカントガリキジラミの写真はこちらを参照。

7. 病徴

本細菌の感染植物の初期症状は、一部の枝の葉に亜鉛欠乏症の似た退縁が生じ、のちに葉全体が黄化する症状が現れる。やがて他の枝も発病し、進行すると落葉、落果、枝枯れ等が生じる。最終的には、植物全体が衰弱し、枯死することが多い。本細菌による感染植物の症状は植物の衰弱症状を示す他、微量要素の欠乏症状やゴマダラカミキリの被害等と類似しており、病徴による識別が難しい。 潜伏期間は長く、数箇月~1年以上までと様々である。かんきつ類の植物体内においては本細菌の偏在分布が指摘されており、感染植物の採取試料に本細菌が存在しない又は菌濃度が検出限界以下の場合、検出を行うことができず、感染植物を見落としてしまう可能性がある。 果実では、発育不良、奇形や着色不良が生じるとともに、酸味や渋味が増し、種子は不稔となる。果実表面を指で押すと、外皮表面に灰白色のロウ状の痕が残ることがある。着色不良で果実表面に緑色が残ることから、「greening」と名付けられた。

図2   枝が枯れた感染樹 図3   葉が退緑した感染樹 図4   着色不良の果実


その他の写真はこちらを参照。

8. 防除

効果的な防除法は、ベクターを防虫ネット等により生産園地に侵入させないことである。 発生地域では、感染植物の伐採及び除去、寄生蜂及び殺虫剤の使用によるベクターの防除、無病苗の使用等が行われている。海外の発生国では、テトラサイクリンの樹幹注入により、部分的に回復した事例はあるものの、菌を完全に死滅できないことから注入を繰り返す必要がある。これに加え、本剤は植物毒性もあることから、近年使用が減少している。

9. 診断、検出及び同定方法

検定植物への接木による生物検定又はリアルタイムPCR法、PCR法等の遺伝子診断により検出可能である。

10. 発見した場合の対応

本細菌の感染が疑われる植物及び周囲の様子の写真を撮影した上で、最寄りの植物防疫所又は都道府県の病害虫防除所にお知らせください。試料を採取した場合は、散逸しないように厳重に梱包してお知らせください。

11. 経済的影響

米国では、フロリダ州で2005年に初めて本病の発生が確認されて以降、2019年までに同州のかんきつ類の生産量は74%減少し、かんきつ類の農家数は、2002年の7,389戸から2017年には2,775戸にまで減少した。 フィリピンでは、1961~1970年にかけて、かんきつ類の生産地域が60%にまで減少し、1971年には100万本以上のかんきつ類が被害を受けた地域もあった。

12. 海外のニュース -発生状況

本病は、20世紀にアジア及びアフリカ南部で発生していたが、2004年にブラジルで初めて発生が確認された。その後、2005年に米国、2007年にキューバ、2008年にドミニカ共和国、2009年にベリーズで、それぞれ発生が確認された後、短期間でメキシコ、コスタリカ、グアテマラ、ホンジュラス、アルゼンチン、パラグアイ等へ広がり、中南米地域での発生地域が拡大している(EPPO Homepage)。

参考・引用文献

カンキツグリーニング病菌の発生国・地域一覧

カンキツグリーニング病菌の寄主植物一覧

カンキツグリーニング病菌の病徴写真

ミカンキジラミ・トガリキジラミの写真

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