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近畿農政局

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「令和4年度近畿農政局食育ネットワーク交流会」概要


近畿農政局は、令和5年2月24日(金曜日)に「新たな日常に対応した地域と連携した子どもたちの食育の継続」をテーマに、「令和4年度食育ネットワーク交流会」を開催しました。コロナ禍が落ち着きを見せ始める中、今回は初めて会場とオンラインを併用し、近畿地域の食育ネットワーク「未来につなぐ食育倶楽部」会員、近畿管内教職員(教員、事務職員、栄養士)等、約85名の皆様に参加いただきました。
京都市立高倉小学校には、地域の教育資源や人材を活用しながら系統立てた食育カリキュラムを構築し、実践的・体験的な活動を小学校教育課程に位置付けた「高倉スタンダード」(令和2年度食育活動表彰農林水産大臣賞)があり、この取組が継続されています。このカリキュラムに携われた方々を迎え、コロナ禍における食育を推進していく上での様々な課題に対し、多様性と継続性を持った食育の展開について議論が行われました。
第1部では、同小学校校長在職時に、食育カリキュラムの開発から携わっている滋賀大学特任教授の岸田蘭子氏から、「日本の食文化に着目した食育カリキュラム―高倉スタンダードの取組から―」と題して講演いただきました。
第2部では、コーディネーターに奈良女子大学名誉教授の的場輝佳氏、パネリストに彦根総合高等学校非常勤講師の飯聡氏、京都八百一MI株式会社相談役の弘敏二氏及び岸田蘭子氏によるパネルディスカッションを行い、学校・地域・家庭が連携し実践するための議論を行いました。


  以下に交流会の概要をご紹介します。 

第1部:講演

「日本の食文化に着目した食育カリキュラム―高倉スタンダードの取組から―」
    講師:滋賀大学特任教授、元京都市立高倉小学校校長  岸田 蘭子 氏

平成27年に京都市スタンダードとして講師派遣制度が確立されたことから、着任地の小学校で食育をどう展開していくかと考えたことが、高倉スタンダードを作ったきっかけである。結果的には学校、地域の専門家、そして保護者が一体となった学校独自のスタンダードに至った。カリキュラムとして全容を示すことは、すべてを可視化できるというメリットがある。また、体系化することが大切であり、学校全体のカリキュラムに人材をうまく位置付けることができる。
継続性を持って地域が関わり続ければ、子どもたちに必ず積み上がっていく。高倉スタンダードの特色は、体験を重視して地域資源を生かし、学校がワンチームとなるということである。カリキュラムでは学年ごとにテーマを設定して、自立した食の主体者を育てるというストーリーを描いている。
高倉スタンダードの成果は、体系化することにより点から線・面に、協力者から参画者になったことで意識の向上があり、子どもたちが食を通して生き生きと成長することで持続可能な社会の構築が成し得ることである。今あるカリキュラムに落とし込んでみると課題が見えるので、ぜひ作ってみてほしい。新たな日常への対応としては、カリキュラムをつくることで持続可能な形になり、取組を面で捉え当事者意識を持ってほしい。

オンラインと併用した会場の様子


講演をする岸田氏


今後に向けて取り組むべきことは、すべての学校がカリキュラムを作っていくことである。1年生から6年生までがストーリーでつながっていくこと、保護者なども含めて子どもたちが想像したくなるようなストーリーができていることが重要。協力から参画を促し、食文化がある地域性や特色を生かして実現させていかなければならない。
実際に、どのように学校側に働きかければよいか。保護者も学校に要望したいがどんなアクションで学校が動いてくれるか。学校に受け入れる器があるかという問題があるので、食の大切さについての声が個人からではなく、PTAや地域から上がると学校は動きやすい。学校のニーズと合わせられればうまくいきやすく、話し込むことが必要。
学習指導要領で学習計画が決まっている中、学校で体系的に食育を進める大切さを理解してもらうためにどうアプローチすればよいか。栄養教諭がうまく機能していない学校が多く、校長のリーダーシップでしっかり位置付けること。ボトムアップで活躍の場を作る。若い人々のアイデアは貴重なものであり、それらを聞くことは学校としてのカリキュラムを構築するきっかけになる。

第2部:パネルディスカッション

コーディネーター
  的場 輝佳 氏(奈良女子大学名誉教授、NPO法人日本料理アカデミー理事)
パネリスト(50音順)
  飯 聡 氏(彦根総合高等学校非常勤講師、元京都調理師専門学校講師)
  岸田 蘭子 氏(滋賀大学特任教授、元京都市立高倉小学校校長)
  弘 敏二 氏(京都八百一MI株式会社相談役、農地所有適格法人株式会社八百一の郷取締役)

的場氏:食育基本法ができたあと、京都市教育委員会における日本料理に学ぶ食育カリキュラム推進委員会において、高倉スタンダードの経緯を見てきた。高倉小学校は京都市の市街地の真ん中にあり、料理人などプロの人材が豊富な地域。このような地域で成果を上げている高倉スタンダードを参考に、学校でどう体系化するか、どう地域と密着して連携するか、どう実践するか話を進めたい。
協力者から参画者になって良かったことは何か。協力から参画へ促していくにはどうすればよいか。
飯氏:料理の現場では美味しく食べることに目が向きがちだが、農業生産の現場の苦労を知ることができた。
的場氏:都会の子どもたちの農業体験の成果と生産者の反応はいかがか。
弘氏:ネットで瞬時に大量の情報が得られる今の時代は、子どもたちの知識は驚くほど多いが、五感体験が少ないのでその点を補えたのではないか。やる気なさそうにしていた子どもも、農作業に入ると生き生きとしていた。対応する農業者のほうも、伝えていく中で子供から学ぶことも多く、意識の変革につながっている。
的場氏:カリキュラムを組み立てることは大変だと思うが、機能的に実現させるにはどうしたらよいか。
岸田氏:多くの人に出会い、いろんな人の情報の引き出しを増やしておくことが必要。学校では、校長のリーダーシップによるところが大きい。人と出会い、発信すればつながりが増えるし、地域にある多くの情報が得られる。まさに食育はネットワークであり、人とのつながりで得るものが多い。つながりは1回で切らず、地域のキーパーソンをうまくつないでいくこと。子どもにとって食が大切であるという価値感を地域で守ってもらうために共有し、共鳴してもらうことが大事。
飯氏:家庭料理の大切さとして、台所で整理しながら時間内で美味しく調理し、家族に喜んでもらうことを感じてもらう。うまくいかなくても周囲からアドバイスを受けて、次の機会に生かしていくという経験を増やしていく。
参加者:地域において学校活動で取り組むには、資格や条件など制約が多いので何か解決策はないか。
岸田氏:法律などの制約があるので行政、学校、住民、専門家など立場の異なる人を巻き込み知恵を出し合うことで視点を増やせば、解決の糸口が見つかるはず。地道な積み上げが最終的には近道ではないか。



コーディネーターの的場氏






      パネリストの弘氏(左)と飯氏(右)


講師に質問をする参加者






参加者の質問を聞くパネリストの皆さん

参加者:子どもの朝食の欠食状況を改善するため、地域でおにぎりの提供を考えているがどうか。
岸田氏:子どもは自立して自分の食事を用意できることが必要であり、単に与えるのではなく日常の指導と実践をどう積み重ねるかを考える必要がある。
的場氏:環境問題に関して授業で広がることはあるか。
弘氏:農業にとっても環境問題は大きな課題である。授業では野菜の規格や基準について子どもと話し合い、食品ロスについて考えてもらった。その中で野菜の基準や規格などは大人が勝手に決めた価値観であり、子どもはむしろ規格外の野菜を評価する傾向が強いことを知った。子どもから食品ロス問題の解の一つをもらったように思う。
参加者:教員に求められることは何か。
岸田氏:若い先生は知識を持っていても体験が不足しているので、子どもたちと学ぶ立場とサポートする立場を経験してもらうことが必要。京都市教育委員会では、出汁の授業のためのプログラムを作ってすべての教員へのバックアップに力を入れている。
子どもはいずれ自立するので、親を育てるつもりで子どもの食育を進める必要がある。共食や食文化など、食を慈しむ子どもを育てる。子どもを通して家庭に発信していくことも学校の役割。
参加者:食べ物に好き嫌いのある子どもへの対応が難しい。
岸田氏:学校給食の役割では偏食への指導もある。発想を転換して、子どもたちが自己実現につながる食事を考えるような丁寧なやり取りを心掛けている。
的場氏:最後に、参加者に向けて一言。
飯氏:ベーシックな食育とは、バランスよく食べること。
弘氏:子どもと保護者が同時に参加できるような食育活動にすることによって、家庭で食についての共通の話題が生まれ、それが楽しい団らんにつながればいい。
岸田氏:時間、仲間、手間という三つの間が、食を慈しむことにつながるので大事にしてほしい。
的場氏:食は人を幸せにし、豊かにする。小さい頃から食を通して育てていかなければならいと改めて感じた。

参加者の皆様からいただいた感想

終了後に行ったアンケート結果では、参加者から、
「現場での課題や体験を通しての食育は、食の関心を高める上で重要」
「岸田先生のお話は分かりやすく、各地域での活動を後押しする内容だった」
「現場で長年に渡り食育に関わって来られた先生方のリアルなお話を聞けて、とても良かった」
「食育の広さ、深さを再認識した」
「『日常・地域・継続』のキーワードのもと、様々な思いを受け取ることができた」
「実践できる内容が多く、大変参考になった」
などの感想をお寄せいただきました。

お問合せ先

消費・安全部 消費生活課
担当:食育担当
直通:075-414-9771