所長挨拶
農林水産政策研究所長 高橋 孝雄
就任に当たって
農林水産政策研究所長の高橋孝雄(たかはし たかお)です。7月4日付で浅川所長の後任を務めることとなりました。よろしくお願い申し上げます。
農林水産政策研究所は、農林水産関係で唯一の国の政策研究機関として設立され、農林水産省が政策を企画立案する際に必要な調査研究について、社会科学等の手法を使って取り組んできました。また、研究機関として、農林水産分野の基盤的かつ先導的な研究に取り組んできました。調査研究に当たっては、農林水産省の行政部局と連携しつつ、個々の政策課題に対応して機動的に対応する一方、農林水産政策の基本的なテーマについては中長期的な視点から継続的に研究を進めております。また、研究成果については、行政部局に提供するほか、広く社会に還元してきました。
我が国の農林水産業は、国民に対して良質な食料を安定的に生産し供給するという重要な役割を果たしています。同時に農林水産業は農山漁村地域の主要産業であり、食品産業などの裾野の広い関連産業と深く結び付いています。農林水産業が地域で継続して営まれることにより、関連産業とあいまって活力ある農山漁村が形成されているのです。
一方、我が国の農林水産業を取り巻く環境は大きく変化しています。国際的に見ると、途上国を中心として世界人口は急増し、食料需要も増加する一方、気候変動による異常気象の頻発化や地政学リスクの高まりにより、世界の食料生産・供給は不安定化しています。また、我が国では長期にわたるデフレ経済下で経済成長が鈍化したのに対して、中国やインド等の新興国の経済は急成長した結果、世界における我が国の相対的な経済的地位は低下し、必要な食料や生産資材を容易に輸入できる状況ではなくなりつつあります。国内農業に目を向けると、農業者の減少・高齢化や農村におけるコミュニティの衰退が懸念される状況が続く中、2009年には総人口も減少に転じ、国内市場の縮小は避けがたい課題となっています。加えて、SDGs(持続可能な開発目標)の取組・意識が世界的に広く浸透する中で、環境や生物多様性等への配慮・対応が社会的に求められ、今や持続可能性は農林水産業の発展や新たな成長のための重要課題として認識されるに至っています。
このような我が国の農林水産業を取り巻く環境の変化に対応して、今後20年を見据えた新たな課題に対応していくため、農林水産省は、食料・農業・農村政策審議会の下に基本法検証部会を設置し、食料・農業・農村基本法の検証・見直し作業を行い、5月29日に中間取りまとめを公表しました。
また、6月2日には、政府の食料安定供給・農林水産業基盤強化本部において「食料・農業・農村政策の新たな展開方向」が取りまとめられました。
これらの文書においては、今後の政策の見直しの方向性として、
(1) 平時からの国民一人一人の食料安全保障の確立
(2) 環境等に配慮した持続可能な農業・食品産業への転換
(3) 人口減少下でも持続可能で強固な食料供給基盤の確立
等の課題が提示されています。
これらの新たな課題に対しては、従来型の政策の延長で対応していくことは困難であり、新たな発想に立った従来にない政策の企画立案が強く求められることとなりますが、このような状況の中でこそ、当研究所の果たすべき役割は一層大きなものになると考えています。
それぞれの課題に関して、課題の背景となっている事情にはどのようなものがあるのか、同様の課題に直面している諸外国はどのような対応を取っているのか、現在検討している政策を実行に移した場合どの程度の効果があると見込めるのか、といった点について、行政部局とよく連携を取りながら一つ一つ解決していかなければなりません。
当研究所としては、行政部局と密接に連携していくだけでなく、客員研究員等外部の研究者や大学等の研究機関等幅広い関係者と連携して研究を行うことを通じて、より多様な視点や意見を研究成果に取り入れるよう努めてまいります。
また、農林水産政策の必要性はもとより、農林水産業や農山漁村の重要性について我が国の社会共通の理解としていくためには、データに基づき政策を企画立案し政策効果を明確にすることにより、農林水産業の関係者以外の人達が理解し納得できるように説明していくことが必要です。
当研究所としても、研究で得られた成果については、政策への活用のみならず、広く社会に共有していただくよう、様々な媒体を通じて発信してまいります。
ここ数年はコロナ禍のため、国内外の現地調査や対面でのセミナーが制約されるなど厳しい研究環境にありましたが、新型コロナウイルス感染症の感染症法上の5類移行に伴い、徐々にではありますが、従来型の取組が復活しつつあります。また、コロナ禍を奇貨として、対面とオンラインを組み合わせたハイブリッド方式が一般化し、遠方の関係者とのコミュニケーションが容易になりつつあります。今後も様々な取組を強化しながら農林水産業や農山漁村の持続的発展につながる研究を進めてまいりたいと考えていますので、関係各位の一層のご理解とご支援をお願い申し上げます。
2023年7月
農林水産政策研究所長 高橋 孝雄
高橋 孝雄(たかはし たかお)
農林水産政策研究所長(Director-General)
略歴: | |
1964年 | 静岡県出身 |
1987年 | 東京大学法学部卒業 |
同年 | 農林水産省入省 |
2006年 | 大臣官房企画評価課調査官 |
同年 | 大臣官房企画評価課調査官兼内閣事務官(内閣官房副長官補付内閣官房行政改革推進室企画官兼行政改革推進本部事務局企画官) |
2008年 | 生産局畜産部畜産振興課需給対策室長 |
2009年 | 総合食料局食品産業振興課長 |
2010年 | 経営局構造改善課長 |
2011年 | 生産局畜産部競馬監督課長 |
2013年 | 食料産業局食品小売サービス課長 |
2014年 | 食料産業局総務課長 |
2015年 | 大臣官房広報評価課長 |
2016年 | 株式会社日本政策金融公庫特別参与 |
2018年 | 大臣官房付 |
同年 | 農村振興局農村政策部長 |
2019年 | 株式会社農林漁業成長産業化支援機構取締役専務 |
2022年 | 大臣官房総括審議官(新事業・食品産業) |
2023年~ | 農林水産政策研究所長 |
(現職) |
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