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Bactericera nigricornisの解説
本虫は、トガリキジラミ科に属する多食性の害虫であり、ばれいしょ、にんじん等に深刻な被害を与える植物病原細菌Candidatus Liberibacter solanacearum (Lso) を媒介すると考えられている。Lsoについては本誌第131号を参照。 我が国は、本虫の発生国・地域からの寄主植物の輸入に関して、輸出国において適切と認められる検査等の実施を要求している(植物防疫法施行規則別表2の2の項目2を参照)。適切と認められる検査等の詳細については輸出国における検疫措置を必要とする植物に係る輸入検疫実施要領の別記2の項目2を参照。 |
![]() 図1B.nigricornisの成虫 |
1. 学名
Bactericera nigricornis
2. 英名
Carrot psylla
3. 発生国・地域
インド、中国、ネパール、モンゴル、アフガニスタン、イラン、トルコ、オランダ、スペイン、ドイツ、ノルウェー、フランス、ロシア、アルジェリア、チュニジア、モロッコ等
詳しくは発生国・地域一覧を参照。
4. 寄主植物
ナス属、アブラナ属、ナズナ、ハツカダイコン、パセリ、にんじん、タマネギ等
詳しくは寄主植物一覧を参照。
5. 形態
成虫については、雄の体長(翅端まで)は2.9~3.2mm、雌の体長(翅端まで)は3.0~3.6mm。若い個体は汚黄色又は橙色、後に生育が進むと褐色又は黒色の斑点を装う。成熟個体では、頭部は黒色で、頭頂は白く縁どられる。触角は暗色~黒色。胸部及び腹部の大部分は黒色。前翅は透明で、翅脈は黄色。幼虫は、終齢幼虫(5齢)で体長1.9~2.2mm。頭部、翅芽及び腹部の周縁に切形(注:先端がはさみで切ったように平らな裁断状)、管状の分節毛があり、それらの間隔は全体的に密である。卵は0.4mmで黄赤色。
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図2 成虫
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図3 成虫(真中)及び幼虫(右下) |
図4 卵
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その他の写真はこちらを参照。
6. 生態
成虫は葉に産卵し、幼虫はふ化した場所に寄生し、完全に発育するまで移動しない。生育の最適条件下では35~40日で卵から成虫になる。1年間で7~8世代まで発生する。ニンジンでは、葉の裏側に卵を300~400個産卵したとの報告がある。それぞれの卵は少し間隔を置いて並ぶ。
7. 移動・分散方法
成虫は飛翔により移動する。同属他種と同様に、通常は短距離飛翔で移動し、越冬地から繁殖地への風による長距離移動が可能とされている。また、本虫が寄生した植物の人為的な移動により分散する。
8. 被害の特徴
本虫は、主に葉を吸汁加害するほか、にんじんの葉では、排泄物によって、すす病を引き起こすことが確認されており、葉の汚れにより生育の遅延や停止が引き起こされることがある。
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図5 にんじんへの加害
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図6 にんじんへの加害
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図7 たまねぎへの加害 |
9. 発見した場合の対応
可能であれば本虫の写真を撮影(又は捕殺)の上で、最寄りの植物防疫所又は都道府県の病害虫防除所にお知らせください。幼虫や卵が寄生している又は寄生の疑いのある植物がある場合は、分散防止のために植物をビニール袋等に入れて密封した上で、上記の機関にお知らせください。
10. 防除
日本では発生していないため、登録農薬はない。海外の発生国では、薬剤散布が主な防除法となっており、ダイアジノン、マラチオン、ホスファミドン等の薬剤が用いられる。また、ばれいしょの抵抗性品種の導入が本虫の個体増加率を低減させ、雌の産卵数を減少させると報告されている。
11. 経済的影響
本虫は、ばれいしょ、にんじん等に深刻な被害を与える植物病原細菌Lsoを媒介すると考えられている。Lsoによる経済的影響については本誌第131号を参照。
また、本虫の排泄物により、にんじんの葉にすす病を引き起こし、被害が著しい場合、幼苗は枯死し、ほ場が全滅することが報告されている。
12. 海外のニュース
チュニジアでは、2014~2016年に、にんじん生産園地でLsoの疑義症状がみられ、遺伝子診断の結果、Lsoと診断された。さらに、当該園地において、Lsoのベクター(媒介生物)であるBactericera trigonica及び本虫の発生が初めて確認された(EPPO Home page)。
図1及び図3の写真は「Alberto Fereres氏」出典
その他の図の写真は「Ferran Garcia氏」出典
参考・引用文献
- Candidatus Liberibacter solanacearum及びそのベクターに関するに関する病害虫リスクアナリシス(PRA)報告書
- 重要病害虫発生時対応基本指針(平成24年5月17日付け24消安第650号消費・安全局長通知)
- Hodkinson, I.D. 1981 Status and taxonomy of the Trioza (Bactericera) nigricornis Förster complex (Hemiptera: Triozidae). Bulletin of Entomological Research 71(4), 671-679.
- Fereres et al., 2021 Psyllids as major vectors of plant pathogens, Entomologia Generalis, Vol. 41, Issue 5, 419–438
- EPPO Home page: First report of ‘Candidatus Liberibacter solanacearum’ and its vectors Bactericera trigonica and B. nigricornis in Tunisia (accessed on 15 March 2024)
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