国際的波及過程にみる有機農業の特徴と役割の多様性
1. 農林水産政策研究所では、我が国の「みどりの食料システム戦略」や持続的農業・農村振興政策の推進に資するため、有機農業の国際的波及に注目し、主要国の有機農業の特徴を比較分析しました。
2. 比較分析では、食料の安定供給の確保(農業の市場的価値の向上)と多面的機能の発揮(農業の非市場的価値の向上)という2つの価値の両立の観点から、研究対象国で持続的農業への移行がどの程度進んでいるのかを明らかにしました。
3. 対象国を、持続的農業への移行において先進的地位にある「リーダー」(ドイツ・フランス)と、「フォロワー」(その他の国)の2つのグループに分類し、次に、「リーダー」と「フォロワー」のグループ間で、有機農業の特徴を比較しました。
比較分析は、地域の連携や哲学を重視する「オルタナティブ農業」と、商業的な「メインストリーム化」した有機農業という、有機農業の2つの側面に注目し行い(注)、その結果、
•「リーダー」の国は、有機食品の輸入相手国に認証取得を促し、有機農業の国際的波及をけん引してきましたが、国内では、地域のつながりの強化、環境の保全が図られ、「オルタナティブ農業」の性格を維持した有機農業の普及が、持続的農村振興の推進に役割を果たしてきたこと
•「フォロワー」の国は、輸出相手国から求められる認証を取得し「メインストリーム化」した有機農業が拡大しましたが、それは必ずしも農業の多面的機能の発揮には貢献していないことがうかがわれます。
4. 国際比較を踏まえると、有機農業の普及を通じた農業の多面的機能の発揮や地域に密着した農村振興を目指すのであれば、「フォロワー」の国のように経済的利益を追求するのみならず、「リーダー」の国のように「オルタナティブ農業」の性格を維持した有機農業を支えていくことが重要であると考えられます。
(注) ここでの「オルタナティブ農業」とは、「近代的農業」の代替として広まってきた、農業の多面的機能に依拠した農村発展を追求する有機農業を意味する。「メインストリーム化」した有機農業とは、欧米を中心に大手企業を巻き込んだ有機認証制度の国内外への普及等を通じ、大規模化・市場化した有機農業を意味する。
図 単位面積当たり農業総生産額と有機農用地面積割合(2007年・2019年) |
注. 単位面積当たり農業生産額を横軸、有機農用地面積割合を縦軸とするグラフに各国のデータをプロットした。図の右上の点ほど、農業の市場的・非市場的価値の両立によって「持続的農業」が実現されているとみなす。 |
この成果の詳細については、農林水産政策研究所Web サイトをご覧ください(以下参照)。
- 令和3年度カントリーレポート
プロジェクト研究 [主要国農業政策・貿易政策] 研究資料 第12号(2022年3月)
https://www.maff.go.jp/primaff/kanko/project/attach/pdf/220331_R03cr12_01.pdf
- 農林水産政策研究所レビューNo.109(2022年9月)
https://www.maff.go.jp/primaff/kanko/review/attach/pdf/220930_pr109_05.pdf
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