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動物医薬品検査所

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(研究発表)豚熱(CSF)国内流行株に対するマーカーワクチンの有効性と有用性

令和 2年 9月 2日
動物医薬品検査所

【概要】

  現在、国内で流行している豚熱ウイルス(CSFV)に対するマーカーワクチンの有効性及び野外感染豚とワクチン接種豚との識別(DIVA)を感染試験により検証しました。その結果、マーカーワクチン接種豚にCSFV国内流行株を感染させたところ、CSFの症状及びウイルスの排泄が抑えられ、有効性が確認されました。一方、DIVAについては、ELISAキットによる個体毎の野外CSFVの感染・非感染を明確に識別することは困難であることがわかりました。

【背景と目的】

  2018年9月以降、岐阜県等の養豚場において豚熱(CSF)の発生が確認され、特定家畜伝染病防疫指針に基づき、2019年10月から豚へのCSF生ワクチンの接種が開始されました。CSF生ワクチンは、ワクチン接種した豚の産生するワクチン抗体と野外CSFV感染抗体のDIVAができないため、ワクチンを接種した豚から検出された抗体が、ワクチンによるものか、野外株によるものかの区別がつきません。一方、海外では、牛ウイルス性下痢ウイルス(BVDV)とCSFVのキメラウイルスを用いたDIVAが可能なマーカーワクチン(Suvaxyn®CSF Marker, Zoetis)が開発され、野外使用実績はないものの、EU及び米国で承認されています。そこで、当所において、CSFV国内流行株(遺伝子型2.1)に対するマーカーワクチンの有効性及びDIVAについて豚を用いた感染試験により検証しました。

【試験方法】

  約7週齢の豚8頭をワクチン接種群4頭とワクチン非接種群4頭に分け、ワクチン接種群にはマーカーワクチンを接種しました。ワクチン接種28日後に、両群にCSFV国内流行株を感染させ、経過観察をしました。観察期間は、ウイルス感染後4週間とし、臨床観察及び体温測定を実施し、検体は血液、唾液、鼻汁及び糞便を採取し、白血球数の測定、RT-PCRによるCSFV遺伝子検査及び抗体検査を実施しました。また、観察最終日には剖検を実施し、採取した臓器からウイルスを分離しました。DIVAを検証するため、抗体検査には、CSFV E2抗体検出ELISAキットに加えて、CSFV Erns抗体を検出する2種類の識別ELISAキットを使用しました。

【結果】

  ワクチン接種群では、ワクチン接種後28日間、臨床症状及び体温に異常は認められませんでした。また、CSFV国内流行株感染後は、発熱及び白血球減少は概ね抑制され、CSFV遺伝子は全頭から検出されず、臨床症状の悪化も見られませんでした。一方、ワクチン非接種群では、4頭全頭に発熱、白血球減少、活力低下、食欲不振、眼瞼腫脹、目の充血、パイルアップ及び鼻汁漏出が、3頭に一時的な下痢及びうずくまりが、2頭に歩様異常が見られ、1頭についてウイルス感染後24日目に症状が急激に悪化し、死亡しましたが、他の3頭には重篤な症状は認められませんでした。また、CSFV遺伝子は全頭から検出されました。

  DIVAについては、ワクチン接種群では、マーカーワクチン接種により産生するCSFV E2抗体はワクチン接種後2週間程度で検出されましたが、マーカーワクチンの接種では産生されないCSFV Erns抗体が2種類のキットでそれぞれ4頭中1頭及び2頭から検出されました。また、CSFV国内流行株感染後には、これにより産生されるCSFV Erns抗体が1種類では4頭中4頭で検出されましたが、1種類では4頭中2頭で検出されませんでした。

  これらの結果から、マーカーワクチンは、CSFV国内流行株に対して有効であることが確認されましたが、DIVAについては、今回供試したELISAキットでは、個体毎の野外CSFVの感染・非感染の明確な識別は困難であることが示唆されました。

【今後の予定・期待】

  本試験で得られた成績は、第163回日本獣医学会学術集会で発表予定です。また、農林水産省における食料・農業・農村政策審議会家畜衛生部会牛豚等疾病小委員会等に提供され、本病の防疫における基礎的知見として活用されます。

写真1   ワクチン接種群(元気に歩き回る)  写真2  ワクチン非接種群(発熱し、体を寄せ合いうずくまる)
写真1ワクチン接種群(元気に歩き回る)      写真2ワクチン非接種群(発熱し、体を寄せ合いうずくまる)

(研究発表)豚熱(CSF)国内流行株に対するマーカーワクチンの有効性と有用性

お問合せ先

農林水産省動物医薬品検査所 企画連絡室
担当:國保、守岡
連絡先:042-321-1856(直通)