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北海道農政事務所

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JAしべちゃ 代表監事 千葉澄子 氏

JAしべちゃ
(標茶町農業協同組合)
代表監事 千葉 澄子 氏

千葉氏は、標茶町で酪農を経営する一方で、2015年からJAしべちゃの監事として活躍されています(現在3期目)。2021年から北海道指導農業士会の副会長も務め、地域農業の活性化に尽力されています。

取材日:2023年1月31日
取材場所:JAしべちゃ

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苦しかった時も夫婦で共に経営改善に向かって

   私は、38年前に埼玉県から北海道標茶町の酪農家に嫁ぎました。現在は、乳牛と育成牛合わせて500頭を飼養しており、生乳の出荷数量は約3,000トンです。今まで夫が社長でしたが、実際には私が経営者として、酪農業を切り盛りしてきました。しかし、約1年前に夫が65歳になって現場を離れてからは、婿が社長となり、私は専務として会社の経理や福利厚生を担っています。
   私が北海道にやってきて4、5年後、牧場の経営が悪化し、廃業も余儀なくされるような状況になりました。そのような状況になるとは思わず、親の反対を押し切り嫁いで来たため、「もう後戻りはできない!」という強い気持ちで、夫婦で経営改善に取り組んできました。
   夫は経理や事務の仕事が苦手であったため、夫から「任せたい!」と頼まれたことが、私が酪農経営に着手したきっかけです。夫婦2人で経営改善に取り組んでいく中で、生活費をギリギリまで切り詰めるなどとても厳しい状況ではありましたが、少しずつこれらの状況を打破し、私が嫁いだ当初は生乳の出荷数量が280トンの経営規模でしたが、気が付けば3,000トンの経営規模まで拡大していきました。
   その間、体調を崩すなど多くの苦労がありましたが、特に苦労を感じたのは、経営が拡大していく中、夫婦2人では酪農業に対応できなくなり、人を雇用することとなったときの出来事です。経営の拡大とともに2人の体調が崩れてしまい、人を雇いましたが、すぐに離職されてしまう状況が続きました。このままでは、せっかく経営改善に取り組んできた牧場が駄目になってしまうと考え、コーチング(相手の話に耳を傾け、観察や質問、ときに提案などをして相手の内面にある答えを引き出す目標達成の手法)の技術を身に付けるため、民間の通信講座を2~3年かけて受講しました。『人を育てること』、『人の意見をよく聞くこと』を学び、経営に活かすようになってから、会社の離職者が減り、少しずつ雇用が安定するようになってきました。現在は、従業員4名、パート4名を雇用しています。「人」は、当社の財産であり、常に「人」のことを一番に考える職場であり続けたいと思っています。
   現在、私は、従業員の朝食(お弁当)を毎朝作り、従業員の健康管理も考え、「できるだけのことは従業員にしてあげたい」という気持ちで経営に取り組んでいます。そのほか、経営の事務作業や、営農計画の
管理、経理、組勘の状況把握などを行っており、酪農の現場からは数年離れています。

指導農業士の経験も大きなポイント

   酪農経営や農協役員のほか、指導農業士の仕事も行っており、農業高校や農業大学校を卒業した実習生を毎年2~3人受け入れています。昨年4月には、実習生のうち農業大学校を卒業した学生が、入社してくれました。牛が大好きで、農業高校や農業大学校を卒業した、酪農業に携わりたいと考える若い人たちを大事にしていきたいということが私の目標であり、そういった若い人たちが自分たちに付いてきてくれることが、今の私にとって何よりの幸せです。
   指導農業士としては、コーチングの技術を活かし、約15年前から年間5回ほど、『人材育成』をテーマに全道での講義を行っています。
   最近では、昨年12月に名寄市で『農業経営におけるコーチングの必要性』をテーマに講義しました。

画像2<講演会の様子>

監事を引き受けたからにはやり遂げたいという強い思いを持って

   農協の監事を引き受けるきっかけは今から7年前に遡ります。JAしべちゃは地区割りで役員を選出しており、監事は当社の地区から選出をということで、たまたま私に声がかかりました。その時は、自分に農協の監事が務まるのかという不安などがありましたが、その時まさに男女共同経営参画に向かい、私自身が指導農業士として奮闘していた時期でもあり、この縁を大切にしたいと思いました。
   家族に相談したところ、「全面的に協力するから、やってみた方がいいよ!」と背中を押してもらいました。また、指導農業士としての人や組織との繋がりだけでなく、男女共同経営参画に対しての強い思いから指導農業士として活動してきたことが、監事を引き受ける上で、大きな支えとなりました。
   現在、3期目(7年目)ですが、2期を監事として、3期目からは代表監事を担っています。監事を引き受けた直後は、農家と農協の圧倒的な経済規模の違いに苦労し、「本当にこのまま引き受けて大丈夫かな?」、「自分に監事が務まるかな?」という葛藤が何ヶ月もあったことを、今でも覚えています。それでも、監事を引き受けたからにはやり遂げたいという思いから、勉強に励み、積極的に研修を受けるなど、周りにも支えられながら、現在に至っています。

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女性、男性は関係なく

   農協の役員という立場ですが、「女性として」、「女性役員として」と周りから思われたことは恐らくないと思いますし、自分もそのように思われるのが嫌で、男性と同じ立場で役員を担っていきたいと思っています。女性だからという扱いをしてほしくはありませんし、監事を引き受けたからには、男性でも女性でも、それは一つの職務として担うべきであると思っています。女性だからどうこうしてほしいと思ったこともありませんし、監事としては、女性、男性は関係なく、役員会などでも自分の思ったことを指摘し、また意見も言わせていただいています。

若い農業者や女性が顔を出せる機会を設けること

   監事への勧誘は当時の地元役員から受けました。役員の中で選考委員が必ず置かれており、農協役員を決めるときに、当社の地区の選考委員から貴牧場で担っていただきたいと声をかけていただきました。私が引き受けることについて、何日間か迷いましたが、夫とも相談し、「せっかくの機会だからこの世界に飛び込んでみよう!」と思い、農協の監事になった経緯があります。
   私が農家に嫁いだ当時、酪農は3K(きつい、汚い、危険)という印象が世間的にありましたが、そのような印象を変えていきたいと思っていました。指導農業士になった時に、世間の印象を新3K(稼げる、感動、かっこいい農業)に変えていきたいと思い、仲間と一緒に努力し、指導農業士としての活動を行ってきました。JAしべちゃでも、「男女が一緒に営農計画を立てよう」、「女性が家にこもっていないで、外に出てどんどん勉強しよう」という働きかけに力を入れてきました。
   そのため、私が監事になった時から、道外出身のお嫁さん達で作った「ならの木学級」を前身とした「しべちゃ町農業女性カレッジ」を仲間とともに立ち上げ、月3、4回の講座を行い、地域の学びの場を創出しています。
   農協で役員を担うにあたっては、理事にしても監事にしても、洞察力、数字をすばやく見れるという力をかなり持っていないといけません。無理やり農協の女性部から役員を選出するという方法は、私自身、筋ではないと思っています。
   農協の女性役員参画をどのように広げていけばいいのかという課題に対し、まずは若い女性農業者に農協に通ってもらい、農協で講座を受けるなどの機会を設けることや、各農協の支所で若い奥さん方が集まったときには、お茶でもしながら、農協に対する意見を気軽に言えるような機会を設けることが大事であると思っています。
   最近、当農協でも営農指導員に女性を何人か充てたことにより、女性が営農相談に来る機会が増えています。まずは、女性が立ち寄りやすい農協づくり、環境づくりを行っていくべきであると思いますし、こういった経験や機会を通じて、役員への登用を行っていくことが大事であると思っています。
   私も20年くらい前に指導農業士を引き受け、各地で素晴らしい女性たちと沢山出会いました。これらの経験、出会いがあって今の自分があると思っており、これからもこの繋がりを大事にしていきたいと思っています。

家族の支え、夫の支えに感謝

   私は仕事や家庭などの環境にとても恵まれていると感じています。例えば、経営面でも夫が私を頼りにし、任せてくれる部分がありましたし、全道どこでも講演などに行くときは、夫がいつも車で送迎してくれます。理事会や監事会出席のため、帰宅が遅くなった時には、夫が夕飯を作り、私の帰りを待っていてくれます。家事や洗濯、掃除も手伝ってくれます。
   夫は、男性、女性ということではなく、できることを自分で行っていくことが大事であるという考え方を持っており、その点が夫の魅力であると思っています。中々そのように思うことは難しいと思いますし、実行することはできないと思っています。
   夫婦一緒に仕事をしているため、夫は何事にもとても協力的で、その協力がなければ、これまでの私の仕事はやりたくてもできなかったと思っています。
   若い時は、私自身ただ真っ直ぐに走り続けてきましたが、年を重ねるにつれ、体力的にも大変なことが多く、時には農協にいても辛いことや大変なことがあります。しかし、夫の温かい支えがあり、これまで色々と乗り越えることができました。夫にはとても感謝しています。農協役員は誰でも担えるものではないと思いますし、家族の協力がとても大事なものであると思っています。

仕事のON・OFFの切り替えを行い、自分の好きなことを

   監事を担っている上で、いつも口にすることは、女性自身がより勉強して、女性自身も能力を向上させていく必要があるということです。周りから認められないという声も聞きますが、その前に女性自身がまずはしっかりしないといけないと思っています。
   また、私は、何事も先を見据えて行動すること、素早く判断することを心がけており、守秘義務という点もとても大事なことだと思っています。私は、家に帰れば、家族に対し、農協の話を一切することはありませんし、自分専用の部屋を家族に用意してもらったため、その部屋で農協の仕事をしています。農協に関する内容で自分自身、納得がいかないことも自問自答し、農協からの帰り道の車中で、音楽をかけながら、消化するということも多々あります。
   しかし、ストレスを抱えることは今のところ特にありません。当社では、経営側の私たちもしっかり休みを取り、仕事のON・OFFの入れ替えを行っています。そのようにしなければ、経営者としても上手くやっていけませんし、「経営者だから休まない」というような意識は持つことはありません。休暇の日は、なるべく夫婦で過ごそうと決めていて、遠くに住んでいる孫に会いに行ったり、温泉に行ったり、わかさぎ釣りに行ったり、好きな音楽をかけドライブをしたり、自分たちの好きなことを行っています。

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組織がいつも耳を傾けてくれるから、私も頑張れる

   監事を担って良かったと思う点は、色々な人に出会う機会があり、人から頼られることです。身近な点で言えば、女性農業者から色々と相談を受けることがあります。男性には中々聞きにくいことも、私を頼ってもらい、事業や農協の独自対策など幅広く相談を受け、対応にあたります。「こういった意見を持った女性農業者がいますよ」ということを、理事会や組合長に伝え、課題解決に繋げることもあります。理事や監事で立場は違えども、JAしべちゃの役員はそういった意見について、しっかり耳を傾けてくれるため、自分が監事を務めていることで、少しは社会の役に立てているのかなとも感じています。
   これまで色々な立場で依頼のあったことにも、女性の社会進出のために、私で良ければという思いで引き受けてきました。そういった経験が自分自身の成長にも繋がっており、また社会に必ず役に立てることがあると確信しています。

現状維持は衰退以外のなにものでもない

   監事を嫌々で担っているわけではなく、とにかくやりがいを感じています。監事の仕事も、酪農の仕事も、現状維持で良いとは思っていません。「現状維持は衰退以外のなにものでもない」という言葉をモットーに、監事の仕事も勉強できることはどんどん勉強していかなければいけないと思っています。
   最近では、全国の農協の監事研修に参加し、7年目の私でも、気づかされることがたくさんあります。また、全国の農協の監事を担っている女性がこれだけいるということが私の励みにもなりました。
   色々な角度から女性が参加できる機会を創出していくことがとても大事であると改めて実感しています。私も「しべちゃ町農業女性カレッジ」を通じて、女性の意欲が湧くような機会を増やし、農業に携わる女性を増やしていくこと、これらだけでも、今後の女性の参画には活きてくると思っています。

画像5<しべちゃ町農業女性カレッジの様子>

全てのことに対して、やりがいをもって挑む

   監事としての従事日数は月4日ほどで、監査の時期になれば、もう少し日数が増えます。監事の仕事は監事内で役割分担をしています。今期から代表監事となり、代表と名が付き、責任がより重く感じ、時には押しつぶされそうな思いにもなりますが、周りの支援もあり、監事の仕事を全うしています。
   監事を担って、悲観的に思ったことはありません。職務として担っていることであり、地区懇談会でも周りが怖いと思ったことはありませんし、質問されれば、自分の思いを答えます。全てのことに対して、やりがいを持って、職務を全うしています。

男性、女性ではなく、地域のためにできることを全うする

   自分自身、家族の支えがあり、監事の仕事を行うことができており、今後、役員を担われる方も、家族のサポート、理解が大事であると思っています。
   また、農協で女性に対して自分自身が何かしなければならないという考えは持っていませんし、逆にそういう考えを持ってはいけないと思っています。男性も女性も同じ立場で役員を担わなければいけないし、女性だからといって、特別扱いをすることは良くないと思っています。男性、女性問わず、役員も担っていくべきであると考えており、「私が女性だから推薦するんですか?」と聞き、「そうではないです」と言われれば引き受け、逆に「女性だから」と言われれば、私は引き受けないという、そういった信念で役員をやってきました。
   私という人間を頼って、農業のことなど相談されれば、何でも協力したいと思いますし、私がいることで、女性農業者が活動しやすい環境が築かれているのであれば、役員を引き受けてよかったと心から思っています。

千葉様、JAしべちゃの皆様、
取材のご協⼒ありがとうございました

お問合せ先

企画調整室

ダイヤルイン:011-330-8802

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