第17回 株式会社TOWINGにおける取り組み
東海農政局は、東海地域で展開している食品関連企業を訪問して、企業活動の中で食品の安全・安心と消費者の信頼確保に取り組んでいる状況を取材しています。
第17回は、2020年2月創業の名古屋大学発スタートアップ企業「株式会社TOWING(トーイング)」に 環境に配慮した人工土壌を活用し、展開されているさまざまな取り組みを伺いました。(取材日:令和4年9月15日)
(株式会社TOWING 西田 宏平CEO) |
~こんなお話をお聞きしました~
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(左:弟の西田亮也さん、 右:兄の西田宏平さん) |
“【宙農(そらのう)兄弟の挑戦】月面での栽培技術が、地球農業の発展につながる?”
(聞き手:島村 知亨 |
(東海農政局)
本日は、よろしくお願いします。
会社の概要や起業しようと思ったきっかけなどについて教えてください。
(西田CEO)
私達は、宇宙農業の実現と地球農業の発展ということを目的にプロジェクトを進めています。国立研究開発法人 農業・食品産業技術総合研究機構(以下、「農研機構」)で開発された技術(微生物群を活用した人工土壌(以下、「人工土壌」))を、社会に役立てることを目的に私達は2020年2月に会社を立ち上げました。
名古屋大学 豊田講堂 |
起業しようとしたきっかけは、農研機構の研究が名古屋大学の学生と共同で研究を行っていることもあり、そういった環境がきっかけでもありました。さらに、私は宇宙兄弟というマンガが好きで、元々宇宙への憧れがあり、農研機構が開発した、月や火星などの地球以外の惑星で植物を生産できる技術(人工土壌)に興味が湧きました。そこで、人工土壌の研究に携わっていた弟(西田亮也CTO(注1):名古屋大学大学院博士課程在学中)と、この技術を使って宇宙農業ができる世界を作りたいといった思いに至り、この会社を立ち上げたところです。
環境に配慮した人工土壌 「高機能ソイル」 |
一方で、この技術は有機肥料を高効率に分解することができるため、有機農業の生産効率をより一層高められることに気づき、地球農業の発展にも取り組んでいます。
(東海農政局)
現在、進められている宇宙農業の実現や地球農業の発展に関係する取り組みを教えてください。
(西田CEO)
宇宙農業に関するプロジェクトでは、今、内閣府などが行っている、スターダストプログラム(注2)に参画しています。そのスターダストプログラムの中で、各企業や研究者の方と連携しながら、コンソーシアム(一般社団法人SPACE FOODSPHERE)で共同開発に従事しています。
国内の地球農業に関するプロジェクトでは、商社や農業機械メーカーと連携しながら、農林水産省の「みどりの食料システム戦略」に関係するプロジェクト(バイオマス地産地消対策)などで、「有機農業」や「CO2削減」を推進する技術提供を行っています。
具体的には、人工土壌「高機能ソイル」を土にまぜ込んで、有機肥料の分解効率を向上させた土を作成し、高効率に有機栽培が行える栽培システムの構築に取り組んでいます。
現在、技術と体制が整いつつありますので、来年度から、地域のJAさんや農家さんと連携しながら、進めていきます。
また、消費者の皆さんへエシカル消費(注3)を普及する取り組みとして、環境に配慮した人工土壌で育てる野菜(宙ベジ)のブランド化を進めています。
さらに、炭素クレジット(注4)(Jクレジット、海外はボランタリークレジット)を使って開発を進める取り組みも行っています。
(注1)CTO:最高技術責任者
(注2)スターダストプログラム:
宇宙政策全体を俯瞰し、戦略的に取り組むべきプロジェクトを特定し、関係省庁の連携や産学の多様なプレーヤーの参画の下で技術開発に取り組んでいく枠組として2020年度に内閣府にて創設されたプログラム
(注3)エシカル消費:消費者それぞれが各自にとっての社会的課題の解決を考慮したり、そうした課題に取り組む事業者を応援しながら消費活動を行うこと
(注4)炭素クレジット:先進国間で取引可能な温室効果ガスの排出削減量証明。「排出枠」
“地域のスタートアップ企業が農研機構の開発した基盤技術を実用化!”
(東海農政局)
この人工土壌の技術は、元々は農研機構が開発したんですね。特許は農研機構ですか。
高機能ソイル技術について |
(西田CEO)
はい。ただ、アカデミア(注5)で開発された技術は、農家さんに使っていただくまでのハードルがかなり高くなっている実態があります。その原因は、技術の実用性を上げるための研究やシステムの開発、農家さんへのサポートがアカデミアでは完全にできないところにあります。 そこで、私たちは、農研機構の特許技術に加え、実用化に必要な生産技術や性能向上のための技術を開発、特許を取得し、それらの技術を農家さんが使いやすい形にするという取り組みを進めてきました。
具体的な事例では、有機肥料の投入量や導入タイミング、投入方法などにノウハウがあり、有機肥料の分解効率を、通常1%/日未満のところ、30%/日以上ということで30倍に高めることができ、これにより、一般的には土づくりに3~5年かかると言われていますが、これを2週間~1ヶ月に短縮することができます。
また、このような栽培システムを開発し、農家さんが使いこなせるように指導したり、使いこなせるような形に技術をアップデートしていくといったところも含めて事業を進めています。
(東海農政局)
この人工土壌の技術を使って、既存の地球農業の効率を上げている事例などについて教えてください。
(西田CEO)
近年、ビニールハウスで水耕栽培による超高効率 のトマトが生産されていますが、弊社はこの人工土壌を土壌改良剤(バイオスティミュラント(注6))として使用し、有機肥料だけで収穫量をアップさせることや、高糖度なトマトを生産するといったことにチャレンジしています。
収穫量アップに関する事例としては、ピーマンの産地として有名な宮崎県では、収穫量(10a当り)が1年目で12tとれれば御の字、3年目で15t、ベテラン農家さんで20tであると言われており、初年度から収穫量を上げられる土づくりは非常に難しいのですが、弊社は 1年目から20t前後の収穫量を得られる土ができます。良い土をすぐに作れるというところが弊社の技術の強みです。
また、人工土壌はさまざまな植物の炭を使用して作ることができます。現在、人工土壌の材料としてもっとも多く使用しているものは、稲作で大量に排出される籾殻を炭化して人工土壌の材料として使用しています。籾殻しかり、植物の炭なら例えば木炭とかもそうですし、あとは鶏糞とかの炭とか、下水汚泥の炭とか、そういったものまで使えます。植物由来の炭を使用することで、光合成で炭素化されたCO2を炭という形で固定することとなり、CO2排出量を削減できる農法です。この農法で育てた野菜「宙ベジ」 の生産にも取り組んでいます。
(注5)アカデミア: 一般的に大学や公的研究機関における研究職を指す言葉。
(注6)バイオスティミュラント:近年、ヨーロッパを中心に世界中で注目を浴びている新しい農業資材カテゴリー。植物や土壌により良い生理状態をもたらすさまざまな物質や微生物。
籾殻 | 木炭 |
“「宙ベジ(そらべじ)」って何?”
宙ベジピーマン |
宙ベジキャベツ |
(東海農政局)
「宙ベジ(そらべじ)」の取り組みについて、詳しく教えてください。
(西田CEO)
「宙ベジ」は、CO2を大量に含む炭(植物由来の炭)を土壌として活用し、野菜を栽培することで、さらに野菜がCO2を吸収し、環境に配慮した栽培方法です。宙ベジピーマンで計算すると、苗1株あたり200gのCO2を削減できます。また、この野菜を売買するプロジェクトとして「宙ベジ」というブランドを立ち上げて取り組んでいます。
「宙ベジ」は弊社の研究農園(愛知県刈谷市)のビニールハウスの中で、トマト、イチゴ、ピーマン、しょうが、ウコン、キャベツを生産しており、弊社のeコマース(注7)で販売しています。あと、株式会社良品計画さんや地域のスーパーへも卸しています。今後は、愛知県内の農家さんとも連携し、対象品目の拡大や栽培技術の普及を計画しています。
(注7)eコマース:インターネットなどのネットワークを介して契約や決済などを行う取引形態のことで、インターネットで物を売買することの総称。
“CO2排出量取引制度を活用して技術開発を推進”
カーボン・クレジットの大まかな分類 |
(東海農政局)
カーボンニュートラルな社会の実現に向けて世界中でCO2排出量取引が行われていますが、「宙ベジ」などの技術で得られたCO2削減量を、炭素クレジットなどに活用されていますか。
(西田CEO)
活用しています。炭素クレジットへの取り組みにあたっては、海外のボランタリークレジット(民間主導)に、さまざまなクレジット(VCSやGSなど)があり、その中でもより長く、価格も安定して売れそうなところをピックアップして、登録を進めようとしています。
また、弊社では炭素クレジットで得られた収益を開発に活かしています。
“スタートアップ支援拠点「STATION Ai」で更なるイノベーション!”
(東海農政局)
国や自治体などが行っているスタートアップ支援(注8)を活用しようと思っていますか。
(西田CEO)
はい。現在、活用している支援としては、愛知県が、スタートアップの創出・育成やスタートアップと地域企業とのオープンイノベーションを促進する支援拠点「STATION Ai(ステーションエーアイ)」(名古屋市昭和区)の2024年10月オープンに先駆けて、「WeWorkグローバルゲート名古屋」(名古屋市中村区)内に「PRE-STATION Ai(プレステーションエーアイ)」が開設(2020年1月)されており、そこを拠点として活用しています。
この拠点では農業系のスタートアップだけでなく、さまざまな業種のスタートアップが入る予定です。このような環境で異業種間の連携が生まれることも期待して、愛知県にも指導していただきながら進めていきたいと考えています。
名古屋大学 ナショナル・イノベーション コンプレックス(NIC)前にて |
(東海農政局)
最後に、農政へのご要望などありますか。
(西田CEO)
現在、バイオスティミュラントとして売られている物の中には、明らかに違うものがあると思われる。新しい資材の機能をちゃんと分析して、正しい機能のものとして販売される枠組みが欲しいところです。ヨーロッパでは企業が自社基準を設けて、それが拡大して新しい資材の使用基準が設定されていくといった流れがあります。私達も自社の使用基準を設定して、その延長線上で法的な基準につながっていくような流れを作りたいと思っていますので、正しい基準作りを期待しています。あと、ビニールハウス向けの収量アップを狙った栽培技術や、トマトの糖度を10%以上(普通は7.2%程度)に安定的に生産できる技術を、地域農業へ普及する取り組みに農政局さんのお力添えをお願いします。
また、愛知県はキャベツが有名な産地となっていますが、現在、キャベツの農家さん向けに、弊社が開発した高機能ソイルを土にまぜ込んで、収穫量を向上させるプロジェクトを立ち上げています。このような取り組みを通じて、農政局さんと共に地域の農業振興へ寄与したいと思います。
(注8)スタートアップ支援:国・自治体・ベンチャーキャピタル・民間企業などによる「新たなビジネスモデルで短期間のイノベーションを狙う企業」を支援する仕組み。
アンケートへのご協力をお願いします(受付を終了しました。)
「株式会社TOWING」サイトはこちらから
株式会社TOWING(トーイング)
https://towing.co.jp/(外部リンク)
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消費・安全部消費生活課
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