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農林水産政策研究所

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クローズアップ研究者 丸山 優樹

農林水産政策研究所 研究員(食料領域)

専門:農業経済学や実験経済学を用いた消費者行動分析

これまでの研究はどのようなものですか?

  これまで、消費者の購買行動を実験経済学の手法を用いて定量的に評価してきました。具体的には、西アフリカ地域の食料安全保障や北アフリカの食薬資源を活用した産業振興に着目し、主に二つの課題に取り組んできました。
  一つは、西アフリカのモーリタニアにおけるコメ消費と生産に関する研究です。まず、消費に着目すると、近年モーリタニアでは調理時間短縮の観点からコメ食文化が急速に広まっています。そのため、国産米の生産力強化に向けた国際支援も盛んに行われているものの、消費者が輸入米を好む状況が続いており、国産米の自給率は低迷しています。その結果として、2008年に生じた食料危機では、国際市場におけるコメ価格高騰から、食料不足に陥った国も ありました。これらの背景をもとに、食料安全保障の観点からも国際市況に左右されない食料政策が求められています。そこで我々の研究チームでは、消費者へのアンケート調査を実施し「輸入米が好まれる要因はどこにあるのか?」「仮に国産米の問題点が解消された場合に消費は増大するのか?」について評価を行ってきました(写真(左)参照)。その結果、国産米は夾雑(きょうざつ)物(もみ殻や小石など)が多く混入しており、輸入米に比べ品質面で劣っていることが分かりました。その一方で、国産志向をもつ消費者も数多く、国産米が輸入米と同程度の品質を有する場合には、国産米を好んで消費する傾向が分析結果から把握されました。
  他方、生産側においても、自給率低迷の要因があります。モーリタニアでは温暖な気候を生かし、雨季と乾季でのコメの二期作が政府によって推奨されています。しかし、その思惑とは裏腹に、市場ニーズに即さない国産米は価格が低迷していることか ら、より収益性が見込める野菜栽培に転換する農家が増えています。そこで、我々は「コメを生産したいと考える市場価格はいくらなのか?」「価格以外に どのような要因が作物選択に影響しているのか?」 について、農家へのアンケート調査から解明を試みました(写真(右)参照)。これまでの分析結果から、市場価格や収量など売上げに直接影響する要因以外にも、生産エリアでの灌漑(かんがい )設備の整備状況や農家の年齢・性別など、様々な要因がコメ作付けに影響を及ぼすことが把握されつつあります。
  二つ目は、北アフリカのモロッコとチュニジアを 対象とした植物油に関する研究です。両国は、地中海に面しているため、その風土を生かし、モロッコではアルガン、チュニジアではオリーブが盛んに生産されています。しかし、両国の搾油・精製技術が低いことに加え、世界的な知名度も低いことから、 欧米諸国への資源輸出国に甘んじている状況にあります。そのため、両国の搾油・精製技術を向上させ、化粧品や食用油を生産・輸出する産業基盤づくりに関する研究を行ってきました。本研究チームは、経済学や食品工学など様々な分野の研究者によって構成されており、分野横断型の研究となっていました。その中で、モロッコ産アルガンオイル(化粧品と食用油)とチュニジア産オリーブオイルの輸出戦略を模索する第一段階として、日本の消費者を対象にアンケート調査を実施し、両商品に対する消費者選好の評価を行いました。

モーリタニアでの調査風景(消費者調査) モーリタニアでの調査風景(農家調査)
モーリタニアでの調査風景(消費者調査) モーリタニアでの調査風景(農家調査)

今後の抱負はなんですか?

  これまではアフリカ地域を中心に研究を進めてきました。しかし、私が注目してきた食料安全保障や 輸出戦略の検討は、アフリカ地域にとどまらず日本においても大変重要な課題であると考えています。 他方、新型コロナウイルス感染症の流行により、感染予防の観点から中食や内食需要が伸びるなど、人々の生活様式は急激に変化しています。そのため、変化を敏感に捉え、柔軟に対応する能力が研究者にも求められていると考えています。
  以上を踏まえ、これまで培ってきた調査・分析手法を活用するだけでなく、柔軟性や速報性も意識した研究を遂行し、我が国の農林水産業の持続的な発展や外生的ショック(感染症や災害など)に強靭(きょうじん)な食料需給体制の構築に寄与できる研究者を目指します。

略歴      研究員紹介のページを見る

千葉県出身。2021年3月筑波大学大学院博士後期課程修了(博士(農学))。同年4月より現職。

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