令和6年度第5回畜産部会議事概要
令和6年度第5回畜産部会議事概要 PDF版(PDF : 528KB)
1.日時
令和6年10月4日(金曜日)13:00~15:44
2.場所
農林水産省 第3特別会議室(web併催)
3.出席委員
小針美和部会長、椛木円佳委員、二村睦子委員、石田陽一委員、井上登委員、小椋茂敏委員、小山京子委員、畠中五恵子委員、馬場利彦委員、前田佳良子委員、松田克也委員、丸橋弘資委員
4.概要
<資料に沿って農水省側から説明。その後各委員から意見を聞き取り。>
〇各委員からの主な発言内容は以下のとおり。
松田委員:現行の基本方針が策定されて以来、新型コロナウイルス感染症の発生、配合飼料等の生産資材価格の高騰等の想定を大きく超える現象が相次いで発生しており、酪農乳業をめぐる情勢も大きく変化している。このような情勢変化も踏まえ、新たな酪肉近の基本方針を策定するに当たり、酪農と両輪をなす乳業者の立場から3点意見を述べたい。
まず1点目、食料の安定確保が次第に困難になると懸念される中で、食料安全保障の確保を基本とした検討が必要ではないかということ。輸入に多くを依存する飼料や肥料の価格高騰に合わせて乳製品の国際価格も高騰し、円安の進行もあって、一時的には輸入乳製品価格が国内乳製品価格とほぼ同水準となるなど、かつてない事態が発生している。このような世界的な緊急事態の進行と同時並行で食料・農業・農村基本法の検証作業が進められたこともあり、食料安全保障の確保が最重要課題になったと認識している。今回のような不測の事態はいつでも起こりうることを前提に、国民の皆様の安全・安心に繋がるような、国内生産の維持・拡大を基本とした、具体的な政策による裏付けのある基本方針を策定していただきたい。
2点目、産業としての活力を維持するため、生産者の意欲への配慮が必要であるということ。バターと脱脂粉乳の需要不均衡の解消について、国産バターの需要は生産を上回るため、カレントアクセスはバターに寄せて輸入しているだけではなく、本年度は追加輸入も行われている状況。一方、国産脱脂粉乳の需要は依然として生産を大きく下回っているため、生産者団体は過去二年連続で生産抑制を行っており、本年度は生産抑制は行わないものの引き続き過剰在庫処理対策を講じている。国産バターの需要に合わせて生産をすれば脱脂粉乳の過剰在庫処理対策が必要となり、逆に国産脱脂粉乳の需要に合わせて生産をすれば、大幅な生産抑制とバターの追加輸入が必要となるというジレンマに陥っている。このような中で生産者の意欲を維持するためには、国産脱脂粉乳の需要を確保することで需要の不均衡を解消し、生産の維持を図っていくことが必要であると考えている。また、TPP等に基づき、チーズの関税が撤廃に向けて段階的に引き下げられており、近い将来、関税割当制度の効果はなくなる見込み1である。結果的にはプロセスチーズの原料用となるナチュラルチーズが輸入品に置き換わることになり、生産抑制が必要になりかねない状況。乳業者としては、相対的に競争力のあるソフト系チーズの生産拡大を図る所存だが、需要拡大には長い時間が必要。加えて、脱脂粉乳の需要拡大対策を講じたとしても、バターとの需要格差を一気に埋めるような急速な需要拡大は期待できないと考える。このような中で生産者の意欲を維持するとともに、酪農への新規参入者に魅力を感じていただくためにも、脱脂粉乳の需要拡大対策と合わせて、プロセスチーズの原材料となるナチュラルチーズを含めた国産チーズ生産の維持拡大を図る措置を講じることによる、生乳生産の維持・拡大を図っていく必要があると考えている。
3点目は、持続可能な酪農・乳業確立のための環境整備の必要性について。社会的な課題であるSDGs等への対応については、消費者からの信頼確保や企業価値の向上にも繋がるため、乳業各社がそれぞれの事業規模に応じて、できることに地道に取り組んでいるところ。しかし、酪農分野については、昨今の酪農をめぐる情勢や経営環境が非常に厳しいものであったことから、組織的に検討を行うこともできず、取組はほとんど進んでいない状況にある。生産者協同の取組は、業界の自主的な対応だけではなかなか前に進まない。このため、新たな基本方針の中で、推進する必要がある取組を明示的に位置付けるとともに、業界と連携する中で生産者を指導及び支援し、その成果を対外的に発信していく体制を構築する必要があると考えている。
須永課長:1点目と2点目の意見は重なる部分があると思う。今後、生乳生産量をどのようにしていくか検討する上で、短期的に最も大きい課題は需要面である。これまで全国協調対策の形で、脱脂粉乳の不均衡を一定程度カバーする対策を講じてきた。現状、脱脂粉乳が課題として残っていることや、飲用需要にも課題が残ることを業界全体で共有しながら、引き続き対策に取り組んでいくことが重要。何か1つの施策により、生乳生産全体の需給をカバーすることはできない。今行っている対策をしっかりと維持・拡充し、用途別の対策を考えていくことが必要。
丸橋委員:国産牛肉の供給量の将来予測について、現状の把握に関する考え方を教えていただきたい。国産牛肉には、和牛、交雑牛、乳牛の3種類あるが、このうち交雑牛と乳牛は、酪農経営由来であり、これを肥育したものが供給され、消費者にとっては比較的安価で購入しやすい牛肉となっている。この動向について、性判別精液の利用が増加してきていることから、乳牛由来の牛肉の供給が減少しているように見えるほか、交雑牛の生産にも影響があるのではないか。酪農経営由来の乳牛、交雑牛の牛肉供給について、今後どのようになると考えているか教えてほしい。
伊藤課長:乳用雄と交雑牛の生産動向について、性判別精液の利用増加により、乳用雄の生産は減少している一方で、交雑牛は増加傾向にある。また、この他にも酪農経営からは受精卵移植技術を利用して黒毛和種も生産されているが、これら乳用牛から生産される肉用牛全体では大きな増減は見られない状況。交雑牛や乳用雄は、値頃感のある牛肉であることから、消費者から一定のニーズがあり、またこの円安の状況下において、輸入牛肉との価格差が縮まったため、引きが強かった。交雑牛と乳用雄の供給については、肉用子牛の繁殖経営とは異なり、酪農経営に大きく影響を受ける。酪農経営の中で肉用子牛を生産する上で、値頃感のある国産牛肉を求める消費者のニーズにどこまで対応していくのかを酪農経営の中で認識を共有することが大切。
馬場委員:需給緩和や生産資材価格の高騰、酪農生産基盤の弱体化など、情勢が大きく変化するなか、今まさに食料安全保障の確保に向けた議論が求められている。次期酪肉近の策定においても、改正基本法の内容に沿い、持続可能な生産基盤を確保することを前提とし、検討をすすめてまいりたい。
生乳の需給安定を図るために、それぞれの生産者や乳業者がどのような役割を果たすべきか、次期酪肉近で整理していただきたい。さらに全国的な課題に対して、畜安法運用上の規律強化に加え、需要拡大の観点も含め現行の対策を拡充し、生乳需給調整のためのセーフティーネットとして構築し、系統外も含めた生産者・乳業者・国が一体となった仕組みを確立してほしい。生産抑制に頼らない生乳需給の安定を図ることが重要。
チーズ対策については、国産も含め需要が拡大する中、国産生乳の仕向け先を拡大する観点も含め、需要拡大の取組を着実に後押ししていく必要。特に脱脂乳からのカッテージチーズ等の製造など、脱脂粉乳の在庫問題に対応した幅広い需要拡大対策としても支援を検討いただきたい。
飼養頭数について、1頭当たり乳量と経産牛頭数により、(今後の)生乳生産量を推計する場合、1頭当たりの乳量を大きく見積もると経産牛頭数を確保する上で誤ったメッセージになる。猛暑などにより1頭当たりの乳量が減少することも考慮する等、生乳生産量の推定には情勢を反映して、生産意欲を損なわないようにしていただきたい。
持続的な経営については、飼料自給率が高いほどコストも安定するため、飼料生産の重要性や、足腰の強い経営モデルを示していくことが重要。都府県においても、継続的な飼料生産や、国産飼料の安定的な活用が必要。飼料基盤の確保が厳しい地域もあり、飼養管理の違いによってコスト差がある可能性も示唆する中、飼養管理の向上も含め、地域の実態に合った収支改善方法を示し、その実現に向けた施策を講じていただきたい。
牛乳価格については、生産から消費までの各段階における関係者の協調が重要。「生産者も乳業以降に関与することが必要」とあるが、どのような関与が必要か、幅広く議論を深める必要がある。なお、牛乳の小売価格の差は流通過程で生じているとのことだが、原料価格である乳価に差があることも事実。生乳生産・流通の各段階の適正な価格形成を阻害するようなメッセージにならないようにしてほしい。
石田委員:都市型酪農では自給飼料生産が限られており、全てを自給するのは難しい。国も進めているが、国産飼料の普及のため、耕畜連携や、北海道などの飼料生産基盤があるところから購入して、国産飼料を使う経営に転換する必要がある。
一方で、これは損益計算書上では飼料購入費として計上されるため、乳飼費を見ると飼料費が実態よりも高く見えてしまい、国産飼料化がどこまで進んでいるのかわかりにくい。資料3に乳飼比のデータがあったが、これをさらに細分化し、国産飼料の比率が分かるようにすることが必要ではないか。
また、乳牛の繁殖について、供用年数のデータが示されていたが、私自身、妊娠率と分娩間隔を重視している。酪農経営は乳飼費と妊娠率を見ればおおよその経営の良し悪しはわかると感じているが、今回の資料には妊娠率や分娩間隔のデータが無いため、あると尚良い。分娩間隔は年間の出生頭数の予測もでき、副産物であるスモールの販売予測もある程度つくことから重要な数字である。分娩間隔についても指導していただけるような数値として普及してもらいたい。
また、A2ミルクやオーガニックミルクなど牛乳の付加価値をつける側面が最近出てきている。消費者の嗜好の多様化にも対応できることから、A2遺伝子を持っている精液の普及や、ゲノム解析の普及を指導していただけると生産者の助けになる。
小椋委員:食料・農業・農村基本法が改正され、基本計画の見直しが進められているところであるが、この基本法において「国内の農業生産の増大を図ることを基本」とすることが明記されている。現状の国内の生乳生産量が740万tだが、総需要量が1,300万t弱あることから、現在の780万トンの生産目標は次期酪肉近においてもこれを下回ることのないよう、最低でも現状以上の生産目標を明記すべき。
入口対策である生産抑制を今後してはいけない。そのためには、出口対策を講じる方法について様々検討しなければならない。安価な輸入チーズにシフトすると、当然価格差が生じる。また、TPPにより安価な輸入チーズの関税も下がる中、いかに国産に振り向けるか、価格面の課題をどのように解消していくかが重要であり、この方向性を次期酪肉近において謳っていくべきだと思う。生産現場で生産抑制をしないで済むように需給調整を進めることを明記すべき。
また、生産現場を毀損させないため、食料安全保障の確保と、畜安法の目的達成に向けた具体的な生産方針を明記するようお願いしたい。
須永課長:馬場委員からのご指摘について、畜安法と需給調整機能については、「生乳の需給等に係る情報交換会」において系統内外の方々を集めて意見交換を行っており、6月に開催した会において、(資料3のp55の通り)牛乳の価格と需給を安定させるために、生乳に関わる全ての方々が必要な取組について、我々の考えを三つ挙げさせていただいた。個体乳量の変動に応じた年間の安定取引、そして加工が必要であるということ、また、脱脂粉乳・バターの跛行性や牛乳の消費減少等の全国的な構造問題については、全国的な対策を皆で行うべきであるということ。これらが生乳に携わる全ての方々に必要な取組であり、役割であると思う。このようなものを国の様々な政策ツールを通じて多くの方に求めていく。さらに今年は(畜安法の施行規則を一部改正し)生乳生産の申出期限について規律の強化を図った。引き続き、深堀りできる点が無いか検討しているところ。畜安法の中でそれぞれが果たすべき役割や規律(強化)にも我々としては取り組んでいきたい。
チーズ、脱脂粉乳については、国産の生乳価格を前提にした需要量というものがあり、それを超えると(輸入チーズとの)内外価格差に対応していく必要がある。内外格差を埋めるべく、これまで対策に取り組んできたところであり、引き続き、全国協調対策やTPP対策による需要拡大に取り組みながら、さらなる深堀りをしてきたい。
脱脂粉乳からカッテージチーズや、そのほかの高単価なチーズを作ることができるのではないのかとの指摘があったが、現在行っている脱脂粉乳対策の中に、需要拡大新商品というものがある。これまでもチーズの需要拡大を取り進め、ソフトチーズが伸びてきたが、生乳仕向けの全てを内外格差の大きなシュレッドチーズやプロセス原料に向かわせるのではなく、できるだけ国産生乳の使用を前提とした商品を拡充していくことが乳価の安定や、生産者の受取乳代の向上に繋がる。そうした用途別乳価のひとつひとつに丁寧に取り組んでいくことが、700万トンを超える供給量を支えていくことになると考える。
また、馬場委員から御意見のあった飼養頭数については全くその通り。一頭当たり乳量の伸びを過度に見積もれば頭数は少なくなる。また、生産現場では飼料の給餌方法が変化しているほか、猛暑の影響もまだ残っている状況もある。それらを踏まえた上で令和6年度以降の乳量がどのようになるか、慎重に見極める必要がある。一方で、一頭当たり乳量が5%以上増加するおそれもあることから、両にらみで今後の需給状況を考えていく必要がある。
牛乳価格については、各段階での適正価格というものがある。指定団体から乳業への受渡し時にも価格差はあり、その中で大きな競争が起きると、生産者受取乳代にも影響してくる。ここは実態をよく見ながら、需給が大きく乱れないように情報を共有しつつ、議論を進めていきたい。
石田委員から乳飼比や経営規模について御助言を頂いた。分娩間隔と妊娠率については、今回の資料で触れられなかった部分もある。頂いたご助言を踏まえながら今後も実態と経営状態の分析を進めてまいりたい。分析の結果については、今後の会において御紹介できればと思う。
また、A2ミルクなどの新しい付加価値を追求していく商品は、価格を維持する上でも、需要を拡大させていく上でも非常に重要であるため、今後も触れられればと思う。
小椋委員からは、生産を増大させ780万トンをめがけた(目標を)という御意見があったが、需要されない量を生産すると、必ず誰かが内外価格差を埋める対応をしなければならない。それを今まで全国協調やTPP対策により取り組んできおり、今行っている対策を用途別に、それぞれ維持・拡大できるかというところが、700万トン以上の生乳生産を支えることになる。皆様のお知恵を頂きながら、検討していきたい。
生産抑制が現場へ多大なる苦しみをもたらすことは我々もよく共感・認識している。これを繰り返さないためにも政策努力が必要で、そのためには安定した供給と需要の両方を作っていくことが重要だと思う。引き続き様々なお知恵をいただきながら考えていきたい。
金澤課長:国産飼料や自給飼料については、基本計画の見直しの議論をしているところだが、農地を活用した国内の生産基盤に立脚した畜産に変えていくように、基本計画の方でもしっかり議論していく。日和見で輸入飼料を使うのではなく、国産飼料の流通拡大も含めて、国産飼料をしっかり使うという機運を高めてもらえるような方向に酪肉近も含め考えている。
和田室長:石田委員からの繁殖性の御意見についてだが、前回の畜産部会において諮問した、家畜増殖目標の畜種別の研究会において今後検討していく。乳牛については石田委員も構成員である研究会において今後議論させていただきたい。
井上委員:まず1点、資料の確認をしたい。資料3のp32のグラフについて、補助金等の数字は、%ではなく円当たりという認識で良いか。
須永課長:そのとおりである。
井上委員:了解。生産現場からの感想として、酪農家の意欲が湧かなくならないような政策を打ってくれると非常にありがたい。現在、生産者の環境は非常に厳しい。酪農関係の事業者は多くあるが、その中でも一番苦しんで疲弊しているのは酪農家だと思う。
先ほど小椋委員が牛乳の供給停止や生乳廃棄をしてはいけないと仰っていたことには、全く同感である。廃棄があると疲弊してしまう。酪農家は乳量などの生産に対して努力をすることはできるが、販売に対する努力はなかなか及ばない。私自身は肉牛も飼養しているが、肉牛は相場に上下はあるものの必ず売れる。しかし、酪農では廃棄があれば売上げがゼロになってしまうため、これでは疲弊してしまう。
また、10年に1度の酪農危機に備えるという話もあったが、これは酪農家は対応できない。需要と供給が合致すれば問題は生じないため、販売戦略を立てることができない酪農家のために、国が約3年先の乳量枠を設定して頂きたい。その枠があれば、酪農家はその目標に合わせて生産する。
二村委員:飼料の国産化によって経営が安定するという話があったが、食料安全保障の観点からも飼料の国産化は非常に重要であると思う。
次に需要について、単純に需要を増やすことを目標にするのではなく、生活の中でどのように乳製品を使用できるのか考えるべきだと思う。脱脂粉乳の在庫が積みあがっている話があったが、用途の開発やサプライチェーン上の課題を分析しているのか。
生乳については、賞味期限を延ばす、保管性を向上させるといった工夫はできないのか。そのような工夫が需要の変動を緩和する手助けになるのではないかと考えているが、その認識でよいか。
国産チーズの需要増加については、消費者が手に取りやすい条件・価格・使いやすさが必要であると思う。マーケティング面での工夫やサプライチェーン全体の改善を期待したい。
また、資料3のp60に小売価格の資料があったが、小売価格は単純ではなく、小売の場面での価格には様々な要素があることを考慮すべきかと思う。
10年に1度、酪農危機が訪れるとの話だったが、リスク分散のために制度的な工夫や支援ができるのはないか。外国の事例もあれば研究していただきたい。
椛木委員:井上委員からも発言があったが、酪農家としては生産意欲を持ち続けたいし、生産抑制が今後繰り返されることなく、安心して生産できる環境が続いてほしい。脱脂粉乳の在庫対策は今後も続けていくとのことだが、二村委員が先ほど触れていたように、現在行っている対策に加えて何か新たな対策を考える必要があるのではないかと思う。
また、輸出量に占める生乳使用量は現在2万トンであり、簡単に輸出量や輸出国を増やすことはできないとは理解している。しかし、海外からの旅行客に国産牛乳の美味しさを感じてもらっている中で、これを今後の輸出に繋げることができれば良いと思った。
10年に1度の酪農危機についての話もあったが、現在、長命連産事業により、種牛の精液に補助が出ており、この精液を付けて生まれた牛が活躍する時期と重なると思う。その際に、牛がしっかりと活躍できる環境が整う事を願っている。
須永課長:井上委員からお話のあった生乳の価格と販売について、生乳は一元集荷、多元販売、用途別取引、指定団体制度など複数の要素が重なることで、諸外国と比べて生乳価格の変動幅が上下しづらい仕組みになっている。このように価格を安定させる仕組みの一つに指定団体制度があり、個々の酪農家の代わりに地域で生乳を集めるこの指定団体が各乳業と交渉し、用途仕向けや価格が決定される。そして、多くは農協の中で販売戦略を考える仕組みになっており、確かに個々の酪農家が販売戦略を打つことは難しいが、地域や組合全体でどのように販売戦略を打っていくかを考える仕組みである。
また、生乳生産について、生産者側としては、安定した生乳生産量の枠を示して頂き、その中で生産するのが(良い)という御意見があった。しかし、集めた生乳は売らなければいけない。その際、売れない分を無くすために、国全体で需要と供給を調整する努力が必要である。その努力をこれまで指定団体や生産者が苦労しながら行ってきたと認識している。現在の仕組みを踏まえながら、酪農生産の安定のために、今行っている対策を維持・拡充していくことが重要であると考えている。
また、二村委員からご指摘のあった、脱脂粉乳の課題について、脱脂粉乳はヨーグルトや発酵乳飲料に使用されているが、この需給がコロナ前から大きく剥落していることが大きな課題である。業界が協調してこの需要を拡大していくことが重要な取組であると考える。
また、牛乳の賞味期限を延ばしたり保管性を改善したりすることで、需給調整に資するのではないかとの話があったが、現在保管期限などは伸びており、これにより安定供給ができる側面は確かにある。しかし、牛乳の価格がそれなりに高いのは賞味期限が短いことも一因であるため、この課題についてはバランスが大切だと考えている。
チーズについては、内外価格差が大きな問題。小椋委員からのご指摘にもあったように、生産を増やせば、直接外国産の乳価と競合する価格で供給していかなければならない。今は高価格の国産生乳で支えられる高単価チーズを増やしていくことが必要。そのための取組として、まず1つは賞味期限が比較的短く、国産に優位性のあるソフトチーズの生産を進めること。もう1つは、工房チーズをはじめとする高単価なブランドチーズを育てていくことが重要であると考える。
また、小売価格が単純でないという点については承知している。様々な付加価値や流通構造によって価格が決まるため、その中で適正価格を目指した丁寧な議論が必要だと思う。
10年に1度の酪農危機への対応については、単なる紹介だけでなく、これに向けた備えをして、我々も支えていきたいと思っている。今年の夏の概算要求において、加工原料乳生産者経営安定対策事業を拡充し、このような危機に対する対策を作りたい考えである。
椛木委員から、脱脂粉乳に関する新たな対策についてご意見があったが、我々としては、全国協調を拡充していきながら、業界全体で脱脂粉乳とバターの需要のかい離の問題に色々と知恵を出していく必要があると考える。
井上委員:先ほど無茶を承知で国に対してこの先3年間の生産量を決めてほしいと意見したが、そのような答えになることはわかっていた。ただこれまで組合や組織で販売を行い、販売戦略に努力はしてきた結果が今の実態だと思っている。
また、経営規模と収益性の関係の資料については、経営規模と収益性との関係について、これまでは農水省は規模拡大を推奨しているものとばかりと思っていたが、必ずしも規模が大きければ収支が良いというわけではないという内容について、納得して説明を聞いており、私も同感。地域には適正規模というものがあり、規模拡大はスケールメリットがある一方で、地域の適正規模を超えるとデメリットもあると感じる。
小山委員:30年前に酪農をやめて、肉用牛経営に切り替えた。酪農でいえばその15年ほど前には、出荷前の牛乳に食紅を入れて出荷量を調整する生産抑制があり、10年に一度危機が訪れる話は納得した。酪農における肉用牛の受精卵移植が悪いと言える立場にはないが、肉用牛繁殖農家が困っているというのは実際にある話。また、地元で育ててきた獣医師が受精卵移植専門の獣医になるために共済を辞めてしまうという話も聞いたことがあり、酪農と肉用牛生産は切っても切れない関係。畜産農家は牛が好きでないと続けられないし、生産者が意欲をもって生産できる環境や新規就農者が参入できるような環境づくりを続けてほしい。
小椋委員:日本全国では大規模経営をはじめとする地域の特長を生かした様々な酪農経営の形があり、酪農の周りには多様な職種の人々が存在することで地域経済が支えられている。しかし、地域経済の核となる酪農家が疲弊しているのが現状であり、地域経済のさらなる発展のためにはどうすべきか議論するのがこの会議だと理解している。農水省からは今後の方針に関する原案が示されているが、儲かる酪農・畜産でなければ、酪農家の経営継続は難しく、新規就農者も入ってこない。地域経済を支える行政の対策を一緒になって考えていかなければ、地域経済の存続が危ぶまれ、地域コミュニティの崩壊にもつながりかねない。そのため、今回の協議を踏まえ、地域経済の維持・発展のためにどのような対策や支援ができるのか検討してほしい。
畠中委員:井上委員の発言を聞いて、同じ畜産農家として身につまされる思い。酪農とは違い養鶏は鳥インフルエンザなどが課題。鶏卵は価格が上がりにくく、鳥インフルエンザが大量に発生し、生産量が減少した時に初めて価格が上がる状況であり、常に鳥インフルエンザを気にしながら生産しなければならない状況に養鶏農家も疲弊している。昨今は、毎年のように鳥インフルエンザや豚熱が発生していることから、農家の生産意欲がそがれないような政策の見直しを検討してほしい。酪農は全体的に中小規模も多い印象であり、特に、このような中小規模の酪農家の生産意欲をそがないような政策をお願いしたい。
日本の農業を守っていくためには、いかに国産飼料の生産を維持・向上するかが重要であり、手厚い支援をお願いしたい。また、国産飼料生産の向上は飼料自給率の向上のみならず、耕畜連携として畜産農家から出た堆肥を耕種農家に利用してもらうことで循環型農業につながる。経営がうまくいっている大分県の養鶏農家でも循環型農業により今では鶏糞が足らない状況とも聞く。一方で、循環型農業にはかなりの労力が必要であり、堆肥生産設備等に対する補助もやっていただきたい。
今年は米不足の影響で米相場がかなり高騰したことから、周辺農家からは飼料用米を作らなければよかったという声も聞く。今年の情勢を踏まえて、来年は飼料用米の量を減らして食用米を増やすということになれば、いま手を打っておかないと飼料用米の量が減ってしまうのではないかと危機感。是非支援をお願いしたい。
廣岡課長:生産者の意欲が湧くような施策、新規担い手が参入しやすいような環境づくりは引き続き考えていきたい。特に、新規担い手でいえば、畜産は技術的・資金的なハードルが高く、労働力も必要。省力化、外部化、第三者継承に向けた支援などは行っているが、自治体や地域における農業者組織による地域に応じた就農支援、技術的な支援、経営面の支援、生活面のサポートも重要と考えている。
金澤課長:農村地域の維持や農地のフル活用を含めて、飼料作物の生産利用拡大に向けて後押ししていきたい。飼料用米については、基本計画の中で米全体として議論されている。中山間地域を含めた農村地域の維持も含めた全体の議論の中で飼料用米の生産についても考えていきたい。
和田室長:畠中委員から堆肥利用についてご意見いただいたが、家畜排せつ物を堆肥として利用することは食料安全保障や環境負荷軽減の観点で非常に重要。現在、堆肥の高品質化やペレット化に必要な施設に対して支援しているが、引き続き資源循環の取組に対する支援を進めていきたい。
前田委員:本日の議論を聞いて共感する部分や農家の苦しみが伝わってきた。これまでの事例から施策を考えるだけではなく、より具体的に、光が見えるような思い切った施策を期待したい。また、脱脂粉乳の在庫を積み増している課題について、私たちが何か協力できることとして養豚のエサに混ぜられないかと考えていたが、食用と飼料用では価格面で採算が合わない等、単純な問題ではないのだろうとも理解している。
資料にあった青刈りとうもろこしは二期作の場合、TDNが1,500kg/10aあり、栄養面でも非常に優秀だと理解している。酪農においては給餌する飼料の半分は濃厚飼料を使うとのことだが、今後も輸入濃厚飼料に頼った経営で良いのか、それとも青刈りとうもろこしに対して手当を検討しているのかお尋ねしたい。
金澤課長:前田委員の御認識のとおり、青刈りとうもろこしは栄養性が高く、搾乳牛にも向いている飼料。以前は根釧など北海道内でも作れない地域があったが、品種改良や温暖化の影響で生産できる地域が変化してきており、日本のような限られた農地で生産するには有用な作物。濃厚飼料の多くを輸入に頼っているのが現状であり、国内における濃厚飼料の生産は、地域によって、向き不向きの格差が大きいことから、全ての地域で進めていくのではなく、まずは青刈りとうもろこし含め粗飼料をしっかり作っていく方針である。
小針部会長:本日の資料でご説明があったことについて、大きくマクロとミクロに分けられる。まず、マクロの観点では、需要が減少傾向にあり、人口減少と高齢化により更なる減少が見込まれている。一方で、供給については一定程度の生産基盤があることから増加や上振れも想定される状況。このような状況から、資料3の論点(ア)にあるように、需給ギャップが生じる懸念がある。これまでも人口減による需要減は想定されていたが、今後は本格的に検討を進める必要がある。このことが、マクロな視点で計画や数量を検討する上でポイントになる。
次にミクロの観点では、需要について単純に全体的な需要量を見ていくのではなく、人口減少による需要量の減少の中で、個別の品目ごとに付加価値を高めて、一人当たり消費量を伸ばすことが重要。供給の面では、井上委員や石田委員からもご指摘があったように、個別の経営において単純に増頭することが必ずしも良いわけでは無い。本当に効率の良い適正規模を考える必要があり、これが新たな論点になるのではないか。今後は、本日の資料に示された各論点を更に整理していくことで、議論が深まると思う。
須永課長:今回の資料でお伝えしたかったポイントの一つは、酪農経営において収支をしっかりと見ることが重要であるということ。単に売上げを見るだけではなく、コストを考慮した全体的な経営効率の向上が酪農経営の安定・維持には必要であり、このことは重要な論点となる。この分かりやすい示し方については今後検討したい。
加えて、2点補足したい。一点目は酪農における「基盤」という言葉の指す範囲について。生乳生産量や頭数のほか、農村部においては戸数も基盤の一つであり、話し手によってこの指す意味が異なることには注意しながら議論をしていきたい。生乳生産量と頭数だけをみれば、今後の供給量は上昇する可能性がある一方で、酪農現場が疲弊し、戸数が減少していく可能性も考慮する必要がある。二点目は、人口減少について。近年、人口減少は一定のペースで進んでいるが、この先5年、10年間の人口減少や人口構成の変化が過去数年間と大きく変わることは考えにくい。今後生じる課題への対応を考える上で、革新は必要であると思う一方で、基本的には、今ある課題を整理していくことが足元の課題の解決に繋がるのではないか。
(以上)
お問合せ先
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