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農林水産省

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牛の個体識別のための情報の管理及び伝達に関する特別措置法の施行について(平成15年7月2日)

15生畜第2068号
平成15年7月2日
21消安第6212号
平成21年9月11日
一部改正


農林水産事務次官依命通知

第1 法制定の趣旨

平成13年9月、我が国で初めて牛海綿状脳症(以下「BSE」という。)の患畜が確認され、牛肉消費の急激な冷え込み、牛肉価格の暴落といった状況が発生したところである。
他方、BSEは、患畜が確認された場合、家畜伝染病予防法(昭和26年法律第166号。以下「家伝法」という。)に基づき、当該患畜の死体の焼却や畜舎の消毒のほか、当該患畜と同居したことがある牛(いわゆる「同居牛」)の移動制限(家伝法第14条第3項)、「疑似患畜」の特定、殺処分(家伝法第17条)等のまん延防止措置を実施することになる。このようなまん延防止措置を迅速に実施するためには、できるだけ早く同居牛や疑似患畜を特定する必要があるが、BSEは、他の家畜伝染病と比べ、潜伏期間が2年から8年と極めて長いため、牛の移動記録等を過去にさかのぼって確認していたのでは、時間がかかってしまうことから、牛1頭ごとに所在等の情報を一元的に管理し、患畜発生時に迅速に検索できるシステムを構築する必要がある。また、牛肉は、BSEの発生により大きく減退した消費が未だ発生前の水準にまで回復しておらず、「全頭検査を実施しても不安」という消費者が未だ多数見受けられる中で、牛肉に対する消費者の信頼を特に強く確保する必要がある。他方、BSEの発生により大きな社会的混乱を経験したEUでは、BSEの発生を契機として、牛肉流通の透明性の確保によって牛肉に対する消費者の信頼を確保するため、2000年9月1日以降にと畜された牛から得られる牛肉について、個体識別番号等の表示が義務化されている。
法は、このような状況にかんがみ、BSEのまん延を防止するための措置の実施の基礎とするとともに、牛肉に係る牛の個体の識別のための情報(以下「個体識別情報」という。)の提供を促進し、もって畜産及びその関連産業の健全な発展並びに消費者の利益の増進を図ることを目的として、牛個体識別台帳の作成及び耳標の装着による牛の個体識別のための情報の管理、牛個体識別台帳に記録されている牛から得られた牛肉の販売業者等による牛の個体識別番号の表示等の措置を講ずることとしたものである。

第2 定義

1 個体識別番号法において「個体識別番号」とは、牛の個体を識別するために農林水産大臣が牛ごとに定める番号をいうこととされた(法第2条第1項)。
また、以下の(1)及び(2)に掲げる牛については、法の対象となる牛の範囲から除外することとされた(規則第1条)。
(1) 出生直後に死亡した牛
(2) 輸入された牛のうち、家畜防疫官(家伝法に規定する家畜防疫官をいう。以下同じ。)が指定すると畜場(と畜場法(昭和28年法律第166号)に規定すると畜場をいう。以下同じ。)に家畜防疫官が指定する方法及び経路に従って輸送され、当該と畜場でとさつされる牛法は、我が国におけるBSEのまん延防止措置の的確な実施を図ることを目的としていることから、我が国の領域内で飼養され、他の牛と同居する可能性がある牛は、原則としてすべて対象となる。しかしながら、他の牛と同居することがないことが確実な牛については、あえてその個体識別情報の記録等をする必要がないことから、法の対象となる牛の範囲から除外することとされたところである。なお、動物園等で飼養される牛やペット用に飼養される牛であっても、その飼養過程で他の牛と同居することから、法の対象となる。

2 管理者法において「管理者」とは、牛の所有者その他の牛を管理する者をいうこととされた(法第2条第2項)。法において、「管理者」には牛の出生又は死亡の届出、譲渡し等及び譲受け等の届出等の義務が課せられることになるが、これは、牛の占有を実質的に支配している者がこれらの事項を最も確実に確認しうる立場にあることによるものである。我が国における牛の飼養等の形態からいえば、「管理者」は、牛の所有権を有する者であることが多いと考えられるが、例えば、オーナー制度により牛を所有する者や公共牧場、農協等に牛の飼養を預託している場合には、当該牛の所有権を有する者自身は当該牛の占有を支配しているわけではないことから、そのような者を「管理者」として上述のような届出義務を課したのでは、的確に牛の個体識別情報の収集を行うことが困難である。このように牛の所有者の委託を受けて所有者以外の者が当該牛の占有を支配している場合には、その者を「管理者」とすべきことになることに留意されたい。
具体的に誰を「管理者」とすべきかについては、上述のような制度の趣旨に即して決められていくべきものであり、牛の生産や取引に関わる者は、これらの趣旨を参酌しつつ、相互に情報の提供等を行い牛の個体識別情報の的確な把握に努める必要がある。なお、牛の運送の委託を受けた運送業者については、当該牛の占有を一時的に支配しているものの、それはあくまでも他者の手足として行っているにすぎないことが明らかなことから、法文上も、「管理者」に該当しない旨が明らかにされている。

3 特定牛肉法において「特定牛肉」とは、食用に供される牛の肉(以下単に「牛肉」という。)であって、牛個体識別台帳に記録されている牛から得られたものをいうこととされた。ただし、以下の牛肉については、規則により対象外とすることとされた(法第2条第3項、規則第2条)。
(1) 牛肉を原料又は材料として製造し、加工し、又は調理したもの
(2) 牛肉を肉ひき機でひいたもの
(3) 牛肉の整形に伴い副次的に得られたもの
法の対象となる「特定牛肉」から除外する牛肉については、たとえ対応する牛が特定できたとしても、その数が極めて多数に及ぶ一方で、対応する牛の特定に極めて手間・コストがかかるものであり、主として消費者の牛肉に対する信頼を確保するために個体識別情報の伝達を義務付けるという制度の趣旨と手段の在り方のバランスを考慮して、対象外とすることとされている。
具体的には、(1)では牛肉を原材料として製造されるコンビーフ等の缶詰製品や店頭で販売される牛肉の調理品が、(2)ではひき肉が、(3)では牛肉の枝肉への整形過程で除去される牛の頭部に含まれる「舌」及び「頬肉」、部分肉への整形過程で発生するいわゆる「くず肉」、これを消費者向けの商品とした「小間切れ」(「切り落とし」)等が該当する。これにより、「特定牛肉」として該当する牛肉は、と畜場や食肉処理場から搬出される一般的な状態である「枝肉」や「部分肉」、小売段階の商品の状態である「牛ロース」、「スライス肉」等の精肉が該当することになる。

4 特定料理法において「特定料理」とは、牛肉を主たる材料とする料理であって、政令で定めるものをいうとされ、令において、「焼き肉」、「しゃぶしゃぶ」、「すき焼き」及び「ステーキ」とされた(法第2条第4項、令第1条)。

5 販売業者及び特定料理提供業者法において「販売業者」とは、牛肉の販売の事業を行う者をいうこととされた。また、「特定料理提供業者」とは、「特定料理」の提供の事業を行う者であって政令で定める要件に該当するものをいうこととされ、令で定める要件により、料理の提供を主たる事業としている者であって、その者の提供する料理が主として「特定料理」である者とされた(法第2条第5項、令第2条)。
「販売業者」は、上述した「特定牛肉」の「販売」を継続かつ反復して事業活動として行っている者である。「販売業者」に該当する事業者については、「特定牛肉」の対象から、牛肉を原材料として製造・加工品や調理品が外れることから、これらの製品を製造加工し、その卸売を行う「製造業者」や弁当等を調理し、その小売を行ういわゆる「中食業者」(料理品小売業者)は対象外となり、枝肉等の卸売業者や精肉の小売業者が該当することとなる。他方、いわゆる「外食事業者」のように、その場所で料理等を飲食させる事業者の中には、「精肉」を主たる材料とする料理の提供を専門とする事業形態が存在し、
(1) これらの事業者が主として提供する「精肉」を主たる材料とする料理は、顧客が「精肉」そのものの価値(「和牛」であるか否か等)に着目して注文することが多いことから、「精肉」を購入しようとする者と同様に、対応する個体識別情報の提供を促進すべきと考えられること、
(2) 仕入れの段階で「精肉」に個体識別番号の表示がなされていることから、その情報を顧客に伝達すること自体、「販売業者」と比較してもそれ程困難であるとは考えられないこと
から、このような料理を「特定料理」として政令で指定し、その提供を事業活動として行っている者のうち政令で定める要件に該当する者を「特定料理提供業者」として、「販売業者」と同様に規制対象とすることとされたものである。
「特定料理提供業者」に該当する要件については、
(1) まず、「特定料理の提供の事業を行う者」の中には、
ア 「料理の提供」自体を主たる経済活動とする者のほかに、
イ 「料理の提供」を行っているものの、それが従たる経済活動であり、カラオケ、ダンス、ショー、接待サービスなどの遊興飲食や酒類を含む飲食の提供を主たる経済活動とする者(例:「料亭」、「バー、キャバレー、ナイトクラブ」、「酒場、ビヤホール」)が存在することから、「特定料理提供業者」が、上記のアに属する者であることを明らかにするため、そのための要件を端的に表すものとして「料理の提供を主たる事業としていること。」とされた。

(2) 次に、このような「料理の提供を主たる事業としている」者であって、上述のような「特定料理の提供」を主たる経済活動としている者に限定する必要があることから、その要件を端的に表すものとして、「その者の提供する料理が主として特定料理であること。」とされた。

(3) なお、(1)及び(2)の要件にある「主として」かどうかの判定については、当該営業施設における販売額の過半を占めているかどうか等を基準として行うこととする。
このような要件により、「特定料理提供業者」に該当する事業者については、いわゆる「焼き肉店」、「しゃぶしゃぶ店」、「すき焼き店」、「ステーキハウス」と呼ばれる事業者が該当し、ファミリーレストラン等のように「特定料理」が部分的にメニューに含まれているだけの事業者は該当しないこととなる。

第3 牛個体識別台帳

1 牛個体識別台帳の作成

(1) 牛個体識別台帳の記録事項
農林水産大臣は、牛個体識別台帳を作成し、当該台帳に牛ごとに次に掲げる事項を記録するものとすることとされた(法第3条第1項)。

ア 個体識別番号
イ 出生又は輸入の年月日 輸入された牛以外の牛については当該牛が出生した年月日を記録し、輸入された牛については当該牛が輸入された年月日を記録することとなる。
ウ 雌雄の別 牛の雄又は雌の別を記録することとなる。
エ 母牛の個体識別番号 輸入された牛を除き、母牛(当該牛を出産した雌の牛をいう。)の個体識別番号を記録することとなる。
オ 輸入者の氏名又は名称及び住所 輸入された牛については、輸入した者の氏名又は名称及び住所を記録することとなる。
カ 管理者の氏名又は名称及び住所並びにその管理の開始の年月日 管理者の氏名又は名称及び住所並びに当該管理者が管理を開始した年月日を記録することとなる。
キ 飼養施設の所在地及び当該飼養施設における飼養の開始の年月日 牛が飼養された飼養施設の所在地及び当該飼養施設における飼養の開始の年月日を記録することとなる。
ク とさつ、死亡又は輸出の年月日と畜場法の規定に基づきとさつされた牛については、とさつの年月日を記録することとなり、とさつ以外の理由により死亡した牛については、死亡の年月日を記録することとなる。
また、輸出された牛については、輸出の年月日を記録することとなる。ケその他の記録事項アからクまでに掲げるもののほか、次に掲げる事項を記録するものとすることとされた(法第3条第1項第9号、規則第3条第1項)。

(ア) 牛の種別
牛の種別については、牛の生産サイドはもとより、牛肉の販売業者の品揃えや消費者の商品選択上の情報につながるなど、重要な役割を果たすものである。他方、牛の種別については、家畜登録制度でいうところの狭義の品種区分から、和牛その他の種別区分まで多様であり、生産、流通、消費サイドのニーズもそれぞれ異なる。さらに、「管理者」に届出義務が課せられる事項となることを踏まえれば、届出義務者にとって過度の負担とならないようにすることも必要である。
このような考え方から、肉用子牛生産安定等特別措置法(昭和63年法律第98号)に基づく肉用子牛の生産者補給交付金の交付の基準となる保証基準価格等の定められる品種区分と整合がとれた区分であって、届出義務者が混同しないような区分とすることとされている。このため、子牛登記証明書や種付証明書等により品種等の特定が可能であれば当該品種等を届け出て、品種等が特定できない場合は、雌雄を問わず牛肉生産を主たる目的として飼養される牛であって親牛が乳用種でないものの種別を「肉専用種」、ホルスタイン種、ジャージー種等その雌牛が専ら搾乳の用に供することを目的として飼養される品種間で交配された種別を「乳用種」、肉専用種と乳用種の交雑については「交雑種」とすることとされている。具体的には、次の11種類の区分に掲げるものとすることとされた(規則第3条第2項及び第3項)。

a 黒毛和種
b 褐毛和種
c 日本短角種
d 無角和種
e 黒毛和種と褐毛和種との交雑により生じた種(この種と黒毛和種又は褐毛和種との交雑により生じた種を含む。)
f 和牛間交雑種(aからdまでに掲げる種間の交雑により生じた種(この種とaからeまでに掲げる種との交雑により生じた種を含み、eに掲げる種を除く。)をいう。)
g 肉専用種(aからfまでに掲げる「肉専用種」及びkに掲げる「交雑種」を除く。)
h ホルスタイン種
i ジャージー種
j 乳用種(h及びiに掲げる種を除く。)
k 交雑種(aからgまでに掲げる「肉専用種」とhからjまでに掲げる「乳用種」との交雑により生じた種(この種とhからjまでに掲げる「乳用種」との交雑により生じた種を含む。))

(イ) 牛の管理者の連絡先

(ウ) 輸入された牛について、輸入先の国名及び輸入者の連絡先

(エ) 死亡(とさつによる死亡を除く。以下同じ。)した牛であって、譲渡し等をされたものについて、譲渡し等の相手方の氏名又は名称、住所及び連絡先

(オ)とさつされた牛について、と畜者の氏名又は名称及び連絡先並びにと畜場の名称及びその所在地

(カ) 輸出された牛について、輸出先の国名並びに輸出者の氏名又は名称、住所及びその連絡先

(2) 牛個体識別台帳の記録の方法
農林水産大臣は、管理者又は飼養施設に変更があったときは、遅滞なく、変更後の管理者の氏名又は名称及び住所並びにその管理の開始の年月日又は変更後の飼養施設の所在地及び当該飼養施設における飼養の開始の年月日を記録するとともに、当該変更前の管理者又は飼養施設に係るこれらの事項及びその管理又は飼養の終了の年月日を併せて記録するものとすることとされた(法第3条第2項、規則第4条)。
これは、管理者又は飼養施設の変更があるごとに、変更後の事項を新たに記録するとともに、変更前の事項についても、その終期とともに併記しておくことにより、牛の飼養履歴に関する情報の記録を行うこととしたものである。

(3) その他
牛個体識別台帳は、その全部を磁気ディスク(これに準ずる方法により一定の事項を確実に記録しておくことができる物を含む。以下同じ。)をもって調製するものとされた(法第3条第3項)。

2 牛個体識別台帳の記録等

牛個体識別台帳の記録又は記録の修正若しくは消去は、この法律の規定による届出に基づき、又は職権で行うものとされた(法第4条第1項)。
また、農林水産大臣は、牛個体識別台帳の記録を、牛のとさつ、死亡又は輸出の日から3年間保存することとされた(法第4条第2項、令第3条)。

3 牛個体識別台帳の正確な記録を確保するための措置

農林水産大臣は、牛個体識別台帳に記録の漏れ又は誤りがあることを知ったときは、届出をすべき者に対する届出の催告その他牛個体識別台帳の正確な記録を確保するため必要な措置を講じるものとされた(法第5条第1項)。
また、牛個体識別台帳に記録されている牛の管理者は、当該牛に係る牛個体識別台帳に記録の漏れ又は誤りがあることを知ったときは、農林水産大臣に対し、その旨を申し出ることができることとされた(法第5条第2項)。
この申出については、次に掲げる事項につき、書面又は電子情報処理組織(農林水産大臣の使用に係る電子計算機と、申出を行う者の使用に係る電子計算機等(電子計算機、ファクシミリ装置又は電話機をいう。以下同じ。)とを電気通信回線で接続した電子情報処理組織をいう。)を使用する方法により行わなければならないこととされた。この場合において、牛個体識別台帳に記録された事項のうち、他の者の届出に基づき、又は農林水産大臣の職権で記録された事項に関する申出をするときは、記録の漏れ又は誤りがあることを証する書面を添付しなければならないこととされた(規則第5条)。

ア 管理者の氏名又は名称、住所及び連絡先
イ 当該牛の個体識別番号
ウ 漏れ又は誤りがある事項及び当該事項について新たに記録すべき内容

4 牛個体識別台帳に関する情報の公表

農林水産大臣は、牛個体識別台帳に記録された事項について、以下に掲げる事項を除き、インターネットの利用その他の方法により公表するものとされた(法第6条、規則第6条)。

ア 管理者の氏名又は名称、住所及び連絡先
イ 管理の開始及び終了の年月日
ウ 飼養施設の所在地(都道府県名を除く。)
エ 輸入者の氏名又は名称、住所及び連絡先
オ 死亡した牛の譲渡し等の相手方の氏名又は名称、住所及び連絡先
カ と畜者の氏名又は名称及び連絡先
キ 輸出者の氏名又は名称、住所及び連絡先

後述するとおり、この公表の事務は、独立行政法人家畜改良センターに委任することとされており、同センターのインターネット上のホームページ(http://www.nlbc.go.jp/)の検索画面に個体識別番号を入力することによりその牛に係る個体識別情報が表示されることになる。

第4 牛の出生等の届出及び耳標の管理

1 出生及び輸入の届出

(1) 出生の届出
牛が出生したときは、その管理者は、遅滞なく、書面又は電子情報処理組織(農林水産大臣の使用に係る電子計算機と、届出を行う者の使用に係る電子計算機等とを電気通信回線で接続した電子情報処理組織をいう。以下第4において同じ。)を使用する方法により、以下に掲げる事項を農林水産大臣に届け出なければならないものとされた(法第8条第1項、規則第7条)。

ア 出生の年月日
イ 雌雄の別
ウ 母牛の個体識別番号
エ 管理者の氏名又は名称、住所及び連絡先
オ 飼養施設の所在地
カ 牛の種別(第3の1(1)ケ(ア)の牛の種別をいう。以下同じ。)

なお、この規定による届出をせず、又は虚偽の届出をした者は、30万円以下の罰金に処せられることとされた(法第23条第1号)。(2) 輸入の届出
牛を輸入したときは、その輸入者は、遅滞なく、書面又は電子情報処理組織を使用する方法により、以下に掲げる事項を農林水産大臣に届け出なければならないこととされた(法第8条第2項、規則第8条)。

ア 輸入の年月日
イ 雌雄の別
ウ 輸入者の氏名又は名称、住所及び連絡先
エ 飼養施設の所在地
オ 牛の種別
カ 輸入先の国名

なお、この規定による届出をせず、又は虚偽の届出をした者は、30万円以下の罰金に処せられることとされた(法第23条第1号)。

2 耳標の装着

農林水産大臣は、出生又は輸入の届出を受理したときは、当該届出に係る牛の個体識別番号を決定し、遅滞なく、書面、口頭又は電子情報処理組織を使用する方法により、これを当該届出をした牛の管理者又は輸入者に通知することとされた(法第9条第1項、規則第9条)。
また、牛の管理者又は輸入者は、個体識別番号の通知を受けたときは、牛の両耳にその個体識別番号を表示した耳標を、個体識別番号が容易に判読できるように着けなければならないこととされた(法第9条第2項、規則第10条)。
なお、耳標については、以下に掲げる規格に適合するものを着けなければならないこととされた(法第9条第2項、規則第11条)。

ア 装着した後、容易に脱落しない構造であること。
イ 取り外した後、再び装着することができない構造であること。
ウ 個体識別番号が容易に判別できる色及び大きさであること。
エ 個体識別番号が容易に消えない方法により表示されていること。

また、管理者は、耳標が滅失し、き損し、又はこれに表示された個体識別番号の識別が困難となった場合には、新たにその個体識別番号を表示した耳標を、個体識別番号が容易に判読できるように着けなければならないこととされた(法第9条第3項、規則第10条)。
さらに、農林水産大臣は、牛のいずれかの耳に耳標がないとき又は耳標に表示されている個体識別番号の識別が困難であるときは、その牛の管理者に対し、当該牛の個体識別番号を表示した耳標を着けるべきことを命じ、又は自ら耳標を着けることができることとされた(法第9条第4項)。
なお、耳標を着けず、又は耳標を着けるべき旨の命令に違反した場合には、30万円以下の罰金に処せられることとされた(法第23条第2号及び第3号)。

3 耳標の取り外し等の禁止

何人も、適法に牛の耳に着けられた耳標を取り外し、その他個体識別番号の識別を困難にする行為をしてはならないこととされた(法第10条第1項)。
また、何人も、両耳に耳標が着けられていない牛の譲渡し若しくは引渡し(以下「譲渡し等」という。)又は譲受け若しくは引取り(以下「譲受け等」という。)をしてはならないこととされた(法第10条第2項)。
一方、以下に掲げるやむを得ない事由に該当するときは、耳標を取り外し、又は両耳に耳標の着けられていない牛の譲渡し等若しくは譲受け等をすることができることとされた(法第10条第3項、規則第12条)。

ア 牛が耳の疾患にかかっているとき
イ 牛の耳に外傷があるとき
ウ 耳標の劣化等により個体識別番号の判読が困難となった耳標の取替えを行う必要があるとき
エ 譲渡し等の直前又は輸送中に耳標が脱落したとき
オ その他農林水産大臣が特に必要があると認めるとき

また、これらのやむを得ない事由に該当し、耳標を取り外し、又は両耳に耳標の着けられていない牛の譲渡し等若しくは譲受け等をする場合には、当該牛の管理者は、当該牛の個体識別番号を識別するため、次に掲げる措置のいずれかを講じなければならないこととされた(法第10条第3項、規則第13条)。

ア 取り外した耳標又は当該個体識別番号を記載した札を当該牛の耳以外の部分にひも等で取り付けること。
イ 当該牛の耳以外の部分に個体識別番号を塗料等で記載すること。

なお、これらの規定に違反した場合は、30万円以下の罰金に処せられることとされた(法第23条第2号)。

4 譲渡し等及び譲受け等の届出

(1) 譲渡し等の届出
牛の管理者又は輸入者は、牛の譲渡し等をしたときは、遅滞なく、書面又は電子情報処理組織を使用する方法により、以下に掲げる事項を農林水産大臣に届け出なければならないこととされた(法第11条第1項、規則第14条)。

ア 管理者の氏名又は名称、住所及び連絡先
イ 当該牛の個体識別番号
ウ 譲渡し等の相手方の氏名又は名称及び連絡先
エ 譲渡し等の年月日
オ 飼養の終了の年月日

なお、この規定による届出をせず、又は虚偽の届出をした者は、30万円以下の罰金に処せられることとされた(法第23条第1号)。

(2) 譲受け等の届出
牛の譲受け等をした者(法第13条第2項のと畜者及び法第13条第3項の輸出者を除く。)は、遅滞なく、書面又は電子情報処理組織を使用する方法により、以下に掲げる事項を農林水産大臣に届け出なければならないこととされた(法第11条第2項、規則第15条)。

ア 管理者の氏名又は名称、住所及び連絡先
イ 当該牛の個体識別番号
ウ 譲受け等の相手方の氏名又は名称及び連絡先
エ 譲受け等の年月日
オ 飼養施設の所在地
カ 飼養の開始の年月日

なお、この規定による届出をせず、又は虚偽の届出をした者は、30万円以下の罰金に処せられることとされた(法第23条第1号)。

5 牛個体識別台帳に記録されている事項に変更があったときの届出

譲渡し等又は譲受け等の場合のほか、牛個体識別台帳に記録されている事項に変更があったときは、当該牛の管理者は、遅滞なく、書面又は電子情報処理組織を使用する方法により、農林水産大臣に届け出なければならないこととされた(法第12条、規則第16条)。

ア 管理者の氏名又は名称、住所及び連絡先
イ 当該牛の個体識別番号
ウ 変更があった事項(新旧の対照を明示すること。)-
エ 変更の年月日

なお、この規定による届出をせず、又は虚偽の届出をした者は、30万円以下の罰金に処せられることとされた(法第23条第1号)。

6 死亡、とさつ及び輸出の届出

(1) 牛の死亡の届出牛が死亡したときは、当該牛の管理者は、遅滞なく、書面又は電子情報処理組織を使用する方法により、以下に掲げる事項を農林水産大臣に届け出なければならないこととされた(法第13条第1項、規則第17条)。

ア 管理者の氏名又は名称、住所及び連絡先
イ 当該牛の個体識別番号
ウ 死亡の年月日
エ 譲渡し等の相手方の氏名又は名称、住所及び連絡先(死亡した牛であって、譲渡し等をされたものに限る。)
なお、この規定による届出をせず、又は虚偽の届出をした者は、30万円以下の罰金に処せられる(法第23条第1号)。

(2) 牛のとさつの届出
牛をとさつした者(以下「と畜者」という。)は、遅滞なく、書面又は電子情報処理組織を使用する方法により、以下に掲げる事項を農林水産大臣に届け出なければならないこととされた(法第13条第2項、規則第18条)。

ア と畜者の氏名又は名称及び連絡先並びに当該牛がとさつされたと畜場の名称及び所在地
イ 当該牛の個体識別番号
ウ とさつの年月日
エ 譲受け等の相手方の氏名又は名称及び連絡先
なお、この規定による届出をせず、又は虚偽の届出をした者は、30万円以下の罰金に処せられることとされた(法第23条第1号)。

(3) 牛の輸出の届出
牛を輸出した者(以下「輸出者」という。)は、遅滞なく、書面又は電子情報処理組織を使用する方法により、以下に掲げる事項を農林水産大臣に届け出なければならないこととされた(法第13条第3項、規則第19条)。

ア 輸出者の氏名又は名称、住所及び連絡先
イ 当該牛の個体識別番号
ウ 輸出の年月日
エ 譲受け等の相手方の氏名又は名称及び連絡先
オ 飼養施設の所在地
カ 輸出先の国名

なお、この規定による届出をせず、又は虚偽の届出をした者は、30万円以下の罰金に処せられることとされた(法第23条第1号)。

第5 特定牛肉の表示等

1と畜者による個体識別番号の表示等

(1) 個体識別番号の表示法においては、「と畜者」を「牛をとさつした者」と定義し、牛をとさつした後、当該とさつした牛から得られた特定牛肉を他者に引き渡すときは、当該特定牛肉に対応する牛の個体識別番号を表示しなければならないこととされた(法第14条第1項)。
牛がと畜されるまでの生産段階においては、個体識別番号が表示された耳標が牛と物理的に一体となっていることから、当該個体識別番号を通じて牛個体と個体識別情報との同一性が担保される一方、牛がとさつ・解体される段階では、牛個体と耳標との物理的一体性がなくなることから、と畜後の牛肉(枝肉)がどの牛からのものであるかを特定するためには、牛のと畜の段階で、牛及び当該牛に対応する牛肉を管理している者がそれぞれの牛肉(枝肉)に牛の個体識別番号を正確に表示する必要がある。このため、牛を「とさつ」した者が、牛のとさつから牛肉がと畜場外に持ち出されるまでの間、牛及び当該牛に対応する牛肉を占有し、牛の耳標に表示された個体識別番号を対応する牛肉に正確に表示しうる立場にあるとして、個体識別番号の表示等の義務対象者とすることとされたところである。
「と畜者」としては、と畜場を設置又は管理して、自らとさつ・解体業務を行う者や、他者が設置又は管理すると畜場において、獣畜のとさつ・解体を請け負う事業者が該当し、事業者のみならず、とさつ・解体を自ら行う地方公共団体等が該当する場合もある。具体的に誰を「と畜者」とすべきかについては、上述のとおり、牛のとさつから牛肉として他者に引き渡すまでの工程を誰が管理しているかを勘案して決められることになる。

(2) 個体識別番号に代えた番号等の表示と畜者は、(1)による個体識別番号の表示に代えて、個体識別番号以外の番号又は記号で牛の個体を識別することができるものを表示することができることとされた。また、この場合には、と畜者は、特定牛肉の引渡しを受ける者に対し、当該番号又は記号に対応する牛の個体識別番号を明らかにした書面を交付しなければならないこととされた(法第14条第2項)。この番号又は記号で牛の個体を識別することができるものとは、と畜業者等が家畜をと畜場に受け入れるときにと畜作業の工程上、便宜的に家畜、枝肉ごとに割り振る「と畜番号」、「枝肉番号」等を想定している。
また、と畜者は、この書面の交付に代えて、特定牛肉の引渡しの相手の承諾を得た上で、当該書面に記載すべき事項を情報通信の技術を利用する方法(以下「電磁的方法」という。)により提供することができることとされた。
この場合、相手方の承諾を得ないまま電磁的方法による提供を認めると相手方が知らないうちにと畜者の提供義務が履行されることになることから、

ア 相手方の承諾は、事前に行わなければならないこと、
イ と畜者の使用する電磁的方法の種類及び内容(ファイルへの記録の方式)を明らかにすること、
ウ 事後的に承諾の事実を確認しうるよう、口頭ではなく、書面又は電磁的方法により承諾を得なければならないこと、
エ 仮に相手方が当該承諾を取り消した場合には、それ以後は電磁的方法による提供をしてはならないこと等とすることとされた(法第14条第3項、令第4条、規則第21条)。

なお、電磁的方法については、以下のいずれかの方法であって、相手方がファイルへの記録を出力することによって書面を作成することができるものでなければならないこととされた(規則第20条)。

ア 電気通信回線を通じて送信し、相手方の使用に係る電子計算機に備えられたファイルに記録する方法(例えば、電子メール、取引データをまとめてファイルとして一括送信する方法(EDI等)、電磁的記録をファイルに記録する機能を有するファックス等に送信する方法等)
イ 電気通信回線を通じて相手方の閲覧に供し、当該相手方のファイルに記録する方法(例えば、ウェッブのホームページを利用する方法等)
ウ 相手方に磁気ディスク、シー・ディー・ロム等を交付する方法

2 販売業者による個体識別番号の表示等

(1) 個体識別番号の表示
販売業者は、特定牛肉の販売をするときは、当該特定牛肉若しくはその容器、包装若しくは送り状又はその店舗の見やすい場所に、当該特定牛肉に係る牛の個体識別番号を明瞭に表示しなければならないこととされた(法第15条第1項、規則第22条)。
なお、店舗の見やすい場所で表示するのは、販売の相手方が不特定かつ多数の者である場合に限ることとされた(規則第22条)。

(2) 二以上の個体識別番号を表示するときの要件等

ア 販売業者は、一の特定牛肉について一の個体識別番号を表示しなければならないこととされた。ただし、以下に掲げる要件のいずれにも該当する特定牛肉の販売をするときは、一の特定牛肉について二以上の個体識別番号を表示することができることとされた(法第15条第2項、規則第23条)。
(ア) いずれの牛から得られたものであるかを識別することが困難な特定牛肉であること。
(イ) 50頭以下の牛から得られた特定牛肉であること。

イ また、販売業者は、(1)による個体識別番号の表示に代えて、個体識別番号以外の番号又は記号で個体識別番号に対応するもの(以下「荷口番号」という。)を表示することができることとされた。この場合には、特定牛肉若しくはその容器、包装若しくは送り状の見やすい場所又はその店舗の見やすい場所(不特定かつ多数の者に販売する場合に限る。)に明瞭に表示しなければならないこととされた。また、荷口番号の表示をした者の氏名又は名称及び電話番号その他の連絡先を併記し、当該特定牛肉の販売の相手方や消費者の求めに応じて、当該荷口番号に対応する個体識別番号を明らかにしなければならないこととされた。ただし、仕入先等の他者が定めた荷口番号を表示する場合は、当該荷口番号を定めた者の氏名又は名称及び電話番号その他の連絡先を表示すれば、必ずしも自らの氏名等を表示し、又は消費者等の求めに応じて当該荷口番号に対応する個体識別番号を自ら明らかにする必要はないこととされた(法第15条第3項及び第4項、規則第24条、第25条)。

(3) 荷口番号による表示の考え方
法における牛肉の流通段階における措置は、特定牛肉がどのような牛に由来するものであるかを流通・消費の各段階で特定できるようにすることを主なねらいとしており、当該特定牛肉がいずれの牛に由来するものであるかの特定は、できる限り個体レベルでなされることを原則とすべきである。このため、法においては、一つの商品単位の牛肉について、当該特定牛肉に対応する一の個体識別番号を表示することを原則とすることとされている。
しかしながら、とさつ・解体以後の牛肉の流通や処理の過程は多様であり、例えば、複数頭分の牛肉を組み合わせて一つの商品として取引する方法や、複数の牛の特定の部位だけをまとめ一つの商品として取引する方法等が消費者や販売先のニーズに応じて日常的に行われているのが実態である。
他方、たとえ牛肉がどの牛に由来するものであるかの特定を個体レベルで行うことができなくても、牛肉に対応する牛の範囲が限定されれば、その範囲内で個体識別情報の確認が可能であるとともに、BSEの発生等の万が一の事態においても、牛肉や対応する牛の範囲が特定されることから、牛肉の安全に対する信頼を確保するという法の趣旨に照らしても有意義といえる。
このため、一の商品単位の牛肉に対応する牛を個体レベルで特定することが困難であって、対応する牛が一定の範囲内で特定されることを条件として、一つの商品単位の牛肉について複数の個体識別番号又はこれに代わる番号又は記号(荷口番号)を表示することを認めることとされている。ただし、複数の個体識別番号又はそれに代わる荷口番号の表記を無制限に認めることは、上述の法の趣旨を損なうおそれがあることから、一定の上限を課すこととされた。この上限値の決定に当たっては、本措置によって牛肉流通の効率性が過度に損なわれることのないよう、我が国の大規模な部分肉処理施設における1日の処理頭数の平均がおおむね50頭であることを踏まえ、「50」とすることとされたところである。

なお、個体識別番号及びこれに代わる荷口番号は「一の牛肉」を単位として表示することとしているが、この「一の牛肉」は一の商品単位、すなわち、
ア 卸売の段階では、部分肉や「牛正肉」の1ブロック又はこれらを複数分まとめた1包装単位
イ 小売の段階では、例えば、パック売りの場合にあっては1パックごと又はこれらを同一の商品として他の商品と区分して配置した1販売区画、量り売りの場合にあってはショーケース内における同一の商品を陳列した1トレイがこれに相当するものである。 

3 特定料理提供業者による個体識別番号の表示等

(1) 特定料理提供業者は、特定牛肉を主たる材料とする特定料理の提供をするときは、当該特定料理又はその店舗の見やすい場所に、当該特定料理の主たる材料である特定牛肉に係る牛の個体識別番号を明瞭に表示しなければならないこととされた(法第16条第1項、規則第26条)。特定料理提供業者は、いわゆる特定料理の専門店であるが、個体識別番号の表示義務の対象は、個体識別番号により個体識別情報が記録されている「特定牛肉」を主たる材料とするものに限られる。

(2) 二以上の個体識別番号を表示するときの要件等
ア 特定料理提供業者は、一の特定料理について一の個体識別番号を表示しなければならないこととされた。ただし、以下に掲げる要件のいずれにも該当する特定牛肉を主たる材料とする特定料理の提供をするときは、一の特定料理について二以上の個体識別番号を表示することができることとされた(法第16条第2項において準用される法第15条第2項、規則第23条)。
(ア) いずれの牛から得られたものであるかを識別することが困難な特定牛
肉であること。
(イ) 50頭以下の牛から得られた特定牛肉であること。

イ また、特定料理提供業者は、(1)による個体識別番号の表示に代えて、
個体識別番号以外の番号又は記号で個体識別番号に対応するもの(荷口番号)を表示することができることとされた。この場合には、荷口番号の表示をした者の氏名又は名称及び電話番号その他の連絡先を併記し、当該特定料理の提供の相手方の求めに応じて、当該荷口番号に対応する個体識別番号を明らかにしなければならないこととされた。ただし、仕入先等の他者が定めた荷口番号を表示する場合は、当該荷口番号を定めた者の氏名又は名称及び電話番号その他の連絡先を表示すれば、必ずしも自らの氏名等を表示し、又は提供の相手方の求めに応じて当該荷口番号に対応する個体識別番号を自ら明らかにする必要はないこととされた(法第16条第2項において準用される法第15条第2項から第4項まで、規則第25条)。
複数の個体識別番号又は荷口番号の表示の要件については、販売業者における場合の措置と同様とされた。この場合、表示の単位とされる「一の特定料理」とは、「一の注文の単位」である。

4 帳簿の備付け等

と畜者、販売業者及び特定料理提供業者は、帳簿(磁気ディスクをもって調製するものを含む。以下同じ。)を備え、特定牛肉の引渡し若しくは販売又は特定料理の提供に関し、以下に掲げる者に応じ、それぞれ以下に掲げる事項を記載し、又は記録し、これを1年ごとに閉鎖し、閉鎖後2年間保存しなければならないこととされた(法第17条、規則第27条)。
なお、これらの措置に違反して、帳簿を備えず、帳簿に記載し、若しくは記録すべき事項を記載せず、若しくは記録せず、若しくは虚偽の記載若しくは記録をし、又は帳簿を保存しなかった者は、30万円以下の罰金に処せられることとされた(法第23条第4号)。

(1) と畜者
引渡しに係る特定牛肉ごとに、

ア 当該特定牛肉に対応する個体識別番号
イ 当該特定牛肉の引渡しの年月日
ウ 当該引渡しの相手方の氏名又は名称及び住所
エ 当該引渡しに係る特定牛肉の重量

(2) 販売業者
販売に係る特定牛肉ごとに、次のア及びイに掲げる事項(ただし、販売の相手方が不特定かつ多数の者である場合にはあってはイに掲げる事項を除く。)
ア仕入れに係る特定牛肉ごとに、

(ア) 当該特定牛肉に対応する一又は二以上の個体識別番号(又は対応する荷口番号)
(イ) 当該仕入れの年月日
(ウ) 当該仕入れの相手方の氏名又は名称及び住所
(エ) 当該仕入れに係る特定牛肉の重量
イ販売に係る特定牛肉ごとに、
(ア) 当該特定牛肉に対応する一又は二以上の個体識別番号(又は対応する荷口番号)
(イ) 当該販売の年月日
(ウ) 当該販売の相手方の氏名又は名称及び住所
(エ) 当該販売に係る特定牛肉の重量

(3) 特定料理提供業者
提供に係る特定料理の主たる材料とした特定牛肉ごとに、

ア 当該特定牛肉に対応する一又は二以上の個体識別番号(又は対応する荷口番号)
イ 当該仕入れの年月日
ウ 当該仕入れの相手方の氏名又は名称及び住所
エ 当該仕入れに係る特定牛肉の重量

5 勧告及び命令等

農林水産大臣は、と畜者、販売業者又は特定料理提供業者が、1から3までの措置を遵守していないと認めるときは、当該と畜者、販売業者又は特定料理提供業者に対し、必要な措置を講ずべき旨の勧告をすることができることとされた。
さらに、この勧告を受けたと畜者、販売業者又は特定料理提供業者が、正当な理由がなくその勧告に係る措置をとらなかったときは、当該と畜者、販売業者又は特定料理提供業者に対し、その勧告に係る措置をとるべきことを命ずることができることとされた(法第18条第1項から4項まで)。
また、この命令に違反した者は、30万円以下の罰金に処することとされた(法第23条第3号)。

第6 その他

1 報告及び検査

(1) 牛の管理者等
農林水産大臣は、この法律を施行するため必要があると認めるときは、牛の管理者、輸入者若しくは輸出者に対し、必要な報告をさせ、又はその職員に当該牛の管理者、輸入者若しくは輸出者の事務所、事業場その他の場所に立ち入り、帳簿、書類その他の物件を検査させ、若しくは関係者に質問させることができることとされた(法第19条第1項)。

(2) と畜者
農林水産大臣は、この法律を施行するため必要があると認めるときは、と畜者に対し、必要な報告をさせ、又はその職員に当該と畜者の事務所、事業場その他の場所に立ち入り、帳簿、書類その他の物件を検査させ、若しくは関係者に質問させ、若しくは検査に必要な限度において特定牛肉の一部を無償で集取させることができることとされた(法第19条第2項)。

(3) 販売業者及び特定料理提供業者
農林水産大臣は、この法律を施行するため必要があると認めるときは、販売業者若しくは特定料理提供業者に対し、必要な報告をさせ、又はその職員に当該販売業者若しくは特定料理提供業者の事務所、事業場、店舗その他の場所に立ち入り、帳簿、書類その他の物件を検査させ、関係者に質問させ、若しくは検査に必要な限度において特定牛肉若しくは特定料理を集取させることができることとされた。この場合の集取に当たっては、時価によってその対価を支払わなければならないこととされた(法第19条第3項)。

(4) 牛肉の集取の考え方
法において、耳標の装着や特定牛肉の表示、関係帳簿の保存等の義務を担保するため、農林水産大臣が、職員をして、牛の管理者の畜舎やと畜場、販売業者の店舗等に立ち入り、書類その他の物件の検査を行わせるほか、と畜場や販売業者又は特定料理提供業者については、科学的な検査を行うため、そのサンプルとなる肉片を集取することができることとされた。
これは、とさつされた後、部分肉処理、販売の過程において、牛肉に表示された個体識別番号等と、その牛肉に対応する牛とが一致しているかどうかを確認するためには、保存義務を課している帳簿等の検査だけでなく、DNA検査等の科学的な検査を行うことによって、その同一性の確認を行う必要があるためであり、具体的な検査方法は、以下のようなものが考えられる。
ア牛肉流通の起点であると畜場において、とさつされた直後の枝肉から照合用のサンプルとして肉片を集取し、この個体に対応する個体識別番号とともに一定期間保管する。
イ一方、川下の小売の販売業者等の店頭において、小売段階における検証用のサンプルとして特定牛肉又は特定料理を集取し、当該特定牛肉又は特定料理に表示されている個体識別番号(これに対応する荷口番号)とその番号等に対応するアの照合用サンプルの両者についてDNA分析を行い、その結果が同一のものであるかどうかを確認する。
このような特定牛肉等の集取については、相手方の同意を要せずに行われる。このため、販売業者又は特定料理提供業者における特定牛肉又は特定料理の集取については、検査に必要な肉片が必要最小量である数十グラムのものであっても、集取の対象は、販売の対象となる牛肉又はサービスの提供の対象となる料理そのものであり、集取の後はその経済的価値が失われる可能性があることから、当該牛肉又は料理が集取当時集取物の対価として当然受け取るべき価額である「時価」により、その対価を支払うこととされた。
一方、と畜場における特定牛肉の一部の集取については、枝肉の経済的価値を滅失・減少させないように数十グラム程度の肉片を集取することが技術的に容易であり、無償で行うことができることとされた。

(5) 地方農政局への委任
(1)から(3)までに規定する牛の管理者等、と畜者、販売業者等に対する農林水産大臣の立入検査等の権限は、地方農政局長に委任することとされた。
ただし、農林水産大臣が自ら権限行使することを妨げないこととされた(法第19条第6項、規則第29条)。

2 独立行政法人家畜改良センターへの委任

農林水産大臣は、独立行政法人家畜改良センターに、法第二章(牛個体識別台帳)及び第三章(牛の出生等の届出及び耳標の管理)に規定する事務のうち以下に掲げる事務の全部又は一部を行わせることができることとされた(法第20条、令第5条)。

ア 牛個体識別台帳の作成及び記録に関する事務
イ 牛個体識別台帳の記録の保存に関する事務
ウ 届出の催告その他牛個体識別台帳の正確な記録を確保するために必要な措置に関する事務
エ 牛個体識別台帳に記録されている牛の管理者が当該牛に係る牛個体識別台帳に記録の漏れ又は誤りがあることを知ったときに農林水産大臣に対して行う申出の受理に関する事務
オ 牛個体識別台帳に記録された事項の公表に関する事務
カ 牛の出生及び輸入、牛の譲渡し等及び譲受け等、牛のとさつ等の届出の受理に関する事務
キ 個体識別番号の決定及び通知に関する事務
アの「牛個体識別台帳の記録に関する事務」には当該記録の修正又は消去が含まれる。

3 関係行政機関等の協力

農林水産大臣は、この法律の目的を達成するため必要があると認めるときは、厚生労働大臣その他の関係行政機関の長又は関係地方公共団体の長に対し、必要な資料又は情報の提供、意見の開陳その他の協力を求めることができることとされた(法第21条)。

第7 経過措置等

1 既存牛に係る経過措置

この法律は、牛の出生後から各種の法的措置が生じるものであることから、基本的には法施行日後に出生した牛が対象となるが、BSEのまん延を防止するための措置の実施の基礎とするという法の趣旨にかんがみ、施行の際現に存する牛(以下「既存牛」という。)についても、以下の経過措置により、法の対象とすることとされた(法附則第2条)。
まず、既存牛については、施行日(平成15年12月1日)から起算して6月を経過する日(平成16年5月31日)(その日までに牛の管理者による既存牛の届出の受理を受けて農林水産大臣から個体識別番号の通知があったときは、その通知があった日)までの間は、牛個体識別台帳の正確な記録を確保するための措置や譲渡し等、とさつ等の届出に関する規定(これらの規定に係る罰則を含む。)は、適用しないこととされた(法附則第2条第1項及び第3項)。
一方、既存牛の管理者は、施行日(平成15年12月1日)から起算して3月を経過する日(平成16年2月29日)までに、当該既存牛について次に掲げる事項を農林水産大臣に届け出なければならないこととされ、当該届出を受理した農林水産大臣は、遅滞なく、当該届出をした既存牛の管理者に個体識別番号を通知するものとされた(法附則第2条第2項及び第3項、規則附則第2条)。

ア 雌雄の別
イ 管理者の氏名又は名称、住所及び連絡先
ウ 飼養施設の所在地

なお、この届出をせず、又は虚偽の届出をした者は、30万円以下の罰金に処せられることとされた(法附則第5条)。
既存牛の管理者は、施行日から起算して3月を経過する日(平成16年2月29日)までに農林水産大臣に対して上記の事項の届出を行わなければならず、この間に届出を受理した農林水産大臣は、遅滞なく、当該既存牛の管理者に対し個体識別番号を通知することとなる。このため、通常は、施行日から起算して6月を経過する日以前に個体識別番号の通知が行われ、当該通知の日後は、当該既存牛の管理者について、耳標の装着、譲渡し等の届出等の義務が生じることとなる。
なお、既存牛については、牛個体識別台帳においては、母牛の個体識別番号並びに輸入者の氏名又は名称及び住所を除いて記録することとし、また、出生又は輸入の年月日に代えて既存牛に係る届出の年月日を記録し、管理の開始の年月日に代えて法施行の際の管理者である旨を記録し、飼養の開始の年月日に代えて法施行の際の飼養施設である旨を記録することとされた(法附則第2条第4項)。
また、既存牛が施行日から起算して6月を経過する日(平成16年5月31日)(その日までに個体識別番号の通知があったときは、その通知があった日)までの間に出産した牛については、出生時には母牛の個体識別番号が存在しない場合も存在しうることから、牛個体識別台帳に記録する事項及び出生時に届け出なければならない事項から母牛の個体識別番号を除くこととされた(法附則第3条)。

2 特定牛肉の表示義務等の施行前にとさつされた牛に由来する特定牛肉に係る経過措置

特定牛肉に個体識別番号が表示されるのは特定牛肉の表示義務等の措置が施行される日(平成16年12月1日)以後であることから、それより前にとさつした牛から得られた特定牛肉については、特定牛肉の表示等に関する規定(これらの規定に係る罰則を含む。)は、適用しないこととされた(法附則第4条)。

3 検討

政府は、法の施行後3年を経過した場合において、法の規定の施行状況を勘案し、必要があると認めるときは、法の規定について検討を加え、その結果に基づき必要な措置を講ずることとされた(法附則第7条)。

4 独立行政法人家畜改良センター法の一部改正

法の施行に伴い、独立行政法人家畜改良センター法(平成11年法律第185号)の一部が改正され、独立行政法人家畜改良センターの業務として、法第20条の規定に基づき農林水産大臣から委任される事務が加えられることとされた(法附則第8条)。

5 牛の死亡の届出等に関する規定の適用

「牛の個体識別のための情報の管理及び伝達に関する特別措置法施行規則の一部を改正する省令」(平成21年農林水産省令第54号)の施行日(平成22年4月1日)以後に死亡した牛については、死亡した牛の譲渡し等の相手方の氏名又は名称、住所及び連絡先の届出等に関する規定を適用することとされた。

お問合せ先

消費・安全局 畜水産安全管理課

担当:牛トレーサビリティ企画班
代表:03-3502-8111(内線4548)
ダイヤルイン:03-0000-0000