
70年以上にわたる愛農活動を基盤にして、有機農家がつくった農産物を売切ることに力を注いできた。
愛農高校で学んだ卒業生たちが農業で地域を盛り上げるだけでなく、新たな農業後継者を育てることにも力を注いでいる。有機農家を支える思いを強く持つ流通組織。
三重県に本部がある公益財団法人全国愛農会は、「農業で地域を盛り上げて、活性化させること」を「愛農運動」として、戦後間もない1945年から取り組んできた。愛農運動を広げていくためには教育が必要だと考え、1963年に愛農学園農業高等学校(以下、愛農高校)を設立、担い手育成にも力を注いできた。設立当初は先進的な農業を目指していたが、1972年以降は有機栽培を指向するようになった。
愛農流通センターを設立し、初代社長となった池野雅道さんも、愛知県小原村(現在の豊田市)で父の代から愛農運動に携わるとともに、養鶏及び水稲栽培を行っていた。鶏のえさは内容が明確なものを使い、卵の味についても高い評価を得ていたが、農協を通じて出荷する際の価格に納得できずにいた。
また、有機農業に取り組んでいる仲間たちも、納得できる価格で販売できる売先を探すのに苦労していたことから、「農家が直接消費者と直接つながるしかない」と産直販売に取り組むこととした。
農家が一口5万円ずつ出資し、1982年に愛農流通センターを設立、池野さんが初代の社長となった。東京都や大阪府でも愛農組織が生まれたが、農家が中心となり設立したのは愛知県だけだ。
有機農業が理解を得るのは難しい時代だったが、有機農産物に興味を持つ消費者も現れるようになってきていた。
愛農流通センターの基盤には愛農運動があり、現在、代表取締役を務める江端貴さんをはじめ、多くの愛農高校卒業生が同センターの運営を担っている。
「周囲にがんばっている愛農高校卒業生が大勢いるから、僕らもやっていける。精神的な支えとしても大きい。」と江端さんは力を込める。また、後継者がいる農家も多いという。
取引のある農家は約70戸。加工品は約200事業者に及ぶ。仕入は、愛農高校の卒業生や卒業生の紹介先が多い。
農家と年に数回、生産する農作物や面積、出荷時期について打合せを行ってから、契約しており、契約した面積で生産された農作物は全量買取りをしている。
「仕入価格の設定は、基本的に農家が再生産できる価格としています。相場は一切関係なし。こちらから価格を決めることはありません。農家から希望する価格を提示してもらっています。」
仕入価格に自社のマージンを加え販売価格としており、年間を通して販売価格に大きな変動はない。不作等で市場価格が高くなれば割安感から売上は増加するものの、豊作等で市場価格が下がれば売上は減少し、安定した利益確保が難しいのが悩みだ。
「僕らの仕事は、生産や販売のための調整役です。農家がつくったもの、僕らが加工したものをいかに売切って利益を出すかが一番の仕事だと思っています。」
会社としては40期目を迎えた。開始当初は小売だけだったが、その2~3年後に生協への卸売を開始。生協の規模拡大に足並みをそろえ、売上が伸びていった。
売上は15~16年前まで順調で、ピーク時は9億7千万円ほどあったものの、現在は約7億3千万円と2割ほど減少している。
「理由は明確で、有機農産物がメジャーになり大手事業者が取扱いを始め、また、ネット販売も増えたからで、それまでは競合相手が存在しなかったからです。」
現在は売上の2分の1が宅配と店舗での小売、生協への卸売が4分の1、問屋への卸売が4分の1となっている。
この他にも、お客様と農家の繋がりを深めるため、月2回のマルシェや収穫体験等のイベントも開催している。
現在は、前述の小売・卸売のほか、精米工場、食鳥処理施設、パック詰め施設を自社で持っており、瓶詰や菓子などの製造も行っている。「愛農ネット本部という会社を設立し、農家が生産する中で発生する余剰分やB級品の加工・販売を行っています。農産物はどうしても出荷量や品質にばらつきがでるため、販売しきれない分が発生します。でも、加工品にすることでロスを減らすことができます。自社で6次産業が完結しているのが強みです。」
愛農流通センターは小売販売からスタートしたが、現在は有機農産物を生産する農家が、後継者不足等のため離農する場合に、土地、施設等を借受け、自社で営農する取り組みも行っており、2つの自社農場を経営している。
農業が抱える最大の問題は、農業就業人口の減少と高齢化だと江端さんは考えている。
「僕らがいま考えているのは、販売・流通に一区切りつけるということです。それは、販売・流通をやめるということではなく、一次産業・二次産業に直接携るべきではないかということです。」
現在、運営している2つの自社農場の運営を通じ、経営や雇用の難しさを感じているが、有機農業に取り組んでいる農家の畑を守りたいという思いも強い。
「売先は増えましたが、取引している農家は減少傾向です。更に、生産資材もエネルギーも海外だけに頼っていてはだめなこともわかってきました。今後とも、自社で一次産業に少しでも取り組めるような組織にしていきたいと思います。また、就農を希望する愛農高校の卒業生と離農予定の農家を結びつけるなど、取り組むべき課題はまだまだあると考えます。」