地域の持続可能性の実現に向けた農業経営の価値創造(CSV)及び多様なステークホルダーの役割に関する研究(連携研究スキームによる研究)
1. 研究の背景
農林水産業・食品産業の領域では、持続的な食料システムの構築に向けて、多様なステークホルダーの支援のもとで地域農業の経営基盤を強化することで、環境・社会・経済という3つの側面から地域の持続可能性を高める必要がある。
その達成に向けて求められる経営戦略とは、企業が事業を営む地域社会の経済条件や社会状況、自然環境を改善しながら、自らの競争力を高めるCSV(Creating Shared Value:共有価値の創造)である。こうした経営戦略はSDGs経営といった呼称で既に世の中に広く浸透しており、ESG投資の潮流はそれを強く後押ししている。農業経営にCSVの分析枠組みを適用することで、経済・社会・環境に関するインパクトとそのバランスを評価し、農業が地域の持続可能性に及ぼす影響を解明することができる。
また、組織の規模が拡大している昨今の農業経営では、組織内部の従業員の人材育成や多様な働き方の支援が社会的な持続可能性の重要な側面となる。さらに、そうした人材を「資本」と捉えてその価値を最大限引き出す「人的資本経営」が農業の価値向上にとって重要となる。人的資本経営を実現するには、農業経営人材の開発や長期的視点からの経営陣の意思決定を促す仕組みであるコーポレート・ガバナンスの整備も不可欠である。しかし、農業経営の経営陣や従業員という「人」にフォーカスし、さらに、定量的な研究手法も駆使した調査研究は国際的にみても不足している。
以上を踏まえて、本研究では、農業経営によるCSVの評価について、詳細な事例調査を行い、経済的成果だけでなく環境的・社会的なインパクトも考慮した分析を行う。さらに、こうしたCSVを実現できる農業経営の促進に向けて、経営陣や従業員を対象とした事例調査やアンケート調査を行い、人的資本経営がCSVに与える影響を明らかにする。
2. 研究内容
(1)農業経営におけるCSVの評価に関する研究
環境的・社会的に特徴的な取組を行っている農業法人への事例調査を実施する。必要に応じて財務分析に加えて、環境的・社会的インパクトに関する簡易的な調査を行う。また、CSVの実践に関する実情を把握するために、必要に応じてアンケート調査を行う。
(2)農業経営における人的資本経営の規定要因及び効果に関する研究
農業法人の従業員を対象としたヒアリング調査やアンケート調査を実施することで、従業員のワーク・エンゲージメントや心理的資本の状況を明らかにするとともに、持続可能な取組への積極性を評価する。コーポレート・ガバナンスについては経営者に対するヒアリング調査やアンケート調査を実施することで、コーポレート・ガバナンスの実践状況を整理し、人的資本経営の実践に与える影響を明らかにする。
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