クローズアップ研究者 伏木 優介
農林水産政策研究所 研究員(食料領域)
専門: 農業経済学、農業金融
これまでの研究はどのようなものですか?
古くから「農業金融は通常の金融原理にのらない」ということがいわれており、農業は特殊な産業であるから金融上も政策的に特別な対応が必要とされるという議論がなされてきました。しかし、このような考え方は家族小農を前提としたものであり、国際的な金融自由化の潮流も経て特に2000年代からは本当に民間では対応できない分野とは何か見直す必要があるとも指摘されています。
そのような背景を踏まえ、自身のこれまでの研究ではまず「農業経営が民間金融から資金を十分に借入できない」という問題が今日でも成立するのかを問い、2008年の政策金融改革が農林水産業に与えた影響の分析から、マクロ的にみればそのような信用制約はすでに顕著な問題ではないだろうことを明らかにしました。続いて、それでは今日担い手とされる農業経営を対象にして優遇資金の融資を行う政策金融にはどのような意義があるのかと問いを立て、「担い手に資源を集中することで産業としての農業の生産性成長率が高められる」ことが動学的な観点から政策の意義となることを提示し、担い手の存在が農業の生産性成長率向上に貢献する程度を計測しました。これらの研究は農業政策金融論について既存の枠組みにとらわれず新たな観点から捉えなおすものであったといえます。
ほかに世界最貧国の一つでもあるネパールの農村家計における貧困と脆弱(ぜいじゃく)性の分析や、サブサハラ・アフリカ諸国における世界食糧危機後の米生産量急拡大の要因に関する分析などの研究にも関わってきました。
今後の抱負を教えてください。
これまでの研究において培ってきた、経済理論を通じて農林水産業経済にまつわる現象・問題の本質を見通すということを大事にしていきたいと思います。そのうえで理論に裏打ちされた実証分析を行うことで、論理的でエビデンスレベルの高い研究成果をあげることを目指します。しかし、高度なテクニックや数式を扱うほど、政策担当者や現場、一般の方々とは距離が離れてしまいがちです。研究としての質を高めながらも関係する皆様とお互いに問題への理解を深め合いながら前に進む研究者を志して日々研鑽(けんさん)を積んでいく所存です。
埼玉県出身。2024年3月東京大学大学院修了(博士(農学))。同年4月より現職。 |
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