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農林水産省

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今月の農林水産大臣賞 vol.5

東日本大震災からの復興へ新たな希望 石臼で練り上げるかまぼこ



過去2回、農林水産大臣賞を受賞しながら、東日本大震災の津波被害により一瞬のうちに工場も店舗も全壊。
そこからの復興を決意させ支えたのは、「おとうふかまぼこ」を愛してやまない顧客からの相次ぐ注文でした。


第67回全国蒲鉾品評会農林水産大臣賞 受賞 全国蒲鉾(かまぼこ)品評会は、全国蒲鉾水産加工業協同組合連合会が農林水産省の後援のもと、毎年開催しています。日本全国から逸品や名品が千数百点出品され、最も評価の高い商品に農林水産大臣賞が贈られます。


営業再開後、農林水産大臣賞に輝いた「おとうふかまぼこ 竹の子」(直径約5センチメートル)1個140円(税込み)。
営業再開後、農林水産大臣賞に輝いた「おとうふかまぼこ 竹の子」(直径約5センチメートル)1個140円(税込み)。


株式会社直江商店(宮城県) 直江僚大さん・亜由美さん 株式会社直江商店(宮城県)
直江僚大さん・亜由美さん

僚大さんは1982年生まれ。高校卒業後、直江商店へ入社。東日本大震災発生の6カ月後に3代目社長に就任。亜由美さんは1982年生まれ。2002年に僚大さんと結婚、2008年から直江商店に勤務し、夫を支えている。
所在地/宮城県塩釜市北浜4-5-27
http://naoe-shouten.com/[外部リンク]


極上のすり身と大豆のコラボ
ふんわりとなめらかな食感、にじみ出る魚のうまみと甘み、そしてシャクシャクしたたけのこ。ひとかみするごとに、おいしさと楽しさが口の中に広がります。

「白身魚のすり身と大豆をたっぷり練り合わせて作るのが、先代社長が考案した『おとうふかまぼこ』ですが、それにアクセントとなるたけのこを入れたのが、この『おとうふかまぼこ 竹の子』です」と直江商店の直江僚大(ともひろ)さん。

原料となるスケソウダラのすり身は、取れたての新鮮なうちに船上で加工された最高ランクの特注品を使用。それを昔ながらの石臼製法で大豆とともにじっくり練り上げていく、素材にも製法にもこだわった逸品です。なんと、このおとうふかまぼこシリーズは、全国蒲鉾品評会において1994年に「真打」で、1998年には「笹」で農林水産大臣賞を受賞しています。

石臼で作る昔ながらの製法で、魚の繊維を壊すことなく、じっくり練り上げていく。直江商店の創業以来のこだわり。
石臼で作る昔ながらの製法で、魚の繊維を壊すことなく、じっくり練り上げていく。直江商店の創業以来のこだわり。
おとうふかまぼこ 真打
全国蒲鉾品評会で1994年に農林水産大臣賞を受賞した「おとうふかまぼこ 真打」1枚378円。
おとうふかまぼこ 笹
同じく1998年に受賞した「おとうふかまぼこ 笹」1枚151円(ともに税込み)。


復興を決意させた顧客からの相次ぐ注文
順風満帆だった直江商店を突然襲ったのが、2011年3月11日に発生した東日本大震災でした。

「津波が来ることは分かっていましたから、30人ほどいた従業員とすぐに高台に避難し、幸いけがなどの被害はありませんでした。でも翌日の夕方、ようやく消防の許しを得て、ふだんなら10分で行ける距離をがれきをよけながら1時間以上かけて店と工場に戻ってみると、もうぐしゃぐしゃで……」。言葉が出なかった、と直江さんは振り返ります。

当時社長だった直江さんの父もただただぼう然、専務だった叔父は病気がちだったこともあり、引退を決意。従業員もいったん解雇せざるを得ませんでした。

「すぐにお客さんたちからは『大丈夫?』と問い合わせがきたんですが、震災直後はこのぐしゃぐしゃの状況をどうしたらいいか考えるのが精いっぱいで、すぐには営業再開なんてとても想像できませんでした」

6月になり、ようやくがれきの片づけが何とかなってきたころ、直江さんの携帯電話に長年の顧客から「今年もお中元におたくの商品を送りたいんだけど」という依頼が1日30~40件、連日かかってくるように。こんなに大勢の人たちが、おとうふかまぼこを待っていてくれる――。復興を目指そう! 直江さんの心は決まりました。妻・亜由美さんも「一緒に頑張ろう」と夫を全面的に支援。9月に3代目社長に就任し、工場と店の建て直しに取り組みました。

震災直後
塩釜港の波打ち際近くにあった工場(左)と店舗(右)は、津波で全壊。
塩釜港の波打ち際近くにあった工場(左)と店舗(右)は、津波で全壊。
工場内は造船所の枕木などが突っ込んで無残な状態に。
工場内は造船所の枕木などが突っ込んで無残な状態に。
写真提供/直江商店

おとうふかまぼこを超える新商品を
かつての従業員の3分の1が営業再開を知って戻ってきてくれたこと、取引先店舗もいつでもおとうふかまぼこを並べられるように商品棚を確保しておくと言ってくれたこと、すべてが直江商店を支え、後押ししてくれました。

そして、2012年6月に念願の営業再開。新しい製造職人の研修の一環から開発され、店頭でも好評だった「おとうふかまぼこ 竹の子」で2015年、3回目の農林水産大臣賞を受賞。復興への光明を得たのです。

「先代社長が泣いて喜んでくれました。過去2回いただいているので、3回目はないだろうと思っていただけに、従業員たちの大きな励みになりました」

でも、直江さんはそれで満足することなく、前を見続けています。

「売り上げも震災前の8割までは戻ったので、まずはこれを10割まで戻すこと。そして、復興を支えてくれたすべての人のために、おとうふかまぼこを超える新商品を開発したいです」

34歳の若き社長は、さらなる飛躍を目指しています。

現在
店舗のすぐ横に、どっしりたたずむ新しく建て直した工場。
店舗のすぐ横に、どっしりたたずむ新しく建て直した工場。
すっきり落ち着いた店内。
すっきり落ち着いた店内。
2012年6月から先代社長の自宅を改装して店舗と事務所に使っていたが、今年7月にようやく完成した新店舗。
2012年6月から先代社長の自宅を改装して店舗と事務所に使っていたが、今年7月にようやく完成した新店舗。



取材・文/岸田直子
撮影/原田圭介


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