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MAFF TOPICS(1) あふラボ


MAFFとは農林水産省の英語表記「Ministry of Agriculture, Forestry and Fisheries」の略称です。
「MAFF TOPICS」では、農林水産省からの最新ニュースなどを中心に、暮らしに役立つさまざまな情報をお届けいたします。

介護食の世界を変えた凍結含浸法(とうけつがんしんほう)

暮らしに役立つ最新の研究成果を紹介します。


「筑前煮」の見た目はそのままでも、歯ぐきで簡単につぶせる軟らかさ。
「筑前煮」の見た目はそのままでも、歯ぐきで簡単につぶせる軟らかさ。
[軟らか食]
[軟らか食]

[ミキサー食]
[ミキサー食]
従来のミキサー食とは異なり、凍結含浸法による"軟らか食"は見た目が普通食と変わらない。


酵素の働きで、にんじんを丸ごと舌でつぶせる軟らかさを実現。
酵素の働きで、にんじんを丸ごと舌でつぶせる軟らかさを実現。



広島県立総合技術研究所食品工業技術センターが開発した「凍結含浸法」は、ミキサー食や刻み食が主流だった介護食に革命をもたらしました。

「凍結含浸法」とは、食材の内部に酵素を急速にしみ込ませ、酵素作用により食材の見た目や風味、栄養成分を保ったまま軟らかくする画期的な技術です。健常者の食事と見た目は同じに楽しめる介護食が提供できるようになり、"食のバリアフリー"が実現しました。

食材を軟らかくするには、冷凍した食材を解凍し、酵素液に漬けて減圧処理することで、細胞間にある空気と酵素液を素早く置き換えます。すると、食材内で酵素が作用し、細胞と細胞をつなぐ成分が分解されて軟らかくなるのです。

「野菜の細胞を酵素で分離する研究を行っていた際、酵素作用で見た目はそのままで軟らかい食材が作れることが分かり、超高齢社会の役に立ちたいと、介護食の開発に応用しました。研究当初は食材に酵素を素早くしみ込ませることに苦労しましたが、凍結と含浸(減圧)処理の組み合わせの発見で成功しました」(同研究所食品加工研究部副部長・柴田賢哉〈けんや〉さん)

介護食は食べやすさが最も重要視されるため、見た目や風味などのおいしさが失われがちです。見た目の良い食事は食べる楽しみを提供し、食欲増進につながります。介護施設では「入所者の食事時間が短くなった」「食べ残しも少なくなり、栄養状態が維持された」との報告もあり、食事による生きる意欲の回復につながっています。

「凍結含浸食品は形を維持するために冷凍食品が主流ですが、レトルトや缶詰、乾燥食品などの常温流通タイプも開発しており(農林水産省委託事業で実施)、高齢者用非常食としても期待されています。さらに、一般的な食事でも、軟らかい加工肉などの新食感食品のほか、酵素を変えれば血圧の上昇を抑えるペプチドを大豆内部に作らせることができるなど、食材の特徴を生かした機能性食品の開発にも応用できます」(柴田さん)

凍結含浸法の原理 凍結含浸処理と通常加熱調理における硬さの比較
減圧処理で食材の空気と酵素とを置き換える。食材の見た目や風味は変えず軟らかくすることができる画期的な介護食製造技術。
凍結含浸法の原理
凍結含浸処理と通常加熱調理における硬さの比較
レンコンは通常加熱調理に比べて約10分の1の硬さになっている。


あふラボトリビア
介護食に向かない食事とは

介護食を作るときに避けたいものは、のどにひっかかりやすいもち、酸っぱくてむせる酢のもの、かみにくいこんにゃくや肉、パサつくゆで卵やビスケット、サラサラした液体など。のどや上あごに貼り付くのりや葉物野菜なども要注意です。



資料提供:広島県立総合技術研究所
取材・文/細川潤子




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