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関東農政局

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5.水争いの激化と大干ばつ【「農」と歴史】

明治以後の利水と排水

   河川から用水を引いている地域は恵まれていますが、九十九里(くじゅうくり)平野の川は小さい割には灌漑面積が大きく、様々な用水慣行がありました。木戸川(きどがわ)では支流・松合川で約500haが田越灌漑、本流では約80haが灌漑。ひとたび渇水となると平均4割の減収となりました。境川はわずか9kmほどの小川ですが、6つのがあり灌漑面積は約2,000haという広さ。水は足りるはずもなく、渇水時には番水がしかれています。この川は過去、数名の殺傷者が出るという激しい水争いがありました。また、真亀川(まがめがわ)の小沼田堰から水を引く集落は比較的高い土地にあるため堰によって水位を高くしようとします。するとその上流地域にある広い範囲の低地(元は湖沼であった水田)に水が流れ込み、わずかな降雨でも稲が腐るという事態が発生し、江戸中期より昭和まで紛争が続いています。

   このように、この平野では渇水に劣らず排水不良による被害も深刻でした。従来、排水池や調整池のような役割を果たしていた沼地が干拓され、水田となるにしたがって排水が悪くなり、加えてその水田の用水のため川に堰を設けたことから、よけい川の流れが悪くなり、湛水被害が生じるという悪循環です。

   このため、大正時代になってようやく排水改良のための河川改修が行なわれるようになります。ところが、この改修が用水不足をさらに激化させることになります。断面を広げ、掘削された河川に周辺の地下水がしぼり出され、もともと砂地のザル田であった水田から水が抜けてしまうという事態が発生するようになったわけです。

   また、水源地であった八街ガ原が明治以降、いわゆる「下総(しもうさ)開墾」により林の木が伐採され、池沼なども埋め立てられて、水源地としての涵養機能が弱まったことも、この平野の水不足に拍車をかけることになったのです。


 

水争いの激化

   九十九里平野の水争いは、江戸時代から昭和に至るまでに50数回記録されていますが、これは訴訟をともなうような大きな争いであり、小さな水ゲンカはいつも起こっていました。前述したように、時代が後になるほど増えてきています。

   千葉の県民気質は陽気で義理人情に熱いが、漁師の気質も混じって血の気が多いなどと言われたりします。水争いも半端ではなく、竹やり、日本刀、時にピストルや猟銃など物騒な武器まで登場します。

   明治27年、栗山川(くりやまがわ)の水をめぐって両岸の農民2百数十名が、手に鍬、鋤、竹やり、日本刀、仕込杖などを持ち白装束を着て激突、不幸にも2人の犠牲者を出しています。

   また、昭和8年の干ばつでは、ある農民が水利組合長を刀で切りつけたり、農民が大勢押しかけ村長宅から米を強奪したりというような話も残っています。

   気質が荒っぽいというより、それだけ農民の暮しが悲惨だったのでしょう。ある古老の話によれば、今年は豊作だと農民が喜んでも、栗山川南部の農地は反収1石~1石2斗(3俵程度)、しかも3~5年に一度は水害か干ばつに襲われると言うありさまで、その窮乏ぶりは想像を超えていたとのこと。

   明治35年の大風雨の年は収穫皆無、翌年も小石のようなヒョウが降り、上境村(現横芝光町)、蓮沼村(現山武市)等の農作物は全滅、このため農民はほとんど出稼ぎに行き、村の人口は半減、この時の負債を返すのに10年を要したと言われています。

   そして、昭和8年、9年と古今未曾有の大干ばつに見舞われることになるのです。


江戸時代~昭和時代までの水争いの地域別発生回数

 

記録的な大干ばつ

   昭和8年、九十九里平野は古老も経験したことのないという大干ばつに見舞われます。沼地を干拓した湿田でさえ干からびて、飯米どころか種モミをとるのがやっと、娘を売り夜逃げしたという話もあちこちで聞かれたというありさまでした。翌9年も、前年に劣らない大干ばつが発生します。

   そして、同15年、8年の事態を超える記録的な干ばつが発生します。水争いする水すらなく、借金のかたに屋敷や田畑、あげくは子供まで売り渡さなければならないなど、農民の暮しは窮まりました。

   こうした度々起こる大干ばつは、新たな水源の必要性を痛切に感じさせるものでした。九十九里平野では、次第に数10kmも離れた利根川から下総台地(しもうさだいち)を越えて水を引く前代未聞の大事業、「両総用水」の実現が待望されるようになっていきました。

 

*   両総用水事業については、事業に至る経緯   2.両総用水の完成をご覧ください。

 

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