クローズアップ研究者 多田 忠義
農林水産政策研究所 主任研究官(農業・農村領域)
専門: 人文地理学、林業経済学、森林セクター研究
これまでの研究はどのようなものですか?
私は、人文地理学や林業経済学の立場から森林セクターを対象とし、持続可能な森林管理・利用や農山村のあり方について研究しています。「森林セクター(forest sector)」は、国連や諸外国の政策文書でたびたび使用され、森林資源、林産物・関連サービスの生産・流通・消費を範囲とし、関係主体や制度・政策なども対象とする広い概念です。私の調査研究では、文献、統計・地理情報分析と現地調査を繰り返すことにより、様々な地域尺度で森林セクターを相対的に捉え、その位置づけを明らかにしようと心がけています。
これまで、私は主に日本の森林セクターを対象に調査分析してきました。特に、2000年代の東北日本における合板向け国産材利用の拡大とその要因分析に注力しました。秋田県、岩手県、宮城県では合板向け国産材丸太の需要が急増しましたが、供給への対応は一様ではなく、各県で異なる組織・体制が構築されたこと、この地域差は地理的条件や組織の成り立ち等の歴史的経緯に基づき最小の取引費用を求めた結果生じたものであること、さらに国産材丸太の工場直送体制がもたらす利点とリスクが存在することも明らかにしました。
また、日本における木材需要量の半分は建築用材ですから、木造住宅・非住宅の新設着工や住宅ストックの地域差に関する分析、空き家対策の実態調査、林業従事者の参入経路となっている地方移住やその政策実態、森林組合の今日的な役割に関する考察や新たな林政等、森林セクターを多面的に捉える調査テーマにも研究対象を広げてきました。
近年では、オーストリアの農山村政策や林業・製材業にも関心を持っています。また、大学院生時代には、中央ケニアの湿潤高地の森林近傍農村における薪(まき)の採集・消費調査に取り組んだこともあります。
今後の抱負を教えてください。
世界的に木材需要が高まる一方で環境規制や山火事による木材供給不足で輸入木材を確保することは年々難しくなっています。我が国の資源安全保障を達成するためにも、私は多様な木材生産のあり方を模索する必要があると考えています。例えば、自伐型林業などの小規模林業は、経営単位あたりの伐採量は少ないものの、高性能機械を導入するような大規模・山林集約型の施業では対処できない場所で木材生産や保育を可能にして林業を活性化させるとともに、農山村地域の所得創出、地域資源の保全などにも貢献します。このような小規模経営の存在意義、多様な林業を成り立たせる諸条件、制度・政策のあり方等を現場調査から明らかにしていきたいです。
岩手県出身。2012年3月東北大学大学院環境科学研究科博士後期課程修了。博士(環境科学)、公益社団法人日本地理学会認定専門地域調査士。2012年4月株式会社農林中金総合研究所入社。明治大学客員研究員、同兼任講師、一橋大学非常勤研究員、同非常勤講師、東京大学大学院農学生命科学研究科農学共同研究員などを経て、2024年4月より現職(官民人事交流制度に基づく交流採用)。 |
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