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動物医薬品検査所

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平成11年度家畜由来細菌の抗菌剤感受性調査成績の概要について

1.はじめに

従来から我が国では、動物用抗菌剤が適正に使用されなければ、人の健康へ影響を及ぼすことが考えられることから、「薬事法」(昭和35年8月10日法律第145号)に基づく動物用抗菌剤の承認、流通、使用段階を通じた適正使用対策が行われている。特に、抗菌剤の承認には、対象動物・対象菌種を限定し、投与期間を1週間以内とすることや、対象菌種の感受性試験、耐性獲得試験等の資料を提出することが要求される他、新医薬品では再審査の際に薬剤耐性菌の調査資料が要求される。また、フルオロキノロン系や第三世代セフェム系抗菌剤等の人の医療上重要な医薬品については、公衆衛生・家畜衛生上の各種申請資料が必要になることに加え、その使用にあたっては他の抗菌剤が無効な場合の第二次選択薬とすることとしており、人の医療への配慮がなされている。

また、動物用抗菌剤は要指示医薬品に指定され、その流通が規制されると共に、その使用には獣医師の関与が義務付けられている。加えて、抗菌剤は、畜産物中への残留を防止するために使用者が遵守しなければならない使用基準(動物用医薬品の使用の規制に関する省令」(昭和55年9月30日農林水産省令第42号))が設けられており、その適正使用が図られている。

一方、国内では「飼料の安全性の確保及び品質の確保に関する法律」(昭和28年4月11日法律第35号)の改正により、動物に対する抗菌剤の使用が制限されたことを契機に、昭和51年度に全国的な動物由来細菌(大腸菌、サルモネラ及び黄色ブドウ球菌)の薬剤感受性調査が実施されており、これが我が国における最初の動物由来細菌に関しての耐性菌全国調査事業である。更に、薬剤耐性菌をめぐる最近の国際情勢(動薬検ニュースNo.235, P.2参照)を背景として、動物医薬品検査所では、平成7年から実施している家畜由来野外流行株(主に病性鑑定材料由来)の薬剤感受性調査に加え、平成11年度から健康動物由来の食品由来病原細菌(サルモネラ、カンピロバクター、腸球菌及び大腸菌)についての全国的な薬剤感受性調査を本格的に開始した。平成11年度は、各都道府県から送付された健康動物の糞便から動物医薬品検査所で菌分離・同定、薬剤感受性試験を実施したが、平成12年度からは、この業務が各都道府県において実施されることとなり、動物医薬品検査所では分子疫学的手法等による調査を実施することにより更に緻密な調査体制となっている。この調査では、薬剤耐性菌の動向を把握すると共に、抗菌剤の人と動物の健康に対するリスク分析の基礎資料を得ることを目的としている。

ここでは、平成11年度に実施した家畜由来細菌の抗菌剤感受性調査成績を紹介する。

2.平成11年度調査成績の概要

検査材料としては、全国47都道府県の家畜保健衛生所から送付された健康動物の糞便材料515検体(肥育牛178、肥育豚179及びブロイラー158検体)を用いた。各県での採取検体は各動物種について、それぞれ4検体、原則として1農家1検体とした。糞便からのサルモネラ、カンピロバクター、腸球菌及び大腸菌の分離・同定は生化学的性状検査等の常法に従って行った(詳細な分離同定手法は後述)。これら分離菌株については、15~18種類の抗菌剤に対する感受性(最小発育阻止濃度:MIC値)を日本化学療法学会法に準拠した寒天平板希釈法(カンピロバクターの場合にのみ、5%の割合に馬脱線維素血液を添加したミューラーヒントン寒天培地を使用)により測定した。なお、MICブレークポイントは、供試株のMIC分布から感受性菌と耐性菌のピークの中間値とした。

(1)サルモネラ

健康家畜の糞便からの直接的なサルモネラの分離は、ハーナテトラチオン培地での遅延二次増菌培養を併用した。

健康家畜の糞便材料から菌検索を行った結果、本菌が分離された検体は全体の12%であり、その殆どがブロイラー由来であった。菌株のO群型別では、全体の70%がO7群に分類され、公衆衛生上重要となるSalmonella Enteritidisは全く検出されなかった。

これら健康動物由来株のMIC分布(表1(PDF:5KB))ではABPC、CXM、CTF、DSM、KM、OTC、BZM、CP、NA、OA及びTMPのMIC値には二峰性が認められ、それらの耐性率は3.2~80.6%であった。特に、DSM、OTC及びオールドキノロン系薬剤であるNAとOAに対しては、高度かつ高率な耐性株の出現がみられた。一方、フルオロキノロン系抗菌剤であるERFXとOFLXに対しては、ごく一部の低感受性株を除き、殆どの菌株はMIC値0.05~0.1μg/mlに単一のピークをもつ極めて高い感受性を示した。

分離菌株の薬剤耐性パターンは、健康動物由来株でDSM・KM・OTC・TMP(25%)が最も多く、DSM・OTC(20%)が次いだ。

(2)カンピロバクター

カンピロバクターの分離においては、輸送用培地(シードスワブ)内の糞便を選択培地(CCDA培地)に直接培養し、さらにCEM培地での増菌培養も併用した。菌種同定には、分離菌株の生化学的性状を調べると共に、PCR法による遺伝子型による同定も行った。O群血清型別は、Pennerの方法(市販免疫血清を用いた受身血球凝集反応)に従って実施した。

カンピロバクターは供試519検体中、108検体(20.8%)から分離され、動物種別にその分離率を比較すると、牛:14.2%、豚:21.7%、鶏:27.6%であった。牛と鶏ではCampylobacter jejuniが、豚ではC. coliが高頻度に分離され、動物種毎の優位な菌種の存在が明らかとなった。

分離されたC. jejuni 109株、C. coli 50株、C. lanienae 6株及びC.lari 1株の計166株のMIC分布(表2(PDF:7KB))は、殆どの薬剤において極めて広範であり、DSM、SPC、EM、SP、TS、OTC、NA、OA、ERFX及びOFLXに対して耐性株の出現(耐性率;7.2~62.7%)がみられた。由来動物種別にみた場合、マクロライド系抗生物質(EM、SP及びTS)に対しては、特に豚由来株で耐性率が45.6%と非常に高く、それら耐性株はすべてC. coliであった。ERFXとOFLXにおいては、耐性株が16.3%に認められた。これらフルオロキノロン剤耐性株は、オールドキノロン剤であるNA又はOAに交叉耐性を示していた。

血清群別の結果、C. jejuni 供試109株中76株は、13種類の血清群に分類された。その検出頻度は、D群(抗原因子4、13、16、43、50)が全体の19.3%と最も高く、次いでB群(抗原因子2)14.7%、G群(抗原因子8)6.4%の順となった。C. jejuniの血清群と耐性パターンとの間には、必ずしも一定した関係は見出せなかった。

これらフルオロキノロン剤耐性のカンピロバクターが分離された家畜・農場での抗菌剤の使用歴等から、その耐性化傾向の背景を断片的に探ってみたが、情報が断片的であり、耐性株の出現と抗菌剤使用の有無やその使用した抗菌剤の種類(フルオロキノロン剤とその他抗菌剤に分類)等との間の相関性を十分に検討することはできなかった。今後、更にこうした要因解析を進めていく必要がある。

(3)腸球菌

腸球菌は、今回の調査対象の他の3菌種とは異なり、いわゆる食中毒の病原菌ではない。しかし、本菌はヒトと動物がその腸内細菌叢として普遍的に有する指標菌であり、本菌の薬剤感受性の変化を知ることは、宿主に対する抗菌性物質の適正使用を知る上で極めて重要である。一方、本菌は前述のように通常病原菌ではないが、近年、ヒトの医療でVRE(Vancomycin Resistant Enterococci)の出現により、大きな社会問題に発展している。

本菌の分離には、次の方法を用いた。糞便検体からバイルエスクリンアザイド培地で選択分離を行い、API 20 STREPを用いた一般的な性状試験の結果から、一般腸球菌を分離した。また、VCMを含む培地での選択分離によりVREの分離もあわせて行った。

一般腸球菌の分離成績では、家畜ごとに優勢の菌種に特徴があった。すなわち、E. faeciumは家畜ごとの分離率は、30~40%とほぼ同等であったが、E. faecalisE. duransでは、前者は鶏で、後者は牛で分離菌株の過半数を占めた。また、VCM含有の選択培地から分離された耐性菌は、その殆どが本質的に低度VCM耐性であり、非伝達性のvanC遺伝子を有する腸球菌(E. gallinarumE. casseliflavus等)であった。一方、いわゆるVRE(vanAvanB遺伝子を保有するもの)は全く分離されなかった。また、これら分離株のMICデータからも高度耐性のVREは検出されなかった。

分離された腸球菌合計1,024株のMIC分布(表3(PDF:4KB))は、殆どの薬剤において極めて広範であり、ERFX、OFLX、ABPC、VGM及びVCMに対しては高い感受性、CTF及びDSMに対しては耐性、GM及びCPに対しては中程度の感受性を示した。一般に、腸球菌はセフェム系及びアミノグリコシド系抗菌剤には自然耐性であり、今回の成績にもこの特性が反映されていた。一方、EM、TS、ABPC、OTC、BC及びLCMのMIC値には二峰性分布が認められ、これらいずれかの薬剤に対しての耐性率は0.2~65.4%であった。また、テトラサイクリン系抗菌剤とマクロライド系抗菌剤に対しては、全ての菌種で特に鶏と豚において、高率な耐性株の出現がみられた。各薬剤に対する耐性パターンは、単剤耐性から5剤耐性までの21種類が確認された。その主要な耐性パターンは、OTC単剤耐性とOTC・LCM・EM・TSの4剤耐性であり、この2種類のパターンが耐性株全体の半数以上を占めていた。

(4)大腸菌

ベロ毒素産生大腸菌(VTEC)は、ヒトの腸管出血性下痢症(食中毒)の起因菌として知られている。今回、全国の健康な家畜の糞便からVTEC及び一般大腸菌を分離し、薬剤感受性等を調べた。なお、一般大腸菌は、腸球菌と同様に薬剤感受性の動向を調べるための指標細菌としての観点から、調査対象菌種とした。

一般大腸菌の分離は、可能な限り直接分離培養法により行った。VTECの分離は、以下のように実施した。糞便1gをバンコマイシン加トリプチケースソイ培地で増菌培養した後、PCRでVT遺伝子のスクリーニングを行い、陽性検体から大腸菌を分離し、さらにPCR及び逆受身ラテックス凝集反応(RPLA)でVTECを同定した。

一般大腸菌は、515検体中509検体(98.8%)から1,018株が分離された。VTECは、牛の糞便から21.9%、豚の糞便から14.0%分離されたものの、鶏の糞便からは全く分離されなかった。すなわち、VTECは、合計72株(牛由来:46株、豚由来:26株)が分離された。ベロトキシンタイプは、(ア)牛由来株ではVT1又はVT2単独の他にVT1とVT2の両方を産生する株が10株認められた。また、8株はPCRでVT遺伝子が検出されたが、RPLAでは陰性を示した。(イ)豚由来26株中22株はPCRでVT2遺伝子が検出されるもののRPLAは陰性を示し、RPLAでは同定できない株が多いことが示唆された。

これらの一般大腸菌1,018株及びVTEC72株について、各種抗菌剤に対する感受性を調べた。その結果、ABPC、DSM、KM、GM、OTC、APM、CL、CP及びTMPのMIC値分布は一般大腸菌およびVTECにおいてニ峰性を示した。耐性率は、一般大腸菌では、OTC(53.0%)、DSM(37.4%)、ABPC(22.9%)、KM(17.6%)、CP(14.0%)の順に高かった。VTECではOTC(36.1%)、DSM(27.8%)、CP(16.7%)、ABPCおよびKM(9.7%)の順に高かった(表4(PDF:4KB))。由来動物種別に耐性率を比較した場合、一般大腸菌では、ABPC、DSM、KM、GM、OTC及びTMPについては鶏、豚、牛の順に、CPについては豚、鶏、牛の順に、NA、ERFX及びOFLXについては鶏、牛、豚の順に高く、APMは豚のみで耐性が認められた。一方、VTECではいずれの薬剤に対しても、耐性率は豚、牛の順に高かった。VTECの薬剤耐性パターンは、単剤耐性から6剤耐性まで多様であった。

一般大腸菌において、オールドキノロン系薬剤(NA、OA)とフルオロキノロン系薬剤(ERFXとOFLX)の耐性パターン(特に交叉耐性)を解析した。その結果、NA及びOA耐性123株中90株(73.2%)は、ERFX、OFLXに対しては感受性であり、33株(26.8%)は耐性を示した。

3.おわりに

平成11年度に実施した家畜由来細菌の薬剤感受性成績を紹介したが、今後も全国レベルでの畜産分野における各種細菌の抗菌剤感受性実態調査を継続し、得られた成績を順次紹介していくこととしている。また、その試験成績を集積・解析すると共に、家畜由来耐性株とヒト由来耐性株との関連性については、分子疫学手法等を駆使して遺伝学的に解析していくことや、動物由来耐性株のヒト医療に及ぼす影響に関するリスク分析を実施することが必要と考えられる。そのためにも、調査事業の遂行上、医学関係機関や食品衛生関係部署との協力・連携を深め、これら国内外の機関との情報交換及びその調査データの共有化等を積極的に推進していかなければならない。

また、抗菌剤の使用の現場においては、国際的な共通認識でもある「慎重使用の原則」に従い、(ア)抗菌剤の選択は、添付文書等の有用な基本情報(抗菌スペクトル、薬物動態等)や原因菌の薬剤感受性データに基づき慎重に行うと共に、(イ)その使用に当たっては、適応症に対応する用法・用量並びに使用上の注意事項の遵守をより厳格にすることが益々重要なこととなっている。

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