主要国のデカップル支払いに関する比較分析
デカップル支払いは、貿易歪曲的又は生産に対する影響が最小限のため、WTO農業協定における国内助成の削減約束(WTO約束)の対象から除外されている市場志向型の政策です※。
主要国(メキシコ、米国、中国、EU、韓国、ロシア)のデカップル支払いの導入の目的や実施経過を整理、比較分析した結果、以下のことが分かりました。
(1) デカップル支払いの導入の目的は、主に二つにわかれます。所得支持政策を市場志向型に転換するため(メキシコと米国)と所得支持政策をWTO約束に対応させるため(中国、EU、韓国、ロシア)です。
(2) デカップル支払いが、現在、市場志向型の政策として機能し、所得支持の主要な役割を担っているのは、EUのみです。メキシコと米国は、所得支持政策として有効でなかったために廃止しました。中国、韓国、ロシアでは、所得支持の主要な役割を担っていません。
主要国のデカップル支払いの実施経過 |
実施経過 | |
メキシコ 1994年~ |
2000年代に生産振興のためにカップル支払いを追加的に導入。2014年、生産性向上のためのカップル支払いに組み替えられ、廃止。 |
米国 1996年~ |
導入後、価格の急落により1998~2001年に緊急支援支払いを実施。2002年、カップル支払いを追加的に再導入。2014年に廃止。 |
中国 2004年~ |
2000年代後半から、生産費の上昇に伴い、カップル支払いの拡大や価格支持水準の引上げを継続的に実施。その結果、近年、WTO約束枠を超過している状態。 |
EU 2005年~ |
所得支持の主要な役割を担っている。2014年以降、気候と環境に有益な措置(作物の多様化等)の要件化により、作付け品目の選択が制限され、デカップルの程度が低下。 |
韓国 2005年~ |
WTO約束内で十分な所得支持を実施(デカップル支払いとカップル支払いの合計額の政策目標とする所得支持水準に対する補てん率は95%以上を維持)。 |
ロシア 2013年~ |
WTO約束は、デカップル支払いを利用しなくとも容易に履行可能となる。2014年のウクライナ危機後、生産力拡大に係る政策が一層重視され、2017年に支出額が減少。 |
平成30年度カントリレポート プロジェクト研究[主要国農業戦略横断・総合]研究資料より抜粋
※デカップル支払いは、WTO農業協定において、生産から「切り離された(decoupled)」農業者の所得を支持するための直接支払いとして、生産する品目や量、生産物の価格等とは関係なく、固定額を支給するものと規定されています。このため、農業者の生産に関する意思決定が、主に市場の状況に基づいてなされることとなり、生産量と価格が市場メカニズムにより最適化されると考えられています。したがって、デカップル支払い以外の農業者の所得支持政策(価格支持や生産する品目と量に基づいて支給するカップル支払い等)と比べて、生産に対する影響、ひいては貿易を歪める影響が最小限の政策と位置づけられています。以上のことから、デカップル支払いは、市場メカニズムをできるだけ機能させることを目指している「市場志向型(market-oriented)」の政策と言われています。
この成果の詳細については、農林水産政策研究所Web サイトをご覧ください(以下参照)。
- 平成30年度カントリーレポート
プロジェクト研究 [主要国農業戦略横断・総合] 研究資料 第9号(2019年3月)
https://www.maff.go.jp/primaff/kanko/project/attach/pdf/190300_30cr09_01.pdf
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