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農林水産省

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アクリルアミドの食品からの発見の経緯 ~アクリルアミド問題の背景について~

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  • 1997年にスウェーデンで鉄道用トンネルの建設工事が進められていました。そのトンネル工事現場で大規模な水漏れが発生したため、同年8月から9月にかけて、トンネルの内壁に約1400トンという大量の充填材が用いられました。ところが、この充填材の原料にアクリルアミドモノマーが含まれていました。トンネル内の漏水は、トンネル出口近くの河川に排出されていました。
  • 9月下旬になると、建設工事現場近くの河川の下流水域で、魚が死ぬようになり、また河川の水を飲んでいた牛が麻痺を起こすなどの急性の毒性症状が観察されるようになりました。トンネル工事の充填材に含まれていたアクリルアミドモノマーが環境中に流出し、河川や地下水、井戸水を汚染していることが原因とわかりました。
  • トンネル工事は、アクリルアミドの環境への流出問題によって一時中止となりました。地方当局は、緊急事態宣言を出し、アクリルアミド汚染の危険性のある地域を特定しました。この事件について、欧州では多くのマスコミ報道が行われました。その後、アクリルアミドを含む充填材の替わりに、コンクリートでの覆工工事が行われ、トンネル工事が再開されたのは2004年になってからのことでした。
  • この事件により、周辺住民や200名以上のトンネル建設工事作業員に対して、アクリルアミドによる健康影響が生じている懸念が生じました。スウェーデン政府、大学が共同で調査したところ、作業員の多くがアクリルアミドを呼吸や皮膚から大量に摂取・吸収していることが判明し、一部の人にはアクリルアミドによる毒性としてよく知られている末梢神経の障害が生じていることが明らかとなりました。
  • アクリルアミドによる環境汚染と消費者の反発から、この汚染地域の周辺で生産されていた畜産物や農産物は処分される結果となりました。しかしながら、その当時の調査では、汚染地域で生産されたそれらの食品からは、アクリルアミドが検出されることはありませんでした。
  • スウェーデン政府は、作業員の他に、周辺地域の家畜、野生動物、住民がどのくらいの量のアクリルアミドを摂取したのかを評価するため、血中のヘモグロビンに結合しているアクリルアミド濃度の測定を行いました。その結果、建設工事に直接関係していない住民や汚染地域外に住む人々からも低濃度のアクリルアミドが検出されました。このため、トンネル工事による環境汚染に由来するものだけではなく、何か共通の汚染源が存在する可能性が考えられました。また、この調査の中で、喫煙者では血中のヘモグロビンに結合しているアクリルアミドの濃度が、非喫煙者より高いこともわかりました。
  • ヒトがアクリルアミドを摂取している量が野生動物よりも多いこと、その後の調査でタバコの煙からアクリルアミドが見つかったことからアクリルアミドには燃焼が関係していると考えられること、工業用途のアクリルアミドによるヒトの汚染は無視できる程度の量であることなどを考慮した結果、ヒトがアクリルアミドを摂取している原因は、加熱食品ではないかとの仮説が立てられました。この仮説を証明するため、加熱した飼料を用いて動物実験が行われました。その結果、加熱した飼料及びその飼料を食べた動物の体内からアクリルアミドが検出されため、加熱した食品にアクリルアミド含まれている可能性がさらに強くなりました。
  • スウェーデンでは、この環境汚染に端を発し、食品中のアクリルアミドに関する研究が1998年に始まりました。そして2001年になって、ある特定の食品に非常に高濃度のアクリルアミドが含まれていることを突き止めました。その「高濃度にアクリルアミドが含まれている食品」というのはフライドポテトでした。
  • スウェーデン政府、ストックホルム大学は、その後も共同で食品に含まれているアクリルアミドについて調査を続け、2002年4月に、炭水化物を多く含む食材を焼いたり、炒めたり、揚げたりして製造した食品にアクリルアミドが含まれていると世界に向けて発表しました。
  • 工業用のポリアクリルアミドに不純物として含まれているモノマー由来の汚染や、トンネル工事の作業員のように特殊な環境におかれている場合を除き、神経毒性を持ち、発がん性があるアクリルアミドという有害化学物質を人が摂取しているとは誰も考えていなかったため、ある食品に高濃度のアクリルアミドが含まれているというこの発表は、世界に大きな衝撃をもたらしました。
  • この発表後、イギリス、ノルウェー、スイス、カナダ、アメリカなども自国の食品中のアクリルアミドを分析し、食品に含まれていることが確認されたと報告しました。
    わが国では、国立医薬品食品衛生研究所独立行政法人食品総合研究所(現:国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構)が、スウェーデンの発表後に食品中のアクリルアミドの含有量について調査を行い、わが国で販売されている多くの食品にも、諸外国の報告と同様にアクリルアミドが含まれることを確認し、2002年10月に薬事・食品衛生審議会食品衛生分科会毒性部会で報告しました。

[参考文献]

Margareta Tornaqvist, Aclylamide in Food: The Discovery and its Implications, Chemistry and Safety of Acrylamide in Food.(2005)

Sune Eriksson, Acrylamide ind food products: Identification, formation and analytical methodology. Stockholms universitet. (2005)