稲、麦類及び大豆の種子について(平成29年11月15日)
29政統第1238号
平成29年11月15日
農林水産事務次官
主要農作物種子法を廃止する法律(平成29年法律第20号)の施行に伴い、地方自治法(昭和22年法律第67号)第245条の4の規定に基づく技術的助言として、下記のとおり通知するので御了知願いたい。
なお、本通知の施行に伴い、(1) 主要農作物種子制度運用基本要綱(昭和61年12月18日付け61農蚕6786号農林水産事務次官依命通知)
(2) 主要農作物種子制度の運用について(昭和61年12月18日付け61農蚕第6800号農林水産省農蚕園芸局長通知)
(3) 1代雑種稲種子(異なる品種を交配した1代雑種の稲種子)の暫定審査基準等について(平成4年5月7日付け4農蚕第2923号農林水産省農蚕園芸局長通知)
(4) 主要農作物種子に係る指定種苗制度の運用について(昭和62年8月4日付け62農蚕4943号農林水産省農蚕園芸局長通知)は廃止する。
以上、命により通知する。
記
1 種子・種苗行政の改革について
(1) 農業競争力強化プログラムの策定
ア 農業を成長産業とし、農業者の所得向上を図るためには、農業者に良質で低廉な農業資材が提供されることや、農産物の品質等が適切に評価された上で効率的に流通・加工が行われることといった、農業者の努力では解決できない構造的な問題に対処することが必要不可欠であることから、農業競争力強化プログラム(平成28年11月29日農林水産業・地域の活力創造本部(総理が本部長)決定)が取りまとめられたところである。
イ 特に、農産物の価値を決定付ける種子その他の種苗については、我が国農業の国際競争力を決定付ける極めて重要な農業資材であり、常に国際競争力ある優良な種子その他の種苗を官民を含めた国の総力を挙げて開発し、国内に供給する体制を構築することが必要不可欠である。
このため、農業競争力強化プログラムにおいて、「戦略物資である種子・種苗については、国は、国家戦略・知財戦略として、民間活力を最大限に活用した開発・供給体制を構築する。そうした体制整備に資するため、地方公共団体中心のシステムで、民間の品種開発意欲を阻害している主要農作物種子法を廃止するための法整備を進める。」ことが明記されている。
(2) 農業競争力強化支援法の制定と主要農作物種子法の廃止
ア 農業競争力強化プログラムを踏まえて、第193回国会において農業競争力強化支援法(平成29年法律第35号)が成立したが、この中において、良質かつ低廉な種子その他の種苗の供給を実現するために適正な競争の下で高い生産性を確保するための参入促進や、民間事業者による種苗の生産及び供給に関して活発な事業展開が可能となる環境を整備するための国の独立行政法人の試験研究機関や都道府県等からの種苗の生産に関する知見の提供といった取組が規定されている。
イ 農業競争力強化支援法との関係において、都道府県中心の制度を一律に義務付ける主要農作物種子法(昭和27年法律第131号。以下「種子法」という。)は、官民の総力を挙げる体制の構築と矛盾することから廃止されることとなり、主要農作物種子法を廃止する法律(平成29年法律第20号。以下「種子法廃止法」という。)が成立し、平成30年4月1日に施行されることとなっている。
2 主要農作物種子法の果たしてきた役割と廃止に至るまでの経緯
(1) 種子法は、昭和27年に戦後の食糧増産という国家的要請を背景に、稲、麦類及び大豆の種子については国・都道府県が主導して生産・普及を進める必要があるとの観点から制定されたものであり、種子法に基づき都道府県が中心となって種子生産が実施されてきた。
(2) 種子法等の効果もあって、稲の生産は拡大し、米の供給不足は解消したが、食生活の変化に伴う需要量の減少により供給過剰となり、昭和46年度から生産調整が本格化するなど、状況は大きく変化した。その結果、国による米の全量管理を基本とする食糧管理法(昭和17年法律第40号)も平成7年に廃止された。こうした変化に伴い、種子法の意義も変質した。
(3)一方で、種子その他の種苗の一般法である種苗法(昭和22年法律第115号)においては、順次、稲、麦類及び大豆を取り込む方向で見直しが行われてきた。
具体的には、
1. 昭和53年改正で稲、麦類及び大豆を品種登録制度の対象とし、新品種の権利保護を図る、
2. 昭和61年改正で稲、麦類及び大豆を指定種苗制度の対象とするなど、民間事業者による稲、麦類及び大豆の種子生産への参入促進や、参入に伴う種子流通の広域化、多様化及び複雑化に対応するための措置が講じられてきたところである。
(4) その後も、種子法においては、都道府県に対し、
1. 優良な品種(以下「奨励品種」という。)を決定するための試験(第8条)の実施
2. 原種及び原原種(以下「原種等」という。)の生産(第7条)
3. 種子生産ほ場の指定(第3条)
などを一律に義務付けてきたが、
1. 各都道府県とも家庭用需要を指向した画一的な品種開発を目指し、
2. 外食・中食産業用や輸出用などの多様な需要に対応する品種や生産コストを下げる品種の開発にはほとんど取り組まれていない、
3. 都道府県の開発品種が奨励品種のほとんどを占め、民間事業者が開発した品種については採用されにくい、
4. したがって、民間事業者は稲等の品種開発の意欲が湧かないという状況が続いており、これでは我が国農業の国際競争力の強化に向けて官民の総力を挙げた種子の開発・供給体制を構築することはできないという判断に至ったところである。
(5) 以上のような経緯を踏まえ、今般、種子法を廃止することとしたところである。
3 種子法廃止後の都道府県の役割
(1) 都道府県に一律の制度を義務付けていた種子法及び関連通知は廃止するものの、都道府県が、これまで実施してきた稲、麦類及び大豆の種子に関する業務のすべてを、直ちに取りやめることを求めているわけではない。
農業競争力強化支援法第8条第4号においては、国の講ずべき施策として、都道府県が有する種苗の生産に関する知見の民間事業者への提供を促進することとされており、都道府県は、官民の総力を挙げた種子の供給体制の構築のため、民間事業者による稲、麦類及び大豆の種子生産への参入が進むまでの間、種子の増殖に必要な栽培技術等の種子の生産に係る知見を維持し、それを民間事業者に対して提供する役割を担うという前提も踏まえつつ、都道府県内における稲、麦類及び大豆の種子の生産や供給の状況を的確に把握し、それぞれの都道府県の実態を踏まえて必要な措置を講じていくことが必要である。
(2) 都道府県が、稲、麦類及び大豆の種子の生産や供給に係る業務を実施するに当たっては、
1. 米等の生産・販売を戦略的に行っている農業者や農業者団体等との意見交換等により、種子・種苗行政に関するニーズを的確に把握すること
2. 都道府県内の農業者が必要とする種子の調達状況の調査を行うこと
3. 以上を踏まえて稲、麦類及び大豆の種子の供給に当たって都道府県の措置すべきことを整理することを大前提として、従来実施してきた業務を実施する場合には、必要に応じて、従来の通知を参考とされたい。
その際、種子法の廃止を踏まえ、民間事業者の育成品種についても適正に取り扱うことや、種子生産における民間事業者との連携を十分に考慮していただく必要がある。
(3) このような取組を行うに当たって、必要な場合には、都道府県段階における稲、麦類及び大豆の種子の安定的な供給や民間事業者の参入の促進を行うための協議会を設置すること等により、情報の共有、課題の解決策の検討を行うことも考えられる。
なお、都道府県域を越えた横断的な課題については、国が調整を行うこととする。
4 稲、麦類及び大豆の種子の品質の確保
(1) 種子法の廃止に伴い、今後、種子の品質の確保は、種苗法第61条第1項に基づく指定種苗の生産等に関する基準(平成14年4月1日農林水産省告示第933号。以下「生産等基準」という。)の遵守状況の確認によって行うこととなる。
(2) このことによって、
1. 従来は都道府県が指定した稲、麦類及び大豆の種子ほ場に限って品質の確認が行われていたが、今後は民間事業者が生産する種子を含めた流通する全ての種子について品質の確認が行われ、
2. 従来は都道府県による流通前の全ロットでの審査及び証明書の発行によって品質の確認が行われていたが、今後は国又は都道府県による流通する種子の検査によって確認が行われることによって、種子の品質が確保されることとなる。
(3) なお、稲、麦類及び大豆の生産等基準の確認業務は、広域種苗業者(2以上の都道府県の区域内に営業所(稲、麦類及び大豆の種子について、販売等に関する事務所、保管に関する施設及び種子の調整等に関する施設をいう。)を設けて種苗を販売する種苗業者)においては農林水産大臣が、それ以外の種苗業者においては都道府県知事が行うこととなる。
(4) その他
生産等基準は流通する全ての稲、麦類及び大豆の種子が対象となることから、都道府県においては、稲、麦類及び大豆の種子の生産を行う民間事業者に対しても生産等基準について周知されたい。
5 民間事業者への種苗の生産に関する知見の提供
(1) 農業競争力強化支援法第8条第4号に基づき、今後、国の独立行政法人だけでなく、都道府県(試験研究機関)から、種苗の生産に関する知見を民間事業者に提供する事案が増加すると考えられる。
(2) 農業競争力強化支援法の目的は、官民の総力を挙げた種子・種苗の開発・供給体制を構築することで、我が国農業の国際競争力を強化し、農業を成長産業にすることにある。
したがって、民間事業者への知見の提供に当たっては、この観点から適切な契約を締結することが必要不可欠であるので、この点十分留意されたい。
また、必要な場合には、国に十分相談いただきたい。
お問合せ先
政策統括官付 穀物課
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