主要国における農業政策の多様化とそれを踏まえた中長期的な世界食料需給に関する研究(プロジェクト研究)
1. 研究の背景
EUでは次期共通農業政策(2028年~)の改革案が、また、米国では次期農業法(2026年度~)が検討されている。一方、中国では、食糧安全保障法が制定され、食糧生産を最優先する傾向が強まっている。また、ロシアによるウクライナ侵略の長期化とその影響による新興国や途上国による農産物・食品の輸出制限措置により、世界的に食料供給に対する懸念が生じている。国際的な食料需給を見ると、新興国や途上国における需要増加に対して、南米等から輸出が拡大して輸出国が偏在化するという構造変化が注目される。さらには、米国第二次トランプ政権の「米国第一の貿易政策」下での関税政策等の世界の食料需給に影響を与える不確実性が高い要因が生じている。
農林水産政策研究所では、これまでも我が国の農業政策の立案や食料需給の観点から重要となる国・地域を選定して、各国の農業政策や食料需給の動向とその変化の背景を分析するとともに、持続的食料システムの構築という重要テーマについて、各国横断的な分析を実施してきた。また、世界食料需給の中長期的な見通しを策定してきたところである。
他方、主要国における農業政策は多様な様相を一層呈してきており、また、世界の農業生産や食料需給に影響を与える不確実性の高い事象が絶えず生じていることから、この研究プロジェクトでも、これまでに蓄積された知見を活用しながら、主要国の農業政策や食料需給の動向を継続して分析する必要性は依然として高い。その際、政策立案に資する有効な知見を獲得するために、地域や課題のまとまりを捉えて、各国間の相互関係も考慮した各国横断的な分析も継続して実施することが重要である。さらに、世界食料需給の見通しについても、より的確な需給見通しの策定のため、主要国の動向分析における知見を活かしながら、食料需給に影響を与える不確実性の高い要因に対応した需給予測モデルの改良を図りながら実施していく必要がある。
2. 研究内容
(1)主要国の農業政策・需給動向の把握・分析
我が国の農業政策の立案や食料需給の観点から重要となる、EU、英国、米国、ロシア、アルゼンチン、中国、インド、ASEANやアフリカ諸国などを対象として、各国・地域の農業政策・貿易政策や主要農産物の需給動向の把握・分析を、世界食料需給分析と連携しながら行う。
また、各国横断的な分析を以下のテーマを取り上げて行う。
1)健康的で文化的な食をめぐる食環境に関する国際比較研究
気候変動、政治危機、感染症などのリスクは、食料供給の不安定化を招き、栄養不足・過栄養、所得格差の問題を拡大させた。健康的で文化的な食に貢献する食環境を明らかにするため、多様な食(多品目、多品種、食文化)、ローカル・フードチェーン、共食によるセーフティネットとフードロス削減、食農連携、農業と食品事業のイノベーションとマーケティング戦略など、各国の取組と政策について調査・分析する。我が国におけるフードセキュリティの確保と持続可能な発展のための政策に寄与することを目指す。
2)食料品貿易に関する研究
近年、我が国を取り巻くフードシステムは急速に変化しており、特に東アジア及び東南アジア地域における経済成長と所得水準の向上により、これらの地域は日本の食料品輸出にとって有望な市場として注目されている。本研究の目的は、東アジア及び東南アジア地域を主たる対象として、当該地域における食料品貿易の構造及びその変化を体系的に分析・解明することである。さらに、食料品貿易と代替・補完関係にある食品産業の海外直接投資にも焦点を当て、その相互作用や役割についても検討する。これらの分析を通じて、各国市場の特性を把握し、日本産食料品の新たな輸出先を開拓するための実証的知見を提供することを目指す。
(2)世界食料需給分析
農林水産政策研究所で開発した世界食料需給モデルの更新・改良、モデル構築に関わる改修を図りながら、中長期的な需給予測や予測の前提となる与件の変化に対応したベースライン予測やシナリオを検討し、主要国の農業政策・需給動向の把握・分析と連携して、世界食料需給の見通しを実施する。
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