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農林水産省

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総合的病害虫・雑草管理(IPM)実践指針について

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17消安第6260号
平成17年9月30日

各農政局長あて
沖縄総合事務局長あて
北海道知事あて

消費・安全局長

 

I.趣旨
平成15年12月に取りまとめられた「農林水産環境政策の基本方針」(農林水産省循環型社会構築・地球温暖化対策推進本部決定)においては、環境保全に向けて農業者の主体的な努力を促すため、適切な肥料、農薬の使用等による環境負荷の低減とたい肥を利用した土づくりによる物質循環を促進する指針を策定し、この普及を図ることとされた。
さらに、平成17年3月に閣議決定された新たな「食料・農業・農村基本計画」では、「環境保全を重視した施策の展開」を図ることが改革に当たっての基本的視点として位置づけられ、環境問題に対する国民の関心が高まる中で、我が国農業生産全体の在り方を環境保全を重視したものに転換することを推進し、農業生産活動に伴う環境への負荷の低減を図ることとされた。
安定した農業生産を実現するためには、病害虫を適切に防除し、農作物被害を防止することは不可欠である。このため、従来から病害虫による被害を抑えるための手段を総合的に講じ、人の健康へのリスクと環境への負荷を軽減するための概念として、総合的病害虫管理(Integrated Pest Management:IPM)が国際的に提唱され、我が国においてもこれに向けた取組が行われてきた。
具体的には、[1]病害虫の発生予察情報を基にした適時・適切な防除の推進、[2]生物農薬、選択性の高い化学農薬及びドリフトの軽減を可能にする剤型の開発、[3]水稲での育苗箱施薬の普及等の取組が行われ、このような取組は、我が国におけるIPMの推進に少なからず寄与してきた。
しかしながら、消費者をはじめとした国民の環境問題や食の安全に対する一層の関心の高まりに応え、国民から支持される食料供給の実現を図る上では、病害虫・雑草防除の場面においても、従来以上に環境保全を重視した取組を推進することが求められている。
このため、我が国で推進すべきIPMとは何かを再整理し、望ましいIPMを農業生産現場に一層浸透させ、同時に国民の深い理解を得ていくことが必要不可欠なことから、消費・安全局において総合的病害虫管理(IPM)検討会を開催し、その検討結果を踏まえて本指針を取りまとめた。
各都道府県においては、本指針を参考にして、各地域の病害虫・雑草の発生と被害の実情に即した実践指標を策定し、病害虫防除担当者のみならず普及指導員、試験研究者等の関係者、生産者団体等が一体となってIPMの推進に向けた取組がなされることを期待する。

II.総合的病害虫・雑草管理(IPM)の推進

1.総合的病害虫・雑草管理の定義等

(1) 定義
本指針では、IPMを雑草の管理を含め、総合的病害虫・雑草管理と定義する。
総合的病害虫・雑草管理とは、利用可能なすべての防除技術を経済性を考慮しつつ慎重に検討し、病害虫・雑草の発生増加を抑えるための適切な手段を総合的に講じるものであり、これを通じ、人の健康に対するリスクと環境への負荷を軽減、あるいは最小の水準にとどめるものである。また、農業を取り巻く生態系の攪乱を可能な限り抑制することにより、生態系が有する病害虫及び雑草抑制機能を可能な限り活用し、安全で消費者に信頼される農作物の安定生産に資するものである。

(2) 目的
現在、我が国で使用されている化学農薬は、人の健康や食品の安全性、環境への影響を厳しく評価した上で登録されており、使用基準に定める使用方法を遵守していれば、人の健康や環境に対して悪影響を与えるものではない。
しかしながら、新たな「食料・農業・農村基本計画」(平成17年3月25日閣議決定)において、「環境保全を重視した施策の展開」を図ることが改革に当たっての基本的視点として位置づけられ、環境問題に対する国民の関心が高まる中で、農業生産活動に伴う化学農薬の使用については、人工化合物の開放系への放出を意味し、また、その多くが食用作物に対して行われることを考慮すれば、細心の注意を払い、かつ、必要最小限に抑える取組が必要不可欠である。このため、農業者は、人の健康に対するリスクと環境への負荷の低減を図るために一層努力することが、化学農薬の使用者としての責務であることを自覚し、環境保全等に向けた取組を積極的に推進する必要がある。
以上のことから、IPMの目的を、人の健康に対するリスクと環境への負荷を軽減あるいは最小限にし、我が国農業全体を環境保全を重視したものに転換することにより、消費者に支持される食料供給を実現することと位置付ける。

(3)メリット
IPMの推進は、以下のとおり、農業者と消費者の双方にメリットがあり、これらのメリットを通じて、消費者をはじめとした国民から真に支持される食料供給の実現が図られるものである。

[1] 農業者にとってのメリット
IPMは、経済性を考慮しつつ適切な防除手段を総合的に講じるものであるが、その際、病害虫・雑草の発生状況に応じて、化学農薬等の使用を含む多様な防除手段の中から最も適当なものを選択して、適切に講じることが求められる。病害虫・雑草の発生状況に対応した最適な防除手段には、経済的に受け入れ可能なコストにより、安全で消費者に信頼される農作物の安定した生産を確保できるという農業者側のメリットがある。

[2] 消費者にとってのメリット
IPMは、利用可能なすべての防除技術を経済性を考慮しつつ慎重に検討し、病害虫・雑草の発生増加を抑えるための適切な手段を総合的に講じるものであり、これを通じ、人の健康に対するリスクと環境への負荷を軽減、あるいは最小の水準にとどめるものである。その結果として、化学農薬の使用を必要最小限に抑えることとなり、消費者側にとっても多大なメリットがある。さらに、農業者によるIPMの実践により、農作物の農薬使用履歴等の栽培管理状況に関する情報が記録されることにより、消費者は、その情報を知る機会を得るというメリットもある。

2.IPMの基本的な実践方法
IPMは、以下の体系図に示すとおり、

[1] 輪作、抵抗性品種の導入や土着天敵等の生態系が有する機能を可能な限り活用すること等により、病害虫・雑草の発生しにくい環境を整えること

[2] 病害虫・雑草の発生状況の把握を通じて、防除の要否及びそのタイミングを可能な限り適切に判断すること

[3] [2]の結果、防除が必要と判断された場合には、病害虫・雑草の発生を経済的な被害が生じるレベル以下に抑制する多様な防除手段の中から、適切な手段を選択して講じること
の3点の取組を行うことが基本である。

総合的病害虫・雑草管理(IPM)の体系


3.IPM実践指標の策定について

(1) IPM実践指標の策定の必要性
現在、化学農薬の使用回数の削減や生物農薬の利用等に積極的に取り組んでいる事例が農業生産現場で見られるようになっている。しかしながら、このような現場においても、例えば、化学農薬に代わる適切な防除手段がない場合に、化学農薬の使用回数の削減のみを目標とすると、農業者にとって、かえってコスト・労力面で過重な負担を強いられるという事態が生じかねない。この場合、IPMの基本点を踏まえて、単に化学農薬の使用回数のみに着目するのではなく、環境に配慮した散布方法や飛散しにくい剤型及び選択性の高い農薬の使用等の環境負荷の軽減に向けた取組が導入されることが重要である。
以上のことを踏まえて、IPMに関する理解を促進し、その考え方を正しく農業生産現場に反映させるため、農作業の各工程におけるIPMを実践するための具体的な取組を示し、IPMを実践する農業者自身による目標の設定並びに各取組についての確認及び評価を連続的に行うことができるIPM実践指標を策定する必要がある。
しかし、病害虫・雑草の発生態様は、地域によって様々であり、地域の実情を踏まえた最適な防除手段を選択することが必要となることから、各都道府県においては、IPMの趣旨に基づき、具体的な実践指標(以下「IPM実践指標」という。)を地域の実情に応じて策定し、その実践度を簡潔に評価する仕組みを構築することが重要である。

(2)IPM実践指標とは
IPM実践指標は、IPMを実践する上で必要な農作業の工程(以下「管理項目」という。)と各工程における具体的な取組内容(以下「管理ポイント」という。)を示すことで、農業者自身がIPMに関する取組の程度を容易に把握するためのものであり、都道府県が地域の実情に応じて選定した作物ごとに策定するものである。農業者は、管理ポイント毎に、前年の実施状況や今年度の目標と照らし合わせ、取組の評価を行い、翌年度の取組に反映させる。
なお、新たな「食料・農業・農村基本計画」を踏まえ、農業者が環境保全に向けて最低限取り組むべきものとして平成17年3月に策定された「環境と調和のとれた農業生産活動規範」(平成17年3月31日16生産第8377号農林水産省生産局長通知)においても、上記IPMの基本となる3点の考え方に基づいた基本的な取組が求められている。IPM実践指標は、同規範が求める基本的な取組から、IPMの概念により一層合致した具体的な取組へとステップアップしていくための道標を提供するものである。

(3) IPM実践指標策定上の留意点
各都道府県がIPM実践指標を策定するに当たっては、以下の点に留意することが重要である。

[1] IPMの基本である3点の取組(予防的措置、判断、防除)を管理ポイントに反映すること。

[2] 農業者が実践度を簡単に評価できる客観的で分かりやすい記述にすること。

[3] 農業者がそのコスト・労力面においても実施可能な手法を管理ポイントとして設定すること。

[4] 管理ポイントは、IPMを実践する上で真に必要なものに限定し、必要以上に多く設定しないこと。

[5] 地域段階でのまとまった取組を積極的に評価することができるよう、管理ポイントを設定すること。

[6] 化学農薬は、効果的・効率的な防除を実施する観点から、IPMを実践する上で重要な防除手段の一つであるが、その使用に当たっては、適切な種類の選択、使用量及び使用方法を重要な管理ポイントとして設定すること。

[7] 農薬等の使用履歴を含めた栽培管理状況に関する記録は、IPMを実践したか否かを確認する上で極めて重要であり、また生産された農作物の安全性についての消費者の信頼を得る上でも必要不可欠なものである。したがって、栽培管理状況について記録することを重要な管理ポイントとして設定すること。

[8] 各都道府県においても、病害虫・雑草の発生状況等により地域ごとに適切な病害虫・雑草管理手法が異なることが想定されることから、各都道府県で策定するIPM実践指標を地域別に策定するか、あるいは、管理ポイントに病害虫・雑草の発生状況等に応じた選択肢を設けることにより、地域の実情に応じたIPM実践指標を策定すること。

(4) IPM実践指標モデルの活用
IPM実践指標の策定は初めての取組であることから、我が国における代表的な作物である水稲を対象としたIPM実践指標のモデル(別添)を策定したので、各都道府県においては水稲を対象としたIPM実践指標を策定するに当たり参考とされたい。
なお、IPM実践指標のモデルは、今後主要作物別にその充実を図ることとしているが、水稲のモデルを参考に各都道府県で独自に他の作物のIPM実践指標を策定することは可能であるので、積極的に取り組むことが望ましい。

4.IPM実践指標に基づくIPMの具体的な推進方策

(1) IPM実践農業者のモデル的育成
IPMを実践する農業者(以下「IPM実践農業者」という。)を育成するためには、実証ほの設置等により、IPMの趣旨・効果を農業者に理解してもらうことが重要である。また、IPMを実践するモデル地域(以下「IPMモデル地域」という。)を設定し、当該地域に適用されている栽培暦にIPM実践指標をチェックリストとして添付すること等により、次のような指導を行うことが重要である。

[1] IPMモデル地域の農業者の実情を正しく把握した上で、IPM実践指標に照らして、当該地域における目標を明確に定める。

[2] IPM実践指標に記録した取組結果について評価を行い、翌年度の取組に反映させる。

[3] 化学農薬、生物農薬等の使用履歴を記録し、いつでも情報提供できる状態とする。

(2) IPM実践指標の活用方策
IPM実践指標の具体的な活用方策としては、各農業者が自己点検した結果を以下の考え方で指数化することにより評価することが考えられる。

IPM指数=実施した管理ポイントの点数の合計/当該年度の病害虫の発生状況等から対象となる全管理ポイントの最高点数の合計×100

評価の手法としては、案の1から案の3に示すように3通りの手法が考えられる。


(案の1:指数値で評価する場合)

IPM指数 評価結果
指数80以上
(IPM実践農業者)
A
指数60以上80未満
(IPM実践途上農業者)
B
指数60未満
(IPM準備中農業者)
C

(案の2:指数の向上度で評価する場合)

IPM指数向上度 評価結果
現状値より20ポイント以上の向上 A
現状値より10~20ポイント未満の向上 B
現状値から10ポイント未満の向上 C


(案の3:モデル地域全体の農業者の相対的な評価で評価する場合)

IPM指数の分布 評価結果
上位3割 A
中位4割 B
下位3割 C

 

案の1は、各農業者が設定した管理ポイントの合計点数を100とした場合に、実際に実施された管理ポイントの合計点数の割合であることから、IPMの達成度合いを客観的に測定できるというメリットがある。
しかしながら、IPMの導入初期においては、案の1を用いてIPMの客観的な達成度合いを測定するよりも、むしろ、今年度のIPMの達成度合いが昨年度の達成度合いよりどの程度向上したかを示す手法である案の2を用いる方が、農業者のIPMへの取組を促し、より農業生産現場にIPMが浸透しやすいと考えられる。このため、当面は、案の2での評価を推奨するが、積極的な取組がなされている場合には、案の1と案の2を組み合わせた評価手法を用いることも有効である。
また、案の3のようにモデル地域全体の農業者の相対的な評価を組み合わせることにより、農業者の意識啓発を図ることも考えられる。
このほか、管理項目をIPMの基本的な3点の取組別に分類して、それぞれの指数でバランスグラフを作成し、基本的な取組がバランスよく達成されているか否かを指導に用いることも考えられる。
さらに、地域全体のIPM実践度を評価する際には、以下に示す手法を推奨する。

例:IPMモデル地区(水稲作付面積 6ha)の場合
A農家2ha(IPM指数 80)
B農家1ha(IPM指数 50)
C農家3ha(IPM指数 60)

例:IPMモデル地区(水稲作付面積 6ha)の場合の算式

(3) IPMモデル地域外への普及
IPM実践農業者の育成は、IPMモデル地域における成果を踏まえ、可能な限り各都道府県の全域で広めていくことが重要である。
このためには、各都道府県の病害虫防除所等の防除組織のみで多くの農業者に対して指導を行うことは困難であるので、各都道府県の普及指導員に対して研修を行い、その指導力の向上を図りつつ、その協力を得て指導体制を強化することが必要である。また、IPM実践農業者の育成をIPMモデル地域以外へ普及させるためには、生産者団体の協力を得る必要がある。

5.IPMの推進に向けた課題
各都道府県は、IPMを推進するため、本指針を活用して各都道府県の実情に応じたIPM実践指標を主要作物・地域別に策定する必要がある。この実践指標は、新たな技術や実証データの蓄積状況により随時見直しを行うとともに、これまでの防除暦の内容についても見直す必要がある。
その際に留意すべき事項として以下の点が考えられる。

(1) IPM実践指標の改善に向けた取組

[1] 新技術の導入に当たっての実証
IPMの推進を図る上では、人の健康に対するリスクと環境への負荷を軽減あるいは最小の水準にとどめるための新たな防除技術・管理手法を導入することが重要である。農業者に新技術の普及を図る上では、当該技術が十分な防除効果を有することはもちろんであるが、その際のコスト・労力が慣行防除・管理と比較し、農業者にとって負担とならないことも極めて重要である。このため、IPM実践指標の管理ポイントに新たな技術を導入する際には、コスト・労力に十分留意し、当該技術の実証を行う必要がある。

[2] 農業者自身で実施可能な調査手法等の導入
IPMを実践する上では、病害虫の発生状況の予測及び監視が極めて重要である。また、生態系が有する病害虫及び雑草抑制機能を可能な限り活用する観点からは、例えば土着天敵の発生状況調査も重要である。このため、主要病害虫・雑草ごとに新たな要防除水準の設定や発生予察技術の高度化に努めるとともに、農業者自身で実施可能な病害虫・雑草及び土着天敵の同定診断手法並びに簡易の発生量調査手法の研修等を実施することにより、これらの手法の導入を積極的に推進する。

[3] 環境負荷の軽減等に向けた農薬使用の推進
環境負荷の軽減等に向けた農薬使用を推進する上では、十分な効果が得られる最小の使用量や新たな飛散防止措置の効果の実証等を農業生産現場で実施し、その結果を踏まえた推進を図ることが重要である。その際には、このような取組はコストの低減にもつながるものであることについて農業者の理解が得られるように努める。

(2) 都道府県の防除基準及び防除暦の見直し等について
農業者が病害虫・雑草の防除を行う際に参考にする資料として、都道府県が作成している防除基準及び普及指導センターや農業協同組合等が作成する防除暦(栽培暦)がある。今後、この防除基準や防除暦の作成に当たっては、IPMの定義と目的を可能な限り反映させ、病害虫・雑草の発生状況に応じ、多様な防除手段の中から適切な防除手段を選択することができるようにする。さらに、IPM実践指標を添付すること等により、IPMの推進について関係機関の理解と協力を得られるようにする。

III.主要作物別IPM実践指標策定モデル

 

IV.おわりに
本指針は、昨年11月からの4回にわたる検討会における議論を踏まえ、パブリックコメントによって国民からの意見を広く求め、その結果を取りまとめたものである。
都道府県、農業協同組合等の病害虫・雑草防除関係者や農業者によって、本指針が積極的に活用されることにより、農業生産現場でのIPMの推進が図られることを期待するところである。さらに、本指針が、農業関係者に活用されるのみならず、一般国民にも周知されることにより、農業生産現場で取り組まれているIPMに対する理解が深まり、我が国の農作物の安全性に対する信頼が一層深まることを期待するところである。
なお、本指針は技術の確立・普及状況や各都道府県等の意見を踏まえて見直しを行っていく必要があると考えているので、IPM実践指標を策定する都道府県等にあっては、本指針の改善に向けて積極的な意見をお願いしたい

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