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農林水産省

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トップランナー 今、この人たちが熱い vol.2

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有限会社降矢(ふるや)農園(福島県)

"「面白いから、続けていく」
地域を支える不屈の精神"



「人生は短いんだから、なんでもやってみないと。 それだけですよ」そう笑うのは、福島県郡山市で有限会社降矢農園を経営する降矢(ふるや)敏朗さん、セツ子さんご夫妻。 土地依存型の農業からハウス栽培への転換を皮切りに、常に二人三脚で新しいことにトライし続けるお二人の、バイタリティの秘密を探ります。

降矢敏朗さん、セツ子さんご夫妻の写真


土地依存型の農業からハウス栽培へ転換
阿武隈山系の山間部にある有限会社降矢農園。かつては葉タバコの栽培や稲作、養蚕・酪農からなる複合経営を行っていました。
大きな転換期は1980年、経営者の降矢敏朗さんがドイツやデンマーク、スイスなどハウス栽培の先進国に農業視察に行ったこと。

「農家でも週に1日はきちんと休み、教会へ通う。その生活スタイルは衝撃でした。
これまで私がやってきた土地依存型の農業では、天候に左右されるし、経営が不安定で、そんなことはできない。
これからはハウス栽培の時代だ、と思いました」(敏朗さん)。

そうして82年にかいわれ大根のハウス栽培に挑みますが、当時は栽培技術が確立されておらず、失敗して借金を抱えてしまいます。
しかし敏朗さんを奮起させたのは「家計は私が自分で稼ぐから」という、どんな状況でも明るく笑い、背中を押してくれる妻・セツ子さんの言葉でした。

他の生産農家からノウハウを学び、試行錯誤を重ね、83年の春には、逆境を乗り越え約1億円の売上を達成。
その年に法人化を果たしました。

ところが、96年にO–157騒動が発生。
売上が約9割も落ち込む大打撃を受けましたが、サンチュ、豆苗などのハウス栽培の数量を増やすことで、またも立て直しました。

前を向き続ける敏朗さんが「さらに新しいことを」と始めたのが、耕作放棄地を利用した放牧養豚です。
それは地元集落のためでもありました。

「気付けば周りは荒れ地ばかり。なんとかできないかと思っていた時、沖縄で見た放牧養豚がヒントになりました」(敏朗さん)。
草や木の根を掘り返して食べる豚を放牧することで、里山を守ることもできます。

また、豆苗の根の部分も捨てずに飼料に活用しました。
2009年にスタートして、今では「里の放牧豚」と銘打った加工品を自社で販売し、6次産業化の確立を目指しています。


生まれ育った地域を支えるさまざまな試み
セツ子さん自身も挑戦者です。
行動派の敏朗さんを支えながら、繁忙期に臨時の保育所を設置するよう行政に働きかけるなど、地元の女性農業従事者のために活動を続けてきました。

現在は農業法人の女性経営者による「やまと凛々アグリネット」の顧問として、農業における女性の地位の向上も目指しています。

これまで多くの苦難に見舞われてきた降矢農園ですが「何もやらなかったら食えなくなるだけ。
だったらやってみよう」との思いで挑戦を続けてきました。現在のお二人の原動力になっているのが、"地域の再生"。

東日本大震災では、このエリアの農業も打撃を受けました。離農者も増える中、夫婦で奮闘しています。
「仕事や収入を得るのが難しい場所ですから、農園を続けることで地域の雇用を守りたいんです」とのセツ子さんの言葉通り、
降矢農園には17人のスタッフが常勤。みんなで長く地域の農業を支えようとしています。

12年からは、今後の市場発展が見込まれる夏いちごの栽培も始めました。
現在は郡山市に建設予定のワイナリーで使用する、ぶどう栽培の準備の真っ最中。
いずれは地ワインが生ハム・ソーセージなどとともに郡山の名物になったら、と夫婦の夢は膨らみます。

「東京にただ製品を出荷するのではなく、ブランド化してたくさんの人にこの地を訪れてもらう。それがこれからの目標です」(敏朗さん)。
「やるなら面白くないと」。そう語る夫婦の目は、地域の再生を見据えています。

夏いちごの写真 夏いちごの市場での評価を高めるため、
大きさだけでなく、味の向上も目標




降矢農園のあゆみ 1980年、ヨーロッパでの農業視察を経験する。1982年、水耕栽培の試験研究を始める。1983年、有限会社降矢農園設立。大型ハウス10aでかいわれ大根を生産。1991年、サンチュ、豆苗生産開始017万円を達成。1996年、O-157騒動でかいわれ大根85%減産。1997年、ひまわり(スプラウト)生産開始。2009年、放牧養豚開始、サンチュ増産。2011年、東日本大震災発生。受注のみの減産体制へ。2012年、夏いちご生産開始



降矢農園の特徴的な取り組み

ハウス栽培データ画面の写真
1.ハウス栽培
ハウス栽培では、データを基にした科学的な視点も大切。天候に左右されることなく、安定的な生産が可能に
豆苗の写真
2.循環型農業
豆苗は可食部のみをカットしたものを出荷。残りの部分は破棄するのではなく、豚の飼料に利用
里の放牧豚の写真
3.6次産業化の確立
自社で生産・加工・販売する「里の放牧豚」。いずれはこれらに合う地ワインの商品化も視野に入れている

放牧養豚の写真
4.放牧養豚
ハウス近くの耕作放棄地を利用した放牧養豚。20頭いる三元豚は地元のホテルなどに出荷している

社員として働く近隣地域在住者の写真
5.地域での雇用
社員として働くのは近隣地域在住者が中心。生活を安定させ、地域の雇用を守る意図も

かいわれの写真
6.安心・安全のために
かいわれなどのスプラウト類は、微生物検査を毎日実施。放射能測定検査も自社で行い、HPで数値を公開


降矢農園
所在地 福島県郡山市
ハウス面積 75.2a
敷地面積 1.2ha
栽培品種 スプラウト(ブロッコリー、マスタード、レッドキャベツ、クレス)、サンチュ、豆苗、かいわれ大根、夏いちご
販売金額 1億1,000万円
労働力 17名(作業員13名、社長、取締役、事務1名、営業1名)


文/川口有紀(フリート)
写真/阿部栄一郎(フリート)