令和5年度「株式会社トーエー」における取り組み
原料にこだわり木桶で醸造する「まろやかなお酢」株式会社トーエーにお話しを伺いました。(取材日:令和5年6月21日)
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株式会社トーエー 代表取締役 伊藤 志乃 氏 |
農林水産省 東海農政局 消費・安全部 部長 島村 知亨 |
~こんな話を聞きました~
新たな発想で挑戦したサクセ酢(サクセス)ストーリー
(東海農政局)
東海農政局では、食に関わる有識者の方などにお話を伺い、意見交換の中でお聞きした幅広い知識・情報を「TOKAI ミニコミ」としてまとめて発信しています。まず初めに、会社の概要について教えて下さい。
(トーエー)
昭和52年に祖父が創業した株式会社トーエーは、三重県四日市市で水道業の会社でした。私が母の後を継ぎ3代目です。
これとは別に、平成28年、私が個人的に三重県御浜町にあるMIKURAというお酢の会社を立て直す別の仕事を始めました。その後、MIKURAは多気町のVISONに出店することになり、令和3年7月に両社を統合しMIKURA Vinegaryという名前でオープンしました。 MIKURA Vinegaryでは、ショップとカフェを併設してお酢を醗酵する醗酵室と貯蔵加工の風景をガラス越しに見てもらうことができます。
縁あって、お酢の会社を引き受けた当初は全くの素人(しろうと)で、お酢のことなどよく知りませんでした。この会社は全体的に中途入社の社員だけが残っていたため、製造主任と二人で一から勉強しました。
あるとき、知人から「マルシェに出てみないか。」と誘われ、商品を売るには、まず味を知ってもらうことと思い、対面販売を主に営業活動を始めました。
(東海農政局)
実際ご苦労されたと思います。どのようにして乗り越えられたのですか。
(トーエー)
事業を承継してから、わが社は特に資金面と商品の販売で苦労しました。
平成26年に製造業になった後発の会社なので、三重県内での販売は他社への遠慮もあり、まずは東京都内の三重県のアンテナショップ(三重テラス)を強化しました。
地方と違って都市部では、割高でも軽くて小さめのビンの方が好まれます。贈答用の小さくて透明感、高級感のあるデザインを意識してラインナップを新しく作ると、販売が上向きました。
70㎖入り「お酢」の製品ラインナップ
1本575円~(税込)
(トーエー)
色々な苦労はありましたが、新たな出会いがあったり、お客様に助けていただいたおかげで、今は事業も軌道に乗っており、「お酢の神様に呼ばれた。」と思っています。
(東海農政局)
まさに新たな発想で挑戦した「サクセ酢ストーリー」ですね。
木桶に棲む酢酸菌がわが社の優秀なスタッフです
(東海農政局)
店舗の前に大きな木桶がありますが、こだわりがあるのですか。
(トーエー)
製造業としての歴史は浅いのですが、お酢の醸造は木桶にこだわりました。この大桶は、三重県四日市市のカクタ酢さんから古い桶を譲っていただき、一度解体した後、VISONオープン時に徳島県の司製樽(つかさせいたる)の棟梁に作り直してもらいました。
お酢を作る工程は、酢酸(さくさん)醗酵と言いまして、種酢、火入れをしない生きた酢酸菌がお酒をお酢に変えるという培養を繰り返します。 一度にできる量は限られていますが、風味豊かな味を伝えるため日々努力をしています。
(トーエー)
かつて日本全国に地域の特色を活かしてお酢を作っていた会社も、昭和の高度成長期には多くが機械を導入し、大量生産できる製法に移行していきました。
わが社は特にホーロータンクやステンレスタンクに変えることはせず、また機械生産、大量生産することもなく、ゆっくり時間をかけて木桶でお酢を育てます。醗酵室の木の壁や、木桶には、酢酸菌がしっかり棲みついています。
わが社の木桶は、御浜町の蔵に5台、多気町VISONの蔵に3台あり、各蔵のそれぞれの木桶で酢酸菌が活躍し、美味しいお酢を醸造してくれています。
身の丈より大きな木桶が 出迎えてくれます
MIKURA Vinegary (多気蔵:三重県多気町VISON)
(東海農政局)
木桶を使われているのは、そのような理由があるのですね。
(トーエー)
お酢を造るには、アルコール(お酒)が必要で、アルコールを酢酸菌が分解してお酢を造ることを酢酸醗酵と言います。わが社では、米酒から造る米酢(玄米酢)と、日本酒を作った残りの酒粕(+アルコール)が原料の粕酢の二種を醸造しています。
わが社の主な商品の製造について及び玄米黒酢ができるまでを以下の図にまとめています。
(東海農政局)
図で見るとわかりやすいですね。
MIKURA Vinegaryの主な商品の製造について | |||||
|
商品名 |
主原料 |
製法 |
醗酵期間 |
その他(醗酵までに |
玄米酢 |
玄米黒酢 玄(しずか) |
三重県産玄米 |
静置醗酵法 |
約6ヶ月 |
玄米~米酒作成に |
粕酢 |
酒粕赤酢 朱音(あかね) |
三重県産熟成酒粕 |
表面醗酵法 |
2~3ヶ月 |
原料の酒粕の熟成に |
酒粕白酢 月下(げっか) |
静置発酵法:種酢(出来上がった酢)・もろみ・水・酢酸菌をタンク(容器)に入れて攪拌ぜずそのまま置き、酢酸菌の力で循環・発酵させて酢を製造する方法
暮らしの発酵通信Vol.12よりhttps://kurashinohakko-hibi.jp/report/(外部リンク)
―解説―
お酢の製法は、機械で醗酵するか、機械を用いないで醗酵するかの二通りです。
機械の場合は、空気を送り酢酸醗酵を促すので、通気醗酵や全面醗酵と呼ばれます。
MIKURAが採用している機械を用いないで醗酵する方法は、容器の液体表面に酢酸膜が浮き、液面上部の空気をとりこみ酢酸醗酵を進行させるので表面醗酵と言います。
醸造用アルコールを原材料に使用しない場合は静置醗酵と呼びます。静置醗酵は文字通り、液体を静かに寝かせているだけで、お酒のように櫂入れ(かいいれ)などせず、酢酸菌が自ら醗酵を進行します。
(東海農政局)
お酢の製造についてもう少し教えてください。
(トーエー)
わが社で作る米酢と粕酢の原材料は、それぞれ、三重県多気町産の玄米と、同じく多気町で造られている河武(かわぶ)醸造から仕入れている酒粕です。
玄米酢は御浜町で酒作りから始めます。自社で麹付けをし、下の写真のように麹蓋(こうじぶた)に並べて製麴(せいぎく)し、精米をしない玄米酒を作ります。その結果、アミノ酸値の高い酸っぱいお酒ができます。
お米をまるまるお酒にし、これを全てお酢に変えると玄米黒酢が出来上がります。
麹室内(製麹)の様子
御浜蔵(三重県御浜町)
(トーエー)
一方、赤酢と呼ばれる熟成酒粕酢は、仕入れた酒粕を3年超寝かせて、褐色化(メイラード反応)した酒粕で赤い色のお酢ができます。こちらはお酢を造る前に3年かかっています。
(東海農政局)
玄米黒酢ができるまでに半年以上、粕酢は3年以上かかるとは驚きです。
ゆっくり醸造が行われている様子をご説明頂きました
MIKURA Vinegary (多気蔵:三重県多気町VISON)
(トーエー)
わが社は「お酢造りを勉強するしかない。」「伝統はないが、これから伝統を作っていけば良い。」という思いで私も含め全社員が対応しています。
また、現在実施しているお酢の製造方法が正解と思わず、日々努力しながらより良い商品(お酢)を造ることが出来るよう尽力しています。
(東海農政局)
木桶、原料、製法と、良いお酢造りのために手間ひまを惜しまず、こだわって製造されている様子が理解できました。
お酢にはいろいろ楽しみ方がある
(東海農政局)
こだわりぬいて造ったお酢は消費者に受け入れられましたか。
(トーエー)
わが社は、お酢の醸造メーカーとして平成28年に再出発しました。まず、お客様に社名や商品名を知ってもらうことが第一です。
「どこで買えますか。」と聞いてくださっても「まだどこにも置いてもらえなくて…もっと営業頑張ります。」と言い続けています。
社名や商品名を知ってくださる方が増えますと「頑張ろう!」という気持ちになります。良い商品(お酢)を製造し、謙虚に営業して今後もメディアなどから注目され露出度が増えるように努力します。
とにかく「是非一度お味見下さい。」と「買わなくていいからうちのお酢を知って下さい。」が私の口癖なのです。
時間をかけて醸造したこだわりのお酢は、口あたりがまろやかで深みがあり、どなたでも受け入れられるおいしさであることをお伝えしたいです。
歴史の浅いわが社ですが「酒粕赤酢朱音」(あかね)が三重県の鮨(すし)の銘店「喜ぜん」の鮨酢に採用されました。喜ぜんの親方にも「プロにこそ薦めたい。」と太鼓判を押して頂きました。このようにして多くの方にわが社のお酢を味わって頂きたいです。
(東海農政局)
優しく味わい深いお酢であれば、お酢が苦手な方でも受け入れて下さると思います。
(トーエー)
お酢は「発酵食品」で消化促進作用があります。食生活にお酢を取り入れることで血流、代謝が良くなります。
わが社のお酢は口当たりがとてもまろやかなので、女性はもちろん、お酢が苦手な男性にもお勧めします。
朱音(あかね)ソフトクリーム440円(税込)
赤酢が練り込まれたソフトクリーム(追い酢・味変の酢2種類をトッピング可能)
MIKURA Vinegary(多気蔵:多気町VISON)にて販売
(東海農政局)
確かに、ほんのりお酢風味のソフトクリームは初体験です。とても美味ですね。
(トーエー)
伝統や古式製法を守りたいであるとか、食文化を守りたいなどの大きなことではなく、商品をご購入頂いたお客様から「おいしい」「おいしかった」と言ってくださることが私どもの一番の喜びとなっています。
(東海農政局)
おいしさを伝えるために、他にはどのようにしておられますか。
(トーエー)
お酢を通じて発酵食品の素晴らしさや楽しみ方を知ってもらうことも重要だと考えています。
MIKURA Vinegaryのお店やホームページに掲載するレシピから、日常の食生活に「お酢」を取り入れていただくヒントを発信しています。
商品の提案としましては、70㎖入りの小さなビンから900㎖入りのビンまで用意しています。大きいビンはご家庭のお料理用に、容量の少ないビンは外出先でお使いいただくことも可能です。
また、料理や自家製ドレッシングだけではなく、お酢(ビネガー)ドリンクとしてご活用下さい。
(東海農政局)
こだわって造ったお酢は様々なシーンで使えそうですね。
(トーエー)
MIKURA Vinegary店舗内では、お酢の使い方の提案もしています。
一例ですが、煮干しを容器に入れ、煮干しが浸かるくらいに酢を注ぎ、冷蔵庫で3日ほど漬けると「煮干しの酢漬け」ができます。お好みでレモンや唐辛子を入れても良いでしょう。ぜひお試しください。
(東海農政局)
簡単でおいしくできそうですね。私も自宅で試してみます。
酒粕赤酢 朱音 (あかね)300ml 1,035円(税込)
玄米黒酢 玄 (しずか)300ml 1,150円(税込)
(トーエー)
お酢の販売価格は各社さまざまです。メーカー各社の企業努力があり、味もまた多種多様です。
わが社のお酢はどのように手間暇がかかっているのか、どのような原材料を用いて醸造しているかなどを知ってもらいたいです。
発酵食品や醸造業について、お客様に話す機会が増えてきたのですが、みなさん本当によく勉強されています。それでも最後は、食品ですから、「おいしい」とお客様に喜んでもらえる商品(お酢)を造っていくことが第一だと考えています。
(東海農政局)
こだわりを持って造ったお酢です。その思いは必ず消費者に伝わると思います。
地域の農業振興・活性化に 地域に貢献できること
(東海農政局)
農林水産省は地産地消を進めています。御社ではどのような取り組みをしていますか。
(トーエー)
わが社のお酢は米、酒粕をはじめ三重県産の原材料のみで製造しています。
また、新たに展開しているお酢と果汁を組み合わせた「&vinegar」(アンドビネガー)シリーズも、使用する果汁は全て三重県産の果物から絞ったものです。
お酢と果汁を組み合わせた「&vinegar」シリーズ
180㎖ 1本 1,080~1,725円(税込)
(東海農政局)
お酢の製造を通じて地域農業に貢献されていますね。
(トーエー)
伝統製法のお酢の醸造を極めつつ、新しいお酢も考えています。例えばですが「光り輝くお酢」を造ってみたいです。
今後、事業が拡大すれば、今まで以上に地元御浜町の方を雇用するなど地域に貢献できたらと考えています。また、今後も三重県産の原料を使うなどして地元農業を応援したいです。
(東海農政局)
これからも農業活性化のためにご協力をお願いします。本日は貴重なお話を頂きありがとうございました。
対談日:令和5年6月21日
対談場所:株式会社トーエーMIKURA Vinegary
(多気蔵:三重県多気郡多気町VISON)
アンケートへのご協力をお願いします
アンケートページはこちらをクリックして下さい。
(アンケートは2023年10月末に締め切ります。)
株式会社トーエーのサイトはこちらから
株式会社トーエー(MIKURA Vinegary)HP
https://mikurasu.jp/(外部リンク)
PDF版
令和5年度「株式会社トーエー」における取り組み(PDF : 1,550KB)
お問合せ先
消費・安全部消費生活課
担当者:消費者対応班
代表:052-201-7271(内線2807)
ダイヤルイン:052-223-4651