改正土地改良法の施行について
28地局第5096号
昭和28年12月25日
農地事務局長あて
都道府県知事あて
農地局長
土地改良法は、昭和24年8月施行せられ、その後実体的な改正もなく現在に至つたのであるが、同法は占領下という特殊事情の下に立法されたものであり、既に過去4ケ年の同法施行に当つて種々の不備欠陥が指摘されると共に、他方において土地改良事業の実施手続の面で形式的なむしろ繁さとも思われるような手続を定めているため、食糧増産の促進及び農業経営の改善のために障害を来すおそれも見受けられる等関係者の間で同法の改正につき強く要望されて来たので、今回同法及び同法関係法令を大幅に改正することとし、法律については本年8月8日公布、11月5日から施行、省令については11月5日公布、同日から施行することとした。ついては下記事項を充分御了知の上改正法の円滑な実施を図られたい。
右命によつて通達する。
追つて土地改良法施行令については近く改正の予定であるので、念のため申し添える。
記
1 予備審査の廃止(第5条及び第6条)
土地改良区を設立するには旧法では土地改良事業の重要性にかんがみて、土地改良区の設立手続について、都道府県知事が予備審査及び本審査の二段階の慎重な審査を行つているのであるが、これらの手続のために設立の申請から認可になるまでには、最少限度3ケ月の日時を必要とし、土地改良事業の円滑な実施にややもすれば障害となつていた。
改正法は、これら土地改良区の設立手続の中、かんがい排水施設、農業用道路その他農地の保全又は利用上必要な施設の管理のみを行う土地改良区の設立については、予備審査を廃止し、実際にかんがい排水施設等の工事を行う土地改良区の設立については、道府県知事は、予備審査に代えて、土地改良事業計画の概要について事業の適否の認定のみを行うこととし、従来の予備審査に伴つた縦覧公告、利害関係人の意見の申立等は省略して手続の簡素化を図つた。なお、予備審査の廃止に伴つて利害関係者の権利保護は本審査の際にのみ行われることとなるので、本審査を行うに当つては、この点につき御考慮の上充分慎重を期せられたい。
2 員外役員の設置(第18条)
土地改良区は土地改良事業の達成を目的とする地域的団体であるという特色にかんがみ、役員について旧法では、監事の半数は都道府県知事の任命による外は、組合員外からの役員の選任を認めていなかったのである。
改正法は、土地改良区の民主的運営を徹底し、業務の円滑化を図るために、任命監事の制度を廃止し、役員は、すべて総会における選挙によつて選任することとした。又役員のすべてを組合員をもつて充てることは、運営に困難な場合も予想されるので員外者でも、土地改良区の業務執行に有能な才を持ち土地改良区の本質を良く理解している者があれば、これらの者を役員に充てることは必要且つ適当なことであるので、理事の定数の5分の1、監事の定数の2分の1の範囲内で員外の役員を置きうることとしたのである。
しかし乍ら員外役員の制度は、その選任如何によつては却つて弊害が生ずる場合も考えられるので、員外役員の資格については、学識経験者に限定する等都道府県においてその指導を適切に行う必要がある。
3 総代(第23条)
総代会は、総会にかわつて土地改良区の意思を決定する任意機構である。土地改良区の民主的運営の見地からいえば、総代会を置き得る場合は、総会を招集することが困難な場合のみに限定し、又総代の定数も多数でおることが望ましいのであるが、土地改良区の地区が広大にわたり、組合員数も多数であつて、技術的にも経済的にも総会を招集することは困難な場合が多く、又北海道のように組合員数は多くなくても地域は広大に及んでいる場合もある。
改正法は、このような土地改良区の実態にかんがみて総代会を置き得る場合を組合員500人以上とあったのを300人以上に引き下げ、総代の定数も組合員の意思の代表性と土地改良区の経費を勘案して一定数減少せしめて、総代会が土地改良区を代表し得る最少限度まで切り下げたのである。
なお、総代会における書面又は代理人による議決については今回の改正でこれを認めないこととした。
4 団体営土地改良事業の変更等(第48条)
土地改良区が新たな土地改良事業を行い、その事業を廃止し又はその事業計画を変更しようとする場合は、(1)その旨の総会の議決(2)その土地改良事業の施行に係る土地についての組合員で組織する会議の議決(3)都道府県知事の認可を必要としていたが、改正法では、その中の(2)の会議に代えて、その土地改良事業の施行に係る土地についての組合員の3分の2以上の同意を得ればよいこととした。この同意を得なければならない場合は、新たな土地改良事業を行うときは勿論既存土地改良事業計画の重要な部分の変更を行うときにも適用がある。したがつて土地改良事業計画の変更が重要な部分の変更でない場合、例えば施行地域、主要工事等の変更でないときは、3分の2以上の同意を要しないのは云うまでもない。
5 国営、都道府県営の開田、開畑又は千拓事業に附帯して民有地に土地改良事業を行う場合(第87条の2)
国又は都道府県は、自作農創設のため国が買収した土地については、法第3条に規定する資格者の申請によらず自ら事業計画を定めて、開田、開畑又は埋立干拓の事業を行えることは既に規定しているが、改正法は、これらの開田、開畑又は埋立、干拓の事業に附帯して、その近傍の民有地についてかんがい排水施設の新設等又は開田、開畑等の事業をあわせて行うことが、事業の効率を著しく高めるものであり、且つその土地の農業経営の合理化に寄与することが明らかであるときは、地元耕作者の申請がなくても、国又は都道府県は積極的にその3分の2以上の同意を得れば、前者の事業と後者の事業とについて総合的な計画を定めて、実施することができることとした。
6 国営、都道府県営土地改良事業の変更等(第87条の3)
国営又は都道府県営の土地改良事業は、国又は都道府県が慎重に計画を定めて行うものであるから、事業計画の変更を生ずることはあり得ないとの趣旨から計画の変更の手続規定は無かつたのであるが、実際に計画の変更は種々の事情から止むを得ない場合もあり得るので、改正法は、土地改良区の場合に準じて国営、都道府県土地改良事業計画の変更に関する規定を新しく設けたのである。
なお、土地改良事業は、土地改良事業計画に基いて作成された実施設計により、実施されるものであるから事業の実施に伴つて実施設計の変更を生じたときは、土地改良事業計画の変更が生ずるので改正法による計画変更に関する所定の手続が必要であることは勿論である。
7 農業協同組合等の予備審査の廃止(第95条)
農業協同組合が行う土地改良事業及び数人が共同して行う土地改良事業についても、今回の土地改良区の設立手続の簡素化と同様に、その土地改良事業が、かんがい排水施設、農業用道路その他農地の保全又は利用上必要な施設の管理のみを内容とする場合は、予備審査を廃止し、かんがい排水その他の施設の新設等の工事を行う場合は、予備審査に代えて、土地改良事業計画の概要について事業の適否の認定のみを行うこととした。
8 市町村営土地改良事業(第96条の2)
土地改良事業の施行主体は現在国、都道府県、土地改良区、農業協同組合及び数人の同施行に限られ、市町村は認められていなかつたのであるが、災害復旧又は農道等の事業の場合には市町村を施行主体として認める事がその事業の急速なる実施上必要であり、且つ現地の実状に即応するので、改正法は市町村もその行政区画内における小規模な事業については行いうるものとし、その実施手続も土地改良区の設立手続に準じて行わせることとした。
唯土地改良法は、あくまで農民の自主的団体である土地改良区が土地改良事業を行うことを原則としており、又農業協同組合についても同じ農民団体であることから事業主体たることが認められているので市町村が土地改良事業を行う場合には、あらかじめその事業の施行地域の全部又は一部をその地区とする土地改良区の同意を得ることを要件としている。又都道府県知事は市町村の行う事業の適否の認定に当ってはその事業の施行地域の全部又は一部をその地区としている農業協同組合の意見を聞かなければならないこととしている。
9 監督(第134条)
土地改良区は公法人的色彩の最も強い法人の1つであり、一面金銭その他の財産を経理運営するものであると共に土地改良区が管理する施設は治水上利水上重要な施設であるので、農林大臣及び都道府県知事は、行政目的の確保と一般組合員の利益保護の責任上、従来の一般的監督に加えて、法令、その他の処分に違反した役員に関しては改選命令を出すことができ、この命令に違反したときはその役員を解任することができることにした。なお土地改良区に対しては明年度より定例的に検査を行いその運営の適正化を期すべく目下その所要経費について大蔵省と折衝中である。




