令和6年度第6回畜産部会議事概要
令和6年度第6回畜産部会議事概要 PDF版(PDF : 572KB)
1.日時
令和6年10月23日(水曜日)13:10~16:22
2.場所
農林水産省 第3特別会議室(web併催)
3.出席委員
小針美和部会長、椛木円佳委員、宮島香澄委員、石田陽一委員、井上登委員、大山憲二委員、小椋茂敏委員、小山京子委員、里井真由美委員、畠中五恵子委員、羽田香弥子委員、丸橋弘資委員
4.概要
<資料に沿って農水省側から説明。その後各委員から意見を聞き取り。>
〇各委員からの主な発言内容は以下のとおり。
丸橋委員:本日は3点お話ししたい。一点目は和牛肉のA5偏重への対策について、消費者ニーズと提供される牛肉の関係が資料3のp45で説明されているが、A5にも様々な部位がある。特にロイン系の高級部位を求める消費者は減少傾向にあるのではないか。加えてp46にある通り、和牛肉の6割以上がA5であり、生産者にとって差別化が計りにくい状況になっているのではないか。消費者は手頃な価格を好むことから、将来に渡る国内向け牛肉の安定的な確保は、自給率維持と消費拡大の観点から中長期的に考えるべき課題であると思う。全国の食肉卸売市場で開かれる共進会では、生産者はサシのよく入った和牛生産を目指し、流通業者も、きめ、しまりと併せてサシの入り具合も見て、気に入った牛肉に高い値段をつけるのが現状。この方向転換の為の施策として、生産者に対して早期出荷を推奨し、消費者には美味しさへの理解を深めるということだが、生産・流通関係者の理解が進まなければ方向転換は難しいように思う。
二点目は食肉処理施設の整備について。p62に整理されている通り、食肉流通構造は消費地での部分肉処理から産地での部分肉処理や小割加工に移行してきている。一方で牛肉の価格形成は依然として、食肉卸売市場におけるセリによるところが大きいことに留意すべき。卸売市場でもと畜・部分肉解体を行っているが、施設が手狭であり老朽化している事情は変わらない。食肉処理施設のグランドデザインを検討する際には、価格形成の機能を持つ卸売市場についても留意していただきたい。また施設整備は輸出振興の観点で取り組まれるが、特に中央卸売市場は開設者が地方自治体であることから、関係自治体への理解情勢に対するサポートをぜひお願いしたい。
三点目は牛の原皮の将来の展望について。牛の原皮の生産者販売価格は大幅に減少し、令和2年9月以降4年間にわたり1頭10円のまま。大きな金額ではないが、生産者の収入が少なくなっている要因の一つである。産業廃棄物にしないため、中長期的な観点でのケーススタディーをしておく必要がある。
宮島委員:一般的な観点、他の業界と比較した観点、あるいは消費者からの観点でご意見を申し上げたい。輸出も含めた需要に応じた生産、また早期出荷・スマート化、大規模化等による全体的なコストコントロール等については皆様共通に認識しており、努力されているように思う。しかし、私が気になっていることは担い手不足のところ。担い手不足はほぼ全ての産業が直面している課題。畜産業は都市部のサラリーマンがリタイアした後に兼業として取り組むような働き方が難しい職種でないかと思う。そう考えると、若い人たちを担い手として惹きつけることが非常に重要ではないか。大分県の事例を紹介されたが、まずはこうした優良事例を積極的に展開していただきたい。また、今回示された事例は、希望してその地域に来られた方に農作業を経験してもらい、担い手として惹きつけるということかと認識しているが、現状では都市部に若い世代が流出しており、それにより子供たちが生まれる場所も都市部に偏ってきている。つまり、都市部にいる若者も含めて関心を惹きつけ、地方に来てもらえるような取組が必要。そのためには、都市部で育った子供達がサラリーマンになるような感覚で就農を将来の選択肢として考えられるような環境を作っていくことが、魅力を伝える上で重要ではないか。
もう一点、消費者として、今議論されている生産者等の様々な努力については必ずしも理解されていないと感じる。特にハレの日に食べる牛肉を購入する時も、単にブランド名やイメージ、値段などのレベルでしか判断をしていないように思う。実際に食べ比べてその品質を知っているという人は少ないのではないか。これだけ色々な努力をされているわけだから、それぞれの人がどのようなタイミングでどのようなものを食べたいか、理解が進むと良いのではないか。より様々な局面で、そうした機会を提供していただけるとよいと思う。
伊藤課長:丸橋委員から御意見のあった、関係者全体の理解が進まなければ早期出荷への方向転換が難しいというのはその通り。多様な消費者ニーズへの対応の一つとして早期出荷を提案したが、生産・流通に携わる関係者間での合意形成は不十分であると認識。慣行肥育と比べると肉質が劣るのではないか等の意見があるのは承知している。まずは今年度予算で実施している肥育期間の短縮、出荷月齢の早期化に向けた実証支援や成分検査・官能検査等による品質評価への支援を行い、関係者への理解醸成を図ることが重要と考えており、引き続き取り組んでいきたい。
二点目の食肉処理施設について、卸売市場でもと畜が行われており、大変重要だと我々も考えている。現在、国では食肉処理施設の整備に関して、再編合理化に必要な施設整備や、輸出拡大に必要な施設整備に対して重点的に支援を行っている。卸売市場については、一定の要件を満たすものについて、「強い農業づくり総合支援交付金」の活用も可能であることから、これら事業を活用して総合的に対応していきたい。また食肉処理施設における自治体関係者の理解醸成のサポートについて、施設の収入源はと畜料・加工料に限られる。施設整備をすると減価償却が発生するほか、更に資材費や人件費が高騰していることから、関係自治体からの支援もお願いしたいと我々も聞き及んでいるところ。また食肉処理施設は地域の生産基盤やブランド化と密接に関連するとも考えており、施設整備の検討にあたっては各自治体にリーダーシップを発揮していただき、事業者と一体となって、地域の実情に合わせた整備を進めていただくことが重要だと考えている。
最後に原皮の将来展望について、国内で生産される原皮は牛の約半数、豚ではほぼ全量が輸出されている。合成皮革の性能が向上し、国際的に動物由来の皮革を避ける傾向も見え始めており、原皮の国際相場が低迷しているところ。コロナで一時原皮価格が低迷した際には、補正予算において産業廃棄物処理業の許可支援を行い、実際に原皮事業者の中でも免許・許可を取られた方がいたと聞いている。いずれにしても原皮は、食肉生産の過程で生まれる副産物であり、サステナブルな天然素材であるといえるため、有効活用に向けて、皮革を所管する経済産業省と連携しながら取組を進めていきたい。
宮島委員から御意見のあった消費者の視点に関して、資料3のp45にある通り、牛肉は部位によっても異なる他、BMS(肉質等級)も1~12まである。しかし、消費者が牛肉の品質に関して詳しく知らないということは、確かにその通りだと思う。R5年度の牛肉の一人当たり年間消費量6.1kgのうち、和牛はおよそ1kg程度と試算している。このような背景から、年に何回か食べられる和牛、ひいては牛肉全体について、関係者一体となって消費者に品質や特質等の面で理解いただけるように促していくことが、今後の牛肉生産を安定的に進めるためにも重要だと考えている。
廣岡課長:宮島委員から御意見があった担い手について、確かに畜産業は、日々の飼養管理があるため、兼業で取り組むことが難しい分野である。都市部の若い世代にとって、就農が将来の選択肢の一つになるような環境づくりが重要ではないかという御意見についてはその通り。資料3のp35にもあるように、畜産関係のヘルパーやコントラクター等を足掛かりにしながら、その他の可能性についても併せて考えていきたい。
大山委員:牛肉の生産について、人口が減少し、更にコロナのような緊急事態を経験した中で、これまでのように増産・増頭ばかりでは駄目だと思う。特に和牛に関して、世界にはまだまだ市場の余地があるのは確かであり、国家間の交渉等については尽力いただきたい。一方で、我々が普段食べるものとしての牛肉を中長期的なスパンで位置づけていただきたいとも思う。輸出・輸入を否定するわけではないが、国内が一番重要な顧客であるということは、常に念頭に置かなければならないし、大きな感染症や家畜伝染病が発生した時にどうなるのかということは我々が学んだ教訓だと思っている。それらを踏まえ、「ハレの日」の食材でとどまらず、日常的に口にできる食材として、牛肉を位置づけるにはどうすればよいのかを考えることが重要。
また、昨今の和牛改良の成果と同時に生じている枝肉価格の軟調な相場は考慮するポイントではないかと考える。和牛の98%は黒毛和牛であり、ここ数十年、霜降りを高めるための改良に重心を置いてきたのはご承知の通り。その成果として5等級が六割を超える状況だが、こうした関係者の努力とは裏腹に枝肉価格は低下している傾向にあり、非常に憂慮しているところ。これまでのヒアリングでも、サシが強すぎる牛肉は売れにくいとの御意見もあった。その中で一つの解決策として考えられるのは、肥育や出荷の早期化かと思う。早期化ではこれまでの改良が活きてくる他、サシのコントロールもしやすくなると考えられる。消費者にアピールするためには、それぞれの実情に応じて選択できるような、バリエーション豊かな牛肉生産を進めることが重要。和牛の放牧肥育・自給飼料により低コストで収益をあげる経営や、これまで通りA5のBMS12を狙う経営があってもいいと思う。バリエーションを生産の中で作り、その結果として多様な牛肉ができる姿が理想的ではないか。今後は多様な経営体を幅広くサポートできるような体制も考慮していただければありがたい。
早期出荷のメリットについてもう一つ加えると、肥育後期で起きる起立困難や突然死等の疾病を防げることだと思う。そういったリスクを一定程度下げられるという意味でも、この早期出荷の技術を一層進めていただきたい。一方で、全てを早期出荷に向ける必要はないと思う。やはり肥育期間の短縮により、平均的には肉質の低下は生じてくるかと思う。今後研究を進める必要があると思うが、結果として生産されたものが消費者の求めるものであれば、関係者間の合意形成も自然に進むだろう。
小椋委員:短期的な政策として、肉の消費拡大等の施策を進めていただいているが、短期的な政策と中長期的な政策は分けて検討すべき。短期的な面に関しては既に様々なご意見が出ている。特に和牛肉の単価低迷によって、生産者の経営を非常に圧迫している。価格の底上げには、それに見合った消費が必要。いかに消費を拡大していくかという短期的な面と、中国含め諸外国への輸出拡大をどのように描いていくかという、次期酪肉近の目標設定に向けた中期的な方向性・数字を明確に示す必要あると思う。
また、早期出荷について様々ご提案頂いたが、中間業者の理解を得られなければ価格に反映されず、枝肉価格が一層下がる恐れがあり、十分な議論が必要。早期出荷は今後も検討すべきことであり、既に取り組んでいる肥育農家もいる。農水省が旗振り役となり、十分に協議し、中間業者の理解を得た上で、消費者にも理解してもらえるように取り進めていただきたい。
もう一点、和牛肉の差別化について。上物の割合が高くなり、差別化が難しい状況。資料にも掲載されているが、オレイン酸による肉の旨みに着目することが、差別化の一つのポイントになるかと思う。この差別化をどのようにPRしていくか議論をしなければ、国内の牛肉の消費は一向に上向かない。農水省に旗振り役となっていただき、その点も取り進めていただきたい。
伊藤課長:大山委員からのご指摘について、完全に同意する。和牛肉の需要に応じた生産を基本としつつも、「ハレの日」だけでなく、様々な機会を捉えて国内需要を開拓し、また輸出していくことが必要。和牛の需給が緩和する中で消費の出口を作っていくという観点からも、国内消費・輸出ともに重要であると考えていることから、次期酪肉近でどのような目標を出していくのか、人口動態等も踏まえつつ、今後よく検討していきたい。また、和牛の生産のあり方についても同感。早期出荷だけでよいわけではなく、多様性がポイントである。消費者のニーズが多様化してきている中で、それに応えられるよう、よく関係者の声を聞き、理解醸成を図りながら進めていきたい。
小椋委員から御指摘があった、短期的・中期的な方針の住み分けについては、ご意見を踏まえて今後検討していきたい。短期的な視点では、出口である消費の拡大について、昨年度の補正予算で和牛肉の需要拡大を措置した。流通で滞留してしまうとサプライチェーン全体が苦しくなってしまう。きちんと消費の出口を作っていくような対策を引き続き検討していきたい。また中期的な視点について、次期酪肉近の目標についてはこの場でお示ししていないが、今後よく検討していきたい。需要に応じた生産を基本としつつ、国内外の状況を見通しながら、どういった目標が適切なのかよく検証してきたい。
早期出荷について、やはり国の旗振りだけでは進まないところがある。食肉卸や流通業者の理解醸成は必須で、様々な立場の方が多様な意見を持っていることは理解している。まずは科学的データをきちんと揃えた上で、消費者に売れると思ってもらえるように、生産現場・流通事業者等、関係者間の理解醸成を図れるように進めていく。
牛肉の差別化について、和牛肉の脂肪交雑の強みを基本としつつも、今回オレイン酸を挙げたところ。このオレイン酸については測定データを収集する取組などを支援しているところ。また、オレイン酸の価値を訴求したブランド化の取組も進んでいる。加えて、和牛共進会において、オレイン酸の含有量を評価する取組も出てきていることから、これら取組も踏まえながら、関係者の理解醸成を進めていきたい。
大山委員:少し補足させていただきたい。早期出荷について、(和牛肉の)バリエーションを作ることは重要である一方で、例えばある肥育農家において、全ての牛を短期肥育に移行する必要はないとも考えている。経営の方針を大きく変えるような決断を生産者に迫るようなことはして欲しくない。ただ、全体的な産業の持続性という意味では、短期肥育の方向性は恐らく必要。
冨澤課長:大山委員から御意見があった通り、短期肥育については肉質面の評価(の違い)も確かにあるところ。現在、短期肥育に関するモデル事業を行っており、その中で出てくる課題を解決しながら取組を進めたい。また、早期出荷された牛肉を流通側が評価するに当たっては、科学的なデータが必要であることから、食肉鶏卵課の事業と連携して成分検査を行い、通常肥育と比較する形でして、皆さんにご理解いただくことが重要かと思う。
放牧肥育、自給飼料多給型の牛肉生産について御意見があった。飼養管理の面では、放牧に係る事業が様々あることから、そういった面からアプローチしたい。また、現在事業は無いが、放牧された牛肉の特性について調べていくことも一つの方策かと思う。今後も多様な牛肉生産を支援していきたい。
また、小椋委員から御意見があった、オレイン酸等による牛肉の差別化について、サシやオレイン酸は、家畜改良も一つの要素である。研究会において委員の皆様からご意見をいただきながら、よく検討していきたい。
椛木委員:子牛価格が以前よりも変動しているのを感じる。これだけ価格が低い時期が続くと辛い。以前、和牛受精卵の導入に助成金が出ていたこともあり、周りでも多くの酪農家がやっていたが、助成金がなくなった後も和牛子牛を産ませた方が収入を得られるため続けている酪農家が多い印象。
先ほど大山委員から、早期出荷すると事故率が減少するという話があったが、どの程度異なるのか。
また、早期出荷に対応するような種雄牛の改良はできないのか。和牛の近交係数の高さも個人的には気になるところである。
見当違いなら申し訳ないが、改良が進み、これだけ優れた血統の種雄牛がいる中、精液や受精卵を輸出する話にはならないのか。
井上委員:早期肥育や放牧等、生産方法は色々な形があってもよい。和牛はもともと生産コストが高いものであり、赤身を重視してもコストはほとんど変わらないと思う。現在、市場で5等級のBMS12に高い価格がつくのは、市場で求められているからだと私は感じている。和牛の改良はこれまでどおり、サシ重視でよいと思う。ロイン系にこれ以上のサシはいらないという話も聞くが、それ以外の部位にもサシが入ってきており、様々な部位を、様々な使い方ができるのが和牛の大きな特徴であり、サシを重視して改良した結果である。海外の市場も和牛にとって大きな市場。海外の牛肉は、赤身の改良を長く続けており、和牛だけが特殊な改良をしてきたので、海外の牛肉と同じ土俵で戦う必要はない。和牛の特徴を活かして海外に進出すべき。交雑牛の成績が向上しているのも和牛のサシの改良の結果である。
一方で、和牛の改良の欠点として、家畜として非常に飼いづらくなっている。強健性がなく、事故率が高いように感じる
今後の改良については、肉質の改良は維持する一方で、飼いやすさとして強健性等の様々な項目を挙げて改良することで、最終的にコストダウンにもつながると思う。改良目標として、家畜の飼いやすさの改良目標も設けてほしい。
小山委員:山間地で繁殖農家をしているが、地域計画をうまく活かしたいと様々取り組んでいるところ。一方で、春から減反田で放牧をしたいと考えているが、一番草を刈取る、毎年播種するなど、様々な決まりが多いのが悩みの種。また、農業後継者について、私の地域には、ヘルパーとして移住してきた方がおり、放牧のイメージから牛等を飼ってみたいと思うようなので、就農の入口として放牧はとてもよいのではないか。
肉の格付について、同じ格付でも粗ザシと小ザシでは脂の含有量が驚くほど異なるが、肉の美味しさに違いはないのか。オレイン酸についても、短時間で検査できるのであれば、数値化して生産者履歴と一緒にして肉に表示することで、付加価値化できるのではないか。
これまで和牛は霜降りの改良を進めてきたことから、改良の方向性を急に変えられても困る。
羽田委員:「酪農及び肉用牛生産の近代化を図るための基本方針」にもあるように、世界的にみても、どの産業もキーワードは「持続可能性」。先ほどの説明を聞いて、需要と供給のバランスを見つつも、今後、成長を続け生産量を増やしていく方向性と理解したが、その戦略に疑問。もちろん、付加価値を生み出し価格を上げていくことは必要である。日本の人口も減少し、輸出に目を向ける必要があるが、世界人口が増加しているとは言え、他国における牛肉需要を考えると、そもそも生産量を増やす戦略が適切なのか。
また、持続可能性について、SDGsやESG 経営が主流な考え方になっており、消費者のニーズをあまりにも追いすぎるのはいかがなものか。消費者のニーズが多様化し、その結果、畜産農家に負担させることが持続可能性につながるとは思えない。
最後に、生産コストについて、小規模経営の方が生産コストが高いという説明であったが、生産コストがかかっても、付加価値を産出しその分の利益が出ていれば経営として持続していく。それぞれの付加価値率が分かれば教えていただきたい。
冨澤課長:椛木委員から肥育期間と事故率についてご質問があった。短期肥育と通常肥育における事故率の違いについてのデータは手元にないが、一般的に長期肥育すると体重が増加することから、起立不能や代謝異常など、事故は増加する傾向にあると考えている。
また、早期出荷に適した家畜改良について、これまで脂肪交雑や増体に重点を置いた改良を行ってきており、早期出荷であっても、その形質はある程度向上しているものと考えており、改良の方向性は同じだと考えている。今後のデータ蓄積も重要。
和牛の近交係数は高く、遺伝病などが発生しやすい状況。井上委員から御指摘の通り、事故率は交雑種よりも高いと考えている。改良の方向性については今後研究会において議論頂く事になるが、希少性のある血統に着目して遺伝的多様性を保つことが重要だと考えている。
牛の精液や受精卵の輸出について、和牛は我が国の貴重な遺伝資源であり、製品として牛肉を輸出していくことが重要。海外ではいわゆる「WAGYU」が生産され、我が国のライバルになってしまっている。
また、井上委員から、強健性等の飼いやすさの観点から改良を進めていくべきというご意見を頂いた。家畜改良増殖目標の検討の中で紹介しつつ、検討を進めたい。
伊藤課長:小山委員からサシの改良の方向性を変えられてしまうと困るというご指摘、井上委員からは市場がA5を評価している他、赤身であっても同様にコストがかかるといったご指摘があった。資料3でお示しした通り、牛肉の赤身は交雑種・乳用雄が占めており、価格競争力の観点では、和牛の赤身は負けてしまう。その上で、今回強調したいのは、「脂肪交雑の強みは維持」し、その上でどのようにしていくかという事。市場では、A5とA4の価格が逆転している訳では無い。その要因については諸説あるが、A5でも部位ごとに荷動きが異なる状況にあり、総合的に見るとA5が評価されている側面はあると考えている。
一方で、現状のようにA5の割合が6割を超えていると、生産サイドでは希少性という観点での差別化を図りにくくなっている。脂肪交雑の強みを維持した上で、消費者のニーズを探りながら、強みを見つけていくということを提案させていただいた。
羽田委員からは3点御指摘を頂いた。1点目の今後の生産量については、酪肉近でどのような生産目標を設定するか、現時点で定まっていない。需要に応じた生産を基本に考えていきたい。国内消費に影響する人口減少や、輸出も踏まえて検討していく。
2点目の消費者ニーズを求め続けると持続可能性に問題があるのではないか、とのご指摘については、バランスが重要だと思う。A5の割合が増加し、差別化が図りにくくなっている中で、更なる強みを目指していくことが、生産現場としても差別化を図ることになる。各地でオレイン酸の取組をブランド化するケースも出てきており、これを後押ししていきたい。
3点目の付加価値率については、データが手元にないが、所得は100頭以上で高く、その要因はコスト減少によるものだと考えている。子牛の場合はセリ価格で値段が決まる等、変動するものだが、コストを下げていく努力が必要と考える。
金澤課長:小山委員からご意見頂いた放牧については、繁殖農家から見ると省力化や低コスト化というメリットがあるほか、地域の農地の活用、景観も含めた地域等の様々なメリットがあると思っている。今後、人口減少や需要減は国内全体で進んでいくので、地域の農地を活用していく選択肢として、自給飼料生産や放牧があると考える。現在、地域計画についてそれぞれの地域で議論していただいているところだが、地域の実情に応じた選択肢の一つとして、放牧利用も重要。
また、小山委員からの水田活用のご指摘について、中山間地域での飼料基盤ということで放牧利用を含めて支援するメニュー等もあるので、現場でしっかり根付くような形で進めてまいりたい。
里井委員:資料においては「消費者」という言葉で括られているが、牛肉等を購入して家庭で消費する方は概ね価格を重視する傾向がある一方、外食・中食で消費する方は価格以外にも非常に幅広いニーズを持っている。先ほど羽田委員から御意見があった、消費者の意見を聞きすぎるのはよくないということについては同感だが、やはりニーズを無視することはできない。その上で「消費者」という括りではなく、例えば外食・中食それぞれにおけるニーズの傾向(を考慮する)など、きめ細やかな政策を期待する。
井上委員:宮島委員の「消費者はお肉のことを知らない」という御意見について、生産者として反省するところ。消費者にもっとお肉のことを知ってもらう働きが足りていなかった。
A5等級が増加しているが、このA5の中でも幅があり、例えば BMSは8番から 12番まで5段階もある。しかし、結局「A5」という一言で括られてしまう。格付等級の信頼性や正確性を持たせるには、現在の格付をもう1度見直す必要がある。
川田委員(代読):牛肉の需給状況について、輸入牛の原価高騰等から、小売では国産牛肉の販売強化が大きな売上確保施策になっている。中でも輸入牛とホルスタインとの価格差がなくなったことにより、一時は各社ともホルスタイン原料に集中したものの、需給のバランスが取れずにホルスタインの品揃えは現在縮小均衡。そのため、焼肉やステーキを中心に交雑牛の商品が拡大しているが、使用する畜種が増えることは、作業工数が増えてしまう課題がある。輸入牛の需要が減少する中、国内産牛肉の伸長(の余地)はあるが、特に平日においてバジェットの価格帯にニーズがある。各社は次年度に向けて、そのための施策を考えているが、国内産牛肉では対応しきれないことが悩み。昨年から挽肉や加工品に、アメリカ、オーストラリア以外の産地の原料を使用する企業も増えており、豚肉も同様に今後も加工品を中心に継続すると思う。ロインやヒレ等の上級部位の輸出が増えれば、買いやすい価格と赤身の美味しさがある肩やももが国内で消費でき、牛肉の底上げにつながってくる。
肉用牛経営の動向について、繁殖、肥育農家の状況変化、後継者不足、コスト増等の中、生産者のコスト面やお客様に提供する売価において優位性があれば早期出荷は価値につながる。また、その味に拘ることができれば、牛肉の大きな需要増につながる。
馬場委員(代読):需給の変化への対応について、物価高騰等の影響で和牛肉の需給状況は悪化し、生産資材価格の高騰も重なり、生産基盤の弱体化に拍車をかける危機的な状況。今後20年間で肉用牛全体の従事者数が大きく減少することが見込まれる中、経営不振・悪化の課題もふまえ、中長期的な牛肉の供給能力の維持を目指すことが最も重要。そのためにも、当面は和牛肉の需要拡大に向けた緊急的な対策を強力に講じていただき、中長期的には、需要が見込まれる輸出先国との解禁協議を含む輸出の拡大や国内の消費拡大等を通じ、肉用牛経営基盤の安定を図っていただきたい。
改良基盤の充実強化、経営の体質強化、担い手不足への対応について 、和牛肉の需給が緩和する中、増頭によらない繁殖経営の改善を図るためにも、高齢の繁殖雌牛から優良な若い繁殖雌牛の牛群への更新を促進し、子牛価格の回復をはかることは重要と認識。こうした構造転換を中長期的に実現していくためにも、優良な繁殖雌牛への更新加速化に向け、十分な支援を継続していただきたい。また、生産コストの高騰や人材不足が課題となる中、外部支援組織やスマート技術の活用、早期出荷、国産飼料の活用拡大などを促進いただくことはいずれも重要。例えば外部支援組織については、省力化・コスト低減に大きく貢献することから、その重要性は今後さらに増していくものと考える。他方、この数年で子牛価格は大幅に下落し、繁殖経営が余りにも厳しい状況。肉用子牛生産者補給金制度や上乗せの緊急対策も通じ、繁殖経営への万全な支援を講じていただくようお願いしたい。
伊藤課長:里井委員からのご指摘については、まさにその通り。中食・外食といっても、焼肉屋からしゃぶしゃぶ、和食の割烹、鉄板焼き等それぞれで求められるニーズや部位は異なる。こうした飲食店やスーパー、これら全ての結節点となっている食肉卸事業者など、関係者の方々ともよく意見交換しながら、今後のあるべき姿を考えていきたい。
井上委員から格付の見直しが必要というご指摘があった。格付は民間の取引規格であることから、その見直しには格付料を払う生産者を始めとした関係者の合意形成が必要。現在の等級を利用してブランド牛としている産地もある。生産・流通・消費の各段階において最終的に合意が取れる形が無ければ、見直しの議論は難しい。まずは脂肪交雑に加えて新たな強みを見つけていくことから始めさせていただきたい。
小椋委員:輸出に向けた施設整備や、既存のと畜場の施設整備をどのように進めていくかが非常に重要。今後もさらに施設整備の充実化に向けた対策を行っていただきたい。輸出に関しては輸出国との解禁協議や輸出対応施設の整備等が必要である。簡単ではないが、ここを充実させていくことが、海外で和牛の消費拡大を発展させていくカギになる。中国には非常に大きなマーケットがあり、現行の酪肉近でも中国への輸出を前提に目標を設定しているが、目標が実行できるよう中国への輸出を果敢に求めていただきたい。
畠中委員:A5等級の和牛肉の割合が6割を超えていることに驚いている。スーパーに並ぶ和牛はサシが多く、国産の赤身牛肉を購入したいが購入できない。また、高たんぱく・低脂肪・低糖質が良いものであるという認識が若者に根付き始めている。この若い世代が将来的にサシの入った和牛を食べるようになるのか疑問。コロナや物価高の他にもこういった要因も需要低下や豚肉・鶏肉へ消費がシフトしたことに影響しているのではないか。今後もこの傾向が続く可能性を考えていかなければならないのではないか。
現状、赤身肉は輸入品が安いが、長い目で見て、高くても国産を購入する消費者を増やしていかなければ日本の農業を守れないのではないか。
井上委員:素牛市場は規模が大きいほど購入者側にも販売側にもメリットがあることから、是非再編を進めていただきたい。一方、と畜場については、長距離移動が事故や枝肉の瑕疵の原因になりかねないため、全国各地にまんべんなくあることが望ましい。その上で、和牛に関しては海外マーケットを視野に入れることが必要。輸出に対応できると畜場の再編を希望する。
石田委員:肉牛の生産においても国産飼料主体の生産体制に移行していくことが必要ではないか。穀物を多給して肥育した結果、飼育コストが上昇するだけでなく、消費者ニーズともズレが生じているのではないか。酪農とも共通しているが、粗飼料の割合を増やすことで生産コストの削減や消費者ニーズに合った赤身肉の生産へつながっていくのではないのか。
伊藤課長:小椋委員からの御意見について、食肉処理施設の整備について、地域によってはブランド牛の拠点になるほか、食肉カットまで計画的にできなければ施設が運営できないこともある。ソフト面も含めて対応したい。
畠中委員からの御意見について、牛肉の需要に関して、国産の赤身肉については既に乳用種・交雑種で応えているところ。幅広い消費者ニーズに対し、和牛、交雑種、乳用種でそれぞれ応えている状況であり、牛肉全体でニーズに応えていくことが重要。脂肪交雑について、A5の比率は確かに高くなっているが、海外からの観光客の需要は高く、脂肪交雑はそういった面で強みである。また、脂肪交雑の強みを維持した上で小ザシやオレイン酸の研究も進めていきたい。
井上委員からの御意見について、家畜市場の再編合理化は、品ぞろえや流通の面でメリットが大きいため、推進していく。食肉センターの再編に関しては、距離の問題があることは承知している。ブランド牛の出荷拠点になっている地域や産地の生産基盤に直結している施設もあるため、どういった形での施設整備が適切か引き続き検討する。
沖田課長:輸出を進める上で、相手国の求める検疫条件を満たしていくことは、販売側としては当然の対応。輸出については実行計画に基づき国を挙げて対応しており、中国をはじめとする有望な市場については戦略的に進めているところ。特に中国に関してはポテンシャルが非常に高く重要な相手であり、現在、相手国の食品の安全に関するリスク評価が行われている。相手国に定められたステップの中で、あらゆる機会を捉えて進めていく。
廣岡課長:石田委員からあった肉牛への粗飼料給与について。粗飼料給与がコスト削減につながるのであれば進めていくべき取組。以前この畜産部会でヒアリングを行った、長崎の壱岐の生産者からは、青刈りとうもろこしを肥育牛に給与していくという発表もお聞きした。しっかりと見ていきたい。
大山委員:資料3のp46で、枝肉価格がBMSに連動しているデータを見せて頂いたが、BMS以外に価格決定の拠り所になるものはないのかもしれない。BMSの影響が弱くなっている中で、そのために価格差が縮まっているのではないか。オレイン酸はその一つの受け皿になり得ると考える。勿論、「美味しさ」にはオレイン酸だけではなく、様々な要素が複雑に関与しているが、一つのポイントでもあることから、この取組を小売段階までどのようにおろしていけるか検討していくことが重要。例えば、消費者がオレイン酸が何%か興味を持つようになれば、自然に早期出荷牛肉に対する関係者の合意形成もできるのではないか。そのほか、小ザシや環境負荷、アニマルウェルフェアなども、消費者が選択する一つの材料となる形にできないか、考えていく必要があると思う。
また、資料3のp48で、特徴的なブランド牛が幾つか挙げられているが、全国に多くあるブランドのうち、先進的な取組を行っているものに後方支援して頂ければ有難い。例えば、和歌山県の紀州和華牛は、県産副産物を活用しつつ、ビタミンAをコントロールせず、5等級を除外するブランドである。そういったユニークなブランドが出てくるのは嬉しいことである。地域で様々なブランドが出来、様々なブランドの基準ができれば、遺伝的多様性にも大きく貢献すると思うので、その辺りもぜひ検討頂きたい。
伊藤課長:格付の見直しについては、消費者が真に求める基準を見定める必要がある。生産者をはじめとした各段階の関係者の十分な合意形成が必要と考える。また、オレイン酸については、これを測定する機械の導入支援や、機械を市場に配置することで計測できるようにしているところ。一部のブランド牛では、オレイン酸の測定結果を生産現場に還元することで、肥育技術の改善、成績向上に取り組んでいる事例もあると聞いている。差別化を図ろうとする地域の取組に対する支援を検討していきたい。
また、この新たな強みを枝肉評価に結び付けることについては、各段階における理解醸成の度合いをよく検証した上で進めていくべきもの。オレイン酸については、測定方法による違いもあるので、測定手法の標準化や測定結果の精度、再現性などの技術的な問題にも留意しながら進めていく必要がある。いずれにしても、脂肪交雑以外の強みを見つけるのは重要と考えているので、よく連携を取りながら進めていきたい。
川田委員(事務局代読):脂肪交雑は、消費者にとっての価値の重要なポイントになっている。赤身需要が強いと言われているが、程よいサシは重要。赤身のステーキはニーズが強くても、赤身の焼肉や切り落とし肉は、適度なサシの入りようで、売上に大きく変化がある。現状の等級構成をみても、技術力は飛躍的に伸びているが、消費者に和牛ブランドの良さを伝えることも今後重要になる。また、消費者の中には、和牛も交雑牛も、同じ国産牛肉として同様に捉えている方がいる。交雑牛の品質が向上したことも要因。価格帯も和牛に比べて買いやすい、交雑牛の方があっさりしている、柔らかく美味しいという声も聞いており、交雑牛の扱いが増える原因になっている。サシが適度に入っている、肉色が薄い、鮮やかなピンクに価値を見出しているお客様が多いように思える中で、味への拘りは必要。和牛独特の香りや脂肪の口溶けをしっかり伝え、和牛というブランドを守ることが重要である。
馬場委員(事務局代読):生産者・関係者の努力により、脂肪交雑の改良が飛躍的に進展したことが、外国産牛肉と比べた和牛肉の強みであることは間違いないと認識している。他方、現在のように和牛枝肉価格が低調に推移する中では、この強みを維持しながらも、多様な消費者ニーズを的確に捉えて差別化や消費拡大を推進し、少しでも枝肉価格の向上につなげることが必要だと考える。あわせて、生産資材価格が高騰する中で、早期出荷をはじめ、適度な脂肪交雑の和牛を低コストで生産する技術の確立、関係者に対する普及等を通じ、所得の向上を図ることも必要。次期酪肉近においては、多様な消費者ニーズを踏まえた牛肉生産と持続可能な経営の両立を目指し、こうした取組を着実に進めて頂きたい。
牛肉の輸出増加が国内牛枝肉卸売価格を有意に上昇させる効果があることも踏まえれば、国内向けの供給を主とする産地にとっても輸出拡大は重要。世界の市場が拡大傾向であることも踏まえ、更なる輸出拡大を強力に推進して頂きたい。そのためには、輸出に対応した食肉処理施設の整備も重要であり、建設費の高騰や技術者の不足などの課題に対応し、十分な支援を講じて頂きたい。他方、食肉処理施設の多くが老朽化する中で、全ての施設が再編・輸出に対応できる訳ではない。我が国への食肉供給を途絶えないようにする観点でも、必要な食肉処理施設の整備に対し柔軟かつ十分な支援を講じて頂くようお願いする。
小針部会長:全体への意見として、まずは5年前の現行酪肉近の策定時から、情勢が大きく変わっていることを念頭に置かなければならない。一番象徴的なのは為替と物価だと思うが、こうした大きい情勢変化を踏まえて、次期酪肉近をどのように考えていくかが重要。
また、輸入牛肉が6割、国産牛肉が4割となった現在、消費者から見えている牛肉の世界と、生産者から見えている・見たい世界は異なる。本日の議論にもあったとおり、ニーズも品質もバラエティがあるため、合意形成を図るには難しい部分があると思う。本日の議論で様々な論点が出てきたのは良いことであり、事務方からも細かいデータや論点を出して頂けたと思う。
また、象徴的な部分として、今回お示し頂いた(繁殖経営の)生産コストについて、経営規模が大きい方が生産コストを低減できている一方で、よく見ると流通飼料費が上昇している。また、羽田委員からも所得と付加価値についてお話があったが、あの図だけを見ると、誤解を与えてしまう可能性。
今回事務局から出して頂いた論点と、審議会で出された論点を加味して、もう一歩丁寧な議論をしていけたらと思う。今日の論点をまとめて、次回につなげて頂きたい。
(以上)
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