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農林水産省

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森を生かす 森を生かす

つくる、触れ合う
新しい「森」の楽しみ方

森が持つ「癒やし」や「環境保全」などの価値を最大限に引き出す「森業(もりぎょう)」。
地域の賑わいや雇用を創出し、人と地域の未来を育てる新たな取り組みに迫ります。

森が秘める多彩なパワー

日本の国土の約3分の2を占める森林。森は様々な恵みで、私たちの暮らしを支えてくれています。森には具体的にどんな役割があるかを見ていきましょう。

森林には、(1)土砂災害防止・土壌保全、(2)水源涵養(かんよう)、(3)地球環境保全、(4)生物多様性保全、(5)物質生産、(6)保健・レクリエーション、(7)快適環境形成、(8)文化という8つの多面的機能があります。中でも、土砂災害の防止・降雨などの水資源を育み守る水源涵養・地球環境保全(温暖化の防止)という暮らしや安全に直結する機能は、多くの人が森に期待する部分です。このほかにも、森によって大気の浄化や強風などの影響を和らげるといった「人に快適な環境」を形成したり、森が精神文化を育み、教育の場となるといった「文化的な機能」も含まれます。さらに近年、注目されているのが、森の「癒やし効果」です。森で過ごすと、ストレスホルモン(コルチゾール)が減少することが確認されています。「森林浴」は1982年に林野庁が提唱したもので、その研究成果は世界からも注目を集めているのです。これだけ豊かな日本の森は、私たちにとってかけがえのない財産といえます。

未来をつくる森業

森の多様な魅力を活用する「森業」

森を抱える山里では人口減少と高齢化が進み、手入れが行き届かない人工林が増えています。光が入らず下草も生えない暗く荒れた森は、動植物が暮らしにくく、災害にも弱くなります。林業の衰退にもつながるこれらの課題を解決するカギを握るのが「森業」です。森業とは、森の多様な価値を活用し、都市部の人々や企業を呼び込むことで、地域を活性化する取り組みです。「木を育てて伐採して売る」林業に対して、森業はキャンプや森林浴、森での企業研修、子どもたちへの森林環境教育など、さまざまな方法で「森を通じて地域を元気にする仕組み」です。地域が元気になることで、森を手入れする人やお金が地域に集まり、美しく豊かな日本の森を未来に残せるようになります。

国土面積に占める森林の割合のグラフ。森林蓄積の推移のグラフ。近年は、毎年約6千万立方メートル(㎥)増加。55年で約6倍
木材搬出用に整備された作業道を活用し、森の中で鳥の巣箱づくりに取り組む子どもたち。自分たちの暮らしと森のつながりを実感できるのは、子どもの成長にとっても貴重な体験。撮影=都甲ユウタ

教室は森。
子どもたちの体験が次世代につながる

次世代を育む森林環境教育も森業の大切な柱です。奈良県吉野郡下北山村の合同会社森のびでは、村の教育委員会と協働し、小学生を対象とした体験型プログラム「森のび教室」を年3回実施。森のびが日頃から林業を営む民有林などを学びの場とし、水源涵養の仕組みを学ぶ実験や、間伐材を活用した歩道づくりなど、森林に触れながら学ぶ様々な体験を行っています。「大事なのは、まず子どもたちに森を好きになってもらうこと」と森のび・河野祐子さん。同じく森のび・安井洋文さんは、「森と自分たちの暮らしがつながっていると感じながら、成長してほしい」とその想いを語ります。森の中で高学年の子が低学年の子に「その木も、生きているんだよ」と教える場面もあり、豊かな森とそこにある命の大切さが子どもたちに受け継がれています。

木材搬出用に整備された作業道を活用し、森の中で鳥の巣箱づくりに取り組む子どもたち。自分たちの暮らしと森のつながりを実感できるのは、子どもの成長にとっても貴重な体験。撮影=都甲ユウタ
森をつくり水を守る

ESG投資やリスク管理、社会貢献の観点から、 森づくりに取り組む企業が増えています。企業価値や社員の健康向上にもつながる、森を舞台にした挑戦と国の支援を紹介します。

SDGsが定着する中、企業も森づくりに積極的に乗り出しています。その理由は社会貢献だけではありません。製品づくりに大量の水が必要など、森が育むきれいな水は企業活動を支えています。ESG投資やサスティナビリティに関する情報開示の観点からも、森林の保全や管理に関心を持つ企業が増加。社員の健康増進など多様な動機から森づくりに関わる企業の活動は、2024年度に全国2,000か所を超えました。そんな企業の取り組みを後押しすべく、林野庁ではこれまで「森林×ACTチャレンジ」という顕彰制度を行ってきました。「森林づくり部門」では企業が整備した森のCO2吸収量と取り組み内容を、「J-クレジット部門」では森林が吸収したCO2をクレジットとして企業が購入した取り組みを評価します。いずれも企業価値の向上だけではなく、地域への経済効果や森林管理の充実にもつながっています。2026年度からは、「森業アワード」として生まれ変わり、森林空間利用や企業の森林づくり活動、J-クレジットの活用など、多様な森林の価値を活かした取り組みを顕彰します。

森をつくり水を守る
おいしい水を守り、育む

企業理念に通じる森づくり

2003年以来、森を守り続ける活動をしているのがサントリーホールディングス(株)です。「サントリー 天然水の森」では、国内16都府県27か所、12,000ヘクタールを超える森の保全・整備を行っています。「ビールもウイスキーも清涼飲料も、良質な水なしにはつくれません。その地下水はもとをたどれば森で育まれています。森づくりは、『人と自然と響きあう』という企業理念の実践でもあります」とその想いを語るのは、サントリーの市田智之さんです。国有林や自治体の森を無償で整備する協定を最低30年単位で締結。様々な分野から40名を超える専門家とともに、水源涵養に科学的・長期的に取り組み、国内工場で汲み上げる地下水量の2倍以上の水を涵養しています。その結果として、自社製品、そして地域への水の還元を目指します。

企業による森林(もり)づくり活動の実施箇所数推移のグラフ
「サントリー天然水の森」の美しく豊かな水源の写真

「サントリー 天然水の森」[外部リンク]の美しく豊かな水源。2003年より続く、水源涵養への研究・取り組みは、自社製品である「サントリー 天然水」にも生かされています。 写真提供=サントリー

100年先の森を描き、活動

森づくりの活動ではまずは徹底的に森を調査し、30年から100年後の姿を見据えた整備計画を立て、それに従って間伐や植樹など地道な活動を続けていきます。荒れた森を少しずつ明るい健康的な森へと生まれ変わらせる地道な作業が続きますが、中でも最大の課題となっているのがシカです。「下草を食い尽くすシカが侵入しないように、専門家や地域のみなさんとも連携し、柵の設置などにより森が回復しつつあります」(市田さん)。子どもたちへの環境教育「水育」も積極的に行い、国内外累計179万人が参加。森と水への関心を次の世代へとつなぐ大切な場となっています。さらに、サントリーが蓄積した森づくりのノウハウを他の企業にも提供する取り組みもスタートし、「社会全体で森を守る輪」を広げようとしています。

(注)本記事の一部について、2026年8月5日に修正。

「サントリー天然水の森」の美しく豊かな水源の写真

「サントリー天然水の森」[外部リンク]の美しく豊かな水源。2003年より続く、水源涵養への研究・取り組みは、自社製品である「サントリー天然水」にも生かされています。 写真提供=サントリー

ふるさとの森を生かす

今、各地の自治体では、地域の森を生かした新しい取り組みを進めています。企業や都市部の住民といった関係人口を増やすことで、森の未来の可能性が大きく広がっています。

企業と同様に、自治体も森林管理の大切な担い手です。2024年度から導入された「森林環境税」(年間1人1,000円)は、市町村の森林整備の財源として活用。地域の実情に合わせて、独自の取り組みを始める自治体が増えています。自然体験ツアーや森林を使った企業研修の受け入れなど、森業を通じた関係人口の拡大は、新たな地域振興の柱になりつつあります。大切なのは、地域に収入が生まれて元気になるような新しい取り組みを考えていくことです。自治体と企業が協定を結び、社有林を地域に開放して体験プログラムを展開するというケースも生まれています。林野庁の基本計画では、森業の取り組みが行われている市町村の割合を、現在の4割から2030年度に6割とすることが目標。各地の自治体が知恵を出し合い、地元の資産である森をきっかけにした地域の未来を切り拓いています。

ふるさとの森を生かす
様々な取り組みで森を守る

森が支えるマラソン大会

2023年、「ゼロカーボンシティ宣言」を打ち出した宮崎県延岡市。その象徴的な取り組みのひとつが「延岡西日本マラソン大会」と環境保全の掛け合わせです。九州3大マラソンの1つであるこの大会で、市内の森林から創出した「J-クレジット」(森林が吸収したCO2を取引可能にした証書)を活用。大会運営や参加者の移動で排出されるCO2量を森林の吸収量で補います。J-クレジットの収入は森林整備の財源として地域内で循環し、森が大会を支える仕組みです。この取り組みは、林野庁「森林×ACTチャレンジ2025」のJ-クレジット部門優秀賞として表彰もされました。延岡市では今後もゼロカーボンシティの実現に向け、大会の環境負荷低減と森林クレジットへの関心・認知度向上を目指しています。

「延岡西日本マラソン」。毎回、全国から新進気鋭のランナーを迎えて開催。64回目を数えた2026年2月の大会には、789人がエントリーしました。写真提供=延岡市
「『多摩の森』活性化プロジェクト」のひとつ、奥多摩での「自然体験ツアー」。自然観察、木工体験、そば打ち体験を含む、子どもにも人気のプログラム。写真提供=おくたま地域振興財団

都市と森をつなぐ、東京発の挑戦

東京都内の森林整備を、都市部の特別区と多摩地域の市町村が手を組んで進める。そんな全国初の取り組みが「『多摩の森』活性化プロジェクト」です。2023年に協議会を発足し、現在は15自治体と東京都が参加。「主役はあくまでも市区町村で、東京都はコーディネーター役として側面から支える仕組みです」と、東京都 森づくり推進担当職員は語ります。活動の柱は「森林整備および保全」「カーボンオフセット」「木材活用」「現場体験」の4つ。自然体験ツアーでは協議会参加区住民を多摩の森に案内し、林業作業や自然観察を体験。参加者の満足度も高いとのことです。世界有数の大都市・東京の活動と発展を支え、多くの恵みをもたらす都民共有の財産の森。参加自治体が連携して森林整備などを行うことで、森林の多面的機能の発揮を促していきます。

「『多摩の森』活性化プロジェクト」のひとつ、奥多摩での「自然体験ツアー」。自然観察、木工体験、そば打ち体験を含む、子どもにも人気のプログラム。写真提供=おくたま地域振興財団

イラストレーション=久保田美穂

Column:昭和100年、そして次の100年へと森林をつなぐ~森への推し活に。「昭和100年記念分収造林」~

2026年は、1926(昭和元)年から起算して満100年という節目の年に当たり、4月には政府主催により記念式典が行われました。この機運を盛り上げるため、林野庁では「昭和 100年記念分収造林」を開始しています。分収造林(ぶんしゅうぞうりん)とは、造林者が国と契約し、国有林に植林、育成した木を販売し、その収益を国と分け合う制度です。今回の取組での注目は「グリーン・シェアリング」という新しいコンセプト。これは、地球温暖化防止や生物多様性保全に配慮した森林づくりを目指し、(1)60年以上の長期契約、(2)林地保全に配慮した森林施業、(3)地域性を重視した広葉樹の植栽を要件としています。契約する企業等にとっては、SDGs の取組として、国から通知される「環境貢献度評価」を自社レポート等で発信できる点もメリット。森への「推し活」として、この機会に多くの企業や団体等に活用してもらいたいと、期待を高めています。

取組事例第1号も誕生

2026年3月、NPO法人が宮崎県都城市の国有林を活用して、どんぐりの実から育てた苗木を植樹する「グリーン・シェアリング」第1号がスタート。今後、各地で植樹が行われる予定です。豊かな自然を次の100年へとつなぐ、持続可能な森林づくりが、いま全国で広がり始めています。

今回の記念分収造林ですでに植樹を行った、NPO法人の活動の様子。子どもから大人まで100人ほどが参加し、新たな森への一歩を踏み出しました。写真提供=特定非営利活動法人「どんぐり1000年の森をつくる会」
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