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農林水産省

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明日をつくる ~東日本の復旧・復興に向けて~(2)

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新しい技術や設備を手に地元農業の復活を目指す

宮城県仙台市 株式会社みちさき



塩害を受けない養液栽培による大規模施設園芸を導入。
被災地域の農業の再興と雇用の確保を図るとともに、高度な品質管理と安定生産の実現を目指しました

地図画像
震災による津波で農地の8割が浸水し、がれきの散乱などで農業生産施設や機械などに大きな被害が出た仙台市東部地域。
現在、このエリアの宮城野区蒲生地区で野菜などを通年出荷する大規模養液栽培施設を運営するのが、菊地守さんが代表を務める株式会社みちさきです。


IT技術や最新の設備
トマト棟の写真

主力のトマト棟(フェンロー型・オランダ製)は最大の規模(約1.2ha)を誇る


複合環境制御システム

それぞれの施設を一括管理するための複合環境制御システム(イスラエル製)を構築した


複合環境制御システムの画面

複合環境制御システム画面


ほうれんそうの屋内テラスの写真

屋内のテラスにてほうれんそうの苗を育成。一定の大きさに育った段階でハウスに移す


みちさきの栽培施設の写真

東日本大震災農業生産対策交付金を活用して建設された、みちさきの栽培施設。約2.8haの規模を有し、トマト、いちご、ほうれんそう、葉物野菜の計4棟が並ぶ


仙台いちごの写真

仙台いちごは震災復興のシンボルとして生産を始めた



官民一体となって取り組んだ被災地域のモデル的地域営農

震災後の平成23年12月、カゴメや日本IBMなどの民間企業と、宮城県や仙台市などの行政が共同で「仙台東部地域6次化産業研究会」を発足。 有限会社六郷アズーリファームの代表を務めていた菊地守さんがその副会長に就任しました。

取り組んだのは、農業分野での最新のICT(情報通信技術)の活用や、塩害の影響を受けない養液栽培を用いた大規模施設園芸です。

外食チェーン大手のサイゼリヤからの誘いで、震災直後から契約トマト農家として水耕栽培に取り組んでいた菊地さん。

信頼性の高いオランダ製のトマト栽培設備や、コストの安い韓国製のハウスを導入するなど、グローバルな視点で生産体制を構築していました。

そのノウハウを生かして、地元の農業をなんとか復活させようと、24年7月、地元の農家4人と株式会社みちさきを設立しました。

「当初参加を希望していた農家さんがやっぱり参加を見合わせたり、施設用地を確保するまでにも紆余曲折があったりと、問題はいろいろありました。
震災後の混乱の中、計画が十分煮詰まる前に見切り発車してしまった部分もあり、今もまだそこを整えている最中ですね」

と語る菊地さんですが、25年6月から生産を開始し、トマト250トン、いちご38トン、ほうれんそう73トン、レタスなどの葉物野菜32トンの出荷を計画。
5年目の黒字化を目標に日々取り組んでいます。

また、大手スーパーやコンビニチェーンなどの販売先も自ら開拓するなど、安定的な売り上げが見込めるよう営業にも力を入れています。

「まずは軌道に乗せることが目標ですが、地域の農業者とも連携して、農業を中心とした街づくりに寄与できたらうれしいですね。
若い後継者も育てて、ここでのノウハウを全国に広げていきたいと思います」
栽培ハウスの写真 葉物野菜の写真


力を合わせて頑張る職場
菊地さん(左から6人目)とスタッフのみなさんの写真

葉物棟にてサンチュを収穫する菊地さん(左から6人目)とスタッフのみなさん


パネル洗浄作業の写真

障がいのある人の就労を支援。パネル洗浄などの作業を任せている

成果を「見える化」してやる気を引き出す

みちさきは、障がい者就労支援にも力をいれています。
現在、支援施設と連携して7名の方がパネル洗浄やサンチュの収穫作業などを行っています。

農作業には施設の職員が同行し、個人のアセスメント(評価)を考慮しながらそれぞれに個別支援計画書を作成。

みちさきで生産した野菜は大手スーパーなどで販売されるほか、レストランのメニューにも採用されており、自分たちの仕事が形となって見えることで、やりがいを感じることができるといいます。

「ここに来るスタッフたちは、ハンディキャップを抱えながらもみんなイキイキと働いています。
機械化が追いついていないところは人力ですが、彼らはマンパワーとしても十分頼りになる存在ですね。
事業の拡大を目指していく中で、人数や作業内容も増やしていきたいです」
と菊地さん。

今後はさらなるスキルアップを図り、一人当たりの生産性を向上させていくことで、幅広く活躍できる人材が育っていくことを願っています。



文/中山斉(フリート)
写真提供/株式会社みちさき