土地改良法の一部を改正する法律の施行について
48構改B第192号
昭和48年2月8日
地方農政局長あて
北海道開発局長あて
沖縄総合事務局長あて
都道府県知事あて
農林事務次官
昭和47年5月24日法律第37号をもつて公布された土地改良法の一部を改正する法律は、同年11月17日公布の土地改良法の一部を改正する法律の施行期日を定める政令(昭和47年政令第398号)により同年11月22日から施行された。これに伴い、土地改良法施行令(昭和24年政令第295号)および土地改良法施行規則(昭和24年農林省令第75号)にも所要の改正措置が講ぜられることとなり、それぞれ土地改良法施行令の一部を改正する政令(昭和47年政令第399号)および土地改良法施行規則の一部を改正する省令(昭和47年農林省令第81号〉として同年11月17日および11月22日に公布され、同年11月22日から施行された。このほか、法律、政省令の改正に伴う農林省告示の一部が同年11月22日および24日に公布された。
これらの法令の施行に当たつては、下記事項を十分ご了知のうえ、その取扱いに万全を期されたく、命により通達する。
なお、下記事項中「法」とあるのは土地改良法〈昭和24年法律第195号)を、「令」とあるのは土地改良法施行令を、「則」とあるのは、土地改良法施行規則をいう。
記
第1 法改正の趣旨
土地改良法は、昭和24年に制定、施行されて以来、数次の改正を経て現在に至つているが、この間、本法に基づく各種の土地改良事業が施行され、農業生産基盤の整備を図ることによつて農業の生産性の向上、農業構造の改善等に大きく寄与してきた。
他方、わが国農業およびこれをめぐる諸情勢は、近年著しく変化しており、これに即応した農政の新たな展開を図ることが要請されている。この一環として、農業生産基盤の整備についても、これらの新たな事態に即してさらに一層強カかつ計画的に推進することが緊要となっている。また、最近における土地改良事業の実施面についても、従来にはみられなかったような広範な地域を対象とする大規模かつ基幹的な土地改良事業を推進する必要が生じているほか、都市化の進展に伴い農村における土地および水の農業上の利用とその他の利用との競合が増大してきているなど、現行の土地改良制度が農業 あるいは農村の実情と必ずしもそぐわない面も生じてきている。
このような情勢の変化に対応しつつ、今後の農業生産基盤の整備を計画的かつ効率的に推進するため、今回土地改良制度の全般についてその改善合理化を図ることとし、とくに換地に関する規定の整備、土地改良施設の利用関係の調整に関する措置の新設、各種工事を組み合わせた総合的な土地改良事業の制度の新設、国、都道府県営土地改良事業を市町村が申請することのできる制度の新設、土地改良事業を行なうことのできる者の範囲の拡大等を行なうこととした。
第2 非農用地の取扱いの改善等換地制度の改善
1 非農用地の取扱いの改善
(1) 趣旨
都市化の進展に伴う農村における土地の農業上の利用とその他の利用との競合が増大していることに対応しつつ、ほ場整備事業等換地を伴う土地改良事業の一層円滑な実施を図るため、非農用地についても関係権利者(その土地につき所有権、地上権、永小作権、質権、使用貸借による権利またはその他の使用および収益を目的とする権利を有する者をいう。以下同じ。)の同意を得て土地改良事業の施行地域内に含めて実施することができることとするとともに、土地改良事業の実施に伴う換地の仕組みについて創設換地、異種目換地等に関する新しい制度を設けることとした。
(2) 非農用地の地区編入
従来、非農用地については、閲係権利者の権利を保護するための規定が不備であつたため、開発して農用地とすることが適当な土地等のほかは、土地改良事業の施行地域内に含めないよう指導していたが、今後は、農用地の集団化その他農業構造の改善に必要な限りにおいて、当該非農用地の関係権利者全員の同意を得れば、土地改良事業の施行地域内に含めることができることとした(法第5条第7項)。
なお、土地改良事業の施行地域内に含めることにつき関係権利者全員の同意を要する非農用地は、建築物の敷地、墓地、境内地その他の土地であって、土地改良施設の用に供されている土地、農用地に隣接、附帯または介在している土地で農用地に従属して存在しているもの等通常土地改良事業の施行に係る地域に含めることが相当と認められるもの以外の土地としている(令第1条の4)。
(3) 非農用地区域の設定
ア 換地計画を定める土地改良事業でその施行地域内に非農用地として工事を施行する土地を含む場合には、土地改良事業計画のうち工事に関する事項は、その工事を施行する土地の区域(以下「非農用地区域」という。)とその他の区域とに分けて定めなければならない(法第7条第4項、則第14条の2)。なお、非農用地区域については工事のほか、換地についても特別の配慮をする必要があり、非農用地区域を設定する土地改良事業の計画の概要のうちの換地計画の要領および事業計画のうちの換地計画の概要においては、非農用地の取扱い方針を明記する必要があるので、留意を要する。
イ 都道府県知事が非農用地区域を設定する土地改良事業計画に係る適否決定を行なうに当たつては非農用地区域が次の要件に適合する場合でなければ、適当とする旨の決定をしてはならないこととした(法第8条第5項)。
なお、国、都道府県営事業にあつては、次の要件に適合することとなるよう土地改良事業の計画を定めなければならないこととなる(法第87条第4項)。
(ア) その土地改良事業の施行地域内に特定用途用地その他の非農用地で、引き続き農用地として利用されないことが確実であると見込まれるものが含まれる場合には、その土地に代わるべき非農用地区域が、農用地の集団化その他農業構造の改善に資する見地からみて、適切な位置にあり、かつ、妥当な規模をこえないものであること。
なお、特定用途用地とは、前記(2)の土地改良事業の施行地域内に含めることにつき関係権利者全員の同意を要する非農用地(同意の際、農用地として利用することを農業委員会に申し出たものを除く。)および国有地または国もしくは地方公共団体が公用もしくは公共の用に供している土地(農用地および農用地として利用することを農業委員会に申し出たものならびに道路、用排水路等の用に供されている公共用地を除く。)である(法第3条第8項)。
(イ) 農業者の生活上もしくは経営上必要な施設(その土地改良事業により造成される土地改良施設を除く。)または近く設置することが確実と見込まれる公用もしくは公共用施設(その土地改良事業により造成される土地改良施設を除く。)の用地が新たに必要な場合には、これらの土地に係る非農用地区域が適切な位置にあり、かつ、妥当な規模をこえないものであること。
(ウ) (イ)に掲げる場合のほか、施行地域における自然的経済的社会的諸条件からみて、土地改良事業の施行後において工場用地、宅地等への農地転用が行なわれることが見通される場合には、施行地域内において引き続き農用地として利用されるべき土地の効率的な利用を確保する見地からみて、これらの工場用地、宅地等に係る非農用地区域が適切な位置にあり、かつ、妥当な規模をこえないものであること。
ウ 関連制度との調整
非農用地区域の設定を含む土地改良事業計画の適否を決定する場合において (国、都道府県営事業にあつては、土地改良事業の計画の決定に当たり、農業振興地域の整備に関する法律(昭和44年法律第58号)第8条第1項の農業振興地域 整備計画、農地法(昭和27年法律第229号)第4条、第5条等の農地転用の許可、 農村地域工業導入促進法(昭和46年法律第112号)第5条第1項の農村地域工業導入実施計画、都市計画法(昭和43年法律第100号)第29条の開発許可等の関連制度との関係について、あらかじめ各担当部局と十分調整を行なう必要があるが、このほか、当該非農用地区域が、令第2条第5号に掲げる要件に該当することが必要である。この際、とくに次の点に留意するものとする。
(ア) 非農用地区域の区域は、その所在場所を地番で示す等その区域が明確となるよう表示するものとする。
(イ) 非農用地区域は、農業振興地域の整備に関する法律第8条第2項第1号の農用地区域には設定できないので、事前に十分な調整を行なうものとする。
(ウ) 都道府県知事は、非農用地区域の設定を含む土地改良事業計画の適否を決定する場合において(国、都道府県営事業にあっては、土地改良事業の計画の決定に当たり)、その非農用地区域に、転用(転用のためのその農地等の権利の取 得を含む。)につき農林大臣の許可を要する農地が含まれているときは、あらかじめ地方農政局長(北海道にあっては構造改善局長、沖縄県にあつては沖縄総合事務局長)に協議してその同意を得るものとする。
工 非農用地区域の規模等
上記イの非農用地区域については、イの(ア)から(ウ)までに掲げるすべての非農用地区域の面積を合計した面積の限度としてどの程度まで認められるかについては、制度の趣旨と地域の具体的事情に応じて判断するほかないが、いかなる場合においても、その土地改良事業の施行地域の面積の3割をこえることがないよう措置されたい。
なお、これらの非農用地区域の設定に当たつては、周辺農用地への公害防止等の措置につき配慮するとともに、当該土地の最終的利用主体に対しても公害防止等につき規制しうるようあらかじめ措置するものとする。
(4) 非農用地を含む場合の換地基準等
ア 従来の換地交付の基準のほか、従前地が宅地等の特定用途用地であるものは非農用地区域内に、農用地等の特定用途用地以外であるものは、非農用地区域外に換地を定めることとした(法第53条第1項)。したがつて、従前地が農用地であるものの換地を非農用地区域内に定める等上記の基準と異なつた方法で換地を定める場合(以下これを「異種目換地」という。)には、関係権利者の同意を必要とする特別な換地として取り扱われることとなる。
イ 非農用地の取込み、創設換地制度の拡大に伴い、換地清算の方法について、所要の規定の整備を行なつた(法第53条第2項)。
(5) 創設換地制度の拡大
ア 共同減歩による創設換地
共同減歩により創設換地を定めることができるのは、従来土地改良施設の用に新たに供する場合のみであつたが、地区内の農家の大部分が主として利用する農畜産物の生産、集荷、貯蔵、出荷等の用に供する施設または農業生産資材の貯蔵、保管等の用に供する施設の用に供する土地が必要となつた場合にも、 これによることができることとした(法第53条の3第1項、則第43条の9)。
イ 不換地処分地にみあう創設換地
上記ア以外の場合でも、新たに必要となる公用または公共用施設用地等法第 8条第5項第2号および第3号の規定により非農用地区域を定めることができるとされる土地について、非農用地区域内に創設換地をすることができることとしたが、この創設換地の面積は、同一地区内で、換地を定めないとされる土 地(いわゆる不換地処分地)の面積の範囲内に限定されることとなつている(法 第53条の3の2第1項)。
ウ 創設換地の取得者
(ア) 共同減歩による創設換地の取得者は、土地改良区、市町村、農業協同組合、農業協同組合連合会または農事組合法人(国営、都道府県営事業の場合は国または都道府県が、農地保有合理化法人営事業の場合は農地保有合理化法人が加わる。)のうち、事業主体がその者の同意を得て、換地計画において、その創設換地を取得すべき者として定めた者とした(法第53条の3第2項、第54条の2 第5項、第89条の2第3項、令第48条の3、第72条の3)。
(イ) 不換地処分地みあいの創設換地については、上記(ア)に掲げる者のほかに国、都道府県および日本住宅公団、地方住宅供給公社、日本道路公団等の営利を目的としない法人とした(令第48条の4)。
(ウ) 上記(ア)の場合において、土地改良区が、土地改良施設の用に供する土地を取得する場合は、清算金を支払わなくてよいこととされた(法第53条の3第3 項)。
2 換地技術者
(1) 換地計画に関する専門技術者の意見
従来換地計画の認可の申請があったときは、都道府県知事は専門技術者の調査および報告に基づいて審査することとしていたが、今回これに代えて、土地改良区等 (国、都道府県および市町村を除く。)が換地計画を定める(換地計画を変更する場合を含む。)に当たつては、権利者総会議の議決前に農用地の集団化に関し、専門的な知識、経験を有する一定の資格を有する技術者の意見をきくとともに、権利者総会議においてその内容を示さなければならないこととした(法第52条第4項、第5 項)。
(2) 意見の内容
(1)の意見は、次に掲げる事項を記載した意見書によるものとした(則第43条の 2)。
ア 当該換地計画が、耕作または養畜の業務を営む者の農用地の集団化、その他農業構造の改善に資するように定められているかどうかについての意見
イ 当該換地計画書に記載された事項の当否およびその理由
(3) 換地計画に関する専門技術者の資格
(1)の換地に関し一定の資格を有する技術者は、国が行なう土地改良換地士資格試験に合格した者とした(令第48条の2)。
(4) 土地改良換地士資格試験
ア 受験資格は、農用地集団化事業に係る実務経験3年以上の者でなければならないこととした(則第43条の2の2)。
イ 試験は、原則として毎年1回、農用地集団化事業に係る知識および実務について行なうこととした。ただし、換地処分に係る実務経験10年以上の者は、その者の申請により、試験の一部を免除することとした(則第43条の2の3)。
(5) 経過措置
改正法の施行の日から起算して2年を経過する日までの間に換地計画を定め、または変更する場合には、(1)の意見はきかなくてもよいこととされている。この場合 (1)の意見をきかないで定められ、また変更された換地計画の適否の決定および異議の申出の決定に際し都道府県知事が行なう審査に当たつての専門技術者の調査および報告については、なお、従前の例によるものとされている(改正法附則第10項、第11項)。
3 3条資格者の取扱い
非農用地のとりこみに関する規定の整備等に伴い、この事業参加資格の規定を適用しない者を次のとおりとした(法第3条第6項、第7項、第8項)。
(1) 道路、用排水路およびため池その他の公共の用に供する施設用地の所有者としての国または地方公共団体
(2) 換地計画で換地を定めないとされた従前の土地および非農用地区域に換地を定めた場合における従前の土地または換地の関係権利者
(3) 下記4(1)により、不換地処分予定地または特定用途用地以外の土地を非農用地区域内に換地をする予定地として指定された土地の関係権利者
(4) 創設換地の取得者
(5) 宅地等の特定用途用地またはこれに対する換地の関係権利者
4 その他
(1) 不換地処分地等の事前指定
ア 換地計画において換地を定めない予定の土地について、不換地の申出または同意を得たときおよび非農用地区域内に換地を定める予定の特定用途用地以外の土地について、その同意を得たときには、換地計画を定める以前において、それぞれの予定の土地である旨の指定をすることができることとし、この指定は関係権利者へ通知することによつて行なうこととし、通知をしたときはこれを公告することとした(法第53条の2、第53条の2の3第1項、第2項)。
イ 不換地処分予定地の事前指定をした場合に、必要があると認めるときは、仮清算金を支払うことができることとし、この場合には、従前の土地の所有者その他使用収益の権利を有する者に対し、期日を定めて、使用収益の停止をさせることができることとした(法第53条の2の3、法第53条の6第2項)。
(2) 国、都道府県営換地に関する改正
ア 国有地等の編入承認
国有地、国もしくは地方公共団体が公用または公共の用に供している土地を地区に編入するときは、従来から実際には承認をとつていたが、改めて、その旨を規定した(法第85条第5項、第85条の2第5項、第87条の2第6項、第87条の3 第6項)。
イ 清算金の徴収交付
国、都道府県営事業に伴う仮清算金、補償金、清算金等を徴収交付する場合に、関係地が土地改良区の地区内にあるときは、国、都道府県は、その土地改良区との間で、これらの仮清算金等の徴収交付ができることとし、土地改良区は、この徴収交付金を関係権利者との間で徴収し、または交付することができることとした(法第89条の2第11項、第12項、第13項)。
ウ 清算金の滞納処分
国は、上記の仮清算金等を滞納する者があるときは、これに対し、督促、延滞金の徴収および滞納処分をすることができることとした(第89条の3)。なお、土地改良区が、上記イの場合に各関係権利者から徴収する仮清算金等が滞納されることとなつた場合には、一般の事業賦課金と同様の取扱いができることとした(法第38条)。
工 創設換地の取得等
国、都道府県営事業の場合における創設換地の取得は、取得者に国または都道府県が加わるほかは土地改良区の場合に準ずる。土地改良区に土地改良施設を取得させる場合に取得者たる土地改良区が清算金を支払わなくてよい点も同様である(法第89条の2第3項)。
(3) 換地区についての取扱いの改善
ア 事業計画の概要等の記載
従来は土地改良事業の計画の概要および土地改良事業計画書における記載について、施行地域を数区に分けた場合は、換地に関する事項、費用および効果を各区ごとに分けて記載することになつていたが、これを換地関係事項のみを各区ごとに記載すれば足りることとした(則第6条、第14条の2)。
イ 換地区間のとび換地
施行地域を数区に分けた場合において、ある区の換地計画で、他の区にある従前の土地をその区にあるのと同様に取り扱い、その区内にこれに対する換地を定め、または定めないことができることとした(この換地を定めない土地(不換地処分地)の面積をその区の不換地みあいの創設換地の面積に加えることができる。)。この場合、その従前の土地は、他の区では従前の土地として取り扱えないこととされた(法第52条第2項)。
なお、上記のように2以上の区にわたる換地、不換地を行なおうとするときは、二重換地等を避けるため、関係ある区の換地処分についての関係権利者への通知、都道府県知事への届出、都道府県知事の公告、登記所への通知および換地処分の登記の申請の手続は、関係区が、同時にしなければならないこととされている(法 第54条第6項、土地改良登記令第10条第2項)。
(4) 換地計画書の記載等
換地計画書の記載の簡索化を図るため、様式中の「所有権に関する明細」の記載に当たり、従前の土地に所有権以外の権利および処分の制限がない場合には、「換地交付基準額」、「換地交付基準地積」、「地積の増減の割合」および「清算金」の各欄は、各組合せごとの記載を省略できることとし、合計欄に「所有権以外の権利及び処分の制限がない土地」の合計値を記載することとする等の改正を行なつた(則別記様式第4号備考第17号)。
(5) 経過措置
新法施行の際、換地計画の認可を、都道府県知事に申請し、未だ認可または不認可の処分がされていないものの処理については、旧法の適用があることとした(法附則第8項)。したがつて、これ以外の国、都道府県営事業およびそれ以外の事業で都道府県知事に認可申請中でないものについては、たとえその事業地区につき一時利用地の指定があつたもの等でも新法の適用がある。
第3 土地改良事業の総合化
1 趣旨
従来数種の土地改良工事を行なう場合には、その種類ごとに別個の土地改良事業の計画を定めて実施することとしていたが、最近は一体的な計画の下に各種の工事を組み合わせた地域開発的事業を実施する必要が生じてきているので、今回これらの各種の工事をあわせて一個の土地改良事業として施行することができるようにするための改正をするとともに、土地改良事業相互間および土地改良事業と農業振興地域整備計画に基づく施策等との斉合性を確保するため、土地改良事業の計画の概要を公告して事業参加資格者等の同意を得る前にあらかじめ関係市町村長の意見をきかなければならないこととした。
2 一体事業
2以上の土地改良施設の新設または変更等をあわせて1の土地改良事業として施行することができるのは、次に掲げる要件に適合するもの(以下「一体事業」という。)である(法第2条第2項第1号、令第1条の2)。
(1) あわせて施行することを相当とする要件
ア 2以上の土地改良施設の新設または変更をあわせて1の土地改良事業として施行する場合にあつては、当該2以上の土地改良施設の新設または変更をあわせて施行することにより当該1の土地改良事業の施行地域内の農業経営の合理化に寄与することが明らかであり、かつ、当該2以上の土地改良施設の新設または変更の施行地域がすべて重複する区域の面積が当該1の土地改良事業の施行地域の面積の3分の2以上であること。
イ 土地改良施設の新設または変更(アの要件に適合する一体事業を含む。)と区画整理、農用地の造成その他農用地の改良または保全のため必要な工種とをあわせて1の土地改良事業として施行する場合にあつては、これらの2種をあわせて施行することにより当該1の土地改良事業の施行地域内の農業経営の合理化に寄与することが明らかであり、当該土地改良施設の新設または変更の施行区域と当該区画整理、農用地の造成その他農用地の改良または保全のため必要な工種の施行区域とが重複する区域の面積が当該1の土地改良事業の施行地域の面積の3分の 2以上であり、かつ、当該区画整理、農用地の造成その他農用地の改良または保全のため必要な工種のそれぞれの施行区域と当該土地改良施設の新設または変更の施行区域とが重複する区域の面積がそれぞれ当該区画整理、農用地の造成その他農用地の改良または保全のため必要な工種のそれぞれの施行区域の面積の2分の1以上であること。
(2) 法手続等
一体事業の土地改良事業計画およびその概要は、1個のものとして取り扱うこととなるが、同意手続、費用負担等の関係から一体事業を構成する各事業ごとにその種類、施行区域およびその面積、事業費等についても明らかにする必要がある。
(3) 申請要件
一体事業の申請要件については、一体事業を構成する各事業の規模等がそれぞれ単独事業(あわせて行なう従来の総合事業を含む。)としての申請要件を満たしていることが必要であること(令第49条第2項、第50条第2項)に留意されたい。
(4) 費用負担割合等
国営事業として行なう一体事業についての国の費用負担割合は、その一体事業を構成する各事業についての国の費用負担割合を総合したものとし(令第52条第1項第4号の2)、都道府県の負担する負担金についての都道府県の支払方法等は、一体事業を構成する各事業についての負担金の支払方法等に準じて定められている(令 第52条の2等、昭和47年11月24日農林省告示第2234号)。
3 農用地の造成の事業範囲の拡大
従来の農用地以外の土地の農用地への地目変換および農用地間の地目変換の事業のほかに、当該事業とこれに附帯して施行することを相当とする区画形質の変更の工事その他農用地の改良または保全のため必要な工事をも一体として施行することができることとした(法第2条第2項第3号)。この場合に、附帯して施行することを相当とするとは、これらの工事を附帯して施行することにより地域の農業経営の合理化に寄与することが明らかであり、その附帯して施行する工事の施行区域が従来の農用地造成事業の施行区域に介在または隣接しており、かつ、その附帯して施行する工事の施行区域の面積が一体として施行する区域の面積の3割をこえないことをいうものとする。
なお、事業範囲を拡大して実施する農用地造成事業についての法手続等については従来どおりとし、その費用負担割合等については、従来の各事業についての費用負担割合等を総合したものとすることとしている(令第52条第1項第1号の2)。
4 市町村長の意見聴取
土地改良事業の施行を申請する者は、土地改良事業の計画の概要を公告する前にあらかじめ書面により関係市町村長の意見をきかなければならないこととし(法第5条 第3項、第85条第5項等、則第9条の2、第10条等〉、認可の申請の際には、関係市町村長の意見を記載した書面を添付しなければならないこととした(則第14条、第57条の3等)。
第4 農業振興地域整備計画に基づく基幹事業の実施方式の改善
1 趣旨
最近土地改良事業の広域化、大規模化等事業内容が実態的に変化してきたが、このような事業においては、関係農家の同意を求める従来の方式は必ずしも実情にそぐわない点があること、また農業振興地域制度の発足に伴い、農業振興地域整備計画の推進について市町村が果す役割が高まつてきていること等から、市町村が事業参加資格者の同意を得て国営または都道府県営土地改良事業を申請できるみちを開くとともに、とくに基幹的な土地改良施設の新設または変更の事業で事業参加資格者の同意を事前に求めることが適当でない特定の事業については、議会の議決を経て申請(以下「市町村特別申請」という。)できるよう基幹事業の実施方式の改善を図ることとした。
2 同意を得てする市町村申請事業
(1) 申請の要件
市町村が事業参加資格者の3分の2以上の同意を得て申請することができる国営または都道府県営土地改良事業は、農業振興地域整備計画を達成するため必要と認め、その農業振興地域整備計画に定められた土地改良事業について申請する場合に限られるほか、法第85条第1項の規定による一般の国営または都道府県営土地改良事業(以下「一般申請事業」という。)の申請要件と同様とした(法第85条の2第1 項、令第49条第1項、令第50条第1項)。
(2) 申請の手続
15人以上の事業参加資格者に代り市町村(その申請に係る土地改良事業の施行に係る地域が2以上の市町村の区域にわたる場合にあつては、当該関係市町村が共同して。以下、3の市町村特別申請事業において同じ。)が申請人としてすべての手続きを行なうことおよび申請に当たり関係市町村長の意見をきかなくてよいことのほか、申請の手続きは、すべて一般申請事業の場合と同様である(法第85条の2第1 項~第5項、則第57条の4 ~10、則第57条の15第1項)。
(3) 計画の決定等
農林大臣または都道府県知事が行なう適否の決定、土地改良事業計画の決定および変更の手続ならびに負担金または分担金等は、すべて一般申請事業の場合と同様である。
3 市町村特別申請事業
(1) 対象事業
ア 市町村特別申請事業は、農業振興地域整備計画に定められた基幹的な土地改良施設の新設または変更の事業のうち、他の土地改良施設の新設または変更を内容としまたは内容の一部に含む土地改良事業(以下「関連土地改良事業」という。) と一体となつてその効果が生じまたは増大するもので、当該関連土地改良事業の計画内容が未確定のため事業参加資格者の同意を求めることが適当でないと認められるものであつて、当該関連土地改良事業が計画内容を確定して施行される確実な見込みがあり、かつ、その確定をまつて事業に着手していたのでは、その規模からみて完了が著しく遅延し、農業振興地域整備計画の達成に支障を生ずるおそれがあると認められる場合に行なうことができる(法第85条の2第6項)。
イ 対象となる基幹的な土地改良施設は、その施行に係る地域の面積がおおむね6,000ヘクタール以上にわたる農業用用排水施設またはその施行に係る地域の面積がおおむね1,500ヘクタール以上にわたる農業用道路とした(令第50条の2)。
(2) 申請の手続
ア 計画の概要等
市町村が申請に当たり定める計画の概要等は、関連土地改良事業の概要につき記載を要するほか一般申請事業の場合と同様である(法第85条の2第7項、則第 57条の11、則第57条の12)。
イ 関係土地改良区等の意見の聴取
市町村は、市町村特別申請事業を申請するに当たつては、あらかじめ計画の概要および予定管理方法等その他必要な事項を示して、当該申請につき、関係土地改良区、農業協同組合および農業協同組合連合会の意見をきかなければならないこととした(法第85条の2第7項、昭和47年11月24日農林省告示第2230号)。この意見の表示は、事業参加資格者の同意を得ないでする市町村特別申請事業の申請段階における農民意思の反映となるものであることにかんがみ、関係土地改良区等が総会または総代会の議決を経るなど関係農家の意向を十分には握したうえで行なうようとくに留意されたい。
なお、この意見は、書面により表示されなければならない(則第57条の13)。
ウ 市町村議会の議決
市町村は、申請に当たつては、当該市町村の議会の議決を経なければならない(法第85条の2第6項)。
工 都道府県の同意
市町村特別申請事業は、末端関連土地改良事業が確定しない段階において、都道府県の責任において進められる面もあるので、国営土地改良事業を申請する場合には、あらかじめ計画の概要および予定管理方法等その他必要な事項を示して都道府県の同意を得なければならないこととし、さらに都道府県は、この同意をするについて都道府県議会の議決を経なければならないこととした(法第85条の 2第7項および第8項、則第57条の14)。
オ 申請
申請は、国営土地改良事業にあっては農林大臣に、都道府県営土地改良事業にあつては関係都道府県知事に対して行なうが、この申請書に添付すべき書面は次のとおりである(法第85条の2第9項、則第57条の15第2項)。
(ア) 関係土地改良区等の意見をきくに当たり示した事項(計画の概要および予定管理方法等その他必要な事項)を記載した書面
(イ) 市町村の議会の議決があつたことを証する書面
(ウ) 関係土地改良区等の意見を記載した書面
(エ) 国営土地改良事業の施行を申請する場合にあつては、都道府県の同意があつたことを証する書面
(3) 適否の決定等
ア 都道府県議会の議決
都道府県営市町村特別申請事業につき都道府県知事が法第86条第1項の規定により適当とする旨の決定を行なうには、あらかじめ、都道府県議会の議決を要することとした。この議決は、市町村が関係土地改良区等の意見をきく際に示した事項を記載した書面を添えた議案につき行なわなければならない(法第86条第3項、則第 57条の20)。
イ その他の手続
市町村特別申請事業について農林大臣または都道府県知事が行なう事業の施行に関する手続きは上記アに掲げる事項のほかは、おおむね一般申請事業の場合と同様である。
(4) 計画の変更
ア 重要な部分の変更
法第87条の3第7項以下に規定する手続きを必要とする重要な部分の変更は、次のとおりとした(則第61条の9の4)。
(ア) 主要工事計画および事業費で主要工事計画に係るもの
(イ) 施行地域の変更であつて、その変更により新たに施行地域に含まれることとなる市町村もしくは施行地域に該当しないこととなる市町村がある場合またはその変更により新たに施行地域の一部となる土地の地積もしくは施行地域に該当しないこととなる土地の地積が、その変更前の施行地域の1割以上になる場合
イ 変更の手続
農林大臣または都道府県知事が市町村特別申請事業につきアに掲げる重要な部分の変更をしようとする場合の手続きは、申請の場合に準ずることとした(法第87条 の3第7項~第10項、則第61条の9の5~第61条の9の8)。
(5) 負担金および分担金
ア 国営土地改良事業の負担金
(ア) 国営市町村特別申請事業の負担金は、一般の申請による国営事業の場合と同様に国は法第90条第1項の規定に基づき、都道府県から徴収する。この都道府県は、条例の定めるところにより、関係土地改良事業を行なう者その他特に当該事業により著しい利益を受ける者からその者の受ける利益(関連土地改良事業を行なう者にあつては、その行なう関連土地改良事業の施行に係る地域内の受益者の受ける利益の合計額)を限度としてその全部または一部の徴収をすることができることとした(法第90条第9項)。なお、関連土地改良事業を行なう者は、この負担金を賦課徴収しうることとした(法第36条第1項等)。
(イ) 都道府県が負担する負担金の額およびその国に対する支払の方法は、一般の申請による事業と同様とした(令第52条、令第52条の2第8項、昭和47年11月24日農林省告示第2235号)。
なお、都道府県の徴収方法は、農林大臣の定める支払の方法に準拠して都道府県知事が定める方法によることとした(令第53条の7の2)。
イ 都道府県営土地改良事業の分担金
都道府県は、その行なう都道府県営市町村特別申請事業について前記アの(ア)の場合と同様に、関連土地改良事業を行なう者その他特に利益を受ける者からその受ける利益(関連土地改良事業を行なう者にあつては、その行なう関連土地改良事業の施行に係る地域内の受益者の受ける利益の合計額)を限度として地方自治法第224条の分担金を徴収することができることとした(法第91条第5項、令第54条第4項)。
ウ 負担金等についての留意事項
市町村特別申請事業は、末端の関連土地改良事業が未確定の段階において、関連土地改良事業が確実に着工される見通しのもとに着手されるものであり、都道府県は、その負担金または分担金を、特に著しい利益を受ける者から徴収するものを除いて末端の関連土地改良事業を行なう者から徴収することとしている。すなわち、この市町村特別申請事業に参加するか否かについての事業参加資格者の意思は、その負担金または分担金を負担するか否かをも含めて関連土地改良事業に対する同意を通じて表明されるよう担保されているわけであり、最終的に関連土地改良事業の実施により、市町村特別申請事業への参加が決定され、関連事業を通じて負担金または分担金を負担することとなる。したがつて、都道府県が負担金または分担金を徴収する時期までに予定する関連土地改良事業が開始されていることが必要である。
第5 農業用用排水施設等の利用関係の調整
1 趣旨
農村における都市化の進展等に即応し、農業用用排水施設等についての農業上の利用とその他の利用との間の円滑な調整を図るため、国営土地改良事業により造成された基幹的な土地改良財産について発電事業、水道事業、その他の公共事業を行なう者との共有持分を付与することができることとしたほか、土地改良区はその行なう土地改良事業によつて利益を受ける組合員以外の者からも都道府県知事の認可を受けその事業に要する経費の一部を徴収することができることとし、また、下水道等と兼用することが適当となった土地改良施設の管理等について関係地方公共団体等との協議および農業用用排水路に排出される廃水の差止め等に関する規定を整備した。
2 土地改良財産の共有持分の付与等
(1) 改正の概要
土地改良財産についての他目的使用の根拠を土地改良法上明確に規定する(法第 94条の4の2第1項)とともに、ダム、水路等の土地改良財産についての農業側と都市用水側との利用の円滑な調整を図るため、特定の場合について都市用水等に基幹的な土地改良財産の共有持分を与えることができることとし、その場合において国は共有持分の対価として当該土地改良財産の建設費の一部を徴収し、さらに、その対価の一部を当該建設費を負担した割合に応じて地元に還元することとした。
(2) 持分付与の手続
従来は都市用水等の側から土地改良財産の使用の要請があつたときは他目的使用により措置してきたが、今回の改正により、農林大臣は国営土地改良事業により造成した土地改良施設のうち、法第94条の3第1項の政令で定める基幹的土地改良施設を発電事業、水道事業その他の公共の利益となる事業の用途に兼用するため特別の必要がある場合には、当該施設の利用状況等につき十分調査のうえその本来の用途、目的を妨げない限度でこれらの事業者に土地改良財産について共有持分を与えることができることとした。
なお、共有持分を与える場合には、農林大臣はあらかじめ、当該事業者と協議して共有持分の割合、その対価の額および支払方法、管理の方法、管理費の分担その他必要な事項を定めなければならないこととし、農民の施設および水利用に関する権益が不当に侵害されることのないよう措置することとしている(法第94条の4の 2第2項)。
また、農業用水の転用等を伴う共有持分の付与に当たつては、あらかじめ河川管理者等と協議し、流水占用の許可等との間にそごを生じないようにされたい。
(3) 持分付与の対象
共有持分の付与の対象となる基幹的土地改良施設はダムおよびため池(ダムにより流水を貯留するものに限る。)のほか、えん堤(ダムを除く。)、水路および揚水施設であつて農林大臣が共有化を必要と認めて個別に指定するものとし(令第55条の 2)、これらの土地改良施設を構成する土地改良財産たる土地または工作物その他の物件について共有持分が与えられることとなる。
なお、これ以外の土地改良財産は法第94条の3第1項の規定により一般土地改良施設として従来どおり土地改良区等に譲与することができることとした。
(4) 持分付与の対価等
共有持分の対価として当該施設の建設費のうち共有持分の付与に係るものについては、国が徴収することとなるが、国はこの対価の一部を当該国営土地改良事業の建設費を負担した地元都道府県、土地改良区等に還元することとした。この場合において、国は共有持分の対価を当該施設の建設の際の、国営土地改良事業の建設費負担割合に応じて按分し、国の負担割合に応ずる部分以外の部分の額(すなわち、法第90条第1項の規定により都道府県に負担させた割合に応ずる部分の額)を都道府県に交付する(法第94条の4の2第3項、令第55条の3)。
都道府県は、原則としてその交付金の全部または一部を当該国営土地改良事業の施行に係る地域における農業構造の改善に寄与することが明らかな事業に要する経費に充てるものとする。
(5) 共有分割請求の禁止
共有持分を与えた土地、工作物その他の物件は分割されるとその管理に支障をきたすおそれがあるので、用途廃止されるまでの間は分割請求ができないこととした(法第94条の4の2第4項)。
(6) 共有持分の付与についての留意事項
土地改良財産の共有持分の付与に当たつては、あらかじめ必要水量についての測定調査を行ない、土地改良区その他の地元関係者と十分調整を図ることとし、いやしくも農業者の使用水量に不足を生じるような事態を招くことがないよう慎重に配慮するものとする。
3 差止め請求等
(1) 改正の概要
農業用用排水路に工場廃水等が排出されることにより、農業用用排水路の管理に著しい支障を生じ、または生ずるおそれがあると認められるときは、その水路を管理する土地改良区は、管理規程の定めるところにより廃水の排出者に対し廃水の減量、排水の停止等を要求すること(差止め請求等)ができることとした(法第57条 の3)。
(2) 管理規程
差止め請求等をすることができるためには、土地改良区等はあらかじめ管理規程を定め、都道府県知事の認可を受けなければならない。都道府県知事は、管理規程の認可をしたときは、遅滞なくその旨を公告しなければならないこととした(法第57条の2)。
なお、土地改良区が管理規程を定めて管理しなければならない施設は、従来はダムその他のえん堤だけであつたが、今回これに加えて、農業用用排水路であつて、その水路に廃水が排出されることにより、当該農業用用排水路の管理に著しい支障を生じ、または生ずるおそれのあるもののうち市街化の進展その他の社会的経済的諸条件の変化の状況を考慮して、都道府県知事が指定したものについても管理規程を定めて管理しなければならないこととした(則第47条)。その管理規程に定めるべき事項についても従来のダムその他のえん堤とは異なつた事項としている(則第48 条の2第2号)。
(3) 差止め請求等
(2)の管理規程において予定する廃水以外の廃水(予定外廃水という。)が排出されることにより、農業用用排水路の管理に著しい支障を生じ、または生ずるおそれがあると認められるときに、管理規程において定められている差止め請求等を行なうことができることとなる。
(4) 土地改良区以外の取扱い
土地改良区以外の事業主体が農業用用排水路を管理する場合についても、土地改良区の場合と同様の規定が設けられている(法第93条の2第1項、第93条の3、第 96条および第96条の4による第57条の2および第57条の3の準用)。
4 非農地受益者賦課
(1) 改正の概要
従来、土地改良区の行なう土地改良事業に要する経費は、組合員からだけしか賦課徴収することができないことになつていたが、土地改良事業、特に排水事業等の一般的に公共的性格の強い事業による受益は単に農地にとどまらず、広く宅地等にも及ぶものがあるところから、土地改良区は、その行なう土地改良事業により著しく利益を受ける非農地受益者から、受益を限度としてその土地改良事業に要する経費の一部を徴収することができることとした(法36条第8項、省令第28条の2)。
(2) 手続
非農地受益者は土地改良区の組合員ではなく土地改良区の運営に参加するわけではないので、非農地受益者の利益保護の見地から、土地改良区が非農地賦課をするには、定款にその旨定めなければならないことのほか、都道府県知事の認可を受けなければならないこととし、都道府県知事はその認可をしようとするときは、あら かじめ、関係市町村長の意見をきかねばならないこととして、公正妥当な運用の確保を図つている(法第36条第8項、第9項)。
なお、非農地受益者に対する賦課徴収についても、組合員に対する賦課徴収と同様に強制徴収が認められている。
5 市町村等協議
土地改良区の管理する土地改良施設が下水道等の土地改良施設以外の用に兼ねて供することが適当であると認められるに至つた場合には、土地改良区は、関係市町村等に対してその管理方法(移管を含む。)、管理費の分担等につき協議を求めることができることとした。この場合、その土地改良施設が委託を受けて管理するものであるときは、あらかじめ、委託者の同意または承認を要する(法第56条第2項)。
土地改良施設のなかには、市街化の進展等に伴い都市側の利用の比重が高くなり、農民の組織する土地改良区が管理主体となつて管理を続けることが必ずしも適当でないものがみうけられることから、土地改良施設をその他の施設と兼用することを請求することができる法的根拠を明らかにしたものである。
第6 農地保有合理化法人に対する事業実施資格の付与等
農地法の一部を改正する法律(昭和45年法律第56号)の施行により農地保有合理化法人(以下「合理化法人」という。)が制度化されたが、この合理化法人が行なう農地保有合理化促進事業と土地改良事業とを有機的に関連づけて運営することができるよう、合理化法人に、土地改良事業の実施資格、国県営農用地造成事業の申請資格、国営干拓地の配分適格等を付与した。
1 土地改良事業の実施資格
従来の農業協同組合等の行なう土地改良事業の規定に合理化法人の行なう土地改良事業の規定を含め、合理化法人が、土地改良事業を実施できるよう規定を整備し(法第95条~第96条、則第69条の2)、交換分合についても同様の規定の整備を行なつた(法第100条、則第84条の2)。
したがつて、合理化法人の行なう土地改良事業の実施手続等については、従来の農業協同組合等の行なう土地改良事業の場合と全く同様である。
なお、本来土地改良区が行なうべき土地改良事業を合理化法人が行なうのは、その土地改良事業の施行地域内の大部分の土地につき合理化法人が事業参加資格を有する場合等限定的に運用することとしているので留意されたい。
2 国県営農用地造成事業の申請資格
地方公共団体等が権原に基づき使用しおよび収益している土地で当該地方公共団体等の事業参加資格に係るものについての国県営農用地造成事業の申請規定を拡大して、合理化法人も地方公共団体等とともに申請できることとした(法第85条の3)。この場合、法第3条第4項の規定により合理化法人が耕作または養畜の業務を営む者とみなされる農用地については、合理化法人が当該土地を使用しおよび収益していない場合であつても申請することができることに留意されたい。
3 国営干拓地の配分適格の付与
合理化法人に対する国営干拓造成地の配分に関する規定を新設し国営干拓造成地の合理化法人配分のみちを開いた。その配分手続は、以下のとおりである。
(1) 通知
農林大臣は、埋立予定地の全部または一部およびその周辺の地域をその事業実施地域に含む合理化法人がある場合には、法第94条の8第1項の公告の予定日の90日前までに、当該合理化法人に対し、その埋立予定地の所在、予定配分面積および公告の予定日を通知する(法第94条の8の2第1項、則第68条の7)。
(2) 配分の申込
(1)の通知に係る埋立予定地の配分を受けようとする合理化法人は、埋立予定地等の使用および処分に関する計画において、当該埋立予定地等の使用計画、当該埋立予定地等の処分の計画ならびにその予定対価および徴収方法等を定め、法第94条の8第1項の公告の予定日の30日前までにその計画を記載した書面を添附して、配分申込書を農林大臣に提出する(法第94条の8の2第2項、則第68条の8)。
(3) 配分通知書の交付
農林大臣は配分申込があつた場合(2)の書面を審査のうえ適当と認めるときは配分通知書を交付する(法第94条の8の2第3項)。
(4) 使用および処分の計画の変更
合理化法人は、配分通知書の交付を受けた後に(2)の書面の記載事項を変更しようとするときは、あらかじめ、農林大臣の承認を受けなければならない(法第94条の8の2第4項、則第68条の9)。
(5) 以下の手続きは、一般配分と同様である(法第94条の8の2第6項)。
なお、合理化法人への配分については、都道府県知事への権限の委任は行なつていない(令第72条)ので、農林大臣が行なうこととなることに留意されたい。
4 事業参加資格の明確化
従来、合理化法人の事業参加資格については、その所有地については事業参加資格があることは明らかであつたが、その他の場合にあつては疑義もあつたので、合理化法人が借り受けている農用地をまだ貸し付けていないときならびに所有している農用地および借り受けている農用地を一時貸し付けている場合に、合理化法人をその農用地につき権原に基づき耕作または養畜の業務を営む者とみなすこととし、その事業参加資格を明確にした(法第3条第4項)。
第7 特別徴収金
1 趣旨
土地改良事業の受益地が農業外の用途等に供された場合にその土地改良事業に投下された公共投資を回収する措置については、従来は国営干拓地における目的外用途への転用の場合に特別徴収金を徴収する制度が設けられており、また補助事業については補助金等に係る予算の執行の適正化に関する法律に基づき補助金の交付に条件を付することにより土地改良事業の受益地が転用される場合等にはその土地改良事業に対し国が交付した補助金の返還措置(以下「補助金返還措置」という。)が設けられているが、今回、干拓以外の国営土地改良事業についてもその施行地域内の土地が一定期間内に目的外用途に供され、または目的外用途に供するためにこれにつき所有権の移転等がなされた場合には、国は、その負担した事業費の範囲内で、特別徴収金を徴収できることとし、これにあわせて、都道府県営、団体営の土地改良事業についても同様の趣旨の規定を整備した。
2 対象とする土地改良事業
特別徴収金の対象とする土地改良事業は、原則として昭和47年11月22日以降にその開始の手続を行なうもの(改正法附則第6項および第7項)となつているが、農林大臣が別に定める一定の事業については、その土地改良事業による土地の受益等を考慮して、特別徴収金を徴収しないこととしている(令第53条の9)。
また、都道府県営土地改良事業等についても、補助金の交付の条件等によりこれに準じた取扱いをすることとしている。
3 対象となる行為
特別徴収金を徴収することとなる行為は、土地改良事業の施行地域内にある土地につき、法第3条に規定する資格を有する者がその土地をその土地改良事業の計画において予定した用途以外の用途(以下「目的外用途」という。)に供するため所有権の移転等をした場合または当該土地を目的外用途に供した場合としているが(法第90条の 2第1項、第91条の2第1項等)、農業経営の合理化のために必要な共同利用施設の用に供するために所有権の移転等をした場合、土地収用法の規定に基づいて収用されることとなる場合において所有権の移転等をした場合その他目的外用途の態様または目的外用途に供した土地の面積を考慮して特別徴収金を徴収しないことを相当とするものとして農林大臣が別途定める基準に該当した場合には、特別徴収金を徴収しないこととする(法第90条の2第1項、令第53条の9)。なお、都道府県営土地改良事業等についても、補助金の交付の条件等により同様の取扱いをすることとしているが、土地改良区営事業の場合は、とくに国または地方公共団体に対して補助金等の全部または一部を返還しなければならないこととなつた場合に限り徴収することができることとしている(令第47条の2)ので、留意されたい。
4 徴収金額
国、都道府県または市町村が徴収する特別徴収金の額は、それぞれ、原則としてその土地改良事業につきこれらの者が投資した額のうち、その目的外用途に供した土地に係る部分の額としている(令第53条の10、第54条の2等)。なお、都道府県または市町村については、条例にその旨定めることとしている。
5 対象期間
特別徴収金を徴収されるのは、国営土地改良事業については、事業完了の公告の日(干拓事業にあつては、埋立地または干拓地を取得した日)以後8年間に目的外用途に供した場合とし(法第90条の2第1項)、都道府県営事業等についてもこれに準じた取扱いをすることとしている。
第8 その他
所要の規定の整備を行なつた。




