17年6月号文字情報
味の再発見! 昔ながらのニッポンの郷土料理 第2回
千葉県 いわしのつみれ汁
口の中でホロリとくずれる、素朴なおいしさ
九十九里浜に行かれたことはあるだろうか。海水浴場としても有名なこの浜の長さは約66キロメートル。実際に立ってみて、砂浜の果てしなさに心打たれた。永遠がその先にあるかのように続く浜。そして広い海。ここは古くからいわしの好漁場として知られ、いわし料理も数多く生まれた。つみれ汁も、その1つである。
いわしの頭、はらわたを取ってよく洗い、身をぶつ切りにしてすり鉢でする。しょうがと酒を加えて、なめらかに仕上げる。「鮮度のよいいわしさえあれば、あとは根気よくすりあげるだけですよ。昔は子どもの仕事でしたが、今は機械でやりますねえ」とは、地元のお母さんの声。
なめらかになった身を団子状に丸めて、昆布だしにしょうゆで味つけした汁で煮れば完成だ。食べると、つみれが口の中でホロリとくずれる。魚のうまみが溶けた汁がまたうまい。素朴ながら、食べ飽きない味である。
青背の魚は柑橘との相性がいいもの。すだちや、ゆずが手に入る時期なら、皮を切って汁に添えてみてほしい。しゃれた椀ものに変身する。またこのつみれ、平たくして焼いてもおいしい。いわば、いわしのハンバーグで、子どもたちにも大人気だ。
魚のすり身を使った料理は日本各地にある。さつま揚げしかり、かまぼこしかり。冷蔵庫のない時代、すり身にして加熱したり、干ものにすることで、少しでも保存性を高めて、日本人は食をつないできた。
千葉には、いわしを塩とごまで漬ける料理や、酢とおからで漬ける料理も残っている。これらも味のよさと保存性を追求した結果、生まれた料理だろう。
郷土の味からは、「いかに長持ちさせて、よりおいしくするか」を考え抜いた、先人の姿がしのばれる。
[写真1]
撮影/島 誠料理制作/三好弥生
[写真2]
犬吠埼灯台(千葉県銚子市)
[写真3]
いわしは現在も千葉県の特産物で、水揚げ量は全国上位に入る。梅雨の時期は特に脂がのって味がよくなり、この時期のいわしは「入梅いわし」と呼ばれ人気が高い。
文/白央篤司
フードライター。研究テーマは日本の郷土食と「健康と食」で、月刊誌『栄養と料理』(女子栄養大学出版部)などで執筆。著書に『にっぽんのおにぎり』(理論社)『ジャパめし。』(集英社)などがある。
ブログhttp://hakuoatsushi.hatenablog.com/[外部リンク]
口の中でホロリとくずれる、素朴なおいしさ
九十九里浜に行かれたことはあるだろうか。海水浴場としても有名なこの浜の長さは約66キロメートル。実際に立ってみて、砂浜の果てしなさに心打たれた。永遠がその先にあるかのように続く浜。そして広い海。ここは古くからいわしの好漁場として知られ、いわし料理も数多く生まれた。つみれ汁も、その1つである。
いわしの頭、はらわたを取ってよく洗い、身をぶつ切りにしてすり鉢でする。しょうがと酒を加えて、なめらかに仕上げる。「鮮度のよいいわしさえあれば、あとは根気よくすりあげるだけですよ。昔は子どもの仕事でしたが、今は機械でやりますねえ」とは、地元のお母さんの声。
なめらかになった身を団子状に丸めて、昆布だしにしょうゆで味つけした汁で煮れば完成だ。食べると、つみれが口の中でホロリとくずれる。魚のうまみが溶けた汁がまたうまい。素朴ながら、食べ飽きない味である。
青背の魚は柑橘との相性がいいもの。すだちや、ゆずが手に入る時期なら、皮を切って汁に添えてみてほしい。しゃれた椀ものに変身する。またこのつみれ、平たくして焼いてもおいしい。いわば、いわしのハンバーグで、子どもたちにも大人気だ。
魚のすり身を使った料理は日本各地にある。さつま揚げしかり、かまぼこしかり。冷蔵庫のない時代、すり身にして加熱したり、干ものにすることで、少しでも保存性を高めて、日本人は食をつないできた。
千葉には、いわしを塩とごまで漬ける料理や、酢とおからで漬ける料理も残っている。これらも味のよさと保存性を追求した結果、生まれた料理だろう。
郷土の味からは、「いかに長持ちさせて、よりおいしくするか」を考え抜いた、先人の姿がしのばれる。
[写真1]
撮影/島 誠料理制作/三好弥生
[写真2]
犬吠埼灯台(千葉県銚子市)
[写真3]
いわしは現在も千葉県の特産物で、水揚げ量は全国上位に入る。梅雨の時期は特に脂がのって味がよくなり、この時期のいわしは「入梅いわし」と呼ばれ人気が高い。
文/白央篤司
フードライター。研究テーマは日本の郷土食と「健康と食」で、月刊誌『栄養と料理』(女子栄養大学出版部)などで執筆。著書に『にっぽんのおにぎり』(理論社)『ジャパめし。』(集英社)などがある。
ブログhttp://hakuoatsushi.hatenablog.com/[外部リンク]
特集1 スマート農業
農林水産業の競争力を強化し、魅力ある産業にするためICTやロボットの活用が急速に進められています。
目覚ましい進化を見せるこれらの先端技術は消費者にはどのような恩恵をもたらすのでしょうか。
先端技術を活用して農業の課題を解消
消費者も他人事ではない日本の農業が抱える課題
海外からも高く評価される日本の農産物の品質を支えてきたのは農家の匠(たくみ)の技です。農業の現場には熟練者でなければうまくこなせない作業が少なくありません。また、いまだに人海戦術の作業が多いのも日本の農業の現実です。
ところが、こうした従来型の農業が限界を迎えようとしています。農業従事者の高齢化が進み、今や平均年齢は67歳となっています。農業従事者の6割以上が66歳以上で、このまま熟練者が次々と引退していけば、貴重な技や知識が途絶えかねません。
一方、新たに農業を始める人は少なく、労働力不足は全国的に深刻な問題となっています。耕作されなくなる農地が増え、農業生産額は減っています。
消費者にとっても他人事ではありません。熟練した担い手が減っていけば、農産物の品質にばらつきが出たり、農産物の価格が高騰したりするばかりか、安定的な供給さえ望めなくなるでしょう。
新たな担い手に参入してもらい、農業を活性化させていくためには、経験不足を補う何らかの手立てが必要です。あわせて高齢者や女性が従事しやすくなるよう、農作業の負担を軽減する取り組みも求められます。
また、日本の農業の経営規模の拡大という変化にも対応しなければなりません。農業を辞める人が多くなるにつれ、その田畑が農業を続ける人に集まることなどにより、農家1戸あたりの耕作面積が拡大しているのです。この状況に対応するには、広大な農地を少ない人数で適切に管理できる方法が求められます。
スマート農業として画期的な技術が次々と実用化
こうした日本の農業が抱えるさまざまな課題を解決し、変革をもたらすものとして期待されるのが「スマート農業」です。
政府は、ロボットやICT(情報通信技術)などの先端技術を活用し、超省力化や高品質生産などを可能にする新たな農業と定義しています。また、このスマート農業を推進するために、全国各地で行われる実証実験を支援してきました。
電子や電気の分野で世界をリードしてきた日本企業も、農業を有望な分野としてとらえるようになっています。多くの企業が生産者や大学の研究者と力を合わせ、日本の食を守ることにつながるように真剣に取り組んでいます。
ICTの活用により、日本の農業の生産性は飛躍的に向上しようとしています。
また、大規模生産や作業負担の軽減が実現し、高品質な農産物が、消費者のもとに安定的に届けられるようになります。こうした未来を実現する道具として、ロボットやドローンの開発が急ピッチで進められています。
農業の生産のあり方ばかりか、イメージさえ変えようとしているスマート農業。その現状と将来像を見てみましょう。
[写真1]
北海道大学 ビークルロボティクス研究室のみなさん。
[グラフ1]
高齢化の進行による深刻な労働力不足
資料:「2015年農林業センサス」
[図1]
スマート農業の方法と期待される効果
取材・文/下境敏弘
撮影/島 誠
イラスト/あべかよこ
目覚ましい進化を見せるこれらの先端技術は消費者にはどのような恩恵をもたらすのでしょうか。
先端技術を活用して農業の課題を解消
消費者も他人事ではない日本の農業が抱える課題
海外からも高く評価される日本の農産物の品質を支えてきたのは農家の匠(たくみ)の技です。農業の現場には熟練者でなければうまくこなせない作業が少なくありません。また、いまだに人海戦術の作業が多いのも日本の農業の現実です。
ところが、こうした従来型の農業が限界を迎えようとしています。農業従事者の高齢化が進み、今や平均年齢は67歳となっています。農業従事者の6割以上が66歳以上で、このまま熟練者が次々と引退していけば、貴重な技や知識が途絶えかねません。
一方、新たに農業を始める人は少なく、労働力不足は全国的に深刻な問題となっています。耕作されなくなる農地が増え、農業生産額は減っています。
消費者にとっても他人事ではありません。熟練した担い手が減っていけば、農産物の品質にばらつきが出たり、農産物の価格が高騰したりするばかりか、安定的な供給さえ望めなくなるでしょう。
新たな担い手に参入してもらい、農業を活性化させていくためには、経験不足を補う何らかの手立てが必要です。あわせて高齢者や女性が従事しやすくなるよう、農作業の負担を軽減する取り組みも求められます。
また、日本の農業の経営規模の拡大という変化にも対応しなければなりません。農業を辞める人が多くなるにつれ、その田畑が農業を続ける人に集まることなどにより、農家1戸あたりの耕作面積が拡大しているのです。この状況に対応するには、広大な農地を少ない人数で適切に管理できる方法が求められます。
スマート農業として画期的な技術が次々と実用化
こうした日本の農業が抱えるさまざまな課題を解決し、変革をもたらすものとして期待されるのが「スマート農業」です。
政府は、ロボットやICT(情報通信技術)などの先端技術を活用し、超省力化や高品質生産などを可能にする新たな農業と定義しています。また、このスマート農業を推進するために、全国各地で行われる実証実験を支援してきました。
電子や電気の分野で世界をリードしてきた日本企業も、農業を有望な分野としてとらえるようになっています。多くの企業が生産者や大学の研究者と力を合わせ、日本の食を守ることにつながるように真剣に取り組んでいます。
ICTの活用により、日本の農業の生産性は飛躍的に向上しようとしています。
また、大規模生産や作業負担の軽減が実現し、高品質な農産物が、消費者のもとに安定的に届けられるようになります。こうした未来を実現する道具として、ロボットやドローンの開発が急ピッチで進められています。
農業の生産のあり方ばかりか、イメージさえ変えようとしているスマート農業。その現状と将来像を見てみましょう。
[写真1]
北海道大学 ビークルロボティクス研究室のみなさん。
[グラフ1]
高齢化の進行による深刻な労働力不足
資料:「2015年農林業センサス」
[図1]
スマート農業の方法と期待される効果
取材・文/下境敏弘
撮影/島 誠
イラスト/あべかよこ
1.ICT・ビッグデータで実現できる未来
私たちの暮らしも変わる!?スマート農業による恩恵
日進月歩の通信技術。その成果を農業分野に活かす動きが活発になっています。
農産物の生産や流通で活用されるICTは生産者と消費者の関係も変えようとしています。
データを使う農業に転換し生産性の向上を図る
ICTの農業分野への応用が急速に進んでいます。
経営管理においては、作業の進み具合や田畑のエリアごとのコストが「見える化」され、年間の生産計画を着実に実行していくうえで役に立つようになっています。
栽培での利用も進んでおり、ビニールハウス内にセンサーを設置すると、温度や二酸化炭素量などの環境状態を常時監視することができ、経験の浅い生産者も適切な生産管理が可能です。
畜産でも利用が進み、無線機を内蔵した歩数計を牛に装着して繁殖時期を判定するシステムなどが実用化しています。
このようにデータに基づいた、きめ細かな栽培や飼育を行うことにより、生産性や品質の向上を図ることができます。また情報が蓄積していけば、ビッグデータが形成されます。これを分析することで、これまでにない新たな生産管理ができるようになる可能性もあります。
あるいは農業技術を次世代にいかに継承するかという課題についても、熟練した生産者の技術やノウハウをデータ化することで、後継者が効率的に学べるようになります。
誰もがデータを活用できる環境づくりが進む
ICTの発達で気象データもより有効に活用されようとしています。気象予測の精度が上がれば、異常気象や病害虫の発生をより正確に予測するサービスが充実していくでしょう。生産者は早めの対応をとれるようになり、消費者は天候不順による野菜などの価格の高騰を避けられるようになります。
現在、多くのICT企業が農業関連のサービスの提供を始めていますが、問題もあります。企業がそれぞれ独自の形式でデータを扱っていると、情報の共有や連携が難しくなってしまうことです。
今年3月24日、政府の成長戦略を検討する未来投資会議は、農業ICT活用の推進をテーマに取り上げ、官民で気象や地図などのデータを出し合い、誰でも簡単に使える情報連携プラットフォームを本年中に立ち上げることを表明しています。
これを受け、政府は年内をめどに主に農業生産現場を対象とする「農業データ連携基盤」の試行を開始するべく準備を進めています。これはデータ活用型の農業の有効性を検証し、農業者に対する新たなサービスの提供などにつなげていこうという取り組みです。作物の生育状況や田畑の環境などのデータを簡単に比較・分析できるようになれば、農業者に気づきがもたらされます。それにより、生産性の向上や経営の改善が期待できます。さらに、将来的には生産現場での利活用に加えて、流通から消費まで連携の取り組みを広げていくことになっています。
クラウドシステムを介して消費者と生産者も結びつく
データの利用だけでなく、人と人をつなげることもICTに期待される機能です。
一例をあげれば、遠く離れた地域の生産者同士が生産データを共有し、連携することで、供給の安定化・長期化を図る取り組みがすでに始まっています(コラム1参照)。
生産者が流通業者と連携すれば、市場の動向をタイムリーに把握でき、出荷に反映させられます。生産、流通、販売のつながりが密になれば、出荷量や出荷時刻などの情報が共有され、物流量が安定し、輸送コストが抑えられることになります。これにより消費者のもとに新鮮な農産物がより安く、安定的に供給されます。
さらに消費者と生産者がクラウドシステムでつながれば、消費者は、その農産物がどのようなこだわりをもって栽培されたか、栄養素はどうかなど詳細な情報を容易に得られます。
ICTが実現する関係性の変化は日本の農業をさらなる水準へ導こうとしているのです。
[イラスト1]
栽培管理システムや気象予測、ほ場の地図情報、市況等のデータを集約し、まとめて入手できることで、生産性の向上や戦略的な経営判断ができるようになる
天候不順への備えや産地リレーを通じ、季節を通して安定的に農作物を買うことができるようになる
店頭で農作物の生産者・収穫日・栄養価などの情報が確認できるようになる
[コラム1]
クラウドシステムの活用でブランド野菜の安定供給に成功
和歌山市に本社を置くNKアグリ株式会社は、リコピンの成分量を保証した「こいくれない」というニンジンの栽培方法の研究と流通を行っています。
「こいくれない」は旬が短く、一つの地域で収穫できる期間は1カ月ほどしかありません。長期間出荷および全国規模の流通を実現するため、同社は7道府県、約50名の生産者と提携し、「こいくれない」の産地リレーを行っています。その結果、6カ月間流通できる体制作りに成功しました。この仕組みを支えているのはIT技術です。それぞれの地域でリコピンが最も含まれる旬を、各地域に設置したセンサーから予測しています。各地域との情報共有には、サイボウズ株式会社が提供するクラウドサービス「kintone(きんとーん)」を利用しています。
[写真1]
2016年産から露地野菜として初めて栄養機能表示を行っています。
取材・文/下境敏弘
イラスト/あべかよこ
日進月歩の通信技術。その成果を農業分野に活かす動きが活発になっています。
農産物の生産や流通で活用されるICTは生産者と消費者の関係も変えようとしています。
データを使う農業に転換し生産性の向上を図る
ICTの農業分野への応用が急速に進んでいます。
経営管理においては、作業の進み具合や田畑のエリアごとのコストが「見える化」され、年間の生産計画を着実に実行していくうえで役に立つようになっています。
栽培での利用も進んでおり、ビニールハウス内にセンサーを設置すると、温度や二酸化炭素量などの環境状態を常時監視することができ、経験の浅い生産者も適切な生産管理が可能です。
畜産でも利用が進み、無線機を内蔵した歩数計を牛に装着して繁殖時期を判定するシステムなどが実用化しています。
このようにデータに基づいた、きめ細かな栽培や飼育を行うことにより、生産性や品質の向上を図ることができます。また情報が蓄積していけば、ビッグデータが形成されます。これを分析することで、これまでにない新たな生産管理ができるようになる可能性もあります。
あるいは農業技術を次世代にいかに継承するかという課題についても、熟練した生産者の技術やノウハウをデータ化することで、後継者が効率的に学べるようになります。
誰もがデータを活用できる環境づくりが進む
ICTの発達で気象データもより有効に活用されようとしています。気象予測の精度が上がれば、異常気象や病害虫の発生をより正確に予測するサービスが充実していくでしょう。生産者は早めの対応をとれるようになり、消費者は天候不順による野菜などの価格の高騰を避けられるようになります。
現在、多くのICT企業が農業関連のサービスの提供を始めていますが、問題もあります。企業がそれぞれ独自の形式でデータを扱っていると、情報の共有や連携が難しくなってしまうことです。
今年3月24日、政府の成長戦略を検討する未来投資会議は、農業ICT活用の推進をテーマに取り上げ、官民で気象や地図などのデータを出し合い、誰でも簡単に使える情報連携プラットフォームを本年中に立ち上げることを表明しています。
これを受け、政府は年内をめどに主に農業生産現場を対象とする「農業データ連携基盤」の試行を開始するべく準備を進めています。これはデータ活用型の農業の有効性を検証し、農業者に対する新たなサービスの提供などにつなげていこうという取り組みです。作物の生育状況や田畑の環境などのデータを簡単に比較・分析できるようになれば、農業者に気づきがもたらされます。それにより、生産性の向上や経営の改善が期待できます。さらに、将来的には生産現場での利活用に加えて、流通から消費まで連携の取り組みを広げていくことになっています。
クラウドシステムを介して消費者と生産者も結びつく
データの利用だけでなく、人と人をつなげることもICTに期待される機能です。
一例をあげれば、遠く離れた地域の生産者同士が生産データを共有し、連携することで、供給の安定化・長期化を図る取り組みがすでに始まっています(コラム1参照)。
生産者が流通業者と連携すれば、市場の動向をタイムリーに把握でき、出荷に反映させられます。生産、流通、販売のつながりが密になれば、出荷量や出荷時刻などの情報が共有され、物流量が安定し、輸送コストが抑えられることになります。これにより消費者のもとに新鮮な農産物がより安く、安定的に供給されます。
さらに消費者と生産者がクラウドシステムでつながれば、消費者は、その農産物がどのようなこだわりをもって栽培されたか、栄養素はどうかなど詳細な情報を容易に得られます。
ICTが実現する関係性の変化は日本の農業をさらなる水準へ導こうとしているのです。
[イラスト1]
栽培管理システムや気象予測、ほ場の地図情報、市況等のデータを集約し、まとめて入手できることで、生産性の向上や戦略的な経営判断ができるようになる
天候不順への備えや産地リレーを通じ、季節を通して安定的に農作物を買うことができるようになる
店頭で農作物の生産者・収穫日・栄養価などの情報が確認できるようになる
[コラム1]
クラウドシステムの活用でブランド野菜の安定供給に成功
和歌山市に本社を置くNKアグリ株式会社は、リコピンの成分量を保証した「こいくれない」というニンジンの栽培方法の研究と流通を行っています。
「こいくれない」は旬が短く、一つの地域で収穫できる期間は1カ月ほどしかありません。長期間出荷および全国規模の流通を実現するため、同社は7道府県、約50名の生産者と提携し、「こいくれない」の産地リレーを行っています。その結果、6カ月間流通できる体制作りに成功しました。この仕組みを支えているのはIT技術です。それぞれの地域でリコピンが最も含まれる旬を、各地域に設置したセンサーから予測しています。各地域との情報共有には、サイボウズ株式会社が提供するクラウドサービス「kintone(きんとーん)」を利用しています。
[写真1]
2016年産から露地野菜として初めて栄養機能表示を行っています。
取材・文/下境敏弘
イラスト/あべかよこ
2.ロボット・自動化システムの活用
作業能力の限界を打破して超省力・大規模生産を実現
農業ロボットが実用化の段階に入っています。収穫ロボットや自動走行するトラクターが、労働力不足を解消する有力な手段になろうとしています。
熟したトマトを傷つけず次々に摘みとるロボット
内閣に置かれた日本経済再生本部は2015年に「ロボット新戦略」を決定しました。このとき、農林水産業・食品産業が重点分野の1つと位置づけられています。そして2020年までに目指すべき姿として、自動走行トラクターの実現や新たなロボットの20種類以上の導入という目標を示しています。
これを実現するべく、二次産業のロボットで世界をリードしてきた日本企業が、農林水産業への応用に力を注ぐようになっています。
パナソニック株式会社は3年前、トマトの収穫ロボットの開発に取りかかりました。
すでに実用化のめどがついたロボットは、ハウス内を自動的に移動して、カメラでとらえた画像を処理することで熟したトマトを見つけ出します。そして実がなっている場所を正確に判断すると、次々に摘みとり、かごに収納していくというものです。
イノベーションセンターの担当課長・岡本眞二さんは「開発に協力していただいた生産法人は品質に対する意識が高く、房ごと切りとるロボットではなく、1つずつとれるものを、と要望されました。開発には苦労しましたが、傷つけずに摘みとれるロボットハンドの技術を確立できたことで、きゅうりやなすなど他の品目への応用の道が開けました」と言います。同社は今後、さらなる性能向上のため、トマトの認識や収穫アーム制御に人工知能を搭載する予定です。
自動走行の次の段階を目指すロボット農機
畑の作業で大きな比重を占めるのがトラクターやコンバインなどの農機の操作です。
この自動化に取り組んできた複数の農機メーカーが、今年から来年にかけてロボットトラクターのテスト販売を始めることを発表しています。また、農林水産省でも、農機の自動化の実現を見据え、今年3月に安全性確保のためのガイドラインを定めています。
「商品化されるのは、使用者が畑にいて監視することを前提とするものです。次の目標となるのが、ロボット農機が自ら周囲を観察し、非常時には危険を察知して、自動的に停止する。人間は遠く離れた管制室で作業を監視するというシステムです」と語るのは、この分野で先進的な研究を行ってきた北海道大学の野口 伸教授です。
完全自動運転が実用化すれば、夜間の作業も可能になり、農作業を最適の時期に一気に行えるようになります。
「私の研究室では、さらに先の段階に向けた研究を進めています。1つは複数の中型ロボット農機が互いに通信しながら協調して作業する自動走行システムです。また、人工知能を備えて肥料の量などを自動的に調整する農機や、ロボットハンドを備えて走行しながら収穫する農機にも取り組んでいます」
こうした取り組みを実現させるための、インフラ整備も進められています。無人走行に必要な位置情報の信号は人工衛星から送られてきますが、来年4月には日本の準天頂衛星「みちびき」による測位システムの運用が始まります。これにより、山の中を含め全国どこでも5センチメートル程度の誤差で測位できるようになるとされています。
[イラスト1]
ロボット農機が無人状態で耕作できるようになる
農作業用アシストスーツの着用により、重い収穫物を抱えて運ぶなどの負担が軽減される
人手を要する収穫、運搬、選果、箱詰め等の作業がロボットで自動化されるようになる
[写真1]
夜間も自動で収穫できるトマト収穫ロボット
▷パナソニック
栽培棚の間を自動走行し、出荷に適した実をかごに入れていく。1ヘクタール以上の大規模施設園芸を対象に1ヘクタール当たり4台の導入を想定する。
[写真2]
トマトにくぐらせた輪を手前に引いて切り離すロボットハンドの開発に成功した。
[写真3]
農業機械のロボット化とシステム開発
▷北海道大学ビークルロボティクス研究室
あらかじめ設定したコースを自動走行し、ずれたら自動的に修正。慣れた人間より正確に走行できる。
[写真4]
研究室の28名は北海道岩見沢市の実験農場で完全無人のロボット作業システムに取り組む。
[写真5]
複数の無人農機を協調して作業させる研究も進む。
取材・文/下境敏弘
イラスト/あべかよこ
農業ロボットが実用化の段階に入っています。収穫ロボットや自動走行するトラクターが、労働力不足を解消する有力な手段になろうとしています。
熟したトマトを傷つけず次々に摘みとるロボット
内閣に置かれた日本経済再生本部は2015年に「ロボット新戦略」を決定しました。このとき、農林水産業・食品産業が重点分野の1つと位置づけられています。そして2020年までに目指すべき姿として、自動走行トラクターの実現や新たなロボットの20種類以上の導入という目標を示しています。
これを実現するべく、二次産業のロボットで世界をリードしてきた日本企業が、農林水産業への応用に力を注ぐようになっています。
パナソニック株式会社は3年前、トマトの収穫ロボットの開発に取りかかりました。
すでに実用化のめどがついたロボットは、ハウス内を自動的に移動して、カメラでとらえた画像を処理することで熟したトマトを見つけ出します。そして実がなっている場所を正確に判断すると、次々に摘みとり、かごに収納していくというものです。
イノベーションセンターの担当課長・岡本眞二さんは「開発に協力していただいた生産法人は品質に対する意識が高く、房ごと切りとるロボットではなく、1つずつとれるものを、と要望されました。開発には苦労しましたが、傷つけずに摘みとれるロボットハンドの技術を確立できたことで、きゅうりやなすなど他の品目への応用の道が開けました」と言います。同社は今後、さらなる性能向上のため、トマトの認識や収穫アーム制御に人工知能を搭載する予定です。
自動走行の次の段階を目指すロボット農機
畑の作業で大きな比重を占めるのがトラクターやコンバインなどの農機の操作です。
この自動化に取り組んできた複数の農機メーカーが、今年から来年にかけてロボットトラクターのテスト販売を始めることを発表しています。また、農林水産省でも、農機の自動化の実現を見据え、今年3月に安全性確保のためのガイドラインを定めています。
「商品化されるのは、使用者が畑にいて監視することを前提とするものです。次の目標となるのが、ロボット農機が自ら周囲を観察し、非常時には危険を察知して、自動的に停止する。人間は遠く離れた管制室で作業を監視するというシステムです」と語るのは、この分野で先進的な研究を行ってきた北海道大学の野口 伸教授です。
完全自動運転が実用化すれば、夜間の作業も可能になり、農作業を最適の時期に一気に行えるようになります。
「私の研究室では、さらに先の段階に向けた研究を進めています。1つは複数の中型ロボット農機が互いに通信しながら協調して作業する自動走行システムです。また、人工知能を備えて肥料の量などを自動的に調整する農機や、ロボットハンドを備えて走行しながら収穫する農機にも取り組んでいます」
こうした取り組みを実現させるための、インフラ整備も進められています。無人走行に必要な位置情報の信号は人工衛星から送られてきますが、来年4月には日本の準天頂衛星「みちびき」による測位システムの運用が始まります。これにより、山の中を含め全国どこでも5センチメートル程度の誤差で測位できるようになるとされています。
[イラスト1]
ロボット農機が無人状態で耕作できるようになる
農作業用アシストスーツの着用により、重い収穫物を抱えて運ぶなどの負担が軽減される
人手を要する収穫、運搬、選果、箱詰め等の作業がロボットで自動化されるようになる
[写真1]
夜間も自動で収穫できるトマト収穫ロボット
▷パナソニック
栽培棚の間を自動走行し、出荷に適した実をかごに入れていく。1ヘクタール以上の大規模施設園芸を対象に1ヘクタール当たり4台の導入を想定する。
[写真2]
トマトにくぐらせた輪を手前に引いて切り離すロボットハンドの開発に成功した。
[写真3]
農業機械のロボット化とシステム開発
▷北海道大学ビークルロボティクス研究室
あらかじめ設定したコースを自動走行し、ずれたら自動的に修正。慣れた人間より正確に走行できる。
[写真4]
研究室の28名は北海道岩見沢市の実験農場で完全無人のロボット作業システムに取り組む。
[写真5]
複数の無人農機を協調して作業させる研究も進む。
取材・文/下境敏弘
イラスト/あべかよこ
3.ドローン(無人航空機)の活用
空から観察・作業ができるドローンの大きな可能性
特殊なカメラで稲の生育状況を測定し、エリアごとに最適な量の肥料をまく。
このような先進的な無人航空機の利用が進められています。
ドローンで水田を測定し、生育状況をマップにする
予測しにくい自然現象が相手。ここに農業の難しさがあります。例えば同じ地域の水田でも場所ごとに稲の生育にばらつきが生じるので、肥料の量を適切に調整しなければなりません。これまでは生育状況を確認するため、生産者が各ほ場に入り、目で見て調べていました。しかし、ただでさえ重労働なうえ、農地が規模拡大すれば、きめ細かい管理を行うのが難しくなります。
短時間に多くの地点の生育状況を一気に観測できる方法はないか。そんなニーズに応えるのが、遠隔操作や自動操縦で飛行するドローンです。
コニカミノルタ株式会社は、約20年前に稲の葉の色から生育状況を測定する接触式の葉緑素計「SPAD」を開発し、信頼できる計測器として普及させていました。しかし、広大なほ場だと、その計測作業は重労働です。その改善策として、広範囲を一気に計測できるカメラを開発しました。
「このカメラを、無人航空機に搭載して上空から撮影することを発想しました。無人ヘリコプターでは、大きなローターが強い風を起こし、稲が倒れてしまい、正確な測定ができません。そこで風があまり起きないドローンを採用しました」と言うのは、事業開発本部の星野 康さんです。
同社は2014年度~2016年度に山形大学農学部、有限会社鶴岡グリーンファーム、伊藤電子工業株式会社、ヤンマーヘリ&アグリ株式会社と「ISSA山形」というチームを結成し、共同研究に取り組みました。
3年かけて完成したのは、ドローンで稲の生育状況を測定した「ほ場のばらつきマップ」。このマップのデータを、農業用の無人ヘリコプターに取り付けた装置が読み取ります。そして、水田内の生育のばらつき度合いに応じて、散布する肥料の落ちる場所や高度、速度を計算しながら飛行することで、適切な肥料散布作業が行えるようになりました。
実証実験の結果、水田ごとの収量のばらつきは大幅に改善され、収穫米はたんぱく質の量が良好でした。銘柄の中には1反あたり33パーセントの増収を達成したものもあります。
ISSA山形のプロジェクトの後、コニカミノルタは、稲の葉の状態から土壌の地力(窒素量)のばらつきを測定するプロジェクトを進めています。
種まきや害獣駆除など広がるドローンの用途
操縦が楽で、騒音が少なく、コストも安い。さらに小回りがきくため、狭い農地に適しているといった数々の利点からドローンは農業分野で応用範囲を広げています。
観測だけでなく、ドローンによる種まきの研究も進んでいます。また、有害鳥獣の発見、害虫駆除などの用途も検討されています。
普及させるうえでの課題とされてきたのが、バッテリーがあまりもたないということです。しかし改良が進み、飛行時間は長くなっていくでしょう。また複数のドローンを同時に飛ばして効率的に作業を進めるという方法もあり、衝突させずに飛行させる技術が確立しています。
安全対策については、昨年3月、政府はドローン(マルチローター式小型無人機)の運行基準(暫定)を定めています。
[イラスト1]
鳥の目のようにドローンが田畑を観測し、生育状況を把握できる
害獣対策にも用いられるように。動物の体温を感知するセンサーで薮(やぶ)に隠れる動物も発見する。さらに進入路に待機して、動物が近づくと警告音や光を発するドローンも登場する
ドローンでの種まきが普及する。種と同時に栄養素の詰まったカプセルをまいて、成長を促す
[写真1]
特殊カメラでほ場を計測し生育・施肥マップを作成
▷ISSA(Imaging System for Smart Agriculture)山形
葉緑素計「SPAD」では、一筆30アール、約6万株もあるほ場全体の生育計測は困難だった。しかし、山形大学農学部の藤井弘志教授による新しい計測手法の提案により、カメラで撮った画像から計測データを取得し、生育状態などを把握できる画像が作成できるようになった。
生育や施肥状況が色分布で明示されるので、生育が進んでいない場所、肥料が過不足している場所がよくわかる。
[写真2]
操作に慣れを要する無人ヘリコプターに比べてドローンは容易に操作できる。
[写真3]
上空から撮影したデータ精度検証のため、稲の葉を葉緑素計「SPAD」で実測する研究チーム。
[写真4]
現在は高度30メートルから測定するが、将来カメラの解像度が上がれば、さらに高い場所から、より広い範囲を測定できるようになり作業効率が上がる。
取材・文/下境敏弘
イラスト/あべかよこ
特殊なカメラで稲の生育状況を測定し、エリアごとに最適な量の肥料をまく。
このような先進的な無人航空機の利用が進められています。
ドローンで水田を測定し、生育状況をマップにする
予測しにくい自然現象が相手。ここに農業の難しさがあります。例えば同じ地域の水田でも場所ごとに稲の生育にばらつきが生じるので、肥料の量を適切に調整しなければなりません。これまでは生育状況を確認するため、生産者が各ほ場に入り、目で見て調べていました。しかし、ただでさえ重労働なうえ、農地が規模拡大すれば、きめ細かい管理を行うのが難しくなります。
短時間に多くの地点の生育状況を一気に観測できる方法はないか。そんなニーズに応えるのが、遠隔操作や自動操縦で飛行するドローンです。
コニカミノルタ株式会社は、約20年前に稲の葉の色から生育状況を測定する接触式の葉緑素計「SPAD」を開発し、信頼できる計測器として普及させていました。しかし、広大なほ場だと、その計測作業は重労働です。その改善策として、広範囲を一気に計測できるカメラを開発しました。
「このカメラを、無人航空機に搭載して上空から撮影することを発想しました。無人ヘリコプターでは、大きなローターが強い風を起こし、稲が倒れてしまい、正確な測定ができません。そこで風があまり起きないドローンを採用しました」と言うのは、事業開発本部の星野 康さんです。
同社は2014年度~2016年度に山形大学農学部、有限会社鶴岡グリーンファーム、伊藤電子工業株式会社、ヤンマーヘリ&アグリ株式会社と「ISSA山形」というチームを結成し、共同研究に取り組みました。
3年かけて完成したのは、ドローンで稲の生育状況を測定した「ほ場のばらつきマップ」。このマップのデータを、農業用の無人ヘリコプターに取り付けた装置が読み取ります。そして、水田内の生育のばらつき度合いに応じて、散布する肥料の落ちる場所や高度、速度を計算しながら飛行することで、適切な肥料散布作業が行えるようになりました。
実証実験の結果、水田ごとの収量のばらつきは大幅に改善され、収穫米はたんぱく質の量が良好でした。銘柄の中には1反あたり33パーセントの増収を達成したものもあります。
ISSA山形のプロジェクトの後、コニカミノルタは、稲の葉の状態から土壌の地力(窒素量)のばらつきを測定するプロジェクトを進めています。
種まきや害獣駆除など広がるドローンの用途
操縦が楽で、騒音が少なく、コストも安い。さらに小回りがきくため、狭い農地に適しているといった数々の利点からドローンは農業分野で応用範囲を広げています。
観測だけでなく、ドローンによる種まきの研究も進んでいます。また、有害鳥獣の発見、害虫駆除などの用途も検討されています。
普及させるうえでの課題とされてきたのが、バッテリーがあまりもたないということです。しかし改良が進み、飛行時間は長くなっていくでしょう。また複数のドローンを同時に飛ばして効率的に作業を進めるという方法もあり、衝突させずに飛行させる技術が確立しています。
安全対策については、昨年3月、政府はドローン(マルチローター式小型無人機)の運行基準(暫定)を定めています。
[イラスト1]
鳥の目のようにドローンが田畑を観測し、生育状況を把握できる
害獣対策にも用いられるように。動物の体温を感知するセンサーで薮(やぶ)に隠れる動物も発見する。さらに進入路に待機して、動物が近づくと警告音や光を発するドローンも登場する
ドローンでの種まきが普及する。種と同時に栄養素の詰まったカプセルをまいて、成長を促す
[写真1]
特殊カメラでほ場を計測し生育・施肥マップを作成
▷ISSA(Imaging System for Smart Agriculture)山形
葉緑素計「SPAD」では、一筆30アール、約6万株もあるほ場全体の生育計測は困難だった。しかし、山形大学農学部の藤井弘志教授による新しい計測手法の提案により、カメラで撮った画像から計測データを取得し、生育状態などを把握できる画像が作成できるようになった。
生育や施肥状況が色分布で明示されるので、生育が進んでいない場所、肥料が過不足している場所がよくわかる。
[写真2]
操作に慣れを要する無人ヘリコプターに比べてドローンは容易に操作できる。
[写真3]
上空から撮影したデータ精度検証のため、稲の葉を葉緑素計「SPAD」で実測する研究チーム。
[写真4]
現在は高度30メートルから測定するが、将来カメラの解像度が上がれば、さらに高い場所から、より広い範囲を測定できるようになり作業効率が上がる。
取材・文/下境敏弘
イラスト/あべかよこ
実証現場を訪ねて
静岡県伊豆の国市
熟練の技を「見える化」タブレット学習で受け継ぐ
次世代の生産者に高品質な農産物を生産してもらうため、ICTを活用した技術習得システムの開発が行われています。
匠の技を継承するための農業技術学習支援システム
「水やり10年」といわれるように、農業技術は一朝一夕で身につくものではありません。熟練者は長年の経験を活かし、研ぎ澄まされた感覚でさまざまな判断を下します。こうした繊細な感覚は異なる世代の生産者が共に働くことで共有され、受け継がれてきました。
ところが近年、高齢化した生産者が次々と引退する中、後継者が思うように増えない事態となっています。次の世代に伝える術を失えば、長年培われた技能や知恵が途絶えます。問題はマニュアルを作成しようにも、言葉では表現しがたい、感覚や勘に基づくコツがあるということです。
こうした知の継承の手法として期待が高まっているのが、ICTを活用して農業技術を「見える化」させた学習プログラム。これを教材とするAI(アグリインフォマティクス)です。
これに着目した静岡県は、2年前から慶應義塾大学と協働でAIの仕組みづくりに取り組んでいます。生産者として手を挙げたのがJA伊豆の国のいちご委員会の6人。メンバーは、月1回のペースで会議を行いながら、実施に向けた検討を進めています。
熟練者の技術をデータ化し一問一答式の教材を作成
富士山を望む農業用ハウスの中、慣れた手つきで作業を進めるのは、メンバーの1人であり、いちご委員会の委員長を務める梅原治信さんです。
40年以上のいちご栽培の経験を持つ梅原さんが装着したアイカメラは、ハウスでの作業中、どこに視線をやるのか、自動的に記録しています。
記録を終えたら、後日、いちごの実のどこを見て、どのような状態を判断したのか。取り払う葉はどういう基準で選んでいるのか。こうした判断基準について、担当者があらためてインタビューを行います。あわせて、ハウスに設置したセンサーで作物の状態を観察していきます。
熟練者が何を手がかりとして判断を下したか。どんな作業を、どのタイミングで実施したか。その結果、作物の状態はどう変化したか。こうした記録を蓄積して、分析することで農作業の要点を把握します。これをもとに、一問一答式の学習教材を作成。新規就農者にタブレット端末などで学習してもらい、効率的に栽培技術を学んでもらおうという試みです。
新規就農者だけでなく熟練者にも役立つ
伊豆の国市には現在、157名のいちご生産者がいます。そのうち16人が県の研修制度を経た「ニューファーマー」と呼ばれる新規就農者です。
梅原さんは「農業を始めたばかりの時期に失敗する人は、少なくありません。病害虫の発生が予測できなかったり、ちょっとしたコツが分からず台無しになり、挫折するのはもったいない。AIで学ぶことで一定の水準に早く到達できるようになれば」と期待します。
プロジェクトが進むにつれて、AIは若い生産者や新規就農者だけでなく、熟練者にも役に立つことが分かってきました。
熟練者も栽培の方法には個人差があり、それぞれコツを持っています。AIを介して地域の生産者が話し合うことで、気づきや学びがあるというのです。
「ハウスの養液栽培のような新しい技術については勉強熱心な若い人から学べることもたくさんあります。より優れたものを生産できるよう、同じ地域の一員として共に取り組んでいきたいですね」
熟練した匠の経験や勘。これにICTが融合することで、ち密さが身上の日本の農業技術が、さらなる進化を遂げようとしています。
[写真1]
梅原さんは「AIは作業の要点を短時間で習得できるのが利点」と言う。
[写真2]
静岡県はいちごを重要な品目と位置づけており、AIの実証実験の対象とした。
[写真3]
アイカメラを装着して、作業の際の熟練者の視線の動きや見ていた時間を記録する。
[写真4]
伊豆半島の北部、田方平野のほぼ中央に位置する伊豆の国市は、県下を代表するいちご「紅ほっぺ」「きらぴ香」の産地です。
[画像1]
農業技術学習支援システムの「学習モード」では、タブレット端末やパソコンの画面にさまざまな問題が表示される。選択肢をマークしながら、「熟練者ならどう判断するか」を学ぶ。
表示された6枚の写真の中から生育状態を判断するうえで重要な点を示したものを3つ選択する問題。
[画像2]
定植時期のよい状態の株を3方向から撮影した写真を見て、なぜそう判断できるのか選ぶもの。
[写真5]
いちご委員会メンバーの植松 稔さんは、「学習プログラムは、タブレット端末を使って生産現場でも参考にすることができる」と期待する。
[写真6]
このプロジェクトでは、生産技術だけでなく、パッケージセンターでの作業にもAIの学習プログラムを応用することを検討している。
取材・文/下境敏弘
撮影/島 誠
次世代の生産者に高品質な農産物を生産してもらうため、ICTを活用した技術習得システムの開発が行われています。
匠の技を継承するための農業技術学習支援システム
「水やり10年」といわれるように、農業技術は一朝一夕で身につくものではありません。熟練者は長年の経験を活かし、研ぎ澄まされた感覚でさまざまな判断を下します。こうした繊細な感覚は異なる世代の生産者が共に働くことで共有され、受け継がれてきました。
ところが近年、高齢化した生産者が次々と引退する中、後継者が思うように増えない事態となっています。次の世代に伝える術を失えば、長年培われた技能や知恵が途絶えます。問題はマニュアルを作成しようにも、言葉では表現しがたい、感覚や勘に基づくコツがあるということです。
こうした知の継承の手法として期待が高まっているのが、ICTを活用して農業技術を「見える化」させた学習プログラム。これを教材とするAI(アグリインフォマティクス)です。
これに着目した静岡県は、2年前から慶應義塾大学と協働でAIの仕組みづくりに取り組んでいます。生産者として手を挙げたのがJA伊豆の国のいちご委員会の6人。メンバーは、月1回のペースで会議を行いながら、実施に向けた検討を進めています。
熟練者の技術をデータ化し一問一答式の教材を作成
富士山を望む農業用ハウスの中、慣れた手つきで作業を進めるのは、メンバーの1人であり、いちご委員会の委員長を務める梅原治信さんです。
40年以上のいちご栽培の経験を持つ梅原さんが装着したアイカメラは、ハウスでの作業中、どこに視線をやるのか、自動的に記録しています。
記録を終えたら、後日、いちごの実のどこを見て、どのような状態を判断したのか。取り払う葉はどういう基準で選んでいるのか。こうした判断基準について、担当者があらためてインタビューを行います。あわせて、ハウスに設置したセンサーで作物の状態を観察していきます。
熟練者が何を手がかりとして判断を下したか。どんな作業を、どのタイミングで実施したか。その結果、作物の状態はどう変化したか。こうした記録を蓄積して、分析することで農作業の要点を把握します。これをもとに、一問一答式の学習教材を作成。新規就農者にタブレット端末などで学習してもらい、効率的に栽培技術を学んでもらおうという試みです。
新規就農者だけでなく熟練者にも役立つ
伊豆の国市には現在、157名のいちご生産者がいます。そのうち16人が県の研修制度を経た「ニューファーマー」と呼ばれる新規就農者です。
梅原さんは「農業を始めたばかりの時期に失敗する人は、少なくありません。病害虫の発生が予測できなかったり、ちょっとしたコツが分からず台無しになり、挫折するのはもったいない。AIで学ぶことで一定の水準に早く到達できるようになれば」と期待します。
プロジェクトが進むにつれて、AIは若い生産者や新規就農者だけでなく、熟練者にも役に立つことが分かってきました。
熟練者も栽培の方法には個人差があり、それぞれコツを持っています。AIを介して地域の生産者が話し合うことで、気づきや学びがあるというのです。
「ハウスの養液栽培のような新しい技術については勉強熱心な若い人から学べることもたくさんあります。より優れたものを生産できるよう、同じ地域の一員として共に取り組んでいきたいですね」
熟練した匠の経験や勘。これにICTが融合することで、ち密さが身上の日本の農業技術が、さらなる進化を遂げようとしています。
[写真1]
梅原さんは「AIは作業の要点を短時間で習得できるのが利点」と言う。
[写真2]
静岡県はいちごを重要な品目と位置づけており、AIの実証実験の対象とした。
[写真3]
アイカメラを装着して、作業の際の熟練者の視線の動きや見ていた時間を記録する。
[写真4]
伊豆半島の北部、田方平野のほぼ中央に位置する伊豆の国市は、県下を代表するいちご「紅ほっぺ」「きらぴ香」の産地です。
[画像1]
農業技術学習支援システムの「学習モード」では、タブレット端末やパソコンの画面にさまざまな問題が表示される。選択肢をマークしながら、「熟練者ならどう判断するか」を学ぶ。
表示された6枚の写真の中から生育状態を判断するうえで重要な点を示したものを3つ選択する問題。
[画像2]
定植時期のよい状態の株を3方向から撮影した写真を見て、なぜそう判断できるのか選ぶもの。
[写真5]
いちご委員会メンバーの植松 稔さんは、「学習プログラムは、タブレット端末を使って生産現場でも参考にすることができる」と期待する。
[写真6]
このプロジェクトでは、生産技術だけでなく、パッケージセンターでの作業にもAIの学習プログラムを応用することを検討している。
取材・文/下境敏弘
撮影/島 誠
特集2 冷凍食品
家庭料理から外食産業まで、日々の"食"を支えている冷凍食品。
優れた加工技術によって、さまざまなニーズに対応しています。
最新の技術で作られたおいしい冷凍食品
食品の魅力をそのまま凍結だからおいしい冷凍食品
冷凍食品は出来合いの料理を単に凍らせたものではありません。食品本来の味を損なわないよう、厳格な規格基準で作られていて、各製造メーカーの技術革新も目覚ましいものがあります。ご飯が一粒一粒パラパラになっているチャーハン類や、水なしで焼ける羽根付き餃子、自然解凍でも食べられるカツやパンなど、プロが作ったような料理を手軽に味わえます。また、野菜や水産物といった素材品や、「おにぎり丸」のようにご飯の熱で自然解凍させるものまで、ニーズに合わせた数多くの商品が開発されています。
子育て中のお母さんたちから好評な、裏ごし済みの離乳食なども販売されています。
下ごしらえの手間が省けて料理の時短にも活躍
「冷凍食品は"手抜き"だとおっしゃる方もいますが、私たちは、"手間抜き"と呼んでいます。下ごしらえ不要の冷凍ゴボウやカボチャなどを上手に使って、料理にかかる時間を節約している方も多くいらっしゃいます」(日本冷凍食品協会広報部・三浦佳子さん)。
また、旬の時期に収穫し急速凍結しているので栄養価が保たれ、天候不順で生鮮品の価格が高騰しても冷凍食品の価格は安定しています。
「ひと切れ、ひとつかみなど、使うぶんだけ解凍して使え、余らせることがありません。さらに、野菜の切れ端や魚の骨などの生ゴミが出ないので、家庭ゴミの減量になるなど"時短"以外のメリットもたくさんあります」(三浦さん)。
[コラム1]
知ってますか?
冷凍食品を買うときのポイント
まず、冷凍ショーケースが-18度以下に保たれ、商品がロードライン(積荷限界線)以下に陳列されているお店で買いましょう。包装が破れていないことや、賞味期限、保存方法、調理法などの表示があることもチェックしてください。日本冷凍食品協会の認定証マークは、高度な品質と衛生管理体制を証明する「冷凍食品認定制度」の基準に適合した工場で作られた商品だけにつけられるため、さらに安心といえます。
[図1]
日本冷凍食品協会が定めた認定証マーク。
[写真1]
パラパラチャーハンが手軽に!
あおり炒めの焼豚炒飯
450グラム
赤坂璃宮の譚(たん)オーナーシェフ直伝「あおり炒め製法」で作った、パラッと香ばしい炒飯。特製ダレの焼豚もコクがある。/マルハニチロ
[写真2]
ほかほかのご飯で握るだけ!
「おにぎり丸」甘口ポークカレー
4個入り(100グラム)
とろっと食感の「おにぎりの具」。凍ったまま温かいご飯で握れば、自然に溶けてくれる。甘口ポークカレーのほか全5種。/味の素冷凍食品
[写真3]
水を注いで温めればすぐ完成
「Soup餃子」鶏だしスープとふんわり海老餃子
2食分(127グラム)
えびや枝豆などを使った餃子が入った食べごたえあるスープ。カップに入れて水を加え、電子レンジで調理するだけ。/味の素冷凍食品
[写真4]
油·水なしでパリッパリ、ジューシー!
ギョーザ
12個入り(300グラム)
油も水も使わずに焼ける人気の一品。皮はパリッと、中はジューシー。煮たりゆでたりといったアレンジもできる。/味の素冷凍食品
[写真5]
外袋から出さずに加熱OK!
あら挽き肉しゅうまい
12個入り(168グラム)
コクのあるうまみと歯ごたえのよさが自慢。特製オイスターソースとごま油を使用。外袋のまま電子レンジで調理できる。/マルハニチロ
[写真6]
油不要!自然解凍OKの串揚げ
牛かつ串
5本入り(100グラム)
やわらかくジューシーな牛肉の串かつ。リンゴやハチミツなどが入った特製ソースのかかった、食べやすいサイズ。/ケイエス冷凍食品
[写真7]
自然解凍でもふっくら
おやつベーカリーちいさなメロンパン
6個入り
外側のビスケット生地はサクサク、中はふんわり。1個ずつていねいに手で丸めて、おやつにぴったりの大きさに成形。/テーブルマーク
[写真8]
水も不要!材料を鍋で温めるだけ
お水がいらない 鍋焼うどん
558グラム(めん200グラム)
だし、麺、具がひとつになっていて、鍋に入れて温めるだけ。えび、つくねなど8種の具材と、関西風のだしがマッチして深みのある味わいに。/キンレイ
取材・文/Office彩蔵
取材協力/日本冷凍食品協会
優れた加工技術によって、さまざまなニーズに対応しています。
最新の技術で作られたおいしい冷凍食品
食品の魅力をそのまま凍結だからおいしい冷凍食品
冷凍食品は出来合いの料理を単に凍らせたものではありません。食品本来の味を損なわないよう、厳格な規格基準で作られていて、各製造メーカーの技術革新も目覚ましいものがあります。ご飯が一粒一粒パラパラになっているチャーハン類や、水なしで焼ける羽根付き餃子、自然解凍でも食べられるカツやパンなど、プロが作ったような料理を手軽に味わえます。また、野菜や水産物といった素材品や、「おにぎり丸」のようにご飯の熱で自然解凍させるものまで、ニーズに合わせた数多くの商品が開発されています。
子育て中のお母さんたちから好評な、裏ごし済みの離乳食なども販売されています。
下ごしらえの手間が省けて料理の時短にも活躍
「冷凍食品は"手抜き"だとおっしゃる方もいますが、私たちは、"手間抜き"と呼んでいます。下ごしらえ不要の冷凍ゴボウやカボチャなどを上手に使って、料理にかかる時間を節約している方も多くいらっしゃいます」(日本冷凍食品協会広報部・三浦佳子さん)。
また、旬の時期に収穫し急速凍結しているので栄養価が保たれ、天候不順で生鮮品の価格が高騰しても冷凍食品の価格は安定しています。
「ひと切れ、ひとつかみなど、使うぶんだけ解凍して使え、余らせることがありません。さらに、野菜の切れ端や魚の骨などの生ゴミが出ないので、家庭ゴミの減量になるなど"時短"以外のメリットもたくさんあります」(三浦さん)。
[コラム1]
知ってますか?
冷凍食品を買うときのポイント
まず、冷凍ショーケースが-18度以下に保たれ、商品がロードライン(積荷限界線)以下に陳列されているお店で買いましょう。包装が破れていないことや、賞味期限、保存方法、調理法などの表示があることもチェックしてください。日本冷凍食品協会の認定証マークは、高度な品質と衛生管理体制を証明する「冷凍食品認定制度」の基準に適合した工場で作られた商品だけにつけられるため、さらに安心といえます。
[図1]
日本冷凍食品協会が定めた認定証マーク。
[写真1]
パラパラチャーハンが手軽に!
あおり炒めの焼豚炒飯
450グラム
赤坂璃宮の譚(たん)オーナーシェフ直伝「あおり炒め製法」で作った、パラッと香ばしい炒飯。特製ダレの焼豚もコクがある。/マルハニチロ
[写真2]
ほかほかのご飯で握るだけ!
「おにぎり丸」甘口ポークカレー
4個入り(100グラム)
とろっと食感の「おにぎりの具」。凍ったまま温かいご飯で握れば、自然に溶けてくれる。甘口ポークカレーのほか全5種。/味の素冷凍食品
[写真3]
水を注いで温めればすぐ完成
「Soup餃子」鶏だしスープとふんわり海老餃子
2食分(127グラム)
えびや枝豆などを使った餃子が入った食べごたえあるスープ。カップに入れて水を加え、電子レンジで調理するだけ。/味の素冷凍食品
[写真4]
油·水なしでパリッパリ、ジューシー!
ギョーザ
12個入り(300グラム)
油も水も使わずに焼ける人気の一品。皮はパリッと、中はジューシー。煮たりゆでたりといったアレンジもできる。/味の素冷凍食品
[写真5]
外袋から出さずに加熱OK!
あら挽き肉しゅうまい
12個入り(168グラム)
コクのあるうまみと歯ごたえのよさが自慢。特製オイスターソースとごま油を使用。外袋のまま電子レンジで調理できる。/マルハニチロ
[写真6]
油不要!自然解凍OKの串揚げ
牛かつ串
5本入り(100グラム)
やわらかくジューシーな牛肉の串かつ。リンゴやハチミツなどが入った特製ソースのかかった、食べやすいサイズ。/ケイエス冷凍食品
[写真7]
自然解凍でもふっくら
おやつベーカリーちいさなメロンパン
6個入り
外側のビスケット生地はサクサク、中はふんわり。1個ずつていねいに手で丸めて、おやつにぴったりの大きさに成形。/テーブルマーク
[写真8]
水も不要!材料を鍋で温めるだけ
お水がいらない 鍋焼うどん
558グラム(めん200グラム)
だし、麺、具がひとつになっていて、鍋に入れて温めるだけ。えび、つくねなど8種の具材と、関西風のだしがマッチして深みのある味わいに。/キンレイ
取材・文/Office彩蔵
取材協力/日本冷凍食品協会
意外と知らない冷凍食品Q&A
保存方法から取り扱い方、最新の製造技術まで、冷凍食品にまつわるさまざまな疑問を解決。冷凍食品を再認識できるのではないでしょうか。
Q1.食品添加物や保存料は使われているの?
A.食品添加物については、食品衛生法で認められている範囲で使用されている場合がありますが、保存料は使われていません。冷凍食品は、製造から販売まで一貫して-18度以下の低温に保たれているので、食品の腐敗や食中毒の原因になる細菌が活動できません。そのため、保存料も不要なのです。
Q2.冷凍食品の賞味期限はどのくらい?
A.賞味期限は冷凍食品のパッケージに必ず記載されていますが、これは未開封の状態で-18度以下で保存した場合です。家庭用の冷凍庫内を-18度以下に保つのは難しいため、購入後2~3カ月。開け閉めを頻繁に行うドアポケットの場合は購入後1~2カ月が目安です。
Q3.冷凍食品も、開封したら早めに使ったほうがいいの?
A.袋を開けると、外気にふれ保存温度が上がって品質が落ちるので、早めに消費してください。一度開封したら、袋の空気をよく抜いて口をしっかり閉じるか、市販のファスナー付きの袋に入れて手早く冷凍庫へ戻します。溶けたものを再冷凍するとさらに品質が落ちるので、使うぶんだけ解凍しましょう。
Q4.自然解凍OKの冷凍食品が、加熱調理しないで食べられるのはなぜ?
A.加熱調理用の冷凍食品にも厳しい規格基準が定められていますが、自然解凍できる調理冷凍食品の製造基準はもっと厳しく、「35度で9時間保存した上で、細菌試験、味・風味・食感の官能試験を行い、それをクリアすること」が必要。そのため、加熱しなくてもおいしく食べられ、お弁当に入れても安心です。
[写真1]
パッケージを必ず確認。「自然解凍」の表示がないものは加熱して。
Q5.日本で最初に作られた冷凍食品は何?
A.市販の冷凍食品としては、昭和6年(1931年)に大阪の百貨店で販売された冷凍いちごが最初といわれています。その後、東京オリンピックの選手村での利用をきっかけに一気に外食産業へ広がり、冷蔵庫や電子レンジの普及によって家庭での消費も増加しました。ちなみに、幅広い世代に人気の冷凍みかんは、昭和26年(1951年)に商品化されたといわれ、今も親しまれ続けています。
[写真2]
冷凍みかんは、昭和30~40年代、学校給食のデザートとしても人気だった。
Q6.自宅の冷凍庫で保存するとき、霜をつけない方法はある?
A.霜がつくのは食品中の水分が表面に出てきたからです。水分が出たぶん、食品自体は乾燥して品質が落ちます。霜を防ぐには、保存温度を上昇させないこと。未開封でも霜がつくことがあるので、なるべく-18度以下を保つようにして、冷凍庫の開け閉めも素早くすることが大切です。
[写真3]
冷凍庫内にすき間があると温度が上がりやすいので、ぎゅうぎゅうに詰めることが基本。電気代の節約にもなる。
Q7.肉類や魚介類は解凍してから、野菜類は凍ったまま調理するものが多いのですが、解凍調理の上手なポイントは?
A.肉類や魚介類などは、外はやわらかくて中は凍っている"半解凍"が基本です。凍ったまま調理すると硬くなってしまうからです。"半解凍"ができたら時間をおかずに、ペーパータオルなどで水分を拭き取ってから調理しましょう。また、ほとんどの冷凍野菜類は、すでにブランチングという加熱処理がしてあるため、凍ったまま調理ができますが、加熱し過ぎに注意。加熱は、生の野菜の2~3割の時間で十分です。
[写真4]
ブランチングは変色や変質を防ぎ、ビタミンCも減少しにくくなる。
Q8.冷凍食品は電子レンジのオート機能「あたため」を使ってはダメなの?
A.電子レンジのオート機能では、食品の温度や重さをセンサーで測定して、加熱時間を自動計算します。しかし、冷凍食品にはセンサーがうまく働かず、加熱不足で凍ったままだったり、逆に加熱し過ぎて焦げてしまうことがあります。必ずパッケージ記載の出力と時間を設定しましょう。
[写真5]
写真のパスタは、オート機能で温めた失敗例。袋の表示時間の約半分の時間で加熱がストップしてしまい、端は凍ったままに。「オート不可」と表示されている製品も多い。
Q9.停電したとき、冷凍庫の冷凍食品はどうすればいいの?
A.冷凍庫を閉めた状態なら、3~4時間程度は冷凍食品の品質をある程度保つことができます。計画停電のように事前にわかっている場合は、冷凍食品を断熱性のあるシートで包んだり、保冷剤を入れておくといいでしょう。通電後に必ず状態を確認して、溶けてしまったものがあれば、早めに調理して消費しましょう。
[コラム1]
冷凍食品のレシピが豊富
日本冷凍食品協会公式の冷凍食品情報サイト「冷食ONLINE」。冷凍食品をアレンジしたレシピや冷凍食品にまつわるマメ知識、著名人のコラムなど、ここでしか読めない内容が豊富に掲載されています。
冷食ONLINE http://online.reishokukyo.or.jp/[外部サイト]
取材・文/Office彩蔵
取材協力/日本冷凍食品協会
Q1.食品添加物や保存料は使われているの?
A.食品添加物については、食品衛生法で認められている範囲で使用されている場合がありますが、保存料は使われていません。冷凍食品は、製造から販売まで一貫して-18度以下の低温に保たれているので、食品の腐敗や食中毒の原因になる細菌が活動できません。そのため、保存料も不要なのです。
Q2.冷凍食品の賞味期限はどのくらい?
A.賞味期限は冷凍食品のパッケージに必ず記載されていますが、これは未開封の状態で-18度以下で保存した場合です。家庭用の冷凍庫内を-18度以下に保つのは難しいため、購入後2~3カ月。開け閉めを頻繁に行うドアポケットの場合は購入後1~2カ月が目安です。
Q3.冷凍食品も、開封したら早めに使ったほうがいいの?
A.袋を開けると、外気にふれ保存温度が上がって品質が落ちるので、早めに消費してください。一度開封したら、袋の空気をよく抜いて口をしっかり閉じるか、市販のファスナー付きの袋に入れて手早く冷凍庫へ戻します。溶けたものを再冷凍するとさらに品質が落ちるので、使うぶんだけ解凍しましょう。
Q4.自然解凍OKの冷凍食品が、加熱調理しないで食べられるのはなぜ?
A.加熱調理用の冷凍食品にも厳しい規格基準が定められていますが、自然解凍できる調理冷凍食品の製造基準はもっと厳しく、「35度で9時間保存した上で、細菌試験、味・風味・食感の官能試験を行い、それをクリアすること」が必要。そのため、加熱しなくてもおいしく食べられ、お弁当に入れても安心です。
[写真1]
パッケージを必ず確認。「自然解凍」の表示がないものは加熱して。
Q5.日本で最初に作られた冷凍食品は何?
A.市販の冷凍食品としては、昭和6年(1931年)に大阪の百貨店で販売された冷凍いちごが最初といわれています。その後、東京オリンピックの選手村での利用をきっかけに一気に外食産業へ広がり、冷蔵庫や電子レンジの普及によって家庭での消費も増加しました。ちなみに、幅広い世代に人気の冷凍みかんは、昭和26年(1951年)に商品化されたといわれ、今も親しまれ続けています。
[写真2]
冷凍みかんは、昭和30~40年代、学校給食のデザートとしても人気だった。
Q6.自宅の冷凍庫で保存するとき、霜をつけない方法はある?
A.霜がつくのは食品中の水分が表面に出てきたからです。水分が出たぶん、食品自体は乾燥して品質が落ちます。霜を防ぐには、保存温度を上昇させないこと。未開封でも霜がつくことがあるので、なるべく-18度以下を保つようにして、冷凍庫の開け閉めも素早くすることが大切です。
[写真3]
冷凍庫内にすき間があると温度が上がりやすいので、ぎゅうぎゅうに詰めることが基本。電気代の節約にもなる。
Q7.肉類や魚介類は解凍してから、野菜類は凍ったまま調理するものが多いのですが、解凍調理の上手なポイントは?
A.肉類や魚介類などは、外はやわらかくて中は凍っている"半解凍"が基本です。凍ったまま調理すると硬くなってしまうからです。"半解凍"ができたら時間をおかずに、ペーパータオルなどで水分を拭き取ってから調理しましょう。また、ほとんどの冷凍野菜類は、すでにブランチングという加熱処理がしてあるため、凍ったまま調理ができますが、加熱し過ぎに注意。加熱は、生の野菜の2~3割の時間で十分です。
[写真4]
ブランチングは変色や変質を防ぎ、ビタミンCも減少しにくくなる。
Q8.冷凍食品は電子レンジのオート機能「あたため」を使ってはダメなの?
A.電子レンジのオート機能では、食品の温度や重さをセンサーで測定して、加熱時間を自動計算します。しかし、冷凍食品にはセンサーがうまく働かず、加熱不足で凍ったままだったり、逆に加熱し過ぎて焦げてしまうことがあります。必ずパッケージ記載の出力と時間を設定しましょう。
[写真5]
写真のパスタは、オート機能で温めた失敗例。袋の表示時間の約半分の時間で加熱がストップしてしまい、端は凍ったままに。「オート不可」と表示されている製品も多い。
Q9.停電したとき、冷凍庫の冷凍食品はどうすればいいの?
A.冷凍庫を閉めた状態なら、3~4時間程度は冷凍食品の品質をある程度保つことができます。計画停電のように事前にわかっている場合は、冷凍食品を断熱性のあるシートで包んだり、保冷剤を入れておくといいでしょう。通電後に必ず状態を確認して、溶けてしまったものがあれば、早めに調理して消費しましょう。
[コラム1]
冷凍食品のレシピが豊富
日本冷凍食品協会公式の冷凍食品情報サイト「冷食ONLINE」。冷凍食品をアレンジしたレシピや冷凍食品にまつわるマメ知識、著名人のコラムなど、ここでしか読めない内容が豊富に掲載されています。
冷食ONLINE http://online.reishokukyo.or.jp/[外部サイト]
取材・文/Office彩蔵
取材協力/日本冷凍食品協会
輝く! 未来を担う生産者 vol.2
株式会社浅井農園/三重県
トマト嫌いでも食べたくなるトマト
創業110周年の農家の5代目が目指すのは、現場を科学する「研究開発型の農業カンパニー」。独自の品種と栽培管理技術で、世界一おいしく生産性の高いトマト作りに挑戦しています!
トマト嫌いでも好きになるおいしいトマト
三重県津市で創業110周年を迎える農園が、次世代型の農業に挑戦し、注目を集めています。その5代目とは、浅井雄一郎さん。大学時代から世界の農業を見て回り、日本の家族農業経営に疑問をもったのをきっかけに、農業のあり方を思索。ミニトマトを中心とする新たな農業ビジネスに取り組んでいます。
「うちは創業から100年、植木や花苗を生産していたんですが、僕が就農した翌年の2008年からミニトマトの生産を始め、主力に切り替えて今に至っています」
実はトマトが苦手だった浅井さん。サラリーマン生活を5年半経験したのち就農し、農業技術を学んでいく中で、「おいしい」と思えるトマトに出合ったのが大きな転機でした。当時、不況のあおりを受け、実家の植木業が苦しくなっていたため、「トマト嫌いでも好きになる、このトマトの栽培に挑戦しよう」と決意。古い温室を自ら改修し、試験栽培を始めたのです。
そして、地元スーパーの社長に試食してもらったところ、「これならうちで全部買う」と販路が決定。そこから本格的なミニトマト作りに邁進し始めました。
品質と収穫量にこだわり研究開発
当時行っていた栽培法は、根に適度なストレスをかけることで糖度を高める方法でした。ただ、これではおいしくても収穫量が少ない。そこで生産性を高めるため、独自に配合した養液を点滴で苗に与える栽培法に切り替え、おいしさの確保と収穫量増加を目指すことに。
一方で、三重大学大学院地域イノベーション学研究科に入学。小林一成(いっせい)教授のもと、トマトのゲノム育種研究に取り組みました。そして、おいしく多収量のトマトの品種改良を研究開発し、独自の栽培管理を活用していったのです。
その栽培管理に役立っているのが、オランダの複合環境制御システム。培地の水分や温度、肥料の濃度、ペーハーをシステムで常時測定し、数値をパソコンで管理、制御しています。数値を蓄積することで、作業のマニュアル化にもつながり、高い生産性を実現し、「数値化経営」しています。
農業カンパニーとして世界を目指す
「ただ農作物を作るだけの農業では、つまらない。植物の可能性を探求して、新たな価値を創造する。それがこれからの農業経営のあり方だと思うんです」
農業をビジネスとして発展させていく。そう考える浅井さんは、各国からインターンを受け入れるほか、優秀な農学士を採用し、研究開発分野での人材育成に力を入れています。そして、トマトを栽培する地元企業に技術を提供するとともに生産を委託する体制を築き、地元の雇用にも貢献しています。また、新たな流通経路の開拓や小売業への進出など経営の多角化に積極的に取り組んでいます。
オランダ、スペイン、イスラエルなど、おいしいトマトがある国に自ら足を運び、消費者が求めるトマトを生み出していく――。常に新しいものを開拓し、三重県からでも世界で通用する「農業カンパニー」を目指して、浅井さんの挑戦はこれからも続きます。
[写真1]
研究開発農場の浅井さん用栽培コーナーにて。世界各国約40種類以上のトマトを栽培し、品種評価している。
[写真2]
収穫されたミニトマト。
[写真3]
本社の横にある、研究開発農場。
[写真4]
働いている社員たちは20~30代と皆若い。
[写真5]
浅井農園で一番人気の「房どりミニトマト」。
[写真6]
灰色の箱が、培地に設置した複合環境制御システムのセンサー。
[写真7]
センサーが測った数値やデータを、農場内のパソコンで管理し、制御する。
[写真8]
休日は子どもたちと遊ぶのが何よりの楽しみです!
7歳、3歳、0歳の男の子3人の父でもある浅井さん。休みの日は子どもたちと公園で遊んだり、ザリガニ釣りをすることが何よりの楽しみであり、リフレッシュ法だそう。
Profile
浅井雄一郎さん
1980年生まれ。甲南大学理学部卒業後、東京で経営コンサルティング会社、環境ベンチャー企業で5年半サラリーマンとして勤務したのち、2007年に浅井農園で就農。5代目を継ぐ。農業経営のかたわら、三重大学大学院で学び、2016年に博士号を取得。
所在地/三重県津市高野尾町4951
http://www.asainursery.com/[外部サイト]
取材・文/岸田直子
撮影/原田圭介
トマト嫌いでも食べたくなるトマト
創業110周年の農家の5代目が目指すのは、現場を科学する「研究開発型の農業カンパニー」。独自の品種と栽培管理技術で、世界一おいしく生産性の高いトマト作りに挑戦しています!
トマト嫌いでも好きになるおいしいトマト
三重県津市で創業110周年を迎える農園が、次世代型の農業に挑戦し、注目を集めています。その5代目とは、浅井雄一郎さん。大学時代から世界の農業を見て回り、日本の家族農業経営に疑問をもったのをきっかけに、農業のあり方を思索。ミニトマトを中心とする新たな農業ビジネスに取り組んでいます。
「うちは創業から100年、植木や花苗を生産していたんですが、僕が就農した翌年の2008年からミニトマトの生産を始め、主力に切り替えて今に至っています」
実はトマトが苦手だった浅井さん。サラリーマン生活を5年半経験したのち就農し、農業技術を学んでいく中で、「おいしい」と思えるトマトに出合ったのが大きな転機でした。当時、不況のあおりを受け、実家の植木業が苦しくなっていたため、「トマト嫌いでも好きになる、このトマトの栽培に挑戦しよう」と決意。古い温室を自ら改修し、試験栽培を始めたのです。
そして、地元スーパーの社長に試食してもらったところ、「これならうちで全部買う」と販路が決定。そこから本格的なミニトマト作りに邁進し始めました。
品質と収穫量にこだわり研究開発
当時行っていた栽培法は、根に適度なストレスをかけることで糖度を高める方法でした。ただ、これではおいしくても収穫量が少ない。そこで生産性を高めるため、独自に配合した養液を点滴で苗に与える栽培法に切り替え、おいしさの確保と収穫量増加を目指すことに。
一方で、三重大学大学院地域イノベーション学研究科に入学。小林一成(いっせい)教授のもと、トマトのゲノム育種研究に取り組みました。そして、おいしく多収量のトマトの品種改良を研究開発し、独自の栽培管理を活用していったのです。
その栽培管理に役立っているのが、オランダの複合環境制御システム。培地の水分や温度、肥料の濃度、ペーハーをシステムで常時測定し、数値をパソコンで管理、制御しています。数値を蓄積することで、作業のマニュアル化にもつながり、高い生産性を実現し、「数値化経営」しています。
農業カンパニーとして世界を目指す
「ただ農作物を作るだけの農業では、つまらない。植物の可能性を探求して、新たな価値を創造する。それがこれからの農業経営のあり方だと思うんです」
農業をビジネスとして発展させていく。そう考える浅井さんは、各国からインターンを受け入れるほか、優秀な農学士を採用し、研究開発分野での人材育成に力を入れています。そして、トマトを栽培する地元企業に技術を提供するとともに生産を委託する体制を築き、地元の雇用にも貢献しています。また、新たな流通経路の開拓や小売業への進出など経営の多角化に積極的に取り組んでいます。
オランダ、スペイン、イスラエルなど、おいしいトマトがある国に自ら足を運び、消費者が求めるトマトを生み出していく――。常に新しいものを開拓し、三重県からでも世界で通用する「農業カンパニー」を目指して、浅井さんの挑戦はこれからも続きます。
[写真1]
研究開発農場の浅井さん用栽培コーナーにて。世界各国約40種類以上のトマトを栽培し、品種評価している。
[写真2]
収穫されたミニトマト。
[写真3]
本社の横にある、研究開発農場。
[写真4]
働いている社員たちは20~30代と皆若い。
[写真5]
浅井農園で一番人気の「房どりミニトマト」。
[写真6]
灰色の箱が、培地に設置した複合環境制御システムのセンサー。
[写真7]
センサーが測った数値やデータを、農場内のパソコンで管理し、制御する。
[写真8]
休日は子どもたちと遊ぶのが何よりの楽しみです!
7歳、3歳、0歳の男の子3人の父でもある浅井さん。休みの日は子どもたちと公園で遊んだり、ザリガニ釣りをすることが何よりの楽しみであり、リフレッシュ法だそう。
Profile
浅井雄一郎さん
1980年生まれ。甲南大学理学部卒業後、東京で経営コンサルティング会社、環境ベンチャー企業で5年半サラリーマンとして勤務したのち、2007年に浅井農園で就農。5代目を継ぐ。農業経営のかたわら、三重大学大学院で学び、2016年に博士号を取得。
所在地/三重県津市高野尾町4951
http://www.asainursery.com/[外部サイト]
取材・文/岸田直子
撮影/原田圭介
MAFF TOPICS
MAFFとは農林水産省の英語表記「Ministry of Agriculture, Forestry and Fisheries」の略称です。「MAFF TOPICS」では、農林水産省からの最新ニュースなどを中心に、暮らしに役立つさまざまな情報をお届けいたします。
伝統的で多様な農林水産業が営まれ、独自の農村文化が受け継がれている日本。
こうした伝統的な農林水産業システムを将来に受け継がれるべき遺産と位置づけて、「日本農業遺産」制度を創設しました。
1回目の認定を3月14日に行い、全国で8カ所の地域を日本農業遺産に決定しました。
認定基準にあげられたのは、長い年月をかけて作り上げられた歴史的な価値があり、かつ現代社会でも充分に機能するものであること。また、災害を耐え抜く工夫や、6次産業化への推進が行われていることなどです。
我が国の農林水産業は、気候風土に合わせて地域ごとに特色のある発展をとげ、固有のスタイルを形成し、継承しているところに特徴があります。
今回認定を受けた地域も、そうした、重要で伝統的な農林水産業システムを作り上げています。
日本農業遺産となることで、地域の価値が評価され、農泊や農林水産物の付加価値向上などを通じて認知度が高まることが期待されます。
[写真1]
1.新潟県 中越地域
夏の棚田と棚池の風景(小千谷市)。
[写真2]
2.三重県 鳥羽・志摩地域
海女漁と真珠養殖の様子。
[写真3]
宮城県 大崎地域
水田農業が支える生物の多様性(大崎市)。
写真提供:大崎市
[写真4]
4.三重県 尾鷲市、紀北町(きほくちょう)
ヒノキ林の風景。
[写真5]
5.埼玉県 武蔵野地域
落ち葉掃きの様子(三芳町)。
[写真6]
6.静岡県 わさび栽培地域
わさび田とヤマハンノキ(伊豆市)。
[写真7]
7.山梨県 峡東(きょうとう)地域
ももやすももの花が咲き乱れる春の風景(笛吹市)。
写真提供:山梨県
[写真8]
徳島県にし阿波地域
ヒトリビキによる畝たて(つるぎ町)。
写真提供:つるぎ町
平成29年「日本農業遺産」認定地域
1. 新潟県 中越地域(長岡市、小千谷市)
雪の恵みを活かした稲作・養鯉システム
水の少ない山間地で、横井戸や雪解け水を利用した稲作と養鯉が行われている。突然変異した食用鯉を育種した錦鯉の発祥地。
2. 三重県 鳥羽・志摩地域(鳥羽市、志摩市)
鳥羽・志摩の海女漁業と真珠養殖業
リアス式海岸が連続する地形と、豊かな藻場が形成された生態系を活用。海女漁や、天然真珠の採取から発展した真珠養殖業を営む。
3. 宮城県 大崎地域(大崎市、色麻(しかま)町、加美町、涌谷町、美里町)
「大崎耕土」の巧みな水管理による水田農業システム
冷害や洪水などの自然災害を耐え抜くために、巧みな水管理や屋敷林「居久根(いぐね)」による災害に強い農業を形成。
4. 三重県 尾鷲市、紀北町
急峻な地形と日本有数の多雨が生み出す尾鷲ヒノキ林業
苗木を密植し、間伐を繰り返すことで、密度管理を行いながら、じっくりと育て、高品質なヒノキの生産を可能に。
5. 埼玉県 武蔵野地域(川越市、所沢市、ふじみ野市、三芳町)
武蔵野の落ち葉堆肥農法
農業的価値の低い原野で住居、耕地、平地林(肥料採取地)を一組とした開発が行われた。現在も落ち葉堆肥農法を継承。
6. 静岡県 わさび栽培地域(静岡市、浜松市、富士宮市、御殿場市、下田市、伊豆市、東伊豆町、河津町、松崎町、西伊豆町、小山町)
静岡水わさびの伝統栽培
沢を開墾して階段状にわさび田を作り、日本固有種のわさびを肥料を使わず湧水に含まれる養分のみで栽培する技術を継承。
7. 山梨県 峡東地域(山梨市、笛吹市、甲州市)
盆地に適応した山梨の複合的果樹システム
やせた傾斜地でありながら、土壌や地形、気象等に応じてぶどうやももなどの果樹の適地適作を行う。日本独自のぶどうの棚式栽培が発達。
8. 徳島県 にし阿波地域(美馬市、三好市、つるぎ町、東みよし町)
にし阿波の傾斜地農耕システム
急傾斜地にかやをすき込んで土壌流出を防ぎ、独自の農機具で斜面を階段状にせずに耕作。独特な農法で雑穀の地域固有種を継承。
取材・文/細川潤子
撮影/島 誠
毎年4月15日から5月14日までは「みどりの月間」です。5月4日の「みどりの日」についての関心と理解を高め、「みどり」の価値や大切さを再認識してもらうため、2007年に創設されました。
期間中に開催される行事として、「みどりの式典」があります。第11回となる今年は、4月28日、天皇皇后両陛下ご臨席のもと、憲政記念館で開催されました。
式典では、植物、森林、緑地、自然保護等に係る研究・技術開発や、「みどり」に関する学術上の顕著な功績があった方に「みどりの学術賞」が授与されました。また、緑化推進運動に顕著な功績があった方・団体に「緑化推進運動功労者内閣総理大臣表彰」の授与が行われました。
このほかにもさまざまなイベントが行われ、その締めくくりとして5月13・14日に日比谷公園で開催された「みどりの感謝祭」には、多くの方が訪れました。
木々の緑が深まるこれからの季節、皆さんも「みどり」に親しんでみてはいかがでしょうか。
[写真1]
今年の「みどりの式典」の様子。
[写真2]
山本農林水産大臣の乾杯で始まったレセプション。
[写真3]
みどりの感謝祭(日比谷公園)
ツリークライミング体験。
第11回(平成29年)「みどりの学術賞」受賞者
[写真4]
丸田頼一(よりかず) 千葉大学名誉教授
【功績概要】
ヒートアイランド現象の緩和のために緑地を効果的に配置する「風の道」を提唱。都市における熱環境の緩和と低炭素型まちづくりに対する緑地政策の展開に貢献した。
[写真5]
沈 建仁(ちんけんじん) 岡山大学 異分野基礎科学研究所教授
【功績概要】
光合成において触媒の役割をする「光化学系B.」の、原子レベルでの構造を明らかにした。この成果により人工光合成の実現に向けた研究の進展に貢献した。
[コラム1]
「みどりの学術賞」受賞記念講演会
日時:平成29年7月2日(日曜日)13:30~
場所:日本科学未来館(東京都江東区青海2-3-6)
詳細:内閣府「みどりの学術賞」https://www.cao.go.jp/midorisho/houdo/[外部リンク]
生きもののすみかを次の世代へ
ため池が日本一多い兵庫県では、「ため池保全県民運動」として、生命の尊さや自然環境の大切さを次の世代に伝えるための活動が展開されています。地域の住民とともに交付金を使った環境保全活動に参加しているのが、NPO法人「メダカのコタロー劇団」です。
劇団では、この活動に参加するほか、「ため池マン」などのキャラクターに扮し、県内の小学校等を訪問。子どもたちが興味を持つような環境アニメ紙芝居やクイズなどの公演活動を実施しています。子どもたちは、そこから多くの生きものを育むはたらきなど、身近にあるため池の機能を楽しみながら学びます。こうした活動によって、豊かな自然環境は次の世代へと引き継がれることでしょう。
[写真6]
「ひょうごのため池はぼくたちが守る!」
クイズで自然環境の大切さを楽しく学習。
[写真7]
キャラクターが、ため池に自生する植物を説明。
[写真8]
ため池でのかいぼり(泥抜き)。
[写真9]
ため池マンも稲刈りに参加。
[コラム2]
多面的機能支払交付金とは…
農業・農村の有する多面的機能が、適切に維持・発揮されるよう、農用地や水路、農道等の地域資源を保全している地域の共同活動を支援するための交付金です。
取材・文/細川潤子
撮影/島 誠
フェイスブック・ツイッターのご案内
フェイスブック https://www.facebook.com/maffjapan[外部リンク]
ツイッター https://twitter.com/MAFF_JAPAN[外部リンク]
News1 「日本農業遺産」に8カ所を認定
伝統的な農林水産業システムの継承伝統的で多様な農林水産業が営まれ、独自の農村文化が受け継がれている日本。
こうした伝統的な農林水産業システムを将来に受け継がれるべき遺産と位置づけて、「日本農業遺産」制度を創設しました。
1回目の認定を3月14日に行い、全国で8カ所の地域を日本農業遺産に決定しました。
認定基準にあげられたのは、長い年月をかけて作り上げられた歴史的な価値があり、かつ現代社会でも充分に機能するものであること。また、災害を耐え抜く工夫や、6次産業化への推進が行われていることなどです。
我が国の農林水産業は、気候風土に合わせて地域ごとに特色のある発展をとげ、固有のスタイルを形成し、継承しているところに特徴があります。
今回認定を受けた地域も、そうした、重要で伝統的な農林水産業システムを作り上げています。
日本農業遺産となることで、地域の価値が評価され、農泊や農林水産物の付加価値向上などを通じて認知度が高まることが期待されます。
[写真1]
1.新潟県 中越地域
夏の棚田と棚池の風景(小千谷市)。
[写真2]
2.三重県 鳥羽・志摩地域
海女漁と真珠養殖の様子。
[写真3]
宮城県 大崎地域
水田農業が支える生物の多様性(大崎市)。
写真提供:大崎市
[写真4]
4.三重県 尾鷲市、紀北町(きほくちょう)
ヒノキ林の風景。
[写真5]
5.埼玉県 武蔵野地域
落ち葉掃きの様子(三芳町)。
[写真6]
6.静岡県 わさび栽培地域
わさび田とヤマハンノキ(伊豆市)。
[写真7]
7.山梨県 峡東(きょうとう)地域
ももやすももの花が咲き乱れる春の風景(笛吹市)。
写真提供:山梨県
[写真8]
徳島県にし阿波地域
ヒトリビキによる畝たて(つるぎ町)。
写真提供:つるぎ町
平成29年「日本農業遺産」認定地域
1. 新潟県 中越地域(長岡市、小千谷市)
雪の恵みを活かした稲作・養鯉システム
水の少ない山間地で、横井戸や雪解け水を利用した稲作と養鯉が行われている。突然変異した食用鯉を育種した錦鯉の発祥地。
2. 三重県 鳥羽・志摩地域(鳥羽市、志摩市)
鳥羽・志摩の海女漁業と真珠養殖業
リアス式海岸が連続する地形と、豊かな藻場が形成された生態系を活用。海女漁や、天然真珠の採取から発展した真珠養殖業を営む。
3. 宮城県 大崎地域(大崎市、色麻(しかま)町、加美町、涌谷町、美里町)
「大崎耕土」の巧みな水管理による水田農業システム
冷害や洪水などの自然災害を耐え抜くために、巧みな水管理や屋敷林「居久根(いぐね)」による災害に強い農業を形成。
4. 三重県 尾鷲市、紀北町
急峻な地形と日本有数の多雨が生み出す尾鷲ヒノキ林業
苗木を密植し、間伐を繰り返すことで、密度管理を行いながら、じっくりと育て、高品質なヒノキの生産を可能に。
5. 埼玉県 武蔵野地域(川越市、所沢市、ふじみ野市、三芳町)
武蔵野の落ち葉堆肥農法
農業的価値の低い原野で住居、耕地、平地林(肥料採取地)を一組とした開発が行われた。現在も落ち葉堆肥農法を継承。
6. 静岡県 わさび栽培地域(静岡市、浜松市、富士宮市、御殿場市、下田市、伊豆市、東伊豆町、河津町、松崎町、西伊豆町、小山町)
静岡水わさびの伝統栽培
沢を開墾して階段状にわさび田を作り、日本固有種のわさびを肥料を使わず湧水に含まれる養分のみで栽培する技術を継承。
7. 山梨県 峡東地域(山梨市、笛吹市、甲州市)
盆地に適応した山梨の複合的果樹システム
やせた傾斜地でありながら、土壌や地形、気象等に応じてぶどうやももなどの果樹の適地適作を行う。日本独自のぶどうの棚式栽培が発達。
8. 徳島県 にし阿波地域(美馬市、三好市、つるぎ町、東みよし町)
にし阿波の傾斜地農耕システム
急傾斜地にかやをすき込んで土壌流出を防ぎ、独自の農機具で斜面を階段状にせずに耕作。独特な農法で雑穀の地域固有種を継承。
取材・文/細川潤子
撮影/島 誠
News2 「みどりの式典」や「みどりの感謝祭」を開催
「みどり」への関心・理解を深めるために毎年4月15日から5月14日までは「みどりの月間」です。5月4日の「みどりの日」についての関心と理解を高め、「みどり」の価値や大切さを再認識してもらうため、2007年に創設されました。
期間中に開催される行事として、「みどりの式典」があります。第11回となる今年は、4月28日、天皇皇后両陛下ご臨席のもと、憲政記念館で開催されました。
式典では、植物、森林、緑地、自然保護等に係る研究・技術開発や、「みどり」に関する学術上の顕著な功績があった方に「みどりの学術賞」が授与されました。また、緑化推進運動に顕著な功績があった方・団体に「緑化推進運動功労者内閣総理大臣表彰」の授与が行われました。
このほかにもさまざまなイベントが行われ、その締めくくりとして5月13・14日に日比谷公園で開催された「みどりの感謝祭」には、多くの方が訪れました。
木々の緑が深まるこれからの季節、皆さんも「みどり」に親しんでみてはいかがでしょうか。
[写真1]
今年の「みどりの式典」の様子。
[写真2]
山本農林水産大臣の乾杯で始まったレセプション。
[写真3]
みどりの感謝祭(日比谷公園)
ツリークライミング体験。
第11回(平成29年)「みどりの学術賞」受賞者
[写真4]
丸田頼一(よりかず) 千葉大学名誉教授
【功績概要】
ヒートアイランド現象の緩和のために緑地を効果的に配置する「風の道」を提唱。都市における熱環境の緩和と低炭素型まちづくりに対する緑地政策の展開に貢献した。
[写真5]
沈 建仁(ちんけんじん) 岡山大学 異分野基礎科学研究所教授
【功績概要】
光合成において触媒の役割をする「光化学系B.」の、原子レベルでの構造を明らかにした。この成果により人工光合成の実現に向けた研究の進展に貢献した。
[コラム1]
「みどりの学術賞」受賞記念講演会
日時:平成29年7月2日(日曜日)13:30~
場所:日本科学未来館(東京都江東区青海2-3-6)
詳細:内閣府「みどりの学術賞」https://www.cao.go.jp/midorisho/houdo/[外部リンク]
多面的機能支払交付金[第2回]
生きもののすみかを次の世代へ
ため池が日本一多い兵庫県では、「ため池保全県民運動」として、生命の尊さや自然環境の大切さを次の世代に伝えるための活動が展開されています。地域の住民とともに交付金を使った環境保全活動に参加しているのが、NPO法人「メダカのコタロー劇団」です。
劇団では、この活動に参加するほか、「ため池マン」などのキャラクターに扮し、県内の小学校等を訪問。子どもたちが興味を持つような環境アニメ紙芝居やクイズなどの公演活動を実施しています。子どもたちは、そこから多くの生きものを育むはたらきなど、身近にあるため池の機能を楽しみながら学びます。こうした活動によって、豊かな自然環境は次の世代へと引き継がれることでしょう。
[写真6]
「ひょうごのため池はぼくたちが守る!」
クイズで自然環境の大切さを楽しく学習。
[写真7]
キャラクターが、ため池に自生する植物を説明。
[写真8]
ため池でのかいぼり(泥抜き)。
[写真9]
ため池マンも稲刈りに参加。
[コラム2]
多面的機能支払交付金とは…
農業・農村の有する多面的機能が、適切に維持・発揮されるよう、農用地や水路、農道等の地域資源を保全している地域の共同活動を支援するための交付金です。
取材・文/細川潤子
撮影/島 誠
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