このページの本文へ移動

東北農政局

メニュー

東北の大豆優良事例(野呂修聖氏(青森県つがる市))

令和4年7月20日

野呂修聖さん(第50回全国豆類経営改善共励会農林水産大臣賞)にお話を伺いました。

先を考えてほ場整備を進めて作物を栽培するのが楽しくてしょうがないんです

野呂氏_大臣賞受賞

全国豆類経営改善共励会にて農林水産大臣賞を受賞した野呂修聖さん(中央)と奥様の貴子さん(右)

野呂修聖さんは、青森県つがる市の土地利用型農業者で、第50回全国豆類経営改善共励会「大豆家族経営の部」において「農林水産大臣賞」を受賞。東北農政局では、令和4年2月に当該共励会のこれまでの受賞者の情報を更新した「東北地域における大豆優良事例集」を作成したが、より効果的な横展開を考え、野呂さんについては、取組内容を一段階掘り下げてから事例集に追加したいと考え、関係機関も交えた意見交換の場を設けた。野呂さんから、地域農業への思いや大豆栽培における工夫やその経緯をお聴きすることができた。

野呂修聖さんのプロフィール

平成9年に就農し、平成19年に父親から経営移譲。水稲、大豆を中心にブロッコリー等にも取り組む。現在は、JAごしょつがる大豆部会長として講習会や視察研修を企画するなど、地域の大豆生産の底上げに奮闘する。


野呂氏_プロフィール画像


農家が減っていく中で地域の水田を回すためには、やっぱり大豆が必要。

農政局
改めて、この度は農林水産大臣賞の受賞おめでとうございます。今日は野呂さんの取組内容について詳しくお聴きしたいと思っておりますが、まず、野呂さんの農業への考え方を教えてください。

野呂さん
まずは、地域農業の状況ですが、つがる市は水田地帯として長いこと水稲が中心となっています。しかし、農家の減少が大きな課題となっていて、昔は農家が数十人いた集落でも今では1~2人にまで減っています。そのため、1経営体の規模は20~30haになっていますが、キャパオーバーのため“ただ作付けしているだけ”の状態になっています。ここ数年の米価下落や高収益作物への転換の流れもあり、ニンニクなど他にも様々な品目がありますが、やはり人の手がかかってしまいます。一方で、大豆や麦類は多くの作業を機械ですることができる。ですから、地域の現状を考えると、地域の1万町歩規模の水田を少ない人手で回していくためには「大豆しかない」というのが私の中にある答え。子実用とうもろこしという話もあるけれど、つがる市は県南地域ほど畜産が盛んでなくとうもろこしの供給先の確保が大変なので、やっぱり大豆。今ではいい除草剤もあるので昔のように手で抜き取ることも少なくなりましたから。

野呂氏_意見交換

農政局
確かに大豆は播種前後の作業さえ気をつければ比較的手間のかからない作物ですので、まずは大豆で地域の水田を回していきたいということですね。


暗渠を整備して周りの農家の用水の使い方を把握すれば、後は水稲、大豆のどちらが適しているかを見極めるだけ。

農政局
野呂さんは、借地もそれなりにありますが、品目や栽培方法に何か制約はありますか?

野呂さん
借地については、現在は農業委員会を通じて特定農作業受託として請け負っています。離れた集落にも借地がありますが、この場合、その集落の用水の使われ方が分からず、そのまま水稲にしてしまうと水管理をうまくできないという問題を抱えることになります。そのため、借地の場合はまず3年大豆を作付けして用水の使われ方を把握します。そして、排水対策として明渠だけではなく、暗渠設備の確認・修繕をします。その結果、ほ場の状態が良くなって地権者から返してほしいと言われれば、私は喜んで返します(笑)。というのも、自分が請け負っている間に「あのときちゃんと暗渠の修繕をしていれば良かったなぁ」と後悔するのが嫌なので。だから、春にほ場を借りたらすぐに排水対策をします。未整備の自分のほ場は秋に重点的に対策します。何年も先のことを考えて計画的にほ場整備を進めるのはとても面白いし、栽培するのも楽しい。あのほ場ではこれをやって、このほ場ではあれをやって‥‥‥と考えてはにんまりしています(笑)。あとは、ほ場の状況に応じてあそこは水稲、ここは大豆、と見極めて作っているだけの話なんですけどね。

また、排水対策と併せて、ほ場の合筆による大区画化を進めています。30a区画ではいくら機械化しても作業性の向上に限界がありますし、機械の旋回による枕地部分の損傷も大きいので。

農政局
ほ場を借りたら、まずは大豆を3年作って、その間に暗渠を修繕し、用水の使い方を把握し、ほ場の大区画化を進めながら、水稲と大豆のどちらが適しているかご判断されているということですね。

借りたほ場を1年目で大豆にするのも勇気がいりそうです。自分だったら1年目は無難に水稲にしそうです。

野呂さん
でもね、請け負ったほ場はどのような状態か分からない。私にとって大豆で問題を把握するのが一番楽なんです。

農政局
そうなんですね。

では、ここからは共励会の出品調書に記載されている取組内容についてお伺いしていきます。 まず、天候に左右されないほ場づくりに力をいれているということで、先ほどからも暗渠の点検・修繕の話がありますが、具体的にはどのようにされているのでしょうか?県でも排水対策の徹底を周知されていますが、農家さんの実際の状況が気になりまして。

野呂さん
ちゃんとやっている農家は少ないと思います。例えば暗渠設備では、ほ場内の暗渠パイプは生きているけれど排水溝との接続部分が壊れている場合が多いです。ですが、その部分だけ掘り起こして詰まりを取るなど修繕すれば、排水が悪いと言われる水田も良い水田に生まれ変わります。水管理が良くないと良い栽培はできないので、ほ場を借りたらまずは掘って状態を確認しますね。

野呂氏_暗渠点検

暗渠の点検のためにほ場を掘り起こした様子

農政局
とにかく、まずは掘って確認ということですね。

野呂さん
掘って、3年程度は大豆を作ります。その間に暗渠の修理もできるし、水が豊富なほ場であると分かればレベラーを入れて水稲の直播ほ場にします。


県の普及組織と連携して肥料の低減に挑戦中。

農政局
土壌診断結果や今までの生育状況を鑑みて資材や肥料の量を決めているということですが、実際に判断するのは難しい気もします。例えば、県の普及組織の助言を得たり、自分の中で指標があったりするものでしょうか?

青森県西北地域県民局(普及)
現在、ちょうど野呂さんのほ場で基肥の肥料展示試験をしています。窒素成分で3kg/10a施用していましたが、生育量も十分確保されていて、肥料高騰の問題もあるので、半分に減らしてみています。

農政局
普及の力も借りながら試行錯誤しているところですね。


ほ場の作目や播種時期は状況を見て臨機応変に対応。大豆晩播狭畦栽培にも取り組む。

農政局
続いて、大豆の栽培体系についてお聞きしたいのですが、播種に関しては5月中頃から初めて、いつ頃までの計画としていますか?

野呂さん
年によって変わります。周りのほ場の水管理や天候次第というところもあるので、作目や播種時期は一応決めてはいるが確定はしていないという感じです。 5月は、一斉に田植えが始まるため用水が確保しにくく、田植機等たくさんの車両で農道も混み合うため、混雑を避けて大豆の播種を進めています。既にほ場準備は終えているので。

農政局
そのときの状況に応じて臨機応変に対応されているのですね。

また、晩播狭畦栽培にも取り組まれていますが、どのくらいの面積で取り組まれていますか?状況は普通播種と比べていかがでしょうか?

野呂さん
前年はブロッコリー作後の50aだけでしたが、もっといけそうなので今年は3haまで増やしています。粒大は中粒になってしまいますが、除草剤を2回散布して、病害虫防除もドローンでするので、収穫までほ場に入らずにすむのがメリットですね。播種量は6月中旬~下旬播種で9~10kg/10aと言われたけれども、普通播種(6kg/10a程度)と同じくらいでもいけるような気もしています。

農政局
除草剤は、土壌処理型除草剤を散布して、その後は‥‥‥?

野呂さん
パワーガイザー液剤(土壌処理兼茎葉処理型除草剤)を散布しています。

農政局
既にパワーガイザー液剤を導入されているとは先進的ですね。本州の大豆で使えるようになったのは割と最近ですよね?

注)パワーガイザー液剤は、1998年8月に適用地帯を北海道に限定した豆類用の除草剤として農薬登録された除草剤。2018年6月に本州でも使えるように、2020年2月には大豆3葉まで使用できるよう登録拡大されている。

野呂さん
パワーガイザー液剤についてはまだ知らない人がほとんどですね。私は、北海道に視察に行った先輩から聞いて存在を知りました。新しい情報があれば試してみることにしているので使っています。晩播栽培についても同じで、自分ならうまくできるという変な自信を持ってトライしています(笑)。

農政局
晩播狭畦栽培で一番問題になりやすいのが雑草防除だと認識していますが、除草剤をうまく使って対応されていますね。


「アッパーってすげえな」 播種床形成は、北海道のYouTubeを参考に。

農政局
続いて、播種床形成についてお聞きします。現在はスタブルカルチで荒く耕起した後にアップカットロータリー(アッパー)で、下層は荒く、上層は細かい状態に仕上げていますが、この方法に行き着くきっかけや試行錯誤があれば教えてください。

野呂さん
アッパーの存在を知ったのが一番。それまではバーチカルハローで播種床を一定にするのが主流でしたが、土が固く締まってしまうのでその後の中耕作業が大変。そんなときに北海道のやり方をYouTubeで知りました。最初はサブソイラ-で40~50cmまで深く耕起して、その後に30cmの深耕アッパーで地表面をきれいにしてから播種していて、「アッパーってすげえな」って思って(笑)。うちの地域にもアッパーを使う人がいましたが、一発で整地までするためには大型のトラクターがないと駄目なので、まずバーチカルハローで土を荒く砕いてからアッパーをただ引っ張るようにして整地しました。その結果、播種床もある程度揃うし、地表面の砕土率が向上したことで出芽揃いが良好、土壌処理型除草剤もよく効くようになりました。ちょうどプラウなど牽引するタイプの機械がはやり始めたときにアッパーを知ったので、「こういう機械を使ってみればいいんだ」という感じでしたね。今年からは農機具メーカーから真空播種機を借りて、トラクターにGPSをつけて播種したので、それはもうまっすぐに播種できました。

野呂氏_播種

播種作業の様子

農政局
それは、もう最高ですね(笑)。

野呂さん
YouTubeで北海道の大豆栽培を見てみると、もう何年も先をいっている。「北海道の技術をうちらの小さいほ場でどう活かせるかを考えていけばいいな」っていう感じで試行錯誤しています。

農政局
誰から教えてもらうわけでもなく、ご自身で考えたということですね。 いやぁ、野呂さんのように自力で現状を変えられる農家さんっているようでいないので、本当にすごいことだと思います。

野呂氏_出芽

出芽後のほ場の様子


中耕はほ場条件を考えてカルチやロータリー。

農政局
となると、ひょっとして次はディスク式中耕培土機の導入を考えていますか?

野呂さん
まぁ、導入も考えましたが、粘土質の強いほ場も多く、いったん土が固まっちゃうと牽引式の機械で中耕するわけにはいかないですね。カルチやロータリーで一回深めに中耕しないと2回目以降ができなくなるので。

農政局
そうなんですね。ディスク式中耕培土機は作業速度が速い、土が湿っていても使えるなどの理由から普及が進んでいますが、ほ場の状況を考えて導入を見送っているということですね。


2回目の中耕時に雑草の状況を把握。雑草防除の肝は、除草剤を効かせるほ場づくり。

農政局
では、中耕に関連してですが、中耕培土と茎葉処理型除草剤の散布時期が被るわけですが、どっちを優先させるかの判断基準はありますか?また、茎葉処理型除草剤の散布前にほ場観察を徹底しているとのことですが、ほ場を見て回るのは結構な手間で、散布時期の見極めも簡単ではないと思いますが、この辺りはいかがでしょうか?

野呂さん
雑草の点から言えば、今は土壌処理型除草剤がうまく効いているので大きな問題はないですね。ちゃんと農薬登録どおりの量を散布できれば雑草は生えてこないです。 まぁ、大豆2~3葉期の1回目の中耕の後に雑草が出てくるけれど、大豆3~5葉期に2回目の中耕作業をする(ほ場の状態が良ければ培土もする)ときに雑草の状況をちゃんと見ておけば、「このほ場はポルトフロアブルだけでいいな」「あのほ場はアタックショット乳剤や大豆バサグラン液剤が必要だな」という風に茎葉処理型除草剤の見極めができます。ただし、散布の時期は梅雨にも影響されますね。梅雨入りしそうなときは早めに散布を終えなきゃいけないし、空梅雨であれば中耕だけで時間を稼げるといった具合です。

農政局
2回目の3~5葉期の中耕(・培土)時に雑草の状況を把握して茎葉処理型除草剤を散布する、ということですね。雑草を見て適切な除草剤の判断ができているんですね。

野呂さん
そうですね。雑草はヒエがほとんどなので、広葉雑草が無い限りアタックショット乳剤や大豆バサグラン液剤は使わないですね。今年も、今のところイネ科雑草対象のポルトフロアブルだけ、後はかみさんがたまに手取りしてくれるくらいで済んでいます。

農政局
広葉雑草対象の茎葉処理型除草剤を使っていないというのは、土壌処理型除草剤が相当効いている証拠でしょうね。優秀な農家さんは、意外と広葉雑草対象の茎葉処理型除草剤を使っていない場合が多いです。

野呂さん
やっぱり、土壌処理型除草剤を効かせるほ場づくりが重要です。集落営農のように面積が大きくなると、どうしてもほ場によっては土が乾燥した状況で散布せざるをえなくなりますが、(除草剤が拡散しにくいので)効きが悪いですね。私は10haちょっとしかないので、朝夕の土が比較的湿っているタイミングで散布できています。あるいは、土壌処理型除草剤が散布できない場合には、雑草が生えてきてからパワーガイザー液剤を散布しています。

農政局
除草剤についてしっかり情報が整理されていますね。

野呂さん
この内容はJAごしょつがるの大豆部会でも発表はしているけれど、既にどうしようもない“お手上げ状態”で相談される人もいて、なかなか改善されないですね。

農政局
最適ではない時期なり方法なりの防除を続けて雑草が増え続けているという状況ですね。

野呂さん
今は、ツユクサがとにかく問題。昨年みたいに乾燥が続くと広まらないが、今年みたいにほ場が湿った状況が続くとばーっと増えていく。それに、ツユクサが増えた状態で中耕すると、茎の断片から根が出てきて余計に増えてしまう。その前に、吊り下げノズルを使って茎葉処理型除草剤の畦間・株間散布で防除してくださいね、とは言っているけれど、相談されるときには既に手遅れ。梅雨や水稲の作業でほ場に入れる日数も限られますが、大豆命!の私としてはなんとか適期に防除をしてほしいと思っています。

青森県西北地域県民局(普及)
青森県は最近ツユクサで大変だというほ場が多くなっています。ツユクサだか大豆だか分からない状態のほ場もあります。土壌処理型除草剤をしっかり効かせても、あるときからわっと出てくるんですよね。よほど種子の密度が高いのかなと思われます。

農政局
現状として、ツユクサが繁茂したら有効な防除方法はないですし、冷涼な東北では高温による出芽抑制が期待しにくく、中耕後も延々と出てくるので、とにかく増えすぎる前に対策を始めることが大切です。

では、まだまだお話を伺いたいところですが、時間も限られていますので、この辺で終わりたいと思います。野呂さんのような方に、ぜひ周りの農家さんへ技術等を広めてほしいと思ったところです。もちろん、行政サイドでも、農政局で優良事例集を作ったり、県で技術的指導をしたりしていますが、やはり同じ立場の方からお話しいただくのが一番効果的かなと思います。次の機会には、ぜひほ場にお邪魔して状況を見ながらお話しさせてください。今日は貴重なお話ありがとうございました。

野呂氏_講習会

大豆講習会の様子

お問合せ先

東北農政局生産部生産振興課

担当者:ブランド産地振興係、豆類振興係
代表:022-263-1111(内線4112)
ダイヤルイン:022-221-6169