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農林水産省

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特集 本場の味と農山漁村の魅力でおもてなし 食と農のインバウンド(2)

林 芳正 農林水産大臣に聞く  「食と農のおもてなし」で地方創生へ


オリンピック・パラリンピック東京大会に向け、訪日外国人旅行者数はさらなる増加が見込まれています。このインバウンド(訪日旅行)需要の増大をいかに地方に取り込み、農山漁村の活性化につなげていくのか。その戦略を、林 芳正 農林水産大臣に聞きました。
聞き手:フリーアナウンサー 新井麻希さん


林 芳正 農林水産大臣と、聞き手のフリーアナウンサー新井麻希さん


"輸出を伸ばしてインバウンド需要の増大につなげていく"

日本食の魅力発信と輸出促進を一体的に
新井 (敬称略、以下同)  最近、街を歩いていても外国人の方がすごく増えていると感じるのですが、訪日外国人旅行者の数はどのくらいになっているのですか。

大臣  昨年は約1300万人で、今年は1700~1800万人くらいになりそうです。2020年のオリンピック・パラリンピック東京大会までに2000万人という目標なのですが、前倒しで達成できるのではと思っています。

新井  日本経済にも大きな追い風になりますね。

大臣  特に日本食の関連産業にとって大きな追い風となりそうです。外国人旅行者に「日本に行って何がしたい?」というアンケートをとると、1位が飲食なんです。

新井  観光やショッピングよりも飲食が上なんですね!  日本食への関心の高さが感じられます。

大臣  実際、外国人旅行者の食関連の消費額は年間約6000億円に増え、20年までに1兆円程度になることが期待されています。

新井  農林水産省として、どんな取り組みを行っていますか。

大臣  輸出の促進に力を入れています。12年に4497億円だった農林水産物・食品の輸出額は、14年には6117億円、今年は7000億円程度となる見込みで、こちらも20年に1兆円という目標を前倒しで実現する可能性があります。輸出を伸ばすことで、インバウンド(訪日旅行)需要の増大につなげていきたいですね。

新井  13年に「和食」がユネスコ無形文化遺産に登録されたことも大きな契機になりましたね。

大臣  JETRO(日本貿易振興機構)がさまざまな国の人に「好きな外国料理について」というアンケートを実施しているのですが、「日本食」が1位をとることが多くなりました。

日本食のベースには「うまみ文化」「発酵文化」があって、実は日本の自然環境と深い関わりがあるんですよ。日本は山が高く川が短い急しゅんな地形なので地下水の滞留時間が短く、ミネラル分の少ない軟水が豊富です。軟水はうまみのもとであるだしをとるのに適しているため、うまみ文化が発達しました。また、温暖湿潤な気候が育んだ日本独特のカビを活用して、みそやしょうゆなどが生まれました。これが発酵文化です。これらが組み合わさって、日本独特の食文化が生まれました。

新井  食をテーマにイタリア・ミラノで行われている「ミラノ国際博覧会(ミラノ万博)」でも、日本館は大人気だとか。

大臣  日本館では"うまみ"を使ったおいしくてヘルシーな日本食を積極的にアピールしています。私もオープニングイベント(5月4日)と「ジャパンデー」のレセプション(7月11日)に出席するために二度行きましたが、日本館の出来が非常にいいんです。来場者数は8月12日に早くも100万人を突破するなど、一番の人気パビリオンになりました。各パビリオンの入場者に対して行う「その国に行きたくなったか」というアンケートでも、日本は1位です。

ユネスコ無形文化遺産登録を「ホップ」、ミラノ万博を「ステップ」、さらに20年のオリンピック・パラリンピック東京大会を「ジャンプ」と位置付け、「FBI戦略(※)」に基づいた日本食の魅力発信、農林水産物・食品の輸出拡大を一体的に推進していきます。

注:食市場獲得のために農林水産省が打ち出した取り組み。世界の料理界で日本食材の活用を推進する「Made From Japan」、日本の食文化や食産業を海外展開する「Made By Japan」、日本の農林水産物・食品の輸出を促進する「Made In Japan」の3つを指す。




ミラノ万博「ジャパンデー」レセプションでスピーチする林大臣。日本館の来場者数は8月12日に早くも100万人を突破し、大盛況
ミラノ万博「ジャパンデー」レセプションでスピーチする林大臣。日本館の来場者数は8月12日に早くも100万人を突破し、大盛況



"インバウンド需要に対応した受け入れ体制を構築"

外国人旅行者に日本食を楽しんでもらうために
新井  来日した外国人に日本食を安心して楽しんでもらうための取り組みも進めているそうですね。

大臣  飲食店でのインバウンドへの取り組みとして、言葉や食習慣の違いに対応できる体制を作っていく必要があると考えています。そのために、観光庁や関係団体と連携しつつ、今年度から国内の飲食施設や宿泊施設を対象にした講習会を開催し、啓蒙活動を行います。

また、イスラム教の戒律に対応した食事やベジタリアンの方向けのメニューを備えた飲食店の増加を促したり、外国人旅行者の受け入れに積極的な飲食店を示すシンボルマークを策定して、飲食店検索サイトなどで情報発信していくことなどを検討しています。

新井  おいしく食べていただくには、料理人の育成も重要ですね。

大臣  最近、海外で日本食人気が高まっているのはいいことなのですが、その一方で、全く修業をしたことがない方が作った"日本食もどき"が多く見受けられます。

これでは日本食の本当の良さが伝わらないので、海外から和食を学びに来た料理人の在留資格の要件を緩和するなど、日本国内で和食の料理人を育成していく仕組みを作ることにしました。そうすることで、きちんとした日本食が世界中に広まりやすくなりますし、日本食のブランド価値や人気を高めていくことができると思います。


免税や植物検疫の円滑化でお土産需要に対応
新井  昨年10月に消費税免税制度が改正されて、対象範囲が農林水産物やお菓子などの食品にも広がりましたね。ただ、農産物は植物検疫の問題があると思うのですが。

大臣  外国人旅行者のやりたいこと第2位がショッピングなので、食品類が免税対象になったことは非常に魅力的です。植物検疫については、国によって持ち出しができるものとできないものがどうしてもあるんです。また、持ち出し可能なものでも、日本で植物検疫を受けず持ち出すことができるものと、日本の輸出検査で合格すれば持ち出せるものとがあります。

そこで、今年7月に「海外へ日本の農産物をお土産として持ち出す方へ」というリーフレットを日本語と英語で作成しました。国、地域別に持ち出しが可能な品目を分かりやすく整理して、外国人旅行者や小売事業者の方に周知を図っています。

また、旅行者の利便性を高めるため、道の駅などで注文した青果物を、検疫証明書を添付して空港でお渡しする仕組みも検討中です。



"農山漁村は「本場」を体感できるエリア"

GI制度のスタートで日本食をブランド化する
新井  農林水産省としては、インバウンド需要を農山漁村の振興につなげていく視点が大切かと思いますが、具体的にどのようなことをされているのでしょうか。

大臣  まず、地域の特産品に国がお墨付きを与えて"ブランド化"する制度をスタートさせました。「地理的表示保護制度」(GI制度)というもので、その地域の風土や伝承の製法などで高い品質と評価を獲得している産品の名称(地理的表示)を知的財産として保護する制度です。品質の基準などを満たすものに登録標章である「GIマーク」を付与します。今年6月に登録申請の受付を開始したのですが、「夕張メロン」「鹿児島の壺造り黒酢」「砂丘らっきょう」「神戸ビーフ」など、たくさんの申請をいただいています。

海外の方は、そのブランド化された産地を実際に訪れて「本場」の味を体験してみたいと思うはずです。フランスワインが好きな人が、一度はブルゴーニュやボジョレーに行きたいと思うように。そして、そのようにして日本に来た旅行者が、食べたり飲んだりしたものを気に入って、帰国した後にも買ってくれる。このように、インバウンド消費と輸出の好循環を推し進めていきたいと思っています。



日本の食と農を「体験」する
新井  食については、「食べる」だけではなくて「体験する」ものでもあると思うんです。私自身、お料理番組を担当していた時、農家に行ってその場で取れたてのネギを食べて「こんなに甘いんだ!」と感動したことがありました。

大臣  農林水産省では、農山漁村において、自然、文化、人々との交流や体験を楽しむ「グリーン・ツーリズム」を推進していますが、その取り組みを今後一層進めていく方針です。

一つのモデル事例としては、国連食糧農業機関(FAO)により世界農業遺産(GIAHS)に認定された石川県の能登地域の取り組みがあります。ここでは、農家民宿において郷土料理や里山里海の魅力を楽しみながら、昔ながらの農村生活を体験できるプログラムを提供しているのですが、すでに世界20カ国以上から旅行者が訪れています。年間約1万1000人の訪問者のうち、約1800人は外国人旅行者です。現在、日本では5地域が世界農業遺産に認定されていますが、このように世界農業遺産というのを一つのアピールポイントとして誘客につなげることも戦略として考えられます。

もう一つ、今年5月から訪日外国人旅行者の受け入れに意欲を示す農林漁業体験民宿に「ジャパン・ファーム・ステイ(Japan. Farm Stay)」というシンボルマークを付与する制度がスタートしました。

最近、日本に来る外国人旅行者は、旅館で布団を敷いて寝るとか、日本ならではのものを体験したい人が増えています。その点、農山漁村は日本の自然が満喫できるし、日本食・食文化の「本場」も体感できるので、訪日外国人の日本滞在の満足度を向上させるのにもってこいのエリアと言えます。




「Japan. Farm Stay」シンボルマーク
外国人旅行者を積極的に受け入れている農林漁業体験民宿に付与している「Japan. Farm Stay」シンボルマーク

林 芳正 農林水産大臣



"「食と農の景勝地」づくりを進めていく"

地方の魅力を掘り起こす
新井  インバウンドの増大を地方創生に結びつける上で、今後どのようなことをお考えでしょうか。

大臣  大切なのは、農作物や水や自然や食文化など、その地域にもともとあるものの魅力を再発見し、それを最大限にアピールすることです。そうした地方創生には、ヨーロッパなどにお手本があります。

それは、DMO(Destination Management/Marketing Organization)という、地域単位で組織する官民連携の団体で、観光地づくりの推進役です。DMOは、その地域の魅力を掘り起こし、磨き上げ、観光資源やサービスを管理し、マーケティングを行う主体として機能していて、日本でも同様の取り組みを進めていきたいと考えています。

また、地域を指定し、その地域の産品と景観・観光スポットなどを組み合わせた地域イメージを、国を挙げてわかりやすく発信するという取り組みもあります。フランスの「味の景勝地」やオーストリアの「ゲヌスレギオン(歓喜のグルメ地域)」などがその一例です。

日本でも、こうした海外の取り組みを参考に、「食と農の景勝地(仮称)」づくりを進めていきたいと考えています。

新井  そのようにして掘り起こせば、日本の地方の魅力というのはいろいろと出てきそうですね。

大臣  そうですね。そして、訪日外国人旅行者の方と地域の魅力やストーリーを共有できるようにすることが大切です。例えば、「この地域は歴史的にこういう話があって、実はそういった背景でこういうおいしいお酒ができて、このお酒は年に1回のこのお祭りのときにこういうふうに飲むんです」というストーリーが共有できれば、スペシャルな体験をしている感じが強まります。そして、その時の食事やお酒がおいしければ、旅行者の方の高い満足が得られるはずです。日本の農家の方は本当においしいものを作っているので、その点は心配していません。

新井  お話を伺っていて、私自身も改めて日本食・食文化の良さを理解できた気がしますし、より多くの外国人の方に知っていただきたいと思いました。インバウンドの増大と地方創生が成功することを期待しています。

大臣  ぜひ期待してください。




フリーアナウンサー新井麻希さん
フリーアナウンサー
新井麻希さん
2005年、TBSテレビ入社。学生時代のスポーツ経験を生かし、スポーツ番組を担当。その後、語学力も生かし英語番組やナレーション技術をみとめられ、バラエティ番組のナレーションを担当したほか、「はなまるマーケット」や「新井麻希の農林漁業ことはじめ」(TBSラジオ)に出演。10年よりフリーアナウンサーとして活動中。


取材・文/小泉秀希  撮影/橋本和典