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東海農政局

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立命館大学 南 直人教授との対談

東海農政局は、東海地域で活躍されている学識経験者や地域の活動者の方と対談を行い、その幅広い視点を皆さんにお伝えしています。
今回は、番外編として滋賀県草津市の立命館大学 食マネジメント学部 南 直人教授にオンラインでお話を伺いました。
(対談日:令和4年8月24日)

南直人教授
立命館大学 食マネジメント学部
南 直人教授
(画像:立命館大学Web
サイトから引用)

     ~こんなお話をお聞きしました~

  • 和食文化の保護・継承について
  • ヨーロッパにおける食に関する変化
  • 有機農産物・環境に対する意識
  • 郷土食について
  • 食育に人類の未来がかかっている!

“和食文化の保護・継承について”

島村消費安全部長

  (聞き手:島村 知亨
     消費・安全部長

(東海農政局)
本日は、よろしくお願いします。
南先生は和食文化学会の設立と運営に関わってこられたと伺いました。和食文化の保護・継承について先生のお考えをお伺いしたいと思います。

(南教授)
世界的に、和食は健康に良いと考えられています。科学的なデータを揃える必要がありますが、和食は全般的に動物性食品の使用が比較的少なく、脂肪分も低いので、単に健康的であるというだけではなく、食育推進基本計画の重点事項である「持続可能な食を支える」という意味では、「地球にやさしい」といった意味もあるのではないかと思います。
また、和食は、世界的に「食の価値」というものが認められており、その保護・継承はぜひとも推進すべきであると考えます。
和食とSDGs(持続可能な開発目標)は、親和性は高いと思いますが、それがすぐに一般国民の食生活の変化につながるかというと、そう簡単にはいかないだろうと思います。

(東海農政局)
皆さんに和食に親しんでいただくためには、何が必要だとお考えですか。

(南教授)
和食は、「ハードルが高い」、「難しい」、「時間がかかる」といったイメージがあります。例えば、かつお節と昆布では旨味が出る温度が違うというのは、プロの人から見ると知っていて当たり前のことですが、一般の方がそれを知らなければ和食を作れないということであれば、和食離れが起こっても仕方がないと思われます。
「和食というものはきちっとやらなければいけない」という発想をとっぱらってしまうことが重要だと思います。例えば、だしの素を使えば簡単にだしの味が出すことができ、それに味噌を溶くだけですぐに味噌汁ができる、また、冷凍食品やインスタントの味噌汁でも良いと考えると、まだまだ一般の方に和食を広める余地はあるのではないかと考えます。
和食の基本は「一汁三菜」と言われていますが、料理研究家の土井善晴氏は「一汁一菜でよい」とおっしゃっています。全くそのとおりだと思います。

(東海農政局)
和食にはどのようなメリットがあるとお考えでしょうか。

小田原かまぼこ
(画像提供元:小田原蒲鉾協同組合)
小田原かまぼこ
関西地方で主流の焼きかまぼことはまた違う、江戸好みの蒸しかまぼこ

(南教授)
和食的なスタイルの食事をすると、意識しなくてもどちらかというと野菜摂取がしやすくなると思われます。味噌汁にはいろいろな具を入れますが、野菜やワカメなどの植物性のものが入っています。おかずの場合、例えば、豚カツにキャベツが付け合わせで付いてきます。和食的な食事スタイルをすることによって、野菜の消費量が増えると考えます。
また、魚の消費量が減っているという問題も、和食的な食事スタイルだと、刺身や焼き魚でなければならないということではなく、例えば、海外ではすり身、カニカマがはやっていますが、そういった水産加工品も含めて魚と考えれば、もっと消費が増えると考えます。

(東海農政局)
和食をPRする際に重要なことはありますか。

(南教授)
和食を推進するキャンペーンなどには、いわゆるジェンダーバランスの視点が欠けているものもあると感じます。お母さんだけがご飯を作るというようなイメージではなく、お母さんとお父さんが一緒に作ってみませんか、ということを言う必要があると考えます。
また、日本人の深刻な健康問題の1つとして成人男性の肥満があります。こんな食生活をしていたら将来、病気の人生が待っているかもしれないからもう少し自分の食生活を考え直したほうが良いと、中高年男性の意識を変えていくことが必要なのではないかと考えます。そういった視点も、和食文化の推進に役立つのではないのでしょうか。

“ヨーロッパにおける食に関する変化”

(東海農政局)
南先生は、ドイツを中心とするヨーロッパの食文化を研究されていると伺いしました。食に関する変化はありますか。

(南教授)
ドイツは肉食文化の代表的な国の1つですが、肉に対する風当りが強くなってきて、傾向としては、肉やソーセージといった伝統的食文化からだんだん人々が離れています。全員ではないと思いますが、ベジタリアン的な傾向がエリート層の中では強まっているように感じます。
ヨーロッパでは肉食には、例えば、牛肉の生産を拡大するためにブラジルの熱帯雨林を切り開いて牧場を作って牛をたくさん飼って、そこで牛がゲップをして温室効果ガスを出すというようなイメージが付いて回る傾向があります。

“有機農産物・環境に対する意識”

(東海農政局)
農林水産省では環境に配慮した有機農業を推進しています。ヨーロッパでは有機農業や環境に対する関心が高いですね。

(南教授)
ベルリンなどでは、ビオ(有機)食品は、ディスカウントストアやスーパーマーケットでも売られていますし、ビオ食品専門のスーパーマーケットもあります。歴史的には、19世紀末頃からいわゆる「オルタナティブ(注)」運動、当時は知識人エリートだけの非常に小さな運動でありましたが、ドイツの場合、1970年代くらいから「緑の党」(環境政策を重視する政党)が国政レベルでも勢力を伸ばしていく中で、健康というものにとても敏感になってきたと思います。現代においては、有機や健康食品といったものが、かなり一般国民の間にも浸透していると思います。おそらくドイツだけではなく北欧のフィンランドやスウェーデンといった国々に共通して見られる傾向ではないかと思われます。
(注)オルタナティブ:主流の方法に変わる新しいもの 

フランス料理などのいわゆる料理芸術の最先端は現在北欧です。デンマークに「noma(ノーマ)」という有名なレストランがありますが、できるだけ地産地消で環境に良い料理を作っています。そのために昆虫を利用することもありますが、地産地消や環境に対する意識はどちらかというとヨーロッパの北の国々が強いと思われます。それに比べると日本は地産地消や環境に対する意識がまだそれほど一般に根付いていないと感じます。
また、日本では多くのグルメ番組が放送されていますが、多くの人が見る番組を作る人間の責任として、大食いを煽ったり食べ物をおもちゃにするのではなく、フードロスや地球温暖化の問題などを意識して作る必要があるのではないかと思います。

(東海農政局)
愛知県で今年(令和4年)6月に開催した食育推進全国大会ではNHKの取材が行われ、ローカルニュースで放送されました。NHKは各都道府県の支局でのローカル放送のほか、「うまいッ!」という食の情報番組を全国放送しています。食に対する関心が高まっている中で、このようなところから情報発信を強化していくことが重要だと考えます。

“郷土食について”

すんき
(画像提供元:中澤 弥子氏)
すんき(すんき漬け)
赤かぶの葉を塩を一切使わずに「すんき種」を加えて乳酸発酵させた無塩の漬物


(東海農政局)
南先生は「郷土食・郷土料理」に関する研究もされていると伺いました。郷土食を守っていくために重要なことは何でしょうか。

(南教授)
長野県木曽地方には「すんき」という塩を使わない漬物があります。漬物は大量に食べると塩分過剰になるので健康には良くないですが、すんきはそういった心配がないと聞いたことがあります。そういったそれぞれの地域の郷土食の掘り起こしが重要だと思います。
農林水産省Webサイトの「うちの郷土料理」という企画は非常に楽しくて、見ています。
郷土食の復活・保護の活動は非常に草の根運動的なもので、なかなか成果がすぐ出るようなものではありませんが、そのような活動も続けていく必要があるのではないかと考えています。

(東海農政局)
ほかに郷土食を守っていくために重要なことは何でしょうか。

ふなずし
ふなずし
塩漬けしたフナを丸ごと米と漬け込み、発酵中に産生する乳酸で骨が軟らかくなり、骨まで食べることができる

(南教授)
滋賀県は、ふなずしなどが全国的には知られていますが、それ以外にもたくさんの郷土食があり、それがどんどん失われています。市町村よりもっと小さな範囲で郷土食が残っています。郷土食の保護活動は高齢者中心になると思いますが、何らかの形で若い人を巻き込む必要があるのではないかと考えます。
滋賀県の場合、当学の食マネジメント学部がありますので、学生を郷土食の発掘や調査に巻き込んでいこうと思っています。小学校、中学校、高等学校でもそのような発掘活動が地域レベルでできれば、和食文化の推進にもつながっていくのではないかと考えています。

(東海農政局)
農林水産省は、「消費・安全対策交付金」で地域の食文化の継承などの取り組みに対して事業費の半分を支援する取り組みなど、地域固有の多様な食文化の保護・継承に取り組んでいます。この取り組みを進める上で研究者の方々との連携が重要と考えていますが、ご助言を頂けますか。

(南教授)
一般社団法人日本家政学会 食文化研究部会は、食育の問題も含めて、おそらく日本で一番活発に食文化に関する研究活動をしている組織だと思います。そこの先生方は、様々な現場に出かけて実践的な研究をされていますので、そういった先生方とのコミュニケーションも食育の推進に役立つのではないかと思います。

“食育に人類の未来がかかっている!”

(東海農政局)
最後に、「食の未来」や「食育の推進」に関してどのようにお考えでしょうか。

(南教授)
将来、食料を生産するということと、環境を守っていくということの両立が果たして可能なのかどうか、楽観論と悲観論の両方があります。楽観論の立場に立つと、フードテックで大豆たん白や培養肉といったものを開発することによって、肉食に伴う弊害を抑えることができると考えます。そのほか、工場で野菜を作るなど様々なことが可能になるだろうという楽観的な見方もあります。しかし、それが果たして問題の根本的解決になるのかという悲観的な見方もあります。
食の未来を考えていくときに、「自分の食行動が果たして地球にどのような影響を与えているのか」ということも考えながら食べることも必要なのではないでしょうか。そういったことも取り入れながら食育の推進を図っていく必要があるのではないかと考えます。大げさに言えば、「食育に人類の未来がかかっている」と言えるのではないでしょうか。

立命館大学 食マネジメント学部 食マネジメント学科
南 直人(みなみ なおと)教授

プロフィール〈インタビュー時〉
〈学位〉大阪大学 博士(文学)
〈専門分野〉西洋史学、食文化研究
〈主な著書〉
「<食>から読み解くドイツ近代史」ミネルヴァ書房、2015年
「世界の食文化18ドイツ」農文協、2003年
「宗教と食」(食の文化フォーラム32)ドメス出版、2014年(編著)

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関連リンク

お問合せ先

消費・安全部消費生活課

担当者:消費者対応班
代表:052-201-7271(内線2807)
ダイヤルイン:052-223-4651

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