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東海農政局

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第14回 名古屋学芸大学 安達 内美子教授との対談(令和4年11月10日)

東海農政局は、東海地域で活躍されている学識経験者や地域の活動者と対談を行い、その幅広い視点を皆さんにお伝えしています。
第14回は、名古屋学芸大学 管理栄養学部 安達 内美子(あだち なみこ)教授にお話を伺いました。(対談日:令和4年11月10日)

安達先生ピン写真
名古屋学芸大学 管理栄養学部
安達 内美子教授

     ~こんなお話をお聞きしました~

  • 青年海外協力隊としてトンガへ
  • 「3・1・2弁当箱法」について
  • 「食事の楽しさ」「食倫理」について

“青年海外協力隊としてトンガへ”

島村部長

  (聞き手:島村 知亨
     消費・安全部長

(東海農政局)
東海農政局は、食に関わる有識者の方などにお話を伺い、意見交換の中でお聞きした幅広い知識・情報を「TOKAI ミニコミ」としてまとめて発信しています。
安達先生には、以前「我が家の新定番料理で地産地消」という食料自給率向上のための冊子を作成していただき、ありがとうございました。
先生は大学卒業後、名古屋市教育委員会に栄養士として就職されたと伺いました。どのような業務に携わられたのでしょうか。

(安達教授)
中学校スクールランチの実施拡大に携わりました。スクールランチは、給食とは異なり事前に予約して選択できるもので、ランチルーム用の2種類、教室用の2種類の中から選択します。全国でも先駆的な取り組みだったと思います。
その後、青年海外協力隊としてトンガ王国に2年間行きました。大学の恩師がガーナでJICA(独立行政法人国際協力機構)の専門家をされていたこともあり、興味があったので協力隊に参加しました。
また、私の師匠で「食生態学」を確立された足立己幸先生(名古屋学芸大学名誉教授)がトンガをフィールドとして研究されていました。
トンガでは従来、タロイモやヤムイモ、キャッサバなどの多様なイモ類、ココナッツミルク、近海で獲れた魚などを中心とした組み合わせによりバランスの取れた食生活を維持してきましたが、近年、サイクロン災害に対する海外からの援助物資として小麦粉が入ってきて、パン食が普及しました。それまでイモ類を大量に食べていた人たちなので、パン1斤(トンガでは約450グラム)にバターを2分の1ポンド(227グラム)塗って食べ、甘い炭酸飲料を飲むというような食生活になり、栄養バランスが崩れて、肥満や糖尿病の方が増えてしまいました。
JICAでは肥満対策として栄養士を募集していたので応募したのですが、その時の試験官が足立先生で、それからお付き合いをさせていただいています。

(東海農政局)
トンガでの経験は帰国後の仕事に何らかの影響を与えましたか。

(安達教授)
トンガの人たちにやる気を出してもらうために働きかけた経験から、自分の価値観を押し付けず、生徒自身が答えを見つけ出す気付きを与える環境作りや教育的アプローチが重要だと思いました。

(東海農政局)
トンガ料理にはどのようなものがありますか。

(安達教授)
今では土曜日や日曜日にしか作りませんが、「ウム料理」といって、昔のトンガは土器がなかったため煮炊きができず、火の中に石を入れ、火を消した後の高温の石の上に食材を載せ、バナナの葉などで覆って、砂をかけて2時間ほど置いておくと料理ができるというものがあります。
トンガでは料理は火を取り扱うので基本的に男性の仕事だったんですよ。

(東海農政局)
そうなんですね。
やはり現地の食事は、現地で食べると全然違うのでしょうね。実際にウム料理を見てみたいですね。

トンガ1 トンガ②
調理の様子(出典 国際協力機構(JICA)) ウム料理(出典 国際協力機構(JICA))

“「3・1・2弁当箱法」について”

(東海農政局)
食育において、どのような食事を取ればよいかイメージできることが重要ですか。

(安達教授)
自分が食べるべき食事、自分が食べたい食事をイメージできることは、私は調理以上にたいへん重要だと思います。「3・1・2弁当箱法(注1)」といって自分が何をどれだけ食べればよいのかイメージできる「1食の適量把握」のための教育ツールを足立先生や食事バランスガイド策定に関わった針谷順子先生(高知大学名誉教授)が開発されました。

弁当箱法
「3・1・2弁当箱法」(画像引用元:食育カレンダー
(企画:NPO法人食生態学実践フォーラム))

(東海農政局)
「3・1・2弁当箱法」のメリットをお聞かせ願いますか。

(安達教授)
弁当箱に料理を詰めて、それを皿に盛るとこれくらいになるのだな、ということが分かります。弁当箱が物差しになっていて体が小さい人ならば小さい弁当箱、よく活動する人ならば大きな弁当箱を用意すればよく、何を詰めるのかというルールを守りさえすれば好きなものを詰めてもらえばいいようになっています。
もともと足立先生は「主食・主菜・副菜を揃えましょう」とおっしゃっており、「1日2食以上揃えると栄養バランスが整う」と博士論文で述べていたことが食生活指針などに盛り込まれました。
そうしたら、「太ってしまう」、「やせてしまう」という意見や「主食・主菜・副菜が揃ってさえいれば良い」と解釈されてしまい、「ちゃんとした量」を伝えなければいけないということで、足立先生は「3・1・2弁当箱法」を開発されました。

(東海農政局)
バランスの良い食生活の重要性を特に若い方に理解してもらうためには、学校教育などを通じて早期から行うことについて、どのようにお考えでしょうか。

(安達教授)
先日、上原正子先生(愛知みずほ短期大学客員教授)と一緒に小学4年生に対して弁当箱法を教えた際、どれくらいご飯(お米)を食べるか聞いたところ、いつも一口しか食べないと答えた子が、弁当箱法を教えたところ、たいへん喜んで「家でもやりたい」と言っていました。また、弁当箱法は中学校の教科書などにも記載されています。
子供に対しては「食べる」や「健康」などが入口でなくてもよいのではないかと考えます。今度、おさかなマイスターの神谷友成さん(元 中部水産株式会社取締役執行役員)と「さばける塾」というイベントを学生と一緒に行いますが、神谷氏は「魚の耳石集め」を教えます。「健康に良いから食べなさい」というのが入口でなくても、いろいろな方向から食べ物に興味を持ってもらい、食べていくうちに健康になっていけば良いのではないかと思います。

(注1)3・1・2弁当箱法
「1食に何を、どれだけ食べたらよいか」のものさし。1食の量を身近な弁当箱で決め、その中に主食・主菜・副菜料理を3・1・2の割合につめる食事・食事づくり法

“「食事の楽しさ」「食倫理(food ethics)」について”

(東海農政局)
我が国では、海外に比べると食事を楽しいものとして捉えている人の割合が低いのではないかという調査もありますが、どうお考えですか。

(安達教授)
「食事の楽しさ」について、環境的なことも重要ですが、「楽しめる力」も重要なのではないかと考え、それはどのようなものなのか研究しています。わざわざ遠くに出かけなくても、「食」ならもっと簡単に楽しむことができるのではないかと考えます。

(東海農政局)
これまでは男性が調理を楽しむという機会が少なかったと思いますが、定年退職予定の男性向けの料理教室なども開かれていますね。

(安達教授)
食に対して人々が主体的に関わってほしいと考えています。最近、「食倫理」に興味を持っており、自分の健康に気を付けて食べることはもちろんですが、地球や環境、人との関わりなどを考え、自分は何を食べるべきなのか、自分が食べるべき食事は何なのか、何を目指せばよいのかを考えていければ良いと思います。

(東海農政局)
「食倫理」は先生が研究されている「食生態学」にも関係しているのでしょうか。

(安達教授)
最終的には、生活の質と環境の質の持続可能な共生を目指して、自分は何を食べるべきか、食生活のあり方を明らかにしたいと考えています。その中には楽しさや栄養のバランスも必要ですが、自分が健康で幸せならば、海外の人たちを労働搾取して良いのか、環境破壊して良いのかという「食倫理」という分野がアメリカなどでは確立しています。

(東海農政局)
食品ロスの削減や環境に配慮した有機農業の推進などエシカル消費(倫理的消費)の中で食が占める割合は大きいと考えています。学生の皆さんは「食倫理」についてどのように考えているのでしょうか。

(安達教授)
現状では、食倫理は管理栄養士の養成カリキュラムには取り入れられていません。栄養価だけではなく、食料自給率やカーボンフットプリント(注2)、窒素フットプリント(注3)のほか、倫理的な面でも食事の評価をしていく必要があるのではないかと考えています。

(東海農政局)
「食事の楽しさ」を伝えるために重要なことは何だとお考えでしょうか。

(安達教授)
小学生くらいまでは、「経験すること」が非常に大事だと思っています。「食事って楽しいよね」や「食事を楽しみましょう」と押し付けられるものでもないと考えます。栄養バランスにも配慮した「楽しい食事」を経験することが非常に重要だと思います。
また、思春期に「迷うこと」も大事なことだと思います。これまで経験してきたことから一旦離れて、自分なりに「こういう食事が良いのではないか」などと模索する時期が思春期なのではないかと思っています。そして思春期を過ぎると、小さいころに経験したような「楽しい食事」にまた戻ってくるのではないかと思います。やはり幼児期・学童期の食事は非常に大事だと思います。

(東海農政局)
貴学では多くの管理栄養士を輩出していると伺っています。食育を推進する上で農政局にも管理栄養士の資格を持った人がいたほうが良いと思いますが、現状ではいません。

(安達教授)
市町村でも管理栄養士が関わっていない部署が食育を担当している場合が多いように思われます。管理栄養士が1人もいなかったり、保健関係や子育て関係の部署にはいるが食育担当部署にはいないというものです。

(東海農政局)
管理栄養士の資格を持った学生さんが農政局に就職して食育に携わっていただくことで、食育の取り組みの専門性が上がるのではないでしょうか。

(安達教授)
世界全体の流れとして、「健康な食事」だけではなく「持続可能な食」でなければならないと考えられています。「食の多様性」などに関心を持って「食」のさまざまな入口から入ってもらい、健康になるとともに持続可能な環境作りにも寄与してもらえれば良いと思います。

(注2)カーボンフットプリント
商品やサービスの原材料調達から廃棄・リサイクルに至るまでのライフサイクル全体を通して排出される温室効果ガスの排出量を CO2に換算して、商品やサービスに分かりやすく表示する仕組み

(注3)窒素フットプリント
人間による食料やエネルギーの消費に伴い環境中へ排出される反応性窒素(Nr:N2以外の窒素化合物)の総量を表す。環境中の過剰なNrは、閉鎖性水域の富栄養化や地球温暖化等を助長し、地球環境に負の影響を及ぼす

対談の様子
対談の様子(対談日:令和4年11月10日)

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    お問合せ先

    消費・安全部消費生活課

    担当者:消費者対応班
    代表:052-201-7271(内線2807)
    ダイヤルイン:052-223-4651

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