梅希少品種「ミスなでしこⓇ」のブランディングを目指して
和歌山県 田辺市 那須 誠さん
和歌山県田辺市で梅を栽培し、農業現場において知的財産の保護に取り組む「和×夢nagomu farmⓇ」の那須 誠さんにお話を伺いました。
那須さんは22歳で就農し、現在は八代目園主として、平成17年(2005年)に父親が品種開発した梅「ミスなでしこⓇ」を後世に残る品種にする「夢」を掲げ、活動をされています。
令和3年12月には、ブランディングに取り組んだ独自のPR活動が高く評価され、第8回ディスカバー農山漁村の宝(ブランディング確立特別賞)に選定されました。
<和×夢nagomu farmⓇについて>
農園名の「和×夢」は、和の国(和歌山・日本)より、農業を通じて「夢」を伝え、「和(なご)む場」を創設するという農園の経営理念を示しています。
<「ミスなでしこⓇ」命名の由来と品種特性>
ミスなでしこⓇは、平成17年(2005年)に南高梅とパープルクイーン類似種の人工交配により育成した品種で、平成22年(2010年)には商標登録を行いました。
命名の由来は、(1)果実の色合いから親しみの持てる女性的な名前にしたい/(2)田辺市三栖(みす)地区で誕生したことから「ミス」/(3)日本がイメージしやすい「大和撫子」から「なでしこ」としました。
この品種の主な特性は、自家交配する性質がみられること、果実は南高梅よりやや小ぶり、果皮が梅紫色に着色し、ポリフェノールやアントシアニンの成分値は南高梅より優れていることなどです。
<ブランド化に向けた取組>
梅の希少品種が、競合ひしめく紀州の梅産地で淘汰され地域に埋もれることがないように、他業種の業界団体と協力・連携を図りながら、那須さん自らが旗振り役となってブランド化に努めています。
ブランド化に向けた主な取組は、(1)育成した梅品種の商標権を取得し、商標の保護やブランド化に活用/(2)「ミスなでしこⓇ」を紹介する大型看板を幹線道路沿いに設置/(3)事業車両の軽トラックの幌にラッピング施工し、「ミスなでしこⓇ」の移動看板として活用しているほか、香港百貨店との取引拡大に向けて、店頭販売/梅酒づくり体験を通じて香港でのブランド確立も目指しています。
また、「ミスなでしこⓇ」と類似品種との差別化を図るためのブランド戦略として、商品のロゴ(商標登録)を作成したほか、和歌山県の「プレミア和歌山(注)」の認証を取得し、ロゴマークやプレミア和歌山推奨マークを印刷した「商品ラベル」を活用しています。
<現在の取組と今後の展望>
那須さんは、ICT(情報通信技術)を活用したスマート農業の実践に向けて、高性能気象IoTセンサー「ソラテナPro」を設置し、観測した気象データの利活用に向けた実証や定点カメラ撮影による「ミツバチ活性度調査」を実施しています。
今後の展望としては、(1)取引が好調な香港で「ミスなでしこⓇ」ブランドを確立すること/(2)異常気象に対応できる栽培管理技術を確立し、高品質で安定的な生産に努めるとともに、高付加価値販売を実現することで、栽培農家数の増加とブランド産地確立の両立を目指したいと語っておられます。
農業の生産現場では、知的財産の保護・活用に関しては農業者の関心が低いことも懸念されていますが、知的財産を創造し、保護し、活用する取組は注目されています。那須さんの活動を通じて、今後農業者や農業技術者の関心が高まり、知的財産の保護・活用に向けた取組がさらに進むことが期待されます。
(注)プレミア和歌山とは、安全・安心を基本に、幅広い分野で優れた県産品を“和歌山らしさ”、“和歌山ならでは”の視点で推奨するために制定された和歌山県優良県産品(プレミア和歌山)推奨制度。
「和×夢nagomu farmⓇ」ホームページ
https://www.nagomu-farm.jp/

「ミスなでしこⓇ」誕生の地である三栖(みす)地区の幹線道路沿いに設置している大型看板。

「和×夢nagomu farmⓇ」八代目園主の那須 誠さん。軽トラックの幌にラッピング加工し、「ミスなでしこⓇ」の移動看板として活躍中です。

高性能気象IoTセンサー「ソラテナPro」で、気温、湿度、気圧、雨量、風速、風向、照度の気象データを1分ごとに観測しています。
観測データは、スマホアプリやパソコン上で確認できたり、CSV出力することも可能です。

梅の開花状況の様子。左側が「ミスなでしこⓇ」、右側が「南高梅」。2024年産は平年に比べ開花が2週間程度早いそうです。

定点カメラにより10分ごとに撮影し、撮影画像でミツバチの訪花数を目視で確認を行い、「ソラテナPro」の観測データを基に開花期間中の「ミツバチ活性度調査」を実施しています。

「和夢なでしこ」の開花状況。平成22年(2010年)に「ミスなでしこⓇ」と「紅梅」の人工交配により誕生した品種(令和元年に品種登録)。
「和夢なでしこ」は、(1)花びらが多数あり、薄ピンク色であること/(2)双子や三つ子着果すること/(3)果実は「ミスなでしこⓇ」と同様に果皮が梅紫色に着色することが特徴です。

「和×夢 nagomu farm」産の「ミスなでしこⓇ」販売時には、「商品ラベル」の貼付を義務化して差別化を図っています。
【和】を模した農園ロゴと、菱形に鳳凰デザインの商品ロゴはどちらも商標登録済です。「商品ラベル」は、国内流通用(写真左)と、海外取引用(写真右)のほか、「プレミア和歌山推奨マーク」を印刷したものも用意して、取引内容によって使い分けています。
お問合せ先
近畿農政局和歌山県拠点
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