令和6年度「株式会社ほうろく屋」における取り組み
西尾市で菜種油を製造されている杉﨑学さんにお話を伺いました。
(取材日:令和6年5月14日聞き手:東海農政局 消費・安全部長 小山内司)
~こんな話を聞きました~
元々、油を作りたかった訳じゃない
(東海農政局)
菜種油作りを始められたきっかけを教えてください。
(株式会社ほうろく屋)
若い頃、身内の不幸をきっかけに、心に病を抱えた若者の自立支援に関心を持つようになりました。
ちょうどそのとき、地元で菜種油作りをしていた大嶽(おおたけ)製油(昭和24年創業)の大嶽喜八郎さんに出会ったんです。
元々油作りがやりたかったわけではなく、後継者のいない工場を若者の社会復帰の訓練場所にしようという思いが強かったですね。
でっち奉公3年を経て、先代喜八郎から平成24年に工場の機材を譲り受け、今の場所で菜種油作りを始めました。
菜種油の製法を熱く語る杉﨑代表
先代に引かれ、菜種油のおいしさに気付く
(東海農政局)
血縁のない先代から工場を引き継いだのは一大決心でしたね。
(株式会社ほうろく屋)
先代喜八郎は、優しく、そして仕事に厳しい方で、私はその人間性に強く引かれました。
また、先代の奥さんが作ってくれた賄いの食事がとにかくうまい。なぜだろうと考えたとき、菜種油がうまいからだと気付いたんです。
この製造技術を次の世代に伝えたいという思いで、先代と菜種油の復活を約束しました。今は天国で喜んでくれていると思います。
(東海農政局)
先代から教わったことで、一番心に残っていることは何ですか。
(株式会社ほうろく屋)
昭和の時代、菜種油は本当に貴重なものだったということ。
今の安価な食用油は2、3回、揚げ物に使ったら、酸化して黒くなるので固めて捨ててしまう。
でも、大嶽精油の菜種油は酸化しにくいので大事に使うことができたと言うんです。すごい製造技術だと改めて思います。
先代の若かりし頃の作業風景
心が折れそうになった私を応援してくれたのは
(東海農政局)
工場を引き継いだ後、どのようなご苦労がありましたか。
(株式会社ほうろく屋)
ここで作った菜種油は、市販の食用油と10倍の価格差がありました。
道の駅でコロッケの試食販売をするのだけれど、一瓶二千二百円という価格を見ると、なかなか買ってもらえない。
たまに、また戻ってきてくれるお客さんもいましたが(笑)。そうした地道な販促活動でファンを広げていきました。
(東海農政局)
心が折れそうになったこともあったのでは。
(株式会社ほうろく屋)
この油は体にいいと言えば、ぼったくりと批判されることもあり、何度も心が折れそうになりました。
なんで僕はこんなことをしているんだろうと。でも、今は食べ物で健康になれることを皆さんが知ってくれるようになりました。
時代が私を応援してくれたのだと思います。最近では、勉強会に講師として呼ばれることも増えてきました。
工房見学会で参加者に菜種油の製法を説明する杉﨑代表(左)
体に優しい菜種油を作りたい、その一心
(東海農政局)
ほうろく屋の菜種油の魅力は何ですか。
(株式会社ほうろく屋)
人間の体の一部は脂質なので、健康のためには良質な油をとることが大切です。
大量生産の食用油は、抽出量を最大にするために薬品が使われ、高温処理の工程でトランス脂肪酸が発生するそうです。
ほうろく屋では、昔ながらの圧搾を行っているので、トランス脂肪酸は発生しません。
それから、原料の菜種も国産にこだわっているので、遺伝子組換えは使いません。
100kgの菜種からとれる油の量は、薬品抽出が70kgであるのに対し、ほうろく屋では半分以下の30kgと少量。
だから割高になってしまう。安価な食用油はニーズがあり否定はしませんが、体に優しいものをとりたいという方のニーズには応えられていると思います。
左から
ほうろく菜種油 伝承460g 2,700円(税込)
ほうろく菜種油 生搾り138g 2,268円(税込)
ほうろく菜種油 荒搾り460g 2,916円(税込)
手間のかかる先代の製法を忠実に再現
(東海農政局)
菜種油の製法について教えてください。
(株式会社ほうろく屋)
工程は、天日干し、選別、焙煎、圧搾、ろ過、最後に火入れとなります。
天日干しは、農家さんから届いた菜種をブルーシートの上に広げ、数時間、天日にさらして水分を飛ばす作業です。
単に水分調整をする機械乾燥とは違い、太陽の光に当てることで油にしたときの黄金色が鮮やかになります。
(東海農政局)
手間と愛情をかけている様子がよくわかります。菜種の選別はどのように行うのですか。
(株式会社ほうろく屋)
唐箕(とうみ)という昔ながらの農具を使います。
落下する菜種に横から風を当てる仕組みで、実のしっかり詰まった菜種は近くに、粒の小さい未成熟の菜種は遠くに着地します。
農家さんも発送前に選別してくれるのですが、絞った油がそのまま製品になるので、ここも労力を惜しんではいけない工程です。
原料の菜種は必ず天日干しを実施
焙煎は、職人技が発揮される最重要工程
(東海農政局)
そして焙煎ですね。焙煎にはどういう役割があるのですか。
(株式会社ほうろく屋)
焙煎とは、菜種を釜でいる作業で、最も重要な工程となります。
その加減が非常に難しい。全くいらなければいくら搾っても油は出ないし、逆に高温で長時間いれば、圧搾時に油は多く出るけれど、
余計な成分まで出てくるので油の品質が落ちてしまいます。
(東海農政局)
焙煎の温度や時間にこだわりはありますか。
(株式会社ほうろく屋)
原料となる菜種は産地や品種がさまざまなので、焙煎の温度や時間はマニュアル化できません。
品質を守りながら、最大限の油を搾れるよう、ギリギリの加減を見定める、これが職人技なんです。
燃料は薪を使い、くべる量をコントロールしながら火力を調整します。以前、ガスバーナーを使ったこともあるけれど、不思議と油がおいしくないです。
昔ながらの薪を使って菜種をいる焙煎作業
良質な菜種油とはこういうもの
(東海農政局)
次の圧搾は油を搾る工程ですね。えっ、圧搾機、壁、床が全然ベタついてない。
(株式会社ほうろく屋)
これは見学者皆んなが驚きます。昔ながらの圧搾機なので、当然、床に少々油はこぼれます。
ただ、油の品質がいいから拭き取るだけですぐきれいになる。
見学者にはハンドクリームのように手に油を塗ってもらいますが、一切ベタつくことなくすっと肌になじむ。市販の食用油はそうはいかない。
これが体に入ると思えばどうですか。ほうろく屋の菜種油の品質をお分かりいただけると思います。
(東海農政局)
油の概念が変わったような感覚です。最後に、ろ過と火入れで完成ですね。
(株式会社ほうろく屋)
圧搾で生まれた黄金色の菜種油を容器に移し、2週間、微細な皮などの沈殿を待ちます。
そして、上澄みを釜に移し、さっと火入れすることで、余分な水分を飛ばして出来上がりです。
先代からのスクリュー型搾油機を使い、じっくり、丁寧に圧搾
全国の農家さんの協力があって
(東海農政局)
原料の菜種はどのように調達されているのですか。
(株式会社ほうろく屋)
年間30tの菜種が必要になりますが、県内産だけで賄うことはできないし、気象災害のリスクを考えると、
原料の調達元は広範囲で確保しておくことが重要です。このため、県内のほか、北海道、青森、富山の農家さんと原料の取引をさせていただいています。
ほうろく屋の製法は、昔からSDGs
(東海農政局)
SDGsに貢献できているところはありますか。
(株式会社ほうろく屋)
ほうろく屋の菜種油は10回てんぷらを揚げても黒くなりませんし、から揚げのあとの残った油を別の料理に使うことで、
だしが出ておいしいと言ってくれるおばあちゃんもいます。使い終わった油を固めて捨てるということはありませんので、
廃棄物を出さないという点で貢献できています。
また、油の搾りかすも肥料として有効活用しています。
うちの搾りかすは、薬品抽出のものとは違って油分が残っており、盆栽の肥料に使うと冬場に葉がつやつやするということで、実は人気なんです。
選別ではじかれた未成熟の菜種は、製品用とは別に油を搾って、チェーンソーの潤滑油として使っています。
石油由来の潤滑油とは違って、自然に優しいと思います。
夢実現のため、後継者に託す
(東海農政局)
名刺を拝見すると、工場長は、杉﨑さんではなく、寺田康一さんなのですね。
(株式会社ほうろく屋)
私は若者の社会復帰支援をもともとやりたかったので、そちらに注力するため、工場長を寺田さんに譲ることにしました。
これからは手伝う立場でかかわっていきます。
菜の花の作付面積、増やしていきたい
(東海農政局)
県内における菜種の作付面積、増えるとよいですね。
(株式会社ほうろく屋)
以前は、県内でも米の裏作で菜種を植える農家さんが多くおられましたが、兼業農家が増えて、菜種の作付面積は減ってしまいました。
菜の花が増えれば、菜の花でイベントができるし、耕作放棄地の解消もできる。
私が県内に設置した農場では、農薬や化学肥料を使わない農業の研修を行っており、菜種の作付面積も増やしています。
行政にも菜の花の魅力発信を期待したいです。
愛知県東浦町の自社農場に咲く菜の花は、春の風物詩
三代目工場長の寺田さんにもインタビュー
(東海農政局)
ほうろく屋を知ったきっかけは。
(株式会社ほうろく屋)
以前からSNSで活動は知っていて、イベントに足を運び、杉﨑さんと話をする機会もありました。
杉﨑さんの生き方にあこがれて、しばらくはお手伝いのようなことをしていましたね。
(東海農政局)
それがいまでは工場長なんですね。
(株式会社ほうろく屋)
ある日、杉﨑さんから、皆んながいる場で工場長の後継指名を受けたんです。
杉﨑さんと一緒に仕事をしたいと思っていたので、これを機に勤めていた会社を辞めて、この春から工場長としてここで働くことにしました。
(東海農政局)
寺田さんの夢は何ですか。
(株式会社ほうろく屋)
ほうろく屋の技術を後世につなげていくのが私の一番の夢。ほうろく屋の菜種油を日本一の油にしたいです。
日本一おいしい菜種油をより多くの方に知ってもらいたいと思っています。
焙煎作業中の寺田工場長
左から、寺田工場長、杉﨑代表、小山内消費・安全部長
取材場所:株式会社ほうろく屋
(愛知県西尾市西浅井町古城17番地)
株式会社ほうろく屋のサイトはこちらから
株式会社ほうろく屋Webサイト
https://hourokuya.com/(外部リンク)
PDF版
令和6年度「株式会社ほうろく屋」における取り組み(PDF : 1,354KB)
お問合せ先
消費・安全部消費生活課
担当者:消費者対応班
代表:052-201-7271(内線2807)
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