農菓プロジェクト(石川県金沢市)
更新日:令和5年4月1日
石川県内の農産物の生産者と和菓子製造業者が参加し、地元の農産物を使っておいしい菓子を作る「農菓プロジェクト」(以下「農菓PJ」)。四季のおはぎを創る取組として、夏のおはぎ「夜舟」や、冬のおはぎ「北窓」の開発プロジェクトを行い、新しい菓子文化を創造し、未来につなげる取組を行っています。その取組に参加する若い農業者(河二 利勝(かわに としまさ)氏(24歳)(有)かわに(金沢市):五郎島金時(さつまいも)生産農家))、和菓子職人(宮向 智哉(みやむこ ともや)氏(24歳) 河田ふたば(小松市)4代目)、農菓PJの事務局を担当する濱田 麻綾(はまだ まや)氏(RIO Communications)にその取組や思いを伺いました。
冬のおはぎ「北窓」開発プロジェクトで出来上がった商品
農政局:
食文化を未来へつなぐという観点で若い人が取り組んでいるこの「農菓PJ」に大変関心があります。まずは、事務局の濱田さんから、取組についてお話下さい。
濱田氏:
農菓PJは、農家と和菓子職人が自らの農産物を使って和菓子を協業で作り上げていく任意団体です。「真剣に遊ぶ」がスローガンとなっており、自分たちで面白いと思うアイデアや意見を出し合って進めていくプロジェクトで、私は調整役として、その思いを形にするお手伝いをしています。
出てくる意見は、斬新な内容が多いです。生産者と加工者の立場からの発言によってお互いが学ぶことも多く、新しい商品や取組がどんどん生まれています。多くの人がつながることでエネルギーになっていくのがおもしろいです。それぞれの業種で抱えている問題や課題、そこに業種を超えて共感する部分があって、それをつないでいる感じです。
農政局:
農家と和菓子屋のコラボは珍しいと思いますが。
濱田氏:
個別でのコラボは全国的にも見られますが、ここまでの団体は珍しいです。これは石川県だからできたことだと思います。日本三大和菓子処である金沢を有する石川県は、和菓子店に関しても歴史がある店も多く、また、他県に比べて人口割合でも軒数は多いです。農業に関して言えば、北海道や九州のように農業が大きな割合を占める地域とは違い、石川の場合は中小規模でそれぞれの個性を活かした展開をしている農家が多いのではないでしょうか。さらに、伝統工芸や歴史文化、飲食、観光、宿泊など全国的に見てもその魅力を守るべき業種業態がたくさんあり、農家はこれまでは自分で自分の魅力をアピールする必要があった、と言えるかもしれません。
農家も和菓子屋も、石川県内のそれぞれのエリアで「次はどんな企画をしたら喜んでもらえるか」と考えている人が多いためか、参加している皆さんから企画や取組などのアイデアがどんどん出てくるんです。この農菓PJが任意団体として成り立っているのは、石川ならではと思いますし、石川県で良い形にできたら全国にも広がっていったらいいね、と皆さんと話しています。
農政局:
農業者の中では、今ある課題にどう対処するかといった議論が多いですが、農菓PJは未来をどうしていくのかというものだと思いますし、そうした取組を行政としても応援していきたいと思っています。更にいうと、食文化を創造していこうと取り組んでいるところは、本当に少ないと思います。
和菓子に携わっている宮向さんのお仕事をお聞かせ下さい。
宮向氏:
実家の和菓子屋で製造を担当しています。大阪で和菓子の修業を5年間行い昨年(2021年)6月に帰ってきました。親は今まで作っていた菓子を製造し、僕は、新しい商品と、あんこを主に担当しています。あんこは今まで、商品によっては半製品を問屋から仕入れて、家で仕上げて使っていましたが、修行の中であんこを製造する技術を身に着けたので、今はほとんどの商品を自家製餡に切り替えました。
和菓子職人の宮向さん(左)と 農家の河二さん(右)
農政局:
農菓PJに携わっていかがですか。
宮向氏:
農菓PJは元々僕の父親が創立メンバーとして活動していて、僕は今回の「北窓」で初めて関わりました。これまでの取組を参考にしつつ、若いからこそ気付けることがあり、新たなことにチャレンジができると思っています。
農政局:
農菓PJの和菓子作りは自分を主張する場所があるということですね。
宮向氏:
主張するところまではいっていませんが、商品を消費者に届けるまでにもっとこうしたらいいんじゃないかとか、今まで使ったことのない素材を使ってみたりなどして、若い人にも食べてもらえるものを作りたいと思っています。若い感性を活かしていきたいと思っています。
農政局:
農家の河二さんは、今も先代のお父さんが頑張っていますが、農家として先代とは違うことをしたいと考えていますか。
河二氏:
これまでは先代がひとりでどんどんやっていくスタイルでした。僕は、五郎島金時の部会員※として、地域とのつながりを強く持ってやっていきたいと考えています。五郎島をもっと盛り上げていく中で、将来的には、五郎島に還元できるようにしたいと考えています。
※金沢市農業協同組合五郎島さつまいも部会 五郎島は旧村名で一部の地名
農政局:
外とのつながりに力点を置いているのはどういう考えからですか。
河二氏:
この農菓PJは、私と宮向君の父親同士が、野球観戦をしながら(河二さんと宮向さんは高校の同級生で2人とも野球部だった)、色々とやりたいことを話し合う中で始まりました。この農菓PJがなければ和菓子屋さんとつながることはなかったですし、農菓PJを通して色々なコラボが広がっていっています。これからは若い私たちがこのような取組を引っ張っていきたいと考えています。
宮向氏:
農家さんたちにも自分が作った作物で作った和菓子をお客様が食べて喜ぶ姿を見てほしいですね。そのためにも、この農菓PJをもっと大きくしていきたいです。
農政局:
農菓PJで生まれた和菓子を直接消費者に接して販売する機会はあったのですか。
河二氏:
高校生の時に販売に立ち会いました。その時は、農産物をPRしながら農菓PJの和菓子を販売しましたが、コラボは素晴らしい取組と感じました。今は、コラボしていることをもっとPRしたいと思っています。自分も和菓子が大好きですし、うちの五郎島金時や他の農家のもので作った和菓子でこれからの石川を引っ張っていきたいと思います。
濱田氏:
私は、農家と和菓子屋さんがそれまであまり直接やり取りしていなかったことが驚きでした。同じ石川県内で近い距離なので、顔が見えていると思い込んでいましたが、「○○産地のものを使用」といっても、生産者まで知っていることは本当に少ないですね。産地でどんな生産者が、どんな方法で、どんな思いをもって生産しているかはわからない。
そういった意味でも、この農菓PJは、農家と和菓子屋が直接つながる中で思いまで伝わる商品が出来ることで、商品と原材料になる農産物の魅力を高め、双方の力になれているんだと実感しています。取組を通じて、「うちの小松菜を使って和菓子にして!」「うちのメロンはどう?」と自らアピールしてくれる農家が増えてきました。ものすごく嬉しいことです。和菓子屋さんでは、食材の使い方が変わってきたり、営業の仕方も変わってきています。ビジネスに生かせるものがたくさんあるので、若い人にもっと入ってきてほしいと思っています。
農政局:
宮向さん、農家を知ることの価値をどのように感じていますか。
宮向氏:
農家がどんな思いで作っているのか、どんな特徴があるのか、を聞くことで、その特徴を生かす使い方、作り方にするなど、どちらの価値も上げていくことができると思います。もっと多くの人に知ってもらいたいし、ブランドとして高めていくことで、その価値を付加して売ることができると思います。
農政局:
長い目で見たとき、この農菓PJがどういった取組になればいいと思っていますか。
宮向氏:
石川県は菓子処と言われますが、和菓子業界は軒数も減り衰退してきているように感じています。この農菓PJによって、新しいお菓子を作って、若い人にもっと食べてもらえるよう取り組んでいきたいと思っています。
農政局:
最近では、テレビやSNSなどお菓子に関する情報は本当にたくさん発信されています。顔が見える中で作っていくことは重要だと思いますが、どのように情報発信することが大切だと思っていますか。
宮向氏:
インスタグラムやSNSを更新して、新商品をPRしています。特に若い人はSNSを見て、店舗に買いに来てくれます。写真はすごく大事です。五郎島金時を使いました、というよりも、農家である河二君の写真を入れた方がより商品の背景を知り、欲しいと感じてもらえて売り上げにつながっているように思います。
農政局:
河二さんは、農菓PJに取り組んで何か変化はありましたか。
河二氏:
テレビや新聞に取り上げてもらったことで、ほかの部会員からも声をかけてもらえるようになりました。和菓子のPJだからか、高齢の方にも受けが良くなりました。
農政局:
濱田さんはこの農菓PJを食文化の観点でどのように捉えていますか。
濱田氏:
食文化の背景にあるのは「祈り」だと考えています。素材、風土、気候、作る人、食べる人、歴史の中で、祭りや歳時記などを通して、みんなが幸せでありますように、無事に成長しますように、と願いを込めてその時特別な「食」が生まれ作られ伝承されていく。家族の幸せを願う祈りの中で食文化は育まれてきたと思いますし、それは人との未来をつなぐ活動だと思います。若い二人は、次の世代の若い人がどうやれば喜ぶかを考えています。食べ手を考えると、作り手は今やることが見えてきます。こうした食文化を継承していくためにも、未来へつなぐ食文化とは何かを考えていきたいと思います。
2022年北窓開発プロジェクトメンバー
農政局:
ありがとうございます。最後にこの農菓PJに対する思いをお聞かせください。
河二氏:
この農菓PJは、今まで親の世代が頑張ってきましたが、自分を成長させていくためにも、父親を超えるという思いを忘れてはいけないと思います。息子だから社長になれると甘い気持ちでいると、会社としては衰退していきます。それと同じで、若い世代の自分たちが、しっかり意見を出し合うことで、若い人にも食べてもらえるものができると思っています。将来的には、僕たちについてきてもらうように農菓PJを育てていきたいです。
宮向氏:
農菓PJに参加している農家と和菓子屋には、得意なことと不得意なことがあります。和菓子屋は情報発信するのが苦手、加工することが得意。農家は発信が上手ですが、商品に加工したりアレンジするのは苦手な方も多い。和菓子屋の不得意を農家に埋めてもらっている感じです。PJがあることで、学べることを多くしていきたいし、今まで以上に実りのあるものにしていきたいと思っています。「PJは学びの場」と認識しています。
濱田氏:
PJの取組がこれからも皆さんに受け入れてもらえるために変化し続け、「真剣に遊ぶ」を貫いて、それぞれの良さを高めあって頑張っていきたいと思います。
農政局:
今後、農政局としても、農菓プロジェクトを応援してしていきたいと思います。何か一緒に出来ることがないか、考えていきましょう。本日はありがとうございました。
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