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農林水産省

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持続的養殖生産確保法の施行について

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11水推第1132号
平成11年6月2日

都道府県知事あて
漁業調整事務所長あて
水産研究所長あて
水産大学校長あて
沖縄開発庁沖縄総合事務局長あて
漁業関係団体の長あて

農林水産事務次官


この度、持続的養殖生産確保法(平成11年法律第51号。以下「法」という。)が第145回国会において成立し、平成11年5月21日に公布され、一部の規定を除き同日付けで施行されるとともに、法の規定を施行するため、同日付けで持続的養殖生産確保法施行規則(平成11年農林水産省令第31号。以下「規則」という。)が施行されたところである。
ついては、法の運用に当たっては、規則によるほか、下記事項に御留意の上、その適切かつ円滑な運用について、格段の御配慮をお願いする。
なお、法附則の規定によって、公布の日から起算して6月を超えない範囲内において政令で定める日から施行することとされている規定の部分については、別途通達することとしているので申し添える。
以上、命により通達する。

第1 制定の趣旨
我が国の養殖業は、戦後順調に成長を続け、沿岸漁業の重要な一部門を構成するに至っている。また、国連海洋法条約の発効により、我が国沿岸域の水産資源の適切な管理と有効利用に取り組むことが、国際的な責務となっていることから、沿岸漁業を安定的に発展させ、かつ、国民に対し水産物を安定的に供給するべく、持続的な養殖生産の確保を図ることが水産行政上重要な課題となっている。
しかしながら、近年、餌料の投与等により、過度の硫化物や有機物がみられるなど、全国的に養殖漁場が悪化している。このような養殖漁場の悪化は、養殖水産動植物の伝染性疾病の発生及びまん延の原因ともなっており、放置すれば最終的にはその漁場における養殖自体を不可能に至らしめることとなりかねないものである。
また、近年、我が国においては、養殖用の種苗を海外に依存する傾向が顕著であり、海外から養殖水産動植物の伝染性疾病が侵入する危険性が高まっている。
このような状況に適切に対処するため、養殖漁場の改善を促進するとともに、特定の養殖水産動植物の伝染性疾病のまん延を防止するための措置を講ずることとしたものである。
第2 法の目的
法は、漁業協同組合等による養殖漁場の自主的な改善を促進するための漁場改善計画制度を創設し、養殖漁場を養殖水産動植物の生育に適した状態に回復・維持するとともに、一定の強制的な措置を含む特定疾病のまん延防止のための措置を整備することにより、持続的な養殖生産の確保を図り、養殖業の発展と水産物の安定供給を図ることを目的としている(法第1条)。
一般的に「養殖」とは、収穫の目的をもって、人工手段を加え水産動植物の発生又は生育を積極的に推進し、その個体の数又は量を増加させる行為を意味するものであり、法における「養殖」も同義である。したがって、法における「養殖」は、漁業法(昭和24年法律第267号)上の区画漁業権に基づく養殖のほか、いわゆる陸上養殖(公共水面以外で行われる養殖活動及び増養殖用の種苗生産等)をも含むものであるが、単に出荷までの一定期間いけす等で水産動植物を留め置くにすぎない「蓄養」は、「養殖」には含まない。
第3 定義
1 法における「養殖漁場の改善」(法第2条第1項)には、水質や底質等の漁場環境を改善することのみならず、漁場環境の悪化が養殖水産動植物の伝染性疾病の発生及びまん延の主因となっていることにかんがみ、養殖水産動植物の伝染性疾病の発生予防及びまん延防止の観点が含まれているものである。
また、養殖水産植物は、人工的に給餌されないというその特性から、過度の硫化物や有機物の発生・たい積といった状況を招くものではないが、養殖水産植物においても伝染性疾病の問題は存在していることから、「養殖漁場の改善」には、養殖水産植物の漁場の改善も含まれるものである。
2 「特定疾病」(法第2条第2項)については、具体的には、こい科魚類におけるコイ春ウイルス血症、さけ科魚類におけるウイルス性出血性敗血症、流行性造血器壊死症、ピシリケッチア症及びレッドマウス病並びにくるまえび属のえび類におけるバキュロウイルス・ペナエイによる感染症、モノドン型バキュロウイルスによる感染症、イエローヘッド病及び伝染性皮下造血器壊死症を定めている(規則第1条)。
第4 基本方針
1 農林水産大臣は、次に掲げる事項を内容とする持続的な養殖生産の確保を図るための基本方針(以下「基本方針」という。)を定めることとしている(法第3条)が、その具体的な内容については、次のとおりである。
(1)養殖漁場の改善の目標に関する事項
持続的な養殖生産の確保を図る上で目標とすべき養殖漁場環境の基準について定める。
(2)養殖漁場の改善及び特定疾病のまん延の防止を図るための措置並びにこれに必要な施設の整備に関する事項
(1)で規定する目標を達成するために講じる養殖漁場の改善を図るための措置や特定疾病発生時の迅速かつ的確な対応についての基本的な方向について定める。
(3)養殖漁場の改善及び特定疾病のまん延の防止を図るための体制の整備に関する事項
養殖漁場の改善及び特定疾病のまん延の防止が確実に図られるよう、国、都道府県、漁業協同組合等における役割分担等体制の整備に関する基本的な方向について定める。
(4)その他養殖漁場の改善及び特定疾病のまん延の防止に関する重要事項
養殖漁場の改善及び特定疾病のまん延の防止を図る上で、漁業協同組合等が常に養殖漁場の状態を把握しておくことが必要であり、養殖漁場の調査手法等に関する基本的な方向について定める。
2 基本方針の内容は、持続的な養殖生産の確保を図る上で必要不可欠なものであり、専門技術的な内容をも含むものであるとともに、その内容は多方面にわたり影響を及ぼすものであることから、その策定又は変更に当たっては、漁業者団体、学識経験者等を構成員とする沿岸漁業等振興審議会の意見を聴くこととしている(法第3条第4項)。
第5 漁場改善計画制度
1 趣旨
現段階における養殖漁場環境の悪化は、一般的には、漁業法第34条に基づき漁業権に制限又は条件を付す等公的規制措置を発動すべき水準のものとはいえず、また、漁業権制度の下で、本来漁業者自らが漁場の改善に取り組むことが期待されるものである。
このため、法は、漁場改善計画制度により、漁業協同組合等による自主的な漁場改善の取組を促進し、公的規制措置が発動される前段階において、養殖漁場環境の悪化を確実に食い止めようとするものである。
また、養殖漁場環境が悪化している漁場のみならず、養殖漁場環境の良好な漁場においても、現状を維持する意味からも積極的に漁場改善計画が作成されることが望まれる。
さらに、法においては、一の漁業協同組合や養殖業者単独の漁場改善計画を許容しているが、養殖漁場改善促進の観点からは、複数の漁業協同組合等による広域的な取組が望ましい。
2 漁場改善計画の作成主体
漁場改善計画を作成することができる「漁業協同組合等」(法第4条第1項)とは、漁業法第6条第2項の区画漁業権(入漁権を含む。)を有している漁業協同組合、漁業協同組合連合会、養殖業者等であり、漁業権等に基づかない養殖(陸上養殖等)を行う者は含まれない。これは、公共用水面を利用していないことから漁業権免許の対象に位置付けられていない養殖業者にあっては、養殖漁場の改善を促すための担保措置等である水産業協同組合法(漁業権行使規則等の変更手続)及び漁業法(漁業権の制限等)の特例措置の対象となり得ないことから、漁場の改善を図る公益性及び実効性が乏しく、漁場改善計画制度の対象として位置付ける必要がないからである。
3 漁場改善計画の内容
漁場改善計画には、次に掲げる事項がもれなく記載されていることが必要である(法第4条第2項、規則第2条)。
(1)対象となる水域及び養殖水産動植物の種類
「養殖水産動植物の種類」とは、養殖を行う水産動植物の種類で、「種」で表されるものをいうが、当該水産動植物の範囲を特定できるのであれば、その通称又は総称を用いても差し支えない。
(2)養殖漁場の改善の目標
基本方針において定める養殖漁場の改善の目標に関する事項に示される養殖漁場の改善の目標の基準と同等又はこれを上回る基準を目標として記載する。
(3)養殖漁場の改善を図るための措置及び実施時期
「実施時期」は、漁業権等の存続期間内とする。
(4)養殖漁場の改善を図るために必要な施設及び体制の整備
(5)養殖漁場の調査手法に関する事項
(6)漁場改善計画を変更する場合の手続
(7)その他必要な事項
4 漁場改善計画の認定基準
都道府県知事は、漁場改善計画が次のすべてに該当するときは、当該漁場改善計画が適当である旨の認定をすることとしている(法第4条第3項)。
(1)漁場改善計画の内容が基本方針に適合するものであること。
漁場改善計画の内容が基本方針で定められた内容に合致しており、その内容が養殖漁場環境の自主的な改善や魚病の発生を予防する上で適切かつ有効であるかを判断する。
(2)漁場改善計画の内容が、養殖漁場の改善の目標を確実に達成するために適切であること。
漁場改善計画に定められた養殖漁場の改善措置により、漁場改善計画に定められた改善目標を達成することが確実と見込まれるとともに、漁場改善計画の内容が漁業権行使規則等で担保されることが明らかであるなど、関係漁業者間で遵守される内容であるかを判断する。
(3)漁場改善計画の内容が法及び法に基づく命令その他関係法令に違反するものでないこと。
需給調整等の法の目的以外の趣旨で漁場改善計画が作成されていないか等を判断する。なお、関係法令とは、漁業に関する法令のみならず、あらゆる法律、政令、省令、条例、規則等を含むものである。
5 漁場改善計画の変更等
漁場改善計画を変更しようとするときは、都道府県知事の認定を受けるものとされており、この場合の変更の認定の基準は、当初の認定の基準と同様である(法第5条第1項及び第3項)。
また、都道府県知事は、認定漁業協同組合等が認定漁場改善計画に従って養殖漁場の改善を行っていないと認めるときは、その認定を取り消すことができる(法第5条第2項)こととしているが、漁場改善の取組の効果があらわれないからといって直ちに認定を取り消すことは適当ではなく、改善目標を達成させる努力を試みる必要がある。
このため、都道府県知事は、認定漁場改善計画の実施状況、効果等について常に把握しておく必要があり、認定漁業協同組合等に対し、認定漁場改善計画の実施状況、効果等について適宜報告を求める等、その把握に努めるとともに、集積された養殖漁場データについて、効率的な保管及び有効活用を図り、より効率的な漁場改善措置を検討していくことが必要である。
第6 水産業協同組合法の特例
1 趣旨
漁業協同組合又は漁業協同組合連合会が漁場改善計画を作成し、都道府県知事の認定を受けたとしても、その組合員が漁場改善計画の内容を確実に遵守しなければ、漁場改善計画の実効性を担保できない上、共同計画の作成に際しての漁業協同組合又は漁業協同組合連合会の交渉当事者能力をも減少させるおそれがある。
このため、漁業協同組合又は漁業協同組合連合会は、組合員に漁場改善計画の内容を遵守させるため、漁場改善計画の内容を漁業権行使規則等に反映させるべく当該規則を変更する必要が生ずることが想定される。
しかしながら、かかる措置を行うには、総組合員(准組合員を除く。以下同じ。)の半数以上が出席し、その議決権の3分の2以上の多数による議決(特別決議)が必要であるが、漁場改善計画関係養殖業者は通常総組合員の一部であることから、関係養殖業者以外の組合員の総会への出席、賛成を得る必要がある等手続が煩雑になり、当該関係養殖業者の相当部分が賛成しているにもかかわらず、総会の特別決議が得られずに当該規則の変更が行えず、漁場改善計画の作成を図る上での障害となることが懸念される。
このため、認定漁場改善計画を作成した漁業協同組合又は漁業協同組合連合会に対し、水産業協同組合法の特例を講ずることとしたものである。
2 概要
認定漁場改善計画を作成した漁業協同組合又は漁業協同組合連合会が、その組合員に漁場改善計画の内容を遵守させるため、漁場改善計画の内容に適合するように行う漁業権行使規則等の変更を行う際は、
(1)漁業協同組合にあっては、漁場改善計画に係る養殖業を営む組合員の3分の2以上の書面による同意
(2)漁業協同組合連合会にあっては、漁場改善計画に係るすべての組合の同意
を得ている場合、通常であれば総組合員の半数以上が出席し3分の2以上の多数による特別決議を要するところを、出席者の議決権の過半数による普通決議で対応することができることとする、水産業協同組合法の特例措置を講ずることとしている(法第6条)。
なお、(1)の同意は、認定漁場改善計画の対象となる水域における漁業権又は入漁権ごと及び養殖水産動植物の種類ごとに得るものとし、(2)の同意は、書面により得るものとするとともに、認定漁場改善計画を作成した漁業協同組合連合会は、特定組合員所属組合に、その直接又は間接の構成員たる特定組合員の3分の2以上の書面による同意(認定漁場改善計画の対象となる水域における漁業権又は入漁権ごと及び養殖水産動植物の種類ごとに得るものとする)を得ていることを証する書面を添付させるものとしている(規則第4条)。
第七 勧告等
1 趣旨
漁業協同組合等が基本方針に即した養殖漁場の利用を行わないため、養殖漁場の状態が著しく悪化していると認められる場合には、もはや漁業者の自主的な取組を待つのではなく、行政庁の側で漁業協同組合等に対し漁場改善の取組を促す必要がある。
このため、そのような事態が生じた場合には、都道府県知事が養殖漁場の改善を図るよう勧告する等の措置を講ずることとしたものである。
なお、このような事態に至る前に、漁場改善計画の作成等が行われるよう、漁業協同組合等に対する適切な指導等をお願いする。
2 概要
(1)勧告・公表
勧告・公表制度の運用に当たっては、勧告・公表が個々の養殖業者及び漁業協同組合の経営に不利な効果をもたらすおそれがあることから、各都道府県の養殖漁場についての知見の差が漁業者への不均衡な取扱いを招かないよう、別途、都道府県知事が勧告を実施する際の指針となる基準を示すこととする。
また、都道府県知事が養殖業者に対して「漁場改善計画の作成その他の養殖漁場の改善のために必要な措置」(法第7条第1項)を勧告することとしているのは、勧告制度の目的が、養殖漁場の改善を図ることを促すことであって、養殖漁場の改善が図られるのであれば、あえてその取組手法まで限定する必要性は乏しく、どのような手法を活用して養殖漁場の改善を図るかは、最終的には漁業者の判断に委ねることが適当であるからである。
なお、漁場改善計画の作成以外に想定される漁場改善のための取組手法としては、漁業権行使規則で対応する場合や海底のしゅんせつ等漁場改善を図る事業の実施等で漁場の改善に取り組む場合等が想定される。
(2)漁業法等による措置
早急に漁場環境の改善に取り組む必要があるとして、法に基づく勧告・公表を受けたにもかかわらず、漁場改善が行われないような漁場については、もはや漁業協同組合等による自主的な取組によるのではなく公的規制措置で対応すべきレベルに達している場合もあると考えられることから、そのような場合には、漁業権の免許後であっても、海区漁業調整委員会の申請によらず、都道府県知事の発意により漁業権に制限又は条件を付けることができることとしている(法第7条第4項)。なお、この場合においても、海区漁業調整委員会の意見を聴かなければならない。