このページの本文へ移動

農林水産政策研究所

メニュー

中国の「食糧安全保障」:食糧を巡る主導権を自ら握ることを最重視、国内生産強化・節約徹底・安定輸入確保がカギ

1. 中国の「食」に係る安全保障は、完全に「食糧」(穀物、豆類及びイモ類)優先です。それは、限られた耕地面積と水資源(注)の下で、国民生活を支える基幹的な作物を自ら確保しなければならないためです。世界の誰も中国を支えてくれないし、支えようとしても中国の人口が多すぎるため不可能との危機感、政権を担う中国共産党と政府は最低限「国民を食わせ」ねばならないという使命感(達成できないとき、歴代の王朝、政権が崩壊した幾多の先例を意識した切迫感)が作用しているといえます。
(注)一人当たり耕地面積:世界平均の45%、一人当たり水資源量:世界平均の約37%

2. 中国の食糧安全保障の端的な標語が習近平政権の初期の2013年12月に示された漢字二十文字の目標で、「自ら食糧安全保障の主導権を握ることを基本に、国内に立脚し、生産能力を確保し、適度に輸入し、科学技術を支えとする」とされています。その最大の眼目は「海外に食糧の主導権を奪われず、「自分の飯碗をしっかり掌握する」こと」であり、これを死守するため、国内産で穀物の基本自給と食用食糧の完全自給の確保を必須の政策目標として表明するとともに、生産・流通・加工・消費各段階における食糧損耗防止と節約徹底、十全な備蓄確保、海外産の安定輸入等が図られています。(下表)
  他方、最近では、習近平主席自ら「大食物観」という新たな概念を提唱し、食生活の高度化や健康・栄養意識の高まりに対応し、食糧のみに過度に偏らない多元的な食物供給へ重点をシフトしていく方向付けも、並行して始められているように見えます。

3. こうした政策方向強化と党の指導徹底に向け、2023年末、全国人民代表大会常務委員会で「食糧安全保障法」が制定され、2024年6月1日から施行されることになりました。


 表  中国の食糧安全保障に係る政策体系の概要 

事項 政策の基本方向 実現手段 達成状況 主な課題
生産安定 食糧生産の最優先 補助制度、目標値への地方幹部の責任追及 実施中 需要に応じた経済作物等の供給安定、農民意欲・農民収入増大・格差是正への悪影響(食糧生産では「稼げない」)→消費地域から生産地域への利益補償導入
更に強化 対外関係の不安定化に伴う更なる生産力強化(「新一千億斤(=5千万トン)増産運動」のスタート、植物油原料(大豆、菜種、落花生等)自給強化キャンペーン(「油瓶の中身も自給」)⇒農家の自力経営意欲への悪影響と環境への負荷はさらに拡大
米・麦の完全自給 ほぼ達成 今後人口減と高齢化で需要は縮小見通し
トウモロコシ(飼料用)の基本自給 自給率やや低下(2017年98%→2022年96%) 大豆との耕地の競合(同一圃場における混作の推奨等)、単収向上へ遺伝子組換え解禁
食品用大豆の完全自給 ほぼ達成(搾油用含む自給率19%(2022年)) 油用大豆の海外産からのシェア回復、競争力回復に向け遺伝子組換え解禁など
耕地面積の確保、耕地利用は食糧優先 地方幹部の責任追及(「歯の生えた」政策) 取組継続(耕地減少には歯止め) 耕地の質の低下・土壌劣化、限界耕地に係る環境問題「退林還耕」、耕地の高規格化
種子対策の強化 種子企業への支援強化、種子バンク等 実施中 優良品種の確保、海外からの導入途絶への危機感
損耗防止 生産・流通・加工・貯蔵各段階 農業機械の普及・改良、コールドチェーンの整備貯蔵技術向上等 実施中 食糧管理部門の汚職多発、へき遠部での取り組みの遅れ
節約徹底 節約の徹底、食べ残し厳禁 違反事業者等への処罰、広報宣伝の徹底 実施中 内需拡大に負の作用を及ぼしている可能性
備蓄 主要食糧の年間需要相当量等の確保 国家備蓄、地方備蓄、民間備蓄の併用 基本的に状況は安定か? 備蓄食糧の劣化、一元管理でないことによる効率低下、備蓄食糧の偏在等
安定輸入 輸入の多元化、安定化 輸入国のインフラ支援(一帯一路)、中国版「穀物メジャー」の育成 対外問題絡み進まず トウモロコシ・大豆等は少数国への集中、米国等との対立の悪影響、ウクライナ危機

資料:令和2年度、令和3年度、令和4年度カントリーレポート等を基に作成

この成果の詳細については、農林水産政策研究所Web サイトをご覧ください(以下参照)。

PDF版ダウンロード(PDF: 655KB)

お問合せ先

企画広報室広報資料課

ダイヤルイン:03-6737-9012

PDF形式のファイルをご覧いただく場合には、Adobe Readerが必要です。
Adobe Readerをお持ちでない方は、バナーのリンク先からダウンロードしてください。

Get Adobe Reader