EUの農業政策
1. EUの共通農業政策(Common Agricultural Policy:CAP)の概要
- EU共通農業政策(CAP)は、EU加盟国27カ国に対し共通して講じられる農業政策。EU予算を財源として欧州全体レベルで運営される。
- (ア)農業者の所得を保障するための「価格・所得政策」(第1の柱)、(イ)各加盟国が農業部門の構造改革、農業環境施策等の農村振興プログラムを実施する「農村振興政策」(第2の柱)の二本の柱から成る。
- 1962年、欧州域内市民への十分な食料供給と農業者の生活水準の確保を目的として、共通農業政策(CAP)を導入。生産過剰状況を踏まえた制度見直し(1984年)、市場支持から生産者補助への転換(1992年)、デカップル支払いの導入(2003年)、持続可能な農業に向けた対応をより重視した制度見直し(2013年)など、累次の改革を実施。
- 2021年に採択された現行CAP(実施期間:2023~2027年)では、加盟国の裁量・責任を拡大するとともに、環境・気候変動の取組を強化。
2. 価格・所得政策
(1) 直接支払い
- 1992年、価格支持制度における支持価格の引下げによる農業者の所得減少を補填するため、農業者に対する直接支払いを導入。当初は、品目ごとに決められた支払単価を基に、作付面積等に応じて支払われていた(カップル支払い)。
- 2003年改革において、支払いを生産と切り離し(デカップリング)、過去の支払実績に基づいて支払額を決めるという、品目によらない単一直接支払いを導入(2005年から実施)。
- 2013年改革において、直接支払い制度は環境・気候変動課題への対応をより重視した制度へと見直しが図られ、グリーニング支払いや各種目的別支払い等が定められた(2015年から実施)。
- 現行CAP(2023~2027年)においては、直接支払いの受給要件である環境・土壌保全等に関する共通遵守事項(クロスコンプライアンス)を強化(コンディショナリティ)。また、更なる環境・気候変動への取組を行う農業者に対する上乗せ支援「エコ・スキーム」を導入。
(2) 価格支持
対象品目毎に支持価格を定め、市場価格がそれを下回った際に、各国の機関等が買支え等を実施。
対象品目:小麦、大麦、コメ、牛肉、バター、脱脂粉乳等
3. 農村振興政策
各加盟国は、農村地域の競争力強化、環境・気候変動対策、地域経済発展・雇用創出等を目的とした農村振興プログラムを実施。予算は、EUと加盟国の共同負担。
4. CAPのあゆみ
CAPは、制度創設以来、累次の見直しが行われている。
(1) 1992年改革
生産過剰、輸出補助金等の財政負担の増大、ウルグアイ・ラウンド農業交渉(輸出補助金の削減、AMS(助成合計量)の削減)への対応
(ア)支持価格の引下げ
例)穀物は3年間で29%引き下げ
(イ)支持価格引下げ分を補償する措置として、直接支払いを導入
(ウ)直接支払いの受給要件として休耕を義務づけ
(2) 1999年改革(アジェンダ2000)
中東欧諸国のEU加盟に備え、EU農業の国際競争力(特に価格競争力)の強化
(ア)価格支持から直接支払いへの転換の強化
例)穀物の支持価格を2年間で15%引下げ、直接支払単価を引上げ(支持価格引下げ幅の50%)
(イ)直接支払いの受給要件としてクロスコンプライアンスを導入(加盟国の判断により実施)
(ウ)農村振興政策の強化(CAPの第2の柱として確立)
(エ)直接支払予算を削減し、農村振興政策予算に財源を移転するモジュレーションの導入(加盟国の判断により実施)
(3) 2003年改革
WTO農業交渉(「青の政策」に位置付けられている生産にリンクした直接支払を「緑の政策」にシフトする必要等)への対応
(ア)単一直接支払いの導入(2005年~)
支払いを生産と切り離し、2000年から2002年までの受給実績を基に支払い(デカップリング)
(イ)価格支持の更なる削減と直接支払いの拡充
(ウ)クロスコンプライアンスの遵守事項を拡充し義務づけ
(エ)モジュレーションを義務づけ(2005年~)
(4) 2008年改革(ヘルスチェック)
(ア)直接支払いは原則として2010年から生産リンク支払いを廃止(デカップリングの徹底)
例)耕種部門で認められていた生産にリンクした直接支払い(給付額の25%まで)を2010年1月から廃止
(イ)義務的休耕の廃止
(ウ)価格支持(市場介入)の縮小
例)普通小麦以外の穀物(大麦、デュラム小麦、コメ等)について、2009年から介入制度は存続させつつ介入限度数量をゼロとする
(エ)クロスコンプライアンス適用範囲の見直し
(オ)モジュレーションの強化
(カ)モジュレーションの強化による資金を、気候変動、再生可能燃料等の新たな政策課題への対応に重点的に配分
(5) 2013年改革
財政削減、農業の公共財としての役割強化、直接支払の格差是正
(ア)直接支払制度の全面的見直し(環境要件の強化等)
直接支払いを、基礎支払いと各種目的別支払い(グリーニング支払い等)に再編。各国の直接支払予算のうち最低3割はグリーニング支払いに配分されることとされ、農家はグリーニング支払いを受給するため、従来のクロスコンプライアンスに加え、それを上回る環境要件(作付品目の多様化、環境重点用地の設定、永年草地維持)の遵守が義務づけられた。
(イ)加盟国間の直接支払いの単価の不均衡是正
(ウ)農村振興政策における環境対策の強化
(エ)従来のモジュレーションに代わり、価格・所得政策(第1の柱)と農村振興政策(第2の柱)の間の予算の弾力化(加盟国は双方向に予算の最大15%まで移転可能)
(6) 現行CAP(2023~2027年)
「欧州グリーン・ディール」に基づく「Farm to Fork 戦略」の実現。加盟国の権限・責任の拡大、コンプライアンス・ルール重視からパフォーマンス・成果重視への転換、環境・気候変動の取組の強化。
(ア)加盟国の権限・責任を拡大
加盟国間で異なる農業実態・土地・気候条件等に対して、より柔軟な対応ができるよう、加盟国の施策選択に係る裁量を拡大。欧州委員会が設定した10の目標の達成に向け、複数の施策メニューの中から、自国の農業・農村課題に対応する上で必要な措置を特定し、「CAP戦略計画」案を作成。欧州委員会の承認を得た上で、同計画に基づく施策を実施。第1の柱と第2の柱間の予算枠の移転可能割合を拡大。
(イ)コンプライアンス・ルール重視からパフォーマンス・成果重視へ転換
加盟国は、毎年、予め定められた共通の指標に基づき、自国のCAP戦略計画の実施状況・成果等を検証の上、結果を公表。欧州委員会は、各国のCAP戦略計画に基づく実績を継続的に監視・評価。
(ウ)環境・気候変動の取組を強化
第1の柱に関し、「基礎支払い」と上乗せ措置である「グリーニング支払い」から成る方式を廃止。「基礎的所得支持」の受給について、気候・環境、公衆衛生、動植物衛生、動物福祉に加え、労働者保護に係る法令の遵守を要件化 (コンディショナリティ)。また、更なる環境・気候変動への取組を行う農業者に対して、上乗せ支援「エコ・スキーム」を導入。第2の柱に関し、加盟国に農村振興政策予算の原則35%(旧20%)以上を環境・気候対策に配分することを義務付け。
参考リンク
- EUの共通農業政策と農業関連施策をめぐる事情(農林水産物・食品の輸出支援プラットフォーム・ブリュッセル事務局作成資料)(外部リンク:1,693KB)
- EU共通農業政策ホームページ(欧州委員会)(外部リンク)
- EU共通農業政策 2023-27 概要資料(欧州委員会)(外部リンク:3,180KB)
お問合せ先
輸出・国際局国際地域課
代表:03-3502-8111(内線3471)
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