第16回 イノチオみらい株式会社における取り組み
東海農政局は、東海地域で展開している食品関連企業を訪問して、企業活動の中で食品の安全・安心と消費者の信頼確保に取り組んでいる状況を取材しています。
第16回は、農業を総合的に支援するイノチオグループのひとつ「イノチオみらい株式会社」に自社で生産するミニトマトを通じて行っているさまざまな取り組みを伺いました。(取材日:令和4年8月4日)
![]() (イノチオみらい(株) 代表取締役社長大門弘明氏) |
~こんなお話をお聞きしました~
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“創業百年以上、「薬局」から始まり「ホールディングス」へ”
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(聞き手:島村知亨消費・安全部長(手前) |
(東海農政局)
本日は、よろしくお願いします。
イノチオグループは愛知県豊橋市の会社だとお聞きしています。はじめに、会社の概要や理念をお教え下さい。
(イノチオ)
1909(明治42)年に愛知県渥美郡田原町で「石黒薬局」として始まりました。石黒薬局は農薬、農材業界にビジネスを拡大し、2015(平成27)年、3代目社長が社是「いのちに感謝し、いのちを育む」から社名を「イノチオ」へ変更し、農業を総合的に支援するグループ「イノチオホールディングス株式会社」を創設しました。
弊社では創業者の精神「世のため人のために働く」が守られており、社是の言葉をもとに「我々は何のために働くのか」を若い社員も含め、みんなで考え「農業者の役に立つための製品を製造し、消費者に貢献する」ことを定期的に勉強しています。
“試験圃場の成果は”
(東海農政局)
こちらイノチオファーム豊橋はとても大きな施設ですが、どのような施設ですか。
(イノチオ)
この施設は、愛知県、豊橋市などとコンソーシアム(2つ以上の個人、企業、団体、政府などからなる共同事業体)を組み、農林水産省の最後(10番目)の次世代施設園芸愛知拠点として設立されました。オランダの施設園芸を日本型にアレンジし、建設されています。総面積は、38,700m²=3.9ha、そのうち栽培棟は、36,180m²=3.6haでミニトマトを栽培しています。
(東海農政局)
何か特徴的な取り組みを行っているのでしょうか。
(イノチオ)
この施設では、下水処理熱を利用した燃料費の削減と高収量(21t/10a)の2つの大きな目標に取り組んでいます。施設横にある下水処理場は豊橋、豊川、蒲郡、新城市の1日7万トンの下水道の汚水を浄化する処理施設です。この下水処理場の温排水(夏:約25℃、冬:18~19℃)の熱で空気を温め、ミニトマトの施設園芸の温室暖房に活用(Geo-MAX)し、化石燃料使用量(重油)の3割以上削減に取り組んでいます。削減目標(3割目標)については、施設整備による削減効果は約17%ですが、それ以外に内気循環や外気の取り入れ、栽培技術などを組み合わせ、4割以上の削減を実現しています。化石燃料使用量は、一般的には平均10t/10aですが、この施設では、約12t/10aから約6t/10aに減らし、46%の削減を達成しています。
栽培施設の特徴は、欧米の製品でなく、汎用性が高い弊社独自の設計施設であることです。生産量目標(年間726トン、21t/10a)については、弊社のほかのハウスで行ってきた栽培技術を活用していますが、過剰生産せず、計画生産を行っており、現在は販路が確定している550t程度生産しています。また、外気導入と夜間冷房をすることで夏越し作型を達成し、周年収穫が可能となりました。

“消費者の求めるものとは”
(東海農政局)
ズバリお聞きしますが、売れていますか?
(イノチオ)
販売開始当時は、売れなかったんです。品質には自信があったので、社内でパッケージデザインを考え、売り出したのですが、初年度は売れずに、100トン近く廃棄しました。社員から「何のために作っているのか」という疑問の声が聞こえてきました。品質には自信があるのですが、消費者に「トマトの良さをどのように伝えるのか」という壁にぶつかり、マーケティングの重要性を痛感しました。
(東海農政局)
売り上げを伸ばすために何をされましたか?
(イノチオ)
まず、育てているミニトマトに向き合って、このミニトマトの良いところを発見しました。「GABA」です。GABAは、アミノ酸の一種で、リラックス効果や血圧を下げる効果などがあるとして注目されている成分です。GABA含有量を測定し、「機能性食品表示」の食品規格を消費者庁に届け出し、消費者に「トマトが血圧を下げる」ことを伝える戦略が出来ました。
次に、パッケージデザインをプロに依頼しました。消費者は、5秒程度で商品選択を行うそうです。プロのマーケティング技術を導入し、主婦層を中心にさまざまなデザインやキャッチコピーのリサーチを行い、どんなパッケージデザインが最も消費者に響くかという、データに基づいたパッケージデザインに変更したところ、売り上げは大きく上昇(3割以上)に転じました。
今後は、スーパーのバイヤーへの働きかけも進め、より販売店が増えるよう、戦略的に販路拡大に向け取り組んでいくことを考えています。
(東海農政局)
これからの販路拡大に期待が出来そうですね。
(イノチオ)
ただ、「おいしい」には、勝てません。「甘くておいしい」というのは糖度8以上になりますが、主婦層のアンケート調査で、ほぼ全員が「糖度8以上」を選ぶんです。ということは「おいしい」ということが認知されれば売れるので、「おいしい」は重要です。

消費者を意識してプロデュースした
「野菜で元気GABA」は売上が約120%up
“廃棄するミニトマトの量は??”
(東海農政局)
食品ロスはどれくらいありますか?
(イノチオ)
落下(5%)などで出荷できないものは、のんほいパーク(豊橋総合動植物公園:愛知県豊橋市)へ動物の餌として寄付をするほか、トマトを乾燥させ粉末加工する企業の原料として使用しているので、真っ青や割れを除くとほとんど廃棄するミニトマトはありません。
また、畜産農家の代替敷料としてトマトの葉を乾燥させ利用したいという声もあり、葉を乾燥させる取り組みを検討しています。

施設内の様子
“GABAミニトマト”
(東海農政局)
生鮮ミニトマトで日本初の「機能性表示食品」となった商品です。特別に作ったミニトマトですか。
(イノチオ)
もともとここで育てているミニトマトにGABAの成分が多く入っていることが分かったので、消費者にミニトマトの利点を知ってもらうために「機能性表示食品」の届出をしました。
(東海農政局)
品質等はどうですか。
(イノチオ)
この施設を建設する際に整備したスマート農業を活用した高品質管理技術の導入により、品質が良く、赤みの色付きがとても良いことから、消費者のクレーム率が一般的なミニトマトと比較して10分の1以下と極めて低く、見た目も良く味にも自信のある商品です。
選果風景
"グローバルGAPに取り組んでます”
(東海農政局)
イノチオグループが取り組む安全・安全とはどのようなことをされてますか。
(イノチオ)
我々は食べ物を作っているので、作る責任者としてイノチオグループの企業理念を踏まえ、しっかりと生産者、消費者に資する事業でなければならないと考えています。SDGsの推進に共鳴し、その方向性の一例として、農業における食品安全や環境保全、労働安全などについて、持続可能な取り組みを実践している生産者または生産者グループを対象にした、世界基準の認証制度であるグローバルGAPを取得しています。弊社の安全への取り組みについて認証機関の審査員が生産現場で審査を行う第三者認証を受けています。2022年の審査では、初の是正ゼロを達成しました。
販売促進店頭用POP
“環境に配慮した農産物と消費者理解”
(東海農政局)
環境に配慮した農産物を消費者に理解してもらうためにはどのようなことが必要でしょうか。
(イノチオ)
環境に良いからという理由で購入する方は、ほぼいないですが、年齢層の高い人で購入する方はいますね。購入される方は、環境に配慮したほうがいいと理解し、購入しています。
また、男性は、同じような商品が複数あった場合、価格が高くても有機商品を購入する傾向が高いようです。男性は、体に良いものを食べようとか、こだわりをもって選ぶ人が多いようです。しかしながら、消費者が環境や健康を意識し、重視してもらうには、教育の充実が極めて重要だと考えます。
栽培状況
“化学肥料・化学農薬削減に向けて”
(東海農政局)
化学肥料・化学農薬削減についてどのようにお考えでしょうか。
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(イノチオ)
ここでは、通常の濃度よりも30%程度少ない養液で栽培しています。ストレスをかけないと収量が上がらなかったり美味しくならないのですが、葉の枚数や果実の数、温度管理などの環境制御技術を駆使し、肥料を抑える栽培をしています。
また、農研機構、豊橋技術科学大学と連携し、周年栽培できるように施肥削減(特にリンの削減)を行いつつ生産量を維持する生産技術を確立しています。具体的には、一般的な分量よりもリンの配合量を10%、20%、30%と段階的に少なくした肥料を使用した試験栽培を繰り返し、その結果、10%から20%配合量を落としても、しっかり育ち、品質も悪くないという配合を作りました。この他にも、リサイクル肥料を循環させる方法や肥料成分、窒素リン酸カリウム以外にも微量要素の鉄分やマグネシウムなどのバランスを何度も作り直し、現在は22レシピ程試験を行い、しっかり育ち、かつ肥料も減らせる手法を考えています。
化成肥料が海に流出し、アサリの生産量が大きく減っているとの声もあり、水産業の点からも肥料削減は重要な視点だと考えています。
“SDGsの取り組み”
(東海農政局)
環境に配慮した取り組みを行っていますが、出荷先の反応はどうですか。
(イノチオ)
今、大手スーパーは環境配慮等の基準を重視しています。SDGs等の流れから、一部上場企業は株価対策として、ESGの対応を強化しており、持続可能な地場産農産品の活用を進める方向性の中で、イノチオグループのミニトマト生産(グローバルGAP)のコンセプト(バイオマスプラスチック容器、FSC認証段ボール使用)が一致し、地元のピックアップ商品として選ばれ、主要な取引先となっています。


FSC認証段ボール バイオマスプラスチック容器
“豊橋の技術力”
(東海農政局)
施設や環境制御システムのカスタマイズを要望する声にどう対応されていますか。
(イノチオ)
オランダの施設や環境制御機器は、高価な上、壊れた時のメンテナンスに補修パーツがすぐになかったり、配管など。の規格が日本の規格と違い、入手に時間が掛かり苦労します。このため、13年程前から施設や環境制御システム、潅水開発等はイノチオグループと地元メーカーと連携して作っています。生産者ニーズに合った施設や環境制御等のカスタマイズやトラブルにも柔軟に対応することが可能です。例えば、オランダの環境制御は3.6haで約1500万円ですが、弊社で作った環境制御システム(エアロビート)は約350万円です。施設園芸の初期投資に必要な施設+環境制御の費用が揃えるものでかなり変わります
また、施設を1棟追加で建設した場合、環境制御システムは約50万円で設置することができます。親機に子機を付ける発想です。カスタマイズ子機は無限に広げることができる環境制御システムを作りました。
(東海農政局)
環境制御システム等の技術は地元メーカーとの独自開発でしょうか?
(イノチオ)
豊橋市の協力企業とパートナーを組んでいます。アルゴリズムは弊社が作り、機械本体のプログラムやプログラム更新、制御システムの追加などの仕組みは協力企業に依頼しています。協力企業は、地元豊橋に工場があり、ロケットの部品を作るなど、かなりの技術があります。
(東海農政局)
豊橋地域の汎用性の高い独自の技術開発は、地域的なものでしょうか?
(イノチオ)
地域的なものかはわかりませんが、ここ豊橋でも技術を持った会社が減ってきています。以前は、技術的な相談をする会社もありましたが、なくなってしまい、技術者も減り、そのあとが探せない状態です。弊社では、農業経営を実践することで投資コストを抑え、利益が残る施設園芸の開発を行ってきました。今後も生産者に寄り添った提案ができるよう農業をサポートする会社として日々の努力を続けていきます。
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潅水制御システム「アクアビート」 | 環境制御システム「エアロビート」 |
“今後の地域農業の展望”
(東海農政局)
地域の農業者を応援するような農産物等の計画について教えてください。
(イノチオ)
現在、弊社のイノチオファーム田原の圃場で、イチジクの持続可能な生産技術の試験栽培を行っています。また、今後の方向性としては、農業を始めたい人が誰でも始められる仕組み、農産物の利益を上げられるマーケティングとして
(ア)大規模な高生産性の生産技術(メガハウス)
(イ)付加価値の高い、ブランド品目の生産(ミョウガ等、ストロングミニマム:強い最小規模)
を考えています。
(東海農政局)
有機農産物の取り組みはお考えでしょうか。
(イノチオ)
有機農法への挑戦は、今後数年かけて挑戦していく計画です。大手スーパーの有機農産物の規格の認証を目指しています。病害虫の管理などが難しいため、その技術について5ケ年計画で検討しています。また、植物残渣などを肥料に循環させることも考えています。グループ企業で、未利用資源を肥料にする川合肥料株式会社(静岡県磐田市)と連携し、有機肥料の作り方や未利用資源の肥料化の技術で植物残渣から肥料の開発中です。
(東海農政局)
未利用資源とは具体的に何でしょうか?
(イノチオ)
未利用資源とは、加工食品の過程で発生する例えば牡蠣殻やカニ、だしを取ったあとの昆布などミネラルが豊富に残っているものだったり、刺身を作った残りの魚のあらなど、通常では廃棄処理してしまうものです。
(東海農政局)
これからの地域農業のあり方とはどう考えられますか。
(イノチオ)
5年スパンで、地域基盤として、多くの品目(マイナー作物も含めて)の生産技術を確立するための施設園芸設備を整備したい。そうすれば、新規参入の農業者が技術を習得し、地域に合った農産物生産が強化されていくと思う。
空撮写真「イノチオファーム豊橋」
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アンケートの結果について
先日実施したアンケートについて、その結果を紹介します。なお、回答者は61名でした。
- 回答者の基本情報
性別は「女性」が67%、「男性」が33%
年代は「60代以上」が48%と最も多く、次いで「50代」「40代」「30代」の順
居住地は「愛知県」が54%と最も多く、次いで「岐阜県」「三重県」の順
職業は「主婦(主夫)」が22%と最も多く、次いで「公務員」「会社員」「パート・アルバイト」の順 - 「機能性表示食品として、GABAを多く含むミニトマトが販売されていることを知っていましたか。」という問いに「GABAという言葉は知っているが、GABAを多く含むミニトマトがあることは知らなかった」と回答された方が50%と最も多く、次いで「知っていたが、購入したことはない」「知っていたし、購入したこともある」という回答
- 「バイオマスプラスチック容器の存在を知っていましたか。」という問いに「知っていたが、バイオマスプラスチック容器を使用した商品を購入したことはない」と回答された方が46%と最も多く、次いで「知っていたし、バイオマスプラスチック容器を使用した商品を購入したこともある」「バイオマスプラスチック容器という言葉を初めて聞いた」という回答
- 「普段の買い物で、環境に配慮した農林水産物や食品(有機農産物や特別栽培など)を選んでいますか。」という問いに「選んでいる」及び「たまに選んでいる」と回答された方は77%
- 上記設問で「あまり選ばない」及び「全く選ばない」と答えた23%の方にその理由を複数選択可能で伺ったところ、「本当に環境に配慮した商品かわからないから」と回答された方が31%と最も多く、次いで「価格が高いから」「環境に配慮した商品を判断する情報がないから」という回答
- 「「TOKAIミニコミ(イノチオみらい株式会社)」を読んで、環境に対する意識の変化がありましたか。」という問いに「環境に配慮した商品を意識して選ぶことは少なかったが、意識してみようと思った」と回答された方が半数以上の64%で、次いで「もともと環境に配慮した商品を選んでいたが、その意識がより強くなった」「環境に配慮した商品を意識して選ぶことはなかったし、今後も選ぶことは少ないと思う」という回答
- 「普段の買い物で、近くの産地の農産物を選んでいますか。」という問いに「選んでいる」及び「たまに選んでいる」と回答された方は全体の94%
- 上記設問で「あまり選ばない」及び「全く選ばない」と答えた7%の方にその理由を複数選択可能で伺ったところ、「近くに売っていないから」と回答された方が38%と最も多く、次いで「価格が高いから」「産地の表示が分かりにくいから」という回答
- 「「TOKAIミニコミ(イノチオみらい株式会社)」を読んで、地産地消に対する意識の変化がありましたか。」という問いに「もともと近くの産地の農産物を選んでいたが、その意識がより強くなった」と回答された方が80%で、次いで「近くの産地の農産物を意識して選ぶことは少なかったが、意識してみようと思った」という回答
なお、「近くの産地の農産物を選ぶことはなかったし、今後も選ぶことは少ないと思う」という回答は0% - また、記事を読んでの感想も多く頂きました。その一部をご紹介します。
考えるきっかけになった
生産者側の意見を聞く機会がないので参考になった
消費者として商品開発に取り組んでみえることに感謝します
文字が多く、読みにくい
アンケートにご協力いただき、ありがとうございました。
「イノチオみらい株式会社」サイトはこちらから
イノチオホールディングス株式会社
https://inochio.co.jp/(外部リンク)
イノチオみらい株式会社 Webサイトはこちら
https://www.inochio-mirai.co.jp/(外部リンク)
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