紫の果実に託した思い ~厚真の大地が結んだ師弟の絆~ 佐藤八重子氏、渡部真子氏
厚真町で40年以上にわたりハスカップ栽培を続けている佐藤八重子さんと、「地域おこし協力隊」として移住してきた渡部真子さんは、お互いを「八重ちゃん」「真子ちゃん」と呼び合うほど親しく温かな関係を築いています。
渡部さんは、佐藤さんからの誘いがきっかけでハスカップ栽培を始めました。
今回は、そんな女性農業者として活躍されているお二人に、農業への思いや日々の取組についてお話を伺いました。

ハスカップ栽培を始めた経緯について教えてください。
以下、敬称略
佐藤
厚真町でハスカップ栽培が始まったのは、今から42年前のことです。
当時、私は嫁ぎ先の畜産業を営んでいましたが、町がハスカップ栽培を推進する事業を行う際に声がかかったことから、畜産業を辞めハスカップ栽培を始めました。苗木は野生のものを移植して以降、試行錯誤を重ねながら育て続けてきました。
かつては多くの農家がハスカップを栽培していましたが、現在では担い手が減少し、厚真町の地域資源であるハスカップの将来が危ぶまれています。私自身もその魅力を伝える活動に取り組んでいますが、なかなか難しいのが現状です。そして何より、私には跡継ぎがいませんでした。
そんな折に現れたのが、真子ちゃんでした。
当時、私は嫁ぎ先の畜産業を営んでいましたが、町がハスカップ栽培を推進する事業を行う際に声がかかったことから、畜産業を辞めハスカップ栽培を始めました。苗木は野生のものを移植して以降、試行錯誤を重ねながら育て続けてきました。
かつては多くの農家がハスカップを栽培していましたが、現在では担い手が減少し、厚真町の地域資源であるハスカップの将来が危ぶまれています。私自身もその魅力を伝える活動に取り組んでいますが、なかなか難しいのが現状です。そして何より、私には跡継ぎがいませんでした。
そんな折に現れたのが、真子ちゃんでした。
渡部
私は神奈川県出身で、地元の大学に進学しました。海外に行きたいという思いがあって国際学部を選択しましたが、そこで「グローバルよりもローカルが大事」と教えられて、価値観が変わりました。
卒業後は、特にやりたいことが明確に決まっていなかったこともあり、紹介された道南の観光牧場で働くことになりました。そこでは、馬の扱い方などを学びながら、8年間働きました。
そんな折、観光牧場で一緒に働いていた西埜(にしの)さんが、2017年に地域おこし協力隊として厚真町に移住し、「西埜馬搬(にしのばはん)」* として林業に携わる姿を見ました。牧場を辞めた後、西埜さんに挨拶をするため馬搬現場を訪れました。そこで馬と人が協力し合って働く姿をみて、自分がやりたいことに近いかもと思いました。西埜馬搬のスタッフとして働くため、2021年に地域おこし協力隊として厚真町へ移住しました。
そこで八重ちゃんと出会い、ハスカップの生産を勧められ、5年前から始めました。
*馬搬とは、小規模木材搬出作業として伝統的に用いられてきた森林作業です。
卒業後は、特にやりたいことが明確に決まっていなかったこともあり、紹介された道南の観光牧場で働くことになりました。そこでは、馬の扱い方などを学びながら、8年間働きました。
そんな折、観光牧場で一緒に働いていた西埜(にしの)さんが、2017年に地域おこし協力隊として厚真町に移住し、「西埜馬搬(にしのばはん)」* として林業に携わる姿を見ました。牧場を辞めた後、西埜さんに挨拶をするため馬搬現場を訪れました。そこで馬と人が協力し合って働く姿をみて、自分がやりたいことに近いかもと思いました。西埜馬搬のスタッフとして働くため、2021年に地域おこし協力隊として厚真町へ移住しました。
そこで八重ちゃんと出会い、ハスカップの生産を勧められ、5年前から始めました。
*馬搬とは、小規模木材搬出作業として伝統的に用いられてきた森林作業です。
農業や日頃の生活での苦労を教えてください。
佐藤
ハスカップ栽培を始めた当初は、その特性が十分に知られておらず、手探りの状態での栽培が続いていました。そこで、独学で知識を深めながら、現場での経験と判断を頼りに試行錯誤を重ね、ハスカップの性質を理解するまでには10年もの歳月を要しました。
今年の収穫期は6月22日から7月13日までで、天候に左右されることなく、約3週間にわたり毎日収穫を行い、1日あたり約10kgを出荷しました。午前3時に起床し、4時には畑に出て収穫作業を開始。自宅の納屋で行う選果作業も含め、午前11時までに納品を完了させなければなりません。
その後は、昼寝を挟みながら翌日の食事の準備なども行い、就寝は深夜1時頃になることが多く、睡眠時間はわずか2時間程度にとどまります。こうした生活の中で疲労が蓄積し、「寝ようと思えば思うほど眠れない」という悩みも抱えています。
さらに、広大なハスカップ畑の管理はすべて手作業で行っており、大きな労力を要します。特に、秋から始まる剪定作業は寒さが厳しく、身体中に使い捨てカイロを貼りながら作業にあたっています。
一方、真冬の時期は農作業がないため、買い物や趣味の編み物、確定申告の準備などをして過ごしています。
今年の収穫期は6月22日から7月13日までで、天候に左右されることなく、約3週間にわたり毎日収穫を行い、1日あたり約10kgを出荷しました。午前3時に起床し、4時には畑に出て収穫作業を開始。自宅の納屋で行う選果作業も含め、午前11時までに納品を完了させなければなりません。
その後は、昼寝を挟みながら翌日の食事の準備なども行い、就寝は深夜1時頃になることが多く、睡眠時間はわずか2時間程度にとどまります。こうした生活の中で疲労が蓄積し、「寝ようと思えば思うほど眠れない」という悩みも抱えています。
さらに、広大なハスカップ畑の管理はすべて手作業で行っており、大きな労力を要します。特に、秋から始まる剪定作業は寒さが厳しく、身体中に使い捨てカイロを貼りながら作業にあたっています。
一方、真冬の時期は農作業がないため、買い物や趣味の編み物、確定申告の準備などをして過ごしています。
渡部
ハスカップの栽培は、農業自体の経験も浅いためまだ分からないことが多く、十分な知識がない中での挑戦です。八重ちゃんに教わりながら少しずつ学び、作業を進めています。未知のことに取り組む難しさや戸惑いもありますが、その中にもやりがいを感じています。
一方で、栽培作業の負担が大きい割に、市場では高値がつきにくいのが現状です。そこで、知人の紹介でレストランに卸させてもらうなどの直接販売やオンライン販売などを展開し、価格の安定と収益の向上を図っています。
西埜さんが営む林業に従事をし、ハスカップの収穫期は休みがないこともありますが、基本的に土日は休みです。忙しい時期もありますが、そのことでストレスを感じることはなく、むしろできること、分かることが増えておもしろいからこそ、続けられているのだと感じています。
一方で、栽培作業の負担が大きい割に、市場では高値がつきにくいのが現状です。そこで、知人の紹介でレストランに卸させてもらうなどの直接販売やオンライン販売などを展開し、価格の安定と収益の向上を図っています。
西埜さんが営む林業に従事をし、ハスカップの収穫期は休みがないこともありますが、基本的に土日は休みです。忙しい時期もありますが、そのことでストレスを感じることはなく、むしろできること、分かることが増えておもしろいからこそ、続けられているのだと感じています。
家庭との両立はどのようにされていますか。
佐藤
家庭と農業の両立には日々奮闘しています。夫は家事にほとんど関わらず、食事の準備も一切行わないため、「ご飯くらい自分でよそってほしい」と伝えていますが、状況は変わりません。ただ、収穫時期だけは、朝の炊飯・味噌汁作り・食器洗いを夫に任せています。しかし、夫の作る味噌汁は葱を少し入れるだけで、味に不満はあるものの、作ってくれるだけありがたいと思っています。
渡部
家庭では、小学3年生の子どもを育てながら、日々の家事をこなしています。子どもは放課後になると学童保育に通い、夕方に迎えに行った後は、家事と育児をこなす生活です。ハスカップの収穫期には、自宅で育児や家事を行いながら、夜中まで選果や冷凍保存の作業を行うこともあります。
学校が休みの日は、お友達の家に遊びに行くこともありますが、基本的に土日は子どもと過ごす時間にしています。
また、ハスカップ畑は安心して過ごせる環境のため、子どもを連れて行くこともあります。摘み取ったハスカップをその場で食べることや、お友達を連れて来るなど、自然の中でのふれあいが広がっています。子どもも楽しそうに過ごしており、地域に育まれながら、日々の暮らしが支えられています。
女性の農業参画やこれからの担い手確保に向けて、思いはありますか。
佐藤
農作業を、全て女性一人で担うことは現実的ではなく限界があります。特に力仕事や広い面積での管理作業は男性の協力が不可欠で、周囲を巻き込んだ体制づくりが求められます。そのため、男女問わず協力し合いながら農作業を進めることが、持続可能な農業の実現につながると考えています。
渡部
探求心を持って、常に「知りたい」「学びたい」という意欲がある人こそが農業に向いていると感じています。個人的にはやってみたいという好奇心で続けている状態です。
佐藤
現在、農協のハスカップ部会では、女性理事として約40年間活動しています。性別に関係なく、言うべきことはしっかりと伝え、組織の中でも自立した立場を貫いてきました。自身の考えに反する場合には、遠慮なく反対意見を述べるなど、率直かつ誠実な姿勢で理事会に臨んでいます。
一方で、高齢を理由に理事を退任したいという気持ちもあり、次世代の担い手として真子ちゃんに後継者の役割を担ってほしいと考えています。しかし、真子ちゃんは仕事を持ち、生活との両立が求められる中で、片手間では対応できない状況です。それでも、真子ちゃんには次世代のリーダーとしての役割を担ってもらいたいと思っています。
渡部
真剣に考えているからこそ、簡単に「八重ちゃんの跡を継ぎます」とは言えません。
厚真町ではハスカップの生産者が年々減少しており、担い手の確保は容易ではありません。「どうしたら若い人もやりたくなるのだろう」とは考えています。収穫作業は早朝から始まり、手間と体力を要することに加え、何よりハスカップが好きでなければ、継続していくことは難しいのが現実です。
ハスカップは美味しく、健康にも良いとされている果実ですが、その魅力が十分に伝わっていないのが現状です。もしその価値が広く認識されるようになれば、栽培に取り組む人も増えるのではないかと考えています。
まずは、ハスカップについて知ってもらう機会をつくることが、次の一歩につながるのではないかと思っています。
厚真町ではハスカップの生産者が年々減少しており、担い手の確保は容易ではありません。「どうしたら若い人もやりたくなるのだろう」とは考えています。収穫作業は早朝から始まり、手間と体力を要することに加え、何よりハスカップが好きでなければ、継続していくことは難しいのが現実です。
ハスカップは美味しく、健康にも良いとされている果実ですが、その魅力が十分に伝わっていないのが現状です。もしその価値が広く認識されるようになれば、栽培に取り組む人も増えるのではないかと考えています。
まずは、ハスカップについて知ってもらう機会をつくることが、次の一歩につながるのではないかと思っています。
今後について展望を、教えてください。
佐藤
約5年前、ハスカップを使用した720ml入りのクラフトビールを製造しました。味の評価は非常に高かったものの、委託製造であったため販売価格が高くなってしまい、継続的な展開は難しいと判断しました。それでも「もう一度挑戦してみたい」という思いは今も強く持っており、友人からは「今の年齢でそんなことを?」と驚かれることもあります。
また、お寺での法事やイベントで提供するハスカップ料理の考案もしました。今後も、お寺を訪れる人々に広く紹介し、ハスカップを地域に根ざした食文化として定着させていきたいと考えています。ただし、普及にあたっては「作るのが難しそう」と感じられると実践されにくくなる傾向があるため、誰にでも簡単に取り入れられて、美味しく仕上がることを強調して伝えるようにしています。
さらに、教育委員会からの依頼を受け、小学5年生の農業体験や中学2年生の職業体験の受け入れも行っています。剪定作業などの農作業を通じて、農業や地域資源への関心を育み、将来的に「やってみたい」と思う若者が現れるきっかけになればと願っています。
まずは、知る機会をつくることが何よりも重要です。そのためにも、新たな取組を模索しながら、興味を持ってもらえるよう努めています。ハスカップの振興に貢献し、次の世代へとつなげていけるよう、これからも普及活動を続けていきたいと考えています。
渡部
厚真町に移住してすぐにハスカップ栽培を始め、最初の3年間は八重ちゃんと同じ方法で栽培していましたが、4年目からは無農薬栽培に挑戦しています。現在は、西埜さんからいただいた馬糞堆肥を活用しながら取り組んでいます。無農薬栽培へ切り替えたことで、収穫量はわずか30kgと過去最低となりましたが、今後、安定した生産が可能になれば、さらなる展開につながると考えています。
たとえば、西埜さんが飼育する馬を活かし、馬糞の運搬・散布作業やハスカップの収穫体験などを組み合わせた体験型プログラムを通じて人を呼び込み、観光農園としての魅力を高めたいとの構想を持っています。来園者にはハスカップのゼリーなどを味わっていただき、農業と食のつながりを感じてもらう機会を提供したいと考えています。こうした体験を通じて、ハスカップ栽培に興味を持つ人が現れることを願っています。
また、ハスカップを厚真町の特産品として積極的に発信することは、地域振興にもつながると考えています。ただし、ハスカップを原材料として使用すると、売値が高くなる傾向があるため、流通や販売には課題がありますが、それでも今後の可能性には大きな期待をしています。
たとえば、西埜さんが飼育する馬を活かし、馬糞の運搬・散布作業やハスカップの収穫体験などを組み合わせた体験型プログラムを通じて人を呼び込み、観光農園としての魅力を高めたいとの構想を持っています。来園者にはハスカップのゼリーなどを味わっていただき、農業と食のつながりを感じてもらう機会を提供したいと考えています。こうした体験を通じて、ハスカップ栽培に興味を持つ人が現れることを願っています。
また、ハスカップを厚真町の特産品として積極的に発信することは、地域振興にもつながると考えています。ただし、ハスカップを原材料として使用すると、売値が高くなる傾向があるため、流通や販売には課題がありますが、それでも今後の可能性には大きな期待をしています。
佐藤 八重子 様、渡部 真子 様、貴重なご意見をいただきありがとうございました。
お問合せ先
企画調整室
代表:011-330-8802




