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漁業法等の一部を改正する法律の施行について

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13水漁第2270号
平成13年12月27日

都道府県知事あて

農林水産事務次官


漁業法等の一部を改正する法律(平成13年法律第90号。以下「改正法」という。)が第151回国会において成立し、平成13年6月29日に公布された。改正法については、広域漁業調整委員会の設置等に関する改正規定は平成13年10月1日から、その他の改正規定は平成13年12月1日から施行された。
ついては、改正後の漁業法(昭和24年法律第267号。以下「法」という。)及び改正後の水産業協同組合法(昭和23年法律第242号。以下「組合法」という。)の運用に当たっては、下記の事項に御留意の上、その適切かつ円滑な運用について、格段の御配慮をお願いする。
以上、命により通知する。

第一 法律改正の趣旨
我が国水産業は、戦後から高度経済成長期にかけて、沿岸から沖合へ、沖合から遠洋への漁場の拡大と技術の進歩により発展し、国民の重要なたんぱく源である水産物の安定供給の役割を果たしてきた。
しかしながら、現在、本格的な二百海里時代の到来、我が国周辺水域の資源状態の悪化等による漁業生産の減少、漁業の担い手の減少と高齢化の進行など、内外の諸情勢が大きく変化している。
このような状況を踏まえ、我が国の漁業生産に関する基本的制度を定めている法律である漁業法について、資源管理の強化、効率的かつ安定的な漁業経営の育成、漁業権管理の適正化の観点から、所要の措置を講じることにより、我が国漁業の健全な発展を期そうとするのが今回の法律改正の趣旨である。
なお、漁業権については、平成15年9月から平成16年4月にかけて全国的に免許の一斉切替えが予定されていることから、今般の法改正に伴って一斉切替え時に具体的に留意すべき事項については、別途水産庁長官から通知する予定である。
第二 漁業法の一部改正
1.特定区画漁業権の内容たる区画漁業の見直し
区画漁業権のうち、技術的にも、最低限必要となる資本の規模からしても、多数の漁業者が参入しやすく、参入する者を一部の者に特定させるべきではないものについては、特定区画漁業権として、その地元地区の関係漁業者の大多数を組合員とする漁業協同組合又は漁業協同組合連合会(以下「漁業協同組合等」という。)に優先的に免許し(法第14条第2項、第6項及び第18条第1項)、当該漁業協同組合等が制定する漁業権行使規則の定めるところにより、組合員はその漁業を営む権利を有することとされている(法第8条第1項)。
近年、養殖技術の進歩に伴う養殖対象種の多様化により、従来特定区画漁業権の対象とされてきたかき養殖業や真珠母貝養殖業において用いられてきたものと同様の「いかだ」や「はえ縄」を用いた、貝類やうに等の垂下式養殖業が普及してきている。
これらの養殖業は、特定区画漁業権となっているかき養殖業、真珠母貝養殖業と同様に多数の漁業者が参入しやすい等の性格を有していることから、一部の者に免許を特定することなく、地元漁業者に広く漁業権を行使させることが適当である。
したがって、「いかだ式」や「はえ縄式」による貝類やうに等の養殖業を「垂下式養殖業」として一括し、特定区画漁業権の内容たる区画漁業として規定することとした。
なお、垂下式養殖業を「縄、鉄線その他これらに類するものを用いて行う水産動物の養殖業」と定義すると、漁業実態上、かき養殖業、真珠母貝養殖業及び真珠養殖業(法第19条等)が垂下式養殖業に含まれることとなる。
このため、改正前の漁業法(以下「旧法」という。)第7条の規定により、特定区画漁業権の内容とされているかき養殖業及び真珠母貝養殖業については、特定区画漁業権の内容たる区画漁業の種類から削除して垂下式養殖業に含むものとするとともに、旧法上、特定区画漁業権の内容となっていない真珠養殖業については、この扱いを引き続き維持するため、垂下式養殖業の対象から除く旨規定することとした(法第7条)。
2.定置漁業等の免許の優先順位における法人形態の追加と常時従事者要件の緩和等
(1)法人形態の追加
旧法においては、定置漁業又は特定区画漁業権の内容たる区画漁業(以下「定置漁業等」とする。)の免許の優先順位において、高位(定置漁業にあっては、第一順位及び第二順位、特定区画漁業権の内容たる区画漁業にあっては、第二順位及び第三順位)となる法人については、
[1] 法人の構成が、法人の知り得ないところで変容することのないよう、株式の移動の制限ができない株式会社は、対象から除外されるとともに(旧法第16条第6項及び第8項)、
[2] 法人の意思決定において「民主的な運営方法」をより確実にするため、「各自一個の議決権を有すること」が要件として付加されているところである(旧法第16条第6項第6号及び第8項第2号ハ)。
しかしながら、株式の譲渡により法人の知り得ないところで地元漁民が主体となっている構成が変動するおそれがあるという株式会社の性格については、
[1] 昭和41年の商法改正により、定款で株式の譲渡について取締役会の承認を要する旨を定めることができることとされたことから(商法第204条第1項ただし書)、現在では、株式の自由譲渡性に歯止めをかけることが既に可能となっていること
[2] 従来、株式の譲渡につき取締役会が承認しない場合、承認申請から2週間以内に適当な譲受人を指名しなければならず、この指名ができない場合には取締役会の承認があったものとみなされる(商法第204条ノ2)ことから、取締役会が不適当と考える株式の譲渡が最終的に行われてしまう傾向があったが、平成6年の商法改正により、株式の譲渡について取締役会が承認しない場合に、会社自らを譲受人として指名できるようになったこと(商法第204条ノ3ノ2)
から、定款で株式の譲渡について取締役会の承認を要する旨定めている株式会社であれば取締役会において法人自らが株式の譲渡を審査することによって、回避することが可能となっている。
他方、株式会社については、
[1] 構成員の数に制限はなく、新たに構成員を加え規模拡大が可能となる
[2] 定款で定めた株式数の範囲内で、取締役会の決議により、新株の発行ができ、資金調達が容易となる等機動的・効率的な事業運営が可能となる
といった利点を持っており、今後育成して行くべき漁業経営体として、株式会社を有限会社等他の法人と異なる扱いをする必要性はなくなっている。
さらに、「各自一個の議決権」については、漁村社会での民主化も進展し、法人の意思決定について、漁業法で「各自一個の議決権」という要件を重ねて付加する必要性は薄れており、むしろ当該要件を維持することにより、法人の選択肢が小さくなる等のマイナス面の方が大きくなっている。
このため、
[1] 定款に株式の譲渡につき取締役会の承認を要する旨の定めのある株式会社については、定置漁業等の優先順位において高位の法人である合名会社、合資会社、有限会社と同順位とすることとするとともに、
[2] 定置漁業等についての法人の優先要件から「各自一個の議決権を有すること」を削除することとした(法第16条第6項及び第8項)。
(2)常時従事者要件の緩和
定置漁業等の免許の優先順位における法人の優先要件の一つである「漁業に常時従事する者についての要件」(以下「常時従事者要件」という。)については、多数の沿岸漁民が地元に存在していたという昭和24年の漁業法制定時における社会事情の中で、なるべく地元外から労働者を雇わずに、地元漁民を漁業協同組合又は法人の構成員とし、その労働力を活用すべきであるとの趣旨で設けられたものである。
しかしながら、漁民の高齢化が進展し沿岸漁業者数が減少する中で、株式会社を含めた法人について、従前のとおり、「2分の1以上」の常時従事者要件を課すことは、近年の漁村の社会事情にそぐわないことから、法人の常時従事者要件については可能な限り柔軟なものとしていく必要がある。
この場合、定置漁業の免許において優先順位が第一順位である漁業協同組合以外の法人(旧法第16条第8項第2号及び第3号。以下「8項法人」という。)については、
[1] 地元漁民の多数が経営に参加する法人であるとともに、当該常時従事者要件が併せて課されることによって、地元漁民の協同事業としての性格が与えられているものであること
[2] 漁業者の協同事業である漁業協同組合の自営の場合については、地元漁民の7割を含むか否かにかかわらず、「3分の1以上の常時従事者」とされており(組合法第17条)、これを下回ることは適当ではないこと
から、8項法人の常時従事者要件を「3分の1以上」に緩和することとした(法第16条第8項第2号ロ、第3号イ)。
一方、第二順位の法人(旧法第16条第6項。以下「6項法人」という。)については、構成員が「資本も労働も提供する漁民の共同経営」を目的とした法人であることから、これを担保するため、
[1] 構成員又は社員の3分の2以上がその営む事業に常時従事する者であること(同項第3号)
[2] 構成員又は社員のうちその営む事業に常時従事する者の出資額が総出資額の過半を占めること(同項第5号)の要件を緩和することは適当ではない。
しかしながら、6項法人の常時従事者要件のうち、当該漁業に常時従事する者の2分の1以上がその構成員又は社員であること(同項第4号)については、近年の漁村の労働事情を考慮し、これを削除することとした(法第16条第6項)。
3.漁業権の変更又は放棄等における組合員の同意
組合管理漁業権である特定区画漁業権、第一種共同漁業を内容とする共同漁業権(以下「第一種共同漁業権」という。)の分割、変更又は放棄(以下「放棄等」という。)に当たっての地元地区・関係地区の区域内に住所を有する者の同意については、これまで特段の規定は設けられておらず、当該漁業権に係る漁業を営む少数者たる地元地区・関係地区の関係漁業者の意思のいかんにかかわらず、その他の多数者である組合員の意思で当該漁業権の放棄等がなされ、地元地区・関係地区の漁業者の地位が不当に脅かされる事態が生じていた。
このため、水産庁としては、かかる事態が生じることのないよう、昭和47年以降「漁業権を放棄し又は変更することによって、必然的に漁業権行使規則に基づく漁業行使権者の漁業の行使に実質的な影響を及ぼすものであるから、書面同意制度の趣旨を敷衍して漁業権自体の処分の前に必らず漁業権行使規則の廃止又は変更の手続をとり知事に認可申請をする」よう関係者を指導してきたところである。
しかしながら、行政指導にとどまってきたため、現実には漁業権行使規則の変更・廃止の手続を踏むことなく、漁業権の放棄等について、地元地区・関係地区の関係漁業者の意向を無視し、漁業協同組合の総会の特別決議のみで意思決定が行われることによるトラブルがこれまで各地で発生してきている。
さらに、漁業協同組合の合併の推進に伴い、近年、組合の地区が一層広域化していることから、今後は、組合管理漁業権である特定区画漁業権又は第一種共同漁業権に係る地元地区・関係地区と関係のない組合員がますます増加し、上記のような漁業権の放棄等に関し地元地区・関係地区の関係漁業者の地位が脅かされる事態がより生じやすくなっていくことが懸念されるようになった。
このような事態に対処するため、組合管理漁業権である特定区画漁業権又は第一種共同漁業権の放棄等については、組合の多数者の意思により地元地区・関係地区の漁業者の地位が不当に脅かされることのないよう、漁業権行使規則の制定、変更又は廃止と同様に、総会(総会の部会及び総代会を含む。ただし、組合法第52条第8項により「漁業権又はこれに関する物権の設定、得喪又は変更」を総代会で決することができるのは、河川において水産動植物の採捕又は養殖をする者を主たる構成員とする組合に限定されている。)の議決前に、その組合員(漁業協同組合連合会の場合には、その会員たる漁業協同組合の組合員)のうち、
[1] 新規漁場(法第14条第6項に規定する漁場)における特定区画漁業権及び第1種共同漁業権については、
ア)海面にあっては沿岸漁業を営む者
イ)河川以外の内水面にあっては当該内水面において漁業を営む者
ウ)河川にあっては当該河川において水産動植物の採捕又は養殖をする者
[2] 新規漁場以外の特定区画漁業権については、当該漁業権の内容たる漁業を営む者
であつて、地元地区・関係地区の区域内に住所を有するものの3分の2以上の同意を要する旨の規定を新たに設けることとした(法第31条)。
4.法人形態の見直しによる世帯数の計算方法等に係る規定の整備
(1)特定区画漁業権等の適格性における世帯数の計算方法に係る規定の整備
特定区画漁業権又は共同漁業権を漁業協同組合に組合管理漁業権として免許する場合、組合員のうち地元地区又は関係地区に住所を有する関係漁業者の数を基準として適格性の有無を判断するが、その算定方法は世帯単位で行うこととしている(旧法第14条第2項、第6項及び第8項)。
しかしながら、法人の場合には、適格性の判定に際し法人の属する世帯ということは、意味をなさないことから、旧法第14条第9項において、
[1] 漁民が、直接の構成員又は社員となっている法人にあっては、その構成員又は社員のうち当該法人が営む漁業に従事する者の属する世帯の数により計算すること
[2] 漁業協同組合等が社員となっている有限会社など、漁民が間接の構成員又は社員となっている法人にあっては、この間接の構成員又は社員のうち当該法人が営む漁業に従事する者の属する世帯により計算することとされている。
旧法第14条第9項は、法人経営の進展に伴い、昭和37年の水産業協同組合法の改正により、一定規模以下の法人にも正組合員資格を与えるとともに、同年の漁業法の一部改正により、これらの法人も漁業権の内容たる漁業を営む資格を持ちうることとしたことに対応して設けられたものである。
一方、法人のうち、株式会社については、株式が自由に譲渡され、株式の移動の制限ができないため、法人の知り得ないところで、当該法人の株主のうち当該漁業の従事者の属する世帯数の占める割合が変動するおそれがあった。このため、地元漁民の世帯数の計算の対象から、株式会社は除かれていたところである(後述の4(2)定置漁業等の優先順位における世帯数の計算の対象となる法人、4(3)定置漁業等における8項法人への加入又は共同申請を申し出ることができる法人についても同様)。
しかしながら、前述のとおり、商法改正により、株式の譲渡について取締役会の承認を要する旨を定款で定めている株式会社であれば、法人自らが株式の譲渡を審査することが可能となった。
このため、「定款に株式の譲渡につき取締役会の承認を要する定めのある株式会社」を、漁業協同組合、漁業生産組合、合名会社、合資会社及び有限会社と異なる扱いをする必要性が無くなったことから、このような株式会社については、特定区画漁業権等の適格性における地元漁民の世帯数の計算の対象とすることとした(法第14条第9項)。
(2)定置漁業等の優先順位における世帯数の計算方法に係る規定の整備
定置漁業等における優先順位においては、地元漁民の大多数を含む法人であるか否かの判定は、当該法人の組合員、構成員又は社員のうち地元漁民(地元地区に住所を有する漁業者又は漁業従事者たる個人)である者の属する世帯の数を基準として、判断することとしている。(法第16条第8項第1号イ、同項第2号イ)。
この例外として、漁業法第16条第9項においては、当該法人の組合員、構成員又は社員が法人である場合についても、
[1] 当該法人が、漁民が直接の構成員又は社員となっている法人である場合にあっては、その構成員又は社員のうち地元漁民である者の属する世帯の数により計算すること
[2] 当該法人が、漁業協同組合等が社員となっている有限会社など、漁民が間接の構成員又は社員となっている法人である場合にあっては、この間接の構成員又は社員のうち地元漁民である者の属する世帯により計算すること
とされている。
これらの法人のうち、株式会社については、前述の4(1)の旧法第14条第9項と同様の理由により、地元漁民の世帯数の計算の対象から除かれていたところであるが、前述のとおり、「定款に株式の譲渡につき取締役会の承認を要する定めのある株式会社」については、漁業協同組合等他の法人と異なる扱いをする必要性が無くなったことから、このような株式会社については、定置漁業等の優先順位における地元漁民の世帯数の計算の対象とすることとした(法第16条第9項)。
(3)定置漁業等における漁業協同組合等への法人の加入又は共同申請に係る規定の整備
8項法人は、一定地域の全漁民的団体経営であり、本来、地元漁民に漁利を広く均てんさせようというものである。このため、漁業法第16条第10項においては、
[1] 地元漁民(又は地元漁民が構成員又は社員となっている法人)が、8項法人に加入を申し出た場合には、正当な事由がなければ、これを拒むことができないこと
[2] 地元地区の全部又は一部をその地区内に含む漁業協同組合又は地元漁民が構成員又は社員となっている法人が8項法人に対して共同申請を申し出た場合には、正当な理由がなければ、これを拒むことができないこと
が規定されている。
これらの法人のうち、株式会社については、前述の4(1)の旧法第14条第9項と同様の理由により、8項法人に加入又は共同申請を申し出ることができる法人から除かれていたところであるが、前述のとおり、「定款に株式の譲渡につき取締役会の承認を要する定めのある株式会社」については、漁業協同組合等他の法人と異なる扱いをする必要性が無くなったことから、このような株式会社については、8項法人に加入又は共同申請を申し出ることができることとした(法第16条第10項)。
(4)漁業法の一部を改正する法律附則第3条の規定を削除することに伴う規定の見直し
旧法第16条第6項等の法人の「構成員」については、昭和37年の法改正の際に、株主を明確に排除する趣旨で、「構成員」「社員」と書き分け、「構成員」には、漁業協同組合等の組合員のほか、漁業法の一部を改正する法律(昭和37年法律第156号。以下「昭和37年改正法」という。)附則第3条の規定により、当分の間、法人とみなすこととされた法人以外の社団(網組)の構成員が該当するものとされたところである。
今回の法改正において、37年改正法附則第3条の規定を削除することに伴い、これまでの「構成員」に該当するものが漁業協同組合等の「組合員」以外に想定されなくなったことから、漁業法の規定中、「構成員」とあるのを「組合員」に改めることとした(法第14条第9項、第16条第6項、第8~10項、第13項、第17条第8項)。
5.指定漁業の許可等の特例の見直し
(1)許可の承継に係る制限の廃止
指定漁業の許可を受けた者から許可を受けた船舶の使用権を取得して当該指定漁業を営もうとする者が、当該船舶について指定漁業の許可又は起業の認可(以下「指定漁業の許可等」という。)を申請した場合には、沿岸漁業等から緊急に指定漁業への転換を図る場合等一定の場合に限って、許可等を行うこととされている。(旧法第59条の2第1項)。
このような許可の承継に係る制限は、昭和37年改正法において、沿岸漁業等と他の漁業との間の生産性等の格差に配慮して、沿岸漁業等から指定漁業への転換を優先すること等を目的として設けられたものである。
しかしながら、近年、我が国漁業を取り巻く情勢が変化し、沿岸漁業等から指定漁業への転換を優先する政策的な必要性は薄れてきている。
また、現在では、許可の承継を一定の事由に制限したことは、むしろ経営基盤が弱い小規模な経営体が多数存在する結果を招くとともに、当該指定漁業外からの参入が困難となることにより結果として指定漁業全体を沈滞化させる一因となっている。さらに、今後資源管理を進めていく上でも、漁獲努力量等の削減に十分対応する余裕がないこと等のことから支障があると考えられる。
したがって、
[1] 指定漁業全体の産業としての活力の回復と資源管理の取組を円滑に行い得る経営体の育成を図る観点からは、現行の許可の承継に係る制限は適当ではないこと
[2] 資源管理の枠組みの下、漁獲量の拡大に限界がある中で、許可の承継の制限を廃止することによって、より経営能力の高い経営体が許可を承継することが期待できること
から、指定漁業の許可の承継に係る制限を廃止し、指定漁業の許可船舶の使用権を取得した者が、その船舶について、指定漁業の許可等の申請をした場合には、欠格事由に該当しない者である限り、指定漁業の許可等を行うこととした(法第59条第3項)。
(2)新規許可に係る優先順位の廃止
指定漁業の許可等を行う場合には、あらかじめ、指定漁業の許可等を行うべき船舶の総トン数別の隻数等を公示し、これに基づいて船舶ごとに指定漁業の許可等を行うこととされている。
この公示に基づく指定漁業の許可等に当たって、実績船舶による申請(現に指定漁業の許可等を受けている者が、有効期間の満了日の到来のため当該許可等に係る船舶と同一の船舶についてした申請)について指定漁業の許可等を行った後の残余枠等(いわゆる「新規許可」)に対し、超過した申請があった場合は、
[1] 当該指定漁業の経営の安定又は合理化を図ること(旧法第58条の2第2項第1号)
[2] 水産動植物の繁殖保護若しくは漁業調整のため又は沿岸漁業の経営の改善に資するため当該指定漁業への転換を図ること(同項第2号)
[3] 当該指定漁業の従事者が当該指定漁業の漁業者としてその自立を図ること(同項第3号)
を勘案した基準、いわゆる「新規許可における優先順位」を設け、その基準に基づいて指定漁業の許可等を行うこととされている。
現行の新規許可における優先順位は、許可の承継の制限と同様に、昭和37年改正法において、沿岸漁業等と他の漁業との間の生産性等の格差に配慮して、沿岸漁業等からの転換を優先すること等を目的として設けられたものである。
このため、この指定漁業の新規許可における優先順位は、許可の承継の制限と同様に、
[1] 沿岸漁業等から指定漁業への転換を優先する政策的な必要性は薄れてきていること
[2] 経営基盤が弱い小規模な経営体が多数存在する結果を招くとともに、当該指定漁業外からの参入が困難となることにより結果として指定漁業全体を沈滞化させる一因となっていること、
[3] 今後資源管理を進めていく上でも、漁獲努力量等の削減に十分対応する余裕がないこと等のことから支障があると考えられること
から、廃止することとした(旧法第58条の2第2項)。
また、優先順位を廃止した場合における新規許可等を受ける選定方法については、欠格事由に該当しない者であれば誰でも許可等を受けうることとすることが適当であることから、平等な選定方法である「くじ」によって指定漁業の許可等を受ける者を定めることとした(法第58条の2第2項)。
6.広域漁業調整委員会の設置等
(1)広域漁業調整委員会の設置
我が国周辺水域の水産資源の状況は総じて悪化していることから、将来にわたって水産資源を持続的に利用していくためには、これまで以上に適切に水産資源の管理を図っていく必要がある。このためには、従来からの漁業種類ごと、管理主体ごとの漁業管理に加え、同一の魚種を利用している漁業について、資源状況の変動に適切に対応して、水産資源の利用方法を横断的に調整する必要がある。
現行の海区漁業調整委員会及び連合海区漁業調整委員会は、管轄区域、委員構成等の観点から、都道府県の区域を超え、広域的に分布回遊し、それを漁獲する漁業種類が大臣管理漁業と知事管理漁業にまたがる資源の管理については、十分に対応しがたいものとなっていた。
このため、関係する海区漁業調整委員会の委員が都道府県ごとに互選した者、漁業を営む者の中から農林水産大臣が選任した者、学識経験がある者の中から農林水産大臣が選任した者により構成され、都道府県の区域を超えた広域的な観点から、水産資源の管理及びこれに係る漁業調整に適切に対応し得る組織として、広域漁業調整委員会を設置することとした(法第68条、法第110条)。
したがって、広域漁業調整委員会は、広域的な水産資源の管理に関連して水産動植物の繁殖保護その他漁業調整のために必要があるときは、関係者に対して指示をすることができるものとされている。
一方、漁業権又は入漁権の行使の適正化や漁場の使用に関する紛争に関する指示については、これらの問題の多くは特定の漁場で局所的に生じるものであり、当該漁場を使用する者以外にとっては関与しがたい性質の問題であることから、多数の都道府県の関係者を含む広域漁業調整委員会ではなく、海区漁業調整委員会、連合海区漁業調整委員会の活用もしくは当事者間による協議を通じて解決を図るべきものであるところ、法第136条の規定により大臣が自ら都道府県知事の権能を行う漁場に関する場合を除き、広域漁業調整委員会の権能から除くこととしたものである。
また、広域漁業調整委員会を設置する範囲については、その設置する趣旨にかんがみ、資源の分布回遊状況に応じて定めることが適当であることから、広範な水域を南北に回遊するまさば等浮魚資源の回遊範囲を基本とし、その殆どが陸域に囲まれた瀬戸内海の特殊性を考慮して「太平洋」、「日本海・九州西海域」及び「瀬戸内海」を対象として3つの委員会を設置することとした。
なお、3つの広域漁業調整委員会がそれぞれ管轄する具体的な海域の範囲については政令で定めることとしたが(法第110条第2項、漁業法施行令の一部を改正する政令(平成13年政令第306号))、これは広域的な資源管理を進めていく上での単位として定めたものであり、漁業法第84条第1項により定められている海区漁業調整委員会の設置された海面の範囲について、特段変更を加えるものではないことに留意されたい。
また、複数の広域漁業調整委員会の海域に跨って分布回遊する、あるいは複数の広域漁業調整委員会の海域の漁業者が共通して利用している広域資源の管理については、関係する広域漁業調整委員会の間での協議の上、対応することが必要である。
(2)法定連合会区漁業調整委員会の廃止
瀬戸内海、有明海、玄海の3つの海域は、複数の府県に挟まれた狭隘な海域という地理的な状況から、多数の府県の漁船が複雑に入り会って操業し、漁業に関する利害調整が顕著化かつ先鋭化し易いという特性がある。
このため、これらの海域においては、海域を陸域の行政区画によって分割して各府県ごとに調整を行うのではなく、これらの海域を一つの単位として統一的に調整することが適当との観点から、旧法においては農林水産大臣の監督に属する連合海区漁業調整委員会(以下「法定連合海区漁業調整委員会」という。)を設置してきたところである。
各法定連合海区漁業調整委員会においては、それぞれ設置された後、当該海区における調整問題に取り組んできたところであるが、これらの海域の地理的状況からみて、依然としてこのような機関の必要性は失われていないものの、これまでの活動により、漁場の使用に関する紛争の防止又は解決を図るといった問題については一定の秩序が保たれてきており、近年は主に水産資源の管理をめぐる漁業種類間・都道府県間における問題についてのみの対応が必要な状態となっている。
しかしながら、こうした水産資源の管理に関連する調整問題については、今回新たに設けようとしている広域漁業調整委員会による対応が可能であり、同様の問題に対応しうる機関を重複して設けることは適切でないことから、3つの法定連合海区漁業調整委員会は廃止することとし、関連する規定について所要の整備を行った(法第67条、第82条第2項、第116条、旧法第109条から第110条の3)。
第三 水産業協同組合法の一部改正
漁業協同組合は、組合員への直接の奉仕に資するため、購買事業、販売事業等の経済事業や貯金業務、貸付事業等の信用事業を併せ行い得る総合事業体であることから、組合員資格を決定する基準となる組合の「地区」(組合法第18条第1項、第32条第1項)の広域化を図らないままでは、経済事業、信用事業の経営基盤は不安定・弱体であり、組合員の負託に応え得る事業活動を十分に展開できないこととなるおそれがある。このため、昭和42年以来、漁業協同組合合併助成法(昭和42年法律第78号、平成10年に題名を漁業協同組合合併促進法に改正。)に基づき、組合の合併を推進してきたところであり、漁協系統においても、同法に基づいて、平成9年度末現在の1,896組合を、平成14年度末までに約700組合、平成19年度末までに約200組合に統合し、うち18府県は1県1組合に再編する合併目標を定めている。
一方、組合は、その意思決定を総会又は総代会の議決により行うこととされているが、漁業権に係る以下の意思決定を行う場合には、総会又は総代会の議決が必要とされている(組合法第48条第1項第8号、第9号及び第10号、第50条第4号及び第5号、第52条第6項)。
[1] 漁業権又はこれに関する物権の設定、得喪又は変更(ただし、河川組合を除き、総代会ではこれに係る意思決定はできない。)
[2] 漁業権行使規則若しくは入漁権行使規則又は遊漁規則の制定、変更及び廃止
[3] 漁業権又はこれに関する物権に関する不服申立て、訴訟の提起又は和解
このような状況の中で、組合の「地区」が広域化することにより、組合の総会における組合管理漁業権に係る意思決定について、
[1] 当該漁業権に係る地元地区・関係地区と関係のない多数の組合員が議決に参加することとなり、当該漁業権の行使の主体となる地元地区・関係地区の組合員の意思が組合の意思決定に反映されないおそれがあること
[2] また、地元地区・関係地区の組合員の大多数の同意が得られているにもかかわらず、その度ごとに総会を招集して、組合全体としての意思決定を行わなければならず事務的にも大きな負担となること
から、地元地区・関係地区の組合員の意思を適切に反映するとともに、事務負担の軽減が図られる措置が必要となっている。
このため、組合は、特定区画漁業権又は共同漁業権を有しているときは、総会(総代会は除く。)の特別決議を経て、当該特定区画漁業権に係る地元地区又は当該共同漁業権に係る関係地区ごとに総会の部会を設け、当該漁業権に関し、その得喪又は変更、漁業権行使規則の制定又は変更等についての総会の権限をその部会に行わせることができることとした(組合法第51条の2)。
第四 昭和37年改正法の一部改正
いわゆる網組、大敷組合といった法人以外の社団(人格なき社団)は、漁業権が構成員全員の共有となるため免許後に構成員を増やせない、法人格を持たないため資本の内部留保が困難、第三者との取引も代表個人の名義で行う等問題が生じやすいこと等から、近代的な経営組織に移行するよう、昭和37年改正法において、本則から「人格なき社団を法人とみなす」旨の規定を削除し、昭和37年改正法附則第3条において経過措置として「当分の間」従前の扱いを踏襲することとされた。
しかしながら、その後漁業法を改正する機会がなかったこと等から、附則第3条は廃止されずに現在に至っている。
このため、今回の漁業法改正においては、効率的かつ安定的な漁業経営を育成する観点から、定置漁業の免許において優先順位の高い法人として株式会社を加える等の改正を盛り込んでおり、同じ趣旨から、「人格なき社団」を法人とみなしている昭和37年改正法附則第3条を削除することとした。
第五 施行期日及び経過措置
(1)施行期日
改正法については、広域漁業調整委員会の設置等に関する改正規定は平成13年10月1日から、その他の改正規定は平成13年12月1日から施行されたところである。
(2)漁業権及び入漁権に関する経過措置
[1] 垂下式養殖業が特定区画漁業権の対象に加えられた場合には、漁業権の存続期間が10年から5年に短縮されること
[2] 免許の適格性に係る世帯数の計算方法については、免許後に漁業権者が適格性を有しなくなったときは、都道府県知事は漁業権を取り消さなければならないとされていることから(法第38条第1項)、世帯数の計算方法(法第14条第9項)の変更によって漁業権が取り消されることとなるおそれがあること
から、昭和37年改正法の場合と同様に、改正法施行の際現に存する漁業権及びこれについて現に存し又は新たに設定される入漁権については、その存続期間中は、なお従前の例によることとした(改正法附則第2条本文)。
しかしながら、この場合には、漁業権の放棄又は変更等に係る同意制度及び漁業権の管理に係る部会制度についても、改正法施行の際に現に存する漁業権に適用されなくなることから、当該経過措置にただし書を置き、同意制度(法第31条)、部会制度(組合法第51条の2)、及びその関連規定については、施行の日から改正法を適用することとした(改正法附則第2条ただし書及び各号)。
(3)罰則に関する経過措置
法定連合海区漁業調整委員会が廃止される前に行われた当該委員会の指示に対し、農林水産大臣が指示に従うべき旨の命令を出し、それに従わなかった者に対しては、法定連合海区漁業調整委員会が廃止されたあとでも、罰則を適用することとした(改正法附則第3条)。

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