関東地域肉用牛生産基盤強化推進シンポジウム概要報告
関東農政局では、関東地域の肉用牛飼養頭数の減少に歯止めをかけるべく、今回、一般社団法人全国肉用牛振興基金協会との共催により、肉用牛繁殖雌牛の増頭に向けた取組事例の紹介や生産現場で活用可能な技術等に関する紹介を行うシンポジウムを開催しました。
開催日時・場所
日時:令和元年9月11日(水曜日)13時00分~17時00分
場所:埼玉県さいたま市中央区新都心1番地1
さいたま新都心合同庁舎1号館1F多目的室
主催:関東農政局、(一社)全国肉用牛振興基金協会
開催内容
(1)国内の情勢報告
大竹 匡巳氏 (生産局畜産部畜産振興課課長補佐)![]() |
Ø生産局畜産部畜産振興課 大竹課長補佐から「肉用牛改良をめぐる情勢」について、経営の効率化につながる繁殖肥育一貫経営や地域内一貫の利点や、繁殖経営におけるICT活用は、労働力の確保を補い、事故率低減にもつながるとの説明がありました。
Ø今年度は家畜改良増殖目標の見直し年度であり、遺伝的多様性への留意や、ゲノミック評価の利点・留意点、さらには牛肉嗜好の多様化を受け、食味に着目したオレイン酸等についても説明がありました。
Øまた、和牛遺伝資源の流通管理について、農水省の検討会が7月に公表した中間とりまとめの概要や家畜改良増殖法など現行制度に関する説明がありました。
|


(2)基調講演
乙丸 孝之介 氏 (国立大学法人 鹿児島大学 共同獣医学部 准教授 )![]() |
Ø国立大学法人 鹿児島大学 共同獣医学部 乙丸 孝之介 准教授から、「新規な哺乳ロボットとセンサーによる和牛子牛の革新的生産技術開発」と題して講演がありました。
Ø既製のカーフフィーダーにガイドレールを移動する自動フィーダー(哺乳ユニット)を組み合わせた新たな哺乳ロボットで、ゲージ飼育の個体管理に対応した哺育技術と発育改善、疾病減少、省力化管理技術の確立に関する研究紹介がありました。
Ø子牛専用の哺乳ゲージ飼育による個体管理と、感染症の水平感染を防止することが可能となった旨説明がありました。さらに個体別哺乳ロボットは、労働時間の減少、成長促進が図られ、センサー・IoTを活用することから活動量や体温など各種情報分析による健康管理技術が確立されたことが紹介されました。
Ø費用面でも、計算上おおよそ7年間で採算がとれるとの説明がありました。
|
(3)事例調査
齋藤 雄志 氏 (栃木県)(株式会社サイトウ農場 代表取締役)![]() |
Ø株式会社サイトウ農場 齋藤 雄志 代表取締役から、「繁殖肥育一貫経営における畜産技術活用事例」と題して講演がありました。
Ø今年から株式会社に移行し、ICT機器の導入や新技術のゲノミック評価などを活用した取組について説明がありました。常にデータ分析を行いながら、ICT機器を活用していれば、その農場独自のデータが確実に出てくることに気がつくはず。当場ではICTのデータよりも種付けを若干遅くすることがポイントということが判明した。自給飼料生産の面でもドローンを活用、労働時間が大分短縮され、より牛体観察に時間をかけることができた。結果的に事故率が低下し、経営面で大きな効果があったとの説明がありました。
Ø当地域では一貫経営を行っている農家は皆無であったが、県の試験場等を活用し積極的に学び、また学生時代に培ったデータ分析の手法を用いて、常に技術改善を図ることが、肥育経営から一貫経営へ転換することが可能となったとの説明がありました。
|
鳥山 真 氏 (群馬県)(有限会社 鳥山牧場 代表取締役社長)
![]() |
Ø有限会社 鳥山牧場 鳥山 真 代表取締役社長から、「独自システムを活用した黒毛和牛一貫生産 ~ゲノム解析とICT活用等の実用化技術の現状~」と題し講演がありました。肥育から一貫経営へ、さらに牛肉の販売までトータルで経営を行い、消費者の「美味しい、また食べたい。」というニーズが経営理念である旨紹介がありました。
Ø脂質と赤身肉の両方を評価した味マップを作成し、美味しさを見える化するとともに、ゲノミック評価を導入し自分たちの目指す美味しさのための改良分析、外部研究機関との共同研究を行った結果、特定の血統にこだわらない鳥山牧場独自の交配を進めている説明がありました。
ØICT導入はベテラン従業員の退職による社内構造の変化の必要性に迫られたのがきっかけ。ベテラン職員の職人技術による個人牧場化「情報共有しない閉鎖的職場」から脱却し、経営に影響がないよう、従業員チーム内での定期的な情報共有を実施し、「組織全体で一貫生産を成功(事故率減、ウシ白血病撲滅、出荷肉牛A-2撲滅)」することを目標に掲げたとの紹介がありました。
Ø組織のトップダウンではなく「現場主体の組織管理」を次なる目標として掲げ、生産経営の見える化を推進し、農場HACCPとJGAP認証(肉用牛では関東初)へとつながった。これらの取組は海外進出への大きなステップとなったとの説明がありました。
Ø「銘柄頼み」「霜降り一辺倒」「職人頼り」から、ICT活用による生産環境の平準化を実現、「新たな仕組の構築」を目指し、消費者から「美味しい、また食べたい。」と選んでいただける牛肉でありたい旨紹介されました。
|
意見交換(総合討論)
Ø(大竹課長補佐)現場でICT普及状況について見聞きしてきたが、今後、労働力が確保しづらくなる中で、もう少し人手が欲しいという時にICTはとても便利との意見があった。導入をためらう場合、費用対効果や使いこなせるかが不安であったり、さらに山地等では電波状況などに不安があるという声を聞くことがあったが、実際には、克服できることであり、実証例を広げることが重要だと思う。
Ø(齋藤氏)ICT導入に当たっての不安、データの使い方、サポートなどについて、当該地域は肥育農家が主であるため、繁殖技術に関する地域のバックアップは全くなかったが、JAには御世話になった。牛を観察する時間は限られるので、頼れるICTを自身で見つけて導入した。技術的なサポートを受けられることは重要だと思う。自分は県の機関に支援してもらった。ICTを使いこなすには各農家毎で異なるデータの特徴を分析・把握することがICT導入にあたっては重要だと思う。
Ø(齋藤氏)ICT導入には補助金以外に技術的サポートが必要だが、授精適期は農家毎に異なり、さらに個体毎にも異なる。当農場では、雄しか産まない牛にICTデータより早めに授精したら雌が産まれる確率は高いことがわかった。データを残している人は少数派である。まずは自農場のデータを確認してみて欲しい。繁殖雌牛を残したい場合は特に実践してほしい技術と思う。
Ø(鳥山氏)育種価やゲノム評価を活用して3年間経過し精度、データは蓄積されつつある。解析作業はこれからにはなるが、研究成果も大事だがやはり我々はお客さんの声を大事にしたいと思っている。現時点で、ゲノム解析についてはひとまず横においてみて、という距離感である。
Ø(参加者から質問)「小規模の生産者で良いBMSが出てなくて悩んでいる、一人でやらざるを得ない状況下で、今日の話を聞いてぴんときた、変われるコツ等を教えて欲しい」
Ø(鳥山氏)食肉加工にも携わる者としては、肉質は一概に格付けだけではないと思っている。BMS数値、種(雄牛)にこだわる必要はなく、畑(母牛)の能力を伸ばしてくれる種は何か、流行に流されることなく、自身の経験を活かすことが重要と思う。母牛の能力を成長させてくれる種は何かをまず考え、母牛を大事にしてほしい。近親交配も問題となっているが、スーパー種雄牛の種があるとそればかり使ってしまう。これでは産地は作れないと思う。
Ø(齋藤氏)やはり繁殖肥育一貫でないといい牛は作れないと思う。始めた当時はアナログでデータ処理していたが、ICTのおかげで、牛にとっても人にとっても飼養管理しやすい、良い環境になってきたと思う。
![]() |
![]() |
お問合せ先
生産部畜産課
担当者:畜産振興係 齊藤,江原
代表:048-600-0600(内線3327)
ダイヤルイン:048-740-0416
FAX番号:048-601-0533