消費者・実需者のニーズを踏まえた新たな価値の創出に関する研究(プロジェクト研究)
1. 研究の背景
我が国の農業・食料関連産業は、国内総生産にして全経済活動の1割に相当する重要な地位を占めているが、今後の本格的な少子高齢化や人口減少により消費の減少が見込まれる。こうしたなか、消費者や実需者ニーズの多様化・高度化への対応を進めつつ、新たな市場・価値の創出を推進するとともに、拡大する海外需要への対応のため、輸出促進や日本食・食文化の海外普及を図ることなどを通じて、食料供給の基盤を維持することが肝要となる。
新たな市場・価値の創出においては、代替タンパク質を含めたフードテックの展開が推進されているが、代替タンパク質のなかには、人間の消費に供されてこなかった新規食品も含まれる。その社会実装を図る上では、安全確保の仕組みや、生産・流通の課題、消費者の理解醸成の方策等の知見を蓄積する必要がある。
また、輸出促進や日本食・食文化の海外普及等の取組においては、国際競争力を強化し、消費者の認知・評価を高めるために、新品種、GIなどの知的財産や地域ブランドを活用することが重要であり、活用の成功要因や課題等の把握が求められる。
さらに、食料供給については高齢化が進行する我が国において、高齢者が食料品の購入に制約を受けている状況が想定され、これらは食品摂取を通じて健康にも大きな影響を及ぼしているとみられる。これら食料品アクセスの状況と実態について空間的・定量的に把握するとともに、健康の影響やその解決方策についても明示することが求められている。
2. 研究内容
(1)新規食品の社会実装に向けた条件の整備に関する研究
EU規則をはじめとする海外における新規食品の安全確保の制度について、直近の動向に関する情報を収集するとともに、国内への適用時の留意点も踏まえながら分析を深める。
代替タンパク食品の取扱事業者を対象に、引き続き現地調査とそれに基づく定性分析を実施し、当該食品の流通構造、生産・製造の仕組みを明らかにするとともに、その社会実装の要件の考察を深める。
前年度収集した代替タンパクに対する消費者選好調査の結果を統計学的に分析することにより、現在における消費者受容の様態とその規定因を明らかにする。
(2)知的財産、ブランドを活用した農林水産物の競争力の強化・地域振興に関する研究
品種や商標などの知的財産を活用して競争力強化を図っている国内外の知的財産活用の先行的な取組事例の分析を継続し、知的財産活用上の問題点や方向性を明らかにする。
地域ブランドの輸出事例の現地調査とそれに基づく定性分析を引き続き実施することにより、ビジネスとして輸出を有効に継続する際の成功要因や課題を把握する。
地域ブランドの活用による、インバウンドを含めた観光客の誘致と地域振興の有効な実践方法を探索すべく、先行研究を元にした分析枠組みの構築と国内外の事例の定性分析を行うとともに、訪日外国人観光客の消費行動にかかる統計資料を分析し、各地域での価値の産出と地域ブランドの寄与の実態を把握する。
GI産品のもつ地域の風土や伝統等のストーリー(情報)の提示方法が消費者評価に与える影響を明らかにするために、アンケートによる選択実験、及び統計分析を実施する。
(3)超高齢社会における食料品アクセス問題に関する研究
2025年版食料品アクセスマップの作成に係る作業を進めるため、必要データの収集、分析プログラムの汎用性の高いプログラミング言語への移行や推計の簡素化に係る作業を進める。
中山間地域における食料品調達環境の実態と課題を分析し、その対策として移動販売車の導入が食料品供給と高齢者福祉の両面においてどの程度の価値が存在するのか評価を行う。
食料品アクセス環境の強化やそれに伴う高齢者の健康維持に向けた、他出子や自治会などの地域コミュニティの重要性やその効果について、中山間地域を対象とした現地調査に基づく分析作業を進め、その整理を行う。
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